(更新停止)【魔王学院17章×まどマギ】ネクロン姉妹は見滝原に転生して魔法少女になるようです 作:生徒会副長
ゆうこ 、ともり、まどか が 扉を開けて入ると其処は──紅いコンサートホールのような空間だった。
使い魔達は指揮者や管楽器奏者や弦楽器奏者として、魔女を楽しませる。上半身のマントや剣にさやかの面影を残し、下半身は異形の人魚となり、体長10メートルを超す怪物と化した魔女を。
人魚の魔女は、三人の入場者のことなどまるで気にせず、ゆらゆら揺れながら音楽に聴き惚れていた。
音楽に負けないような声量で、ゆうこ は宣言した。
「さあ! 手筈通りに行くわよ!!」
ゆうこ は太陽の光条と歯車の突起が飾られた鏡を8枚召喚し、そこから篝火を燃え上がらせ、まどか と ともり を守る守護壁とした。
炎に守られながら、まどか と ともり は訴えかけた。
「さやかちゃん! わたしだよ、まどかだよ! 聞こえる? わたしの声がわかる!?」
「見せて、あなたの心……! 怒りや絶望を……! もし癒せたら、喜びで満たせたら……元に戻れる……? 元に戻って……!」
それらの声は、演奏の妨害と見做された。
人魚の魔女は、天井から24個の車輪を発射する。
対する ゆうこ も、24個の鏡を発射した。その縁には、やはり太陽や歯車を模した装飾がある。
「勝負よ、さやか! 届かせてみせる!」
車輪と歯車がぶつかりあう24の攻防。ガリガリガリ──と、壊れかけの絡繰のような不快な金属音が、使い魔達の演奏と重なって不協和音となる。相討ちになる車輪と歯車もあれば、片方だけ勝ち残った攻防戦もある。
ゆうこ が出した鏡のうち割れずに残った8枚が、赤く輝いた。
「
前世で出していた頃に比べると小さいとはいえ、10個を超える大火球が人魚の魔女を焼く。
火柱に包まれる魔女に対し、ゆうこ は叫んだ。
「さやか! 目を醒まして! これが貴女の望みなの!? 正義の魔法少女に、あなたは憧れていたでしょう!? 私達は──魔女だの破壊神だの、秩序だの運命だのなんてお仕着せに縛られる必要なんてないの! 本当に貴女には、もう未練や後悔はないの!?」
火柱を振りほどいた人魚の魔女は、先ほどの三倍以上の車輪で天井を埋めつくした。
「なっ……!」
ゆうこ が全力を出しても、到底こんな攻撃力は出せない。魔法少女だった頃のさやかでもそうだ。
希望より絶望の方が強いのか──そんな可能性が一瞬頭をよぎる中、ゆうこ も太陽と歯車の鏡を再召喚する。
「負けて……たまるかぁぁああああ!!」
再び車輪と歯車が激突する。車輪の雨は、床を砕き、まどか と ともり を守る炎の壁を壊し、ゆうこ の脇腹に激突した。
「かはぁっ……!」
血を吐きながら、ゆうこ の 脳裏には、再び前世の記憶が浮かぶ。
自分の身体に埋め込まれた不愉快な歯車──。
自分の身体を切り刻む小さな欠けた歯車──。
自分の身体の何十倍も大きい、神を騙る歯車──。
「ゆうこ!」
「ゆうこ さぁん!!」
悲鳴に近い声で、まどか と ともり が ゆうこを慮る。
気丈な笑みを浮かべ、魔法で傷を癒やしながらゆうこは言う。
「大丈夫……。まだ……倒れる訳にはいかないわ……」
炎の守護壁は再び燃え上がった。ゆうこ の 闘志もだ。
彼女の脳裏には、2人の男の姿が浮かんでいた。
滅紫に染まった魔眼を輝かせ、滅びと絶望の闇の中を揺蕩う自分に会いに来た『あの人』。
純白に煌めく聖剣を振りかざし、悲劇と絶望の歯車に囚われた自分に会いに来た『アイツ』。
8枚の鏡を正八角形になるよう並べて展開し、サーシャは叫んだ。
「私が受け取った奇跡を、さやかにも受け取って欲しい! 『あの人』や『アイツ』に出来たことが──私に出来ないとでも思ったのっ!?」
8枚の鏡から発射された黒い炎が渦を巻き、黒陽となって人魚の魔女に発射された。
「
前世なら世界を滅ぼすほどの威力を誇る破壊神の権能だった。
しかし今となっては、たかだか体長10メートルの怪物が纏う鎧を相手に拮抗が限界という始末。
拮抗の最中、ゆうこ と まどか は必死に叫んだ。
「さやかちゃん! お願い! 正気に戻ってよぉ!! 私達に気づいてよぉ!!」
「お願い、さやか! もう一度チャンスをちょうだい! 滅ぼすのも嫌! 待ってるだけなのも嫌! 私にだって誰を救えるんだって! この滅びの力は、『あの人』のように誰かの悲劇と理不尽を滅ぼす為にあるんだって! 証明したいのよ! 私と似た、お仕着せで縛られた貴女を救って──」
「……違う」
ポツリと、ともり が言った。まどか も ゆうこ も目を向け、耳を傾けた。
「あれはもう……さやか じゃない……。『あの世界』で例えるなら……。例え……たくない……けれど……」
それでも ともり は、涙を浮かべながら言ってしまった。
「『転生』してる。もし『美樹さやか』という前世を思い出しても……。器や、見た目や、本能は……元に戻らない……!」
次の瞬間。
黒陽の熱を耐えた人魚の魔女は、右手のサーベルで ゆうこ を袈裟斬りにした。
「うぐっ……うわぁぁああああーーっっ!!」
常人なら出血多量で死んでいる量の血飛沫が舞う。彼女の絶叫は激痛ゆえか絶望ゆえか。
ゆうこが倒れた隙に、人魚の魔女は左手で まどか を捕らえようとする。
「危ないっ!」
ともり が まどかを突き飛ばし、代わりに彼女が鷲掴みにされた。
「うぅ……!」
「ともり さん! ねぇ さやかちゃん! もうやめて!!」
体格差は圧倒的。まもなく、恋文を丸めて捨てるように容易く、ともりの身体は肉団子になると思われた。
「なんっ……で……」
血塗れになりながら、ゆうこ の中に絶望が広がっていく。
──転生すれば幸せになれると思っていた。
──破壊神のお仕着せを辞めて、ただの女の子になって。
──山を、花を、家を、街を、恋を見られると思った。
──十五年、それらを十分に見た。『あの人』と一緒に。
──それで幸せだったはずなのに。
──次に転生した先で、未練と後悔を思い出して。
──普通の女の子が、化け物に転生する秩序を見せつけられて。
──意味なんてなかったんだ。『あの世界』での戦いも、魔法少女ゆうこ の戦いも。
──世界はやっぱり、優しくなんかない。
──世界はやっぱり、笑ってなんか……。
「助けて! 誰かぁ! 『あの人』でなくても『アイツ』でなくてもいいから! 誰か!! たった一人の妹なのよぉ!!」
その嘆きに応えるものは、いない──。
──はずだった。
「いいわよ。まどかを庇ってくれた分ね」
「みんな……待たせたわね!」
機関銃の弾幕が、人魚の魔女を怯ませる。
その隙に、黄色いリボンが ともり を包んで守った。
呆然としながら「あっ……」と声を漏らす ゆうこ の前に優雅に降り立ったのは──。
暁美ほむらと、巴マミだった。
「成仏なさい、美樹さやか」
ほむら はロケットランチャーで人魚の魔女を撃った。凄まじい爆風が魔女の頭部で炸裂し、その巨体が吹っ飛ばされる。
人魚の魔女が起き上がるより早く、その身体はリボンで絡み取られていた。
「マミ。一気に行くわ」
「えぇ。……美樹さん。どうか、安らかに」
ほむらは二発目のロケットランチャーを装填し、マミはリボンを編み上げて固定砲台を召喚した。
「ティロ……フィナーレ……!」
2人の魔法少女による、2発の砲撃。それは、人魚の魔女を滅ぼすのに十分な火力を生じさせた。
割れた鎧から青い体液を漏らし、炎上しながら、その魔女は死に絶えていく。
やがて結界諸共その魔女は、グリーフシードだけを残して、消えてしまった……。
未だ呆然とする ゆうこ に、ともりが歩み寄った。涙を必死に堪えながら、哀れむように。
「ゆうこ……」
妹の声を聞いた ゆうこ は我に返って……妹に泣きついた。
「ともりっ! ともりっ! うわぁぁ……うわぁぁああああ!!」
生き残った。生き残ってしまったと。
さやかを救えなかったと。
本当の絶望はこの先にあると。
そう思うと、泣き叫ばずにはいられなかった。
「もう嫌よ!! なんでこんな世界に転生しちゃったの!? 転生すれば幸せになれるんじゃなかったの!? また会えるんじゃなかったの!? 私もいずれ……さやか のような化け物に転生するんだわ! そして世界を壊して呪って……最後は殺されるのよぉぉ……!!」
「……そんなことない」
「怖い! 怖いの! ともり……! 私を独りにしないで! ともりぃ……!」
「大丈夫だから……。私はずっと……ゆうこの傍にいる……」
泣き叫ぶゆうこ の紅いソウルジェムが、濁りを強め、穢れていく。このまま魔女になるかもしれない──という不安がよぎるも、姉妹は互いに抱き合って離れない。
そこへ、青いグリーフシードが投げ渡された。先ほど倒された人魚の魔女が遺したものであり、投げたのは ほむら だった。
「まだ魔法少女として戦う覚悟があるなら、1つの運命に立ち向かう覚悟があるなら、使うといいわ」
そう言ってほむらは、懐から拳銃を取り出した。
「運命に抗う気力が既に無いのなら、この場で貴女のソウルジェムに鉛玉をぶち込んであげてもいいわ。どうする?」
ゆうこ は青いグリーフシードを見遣ってから、それには手を伸ばさずに ほむらに訊ねた。
「1つの……運命って……?」
「マミやキュゥべえから聞いているはずよ。1週間後、この街にワルプルギスの夜が来る」
淡々と、ほむらは話し続けた。
「これも知っているかもしれないけれど……。奴は結界に身を隠す必要がない程の、超弩級の魔女。一度顕現すれば数千人の人命が失われるわ。もし魔法少女が逃げ出したら……それ以上の被害が出るかもしれない」
ほむらの横にマミが並び立ち、ゆうこ に声を掛けた。
「ゆうこ。ごめんなさい。全部暁美さんから聞いたわ。私が腑抜けてる間に、ずいぶん色々なものを背負わせてしまったみたいね」
ゆうこ は涙を流しながらマミに頭を下げた。
「マミ……。ごめんなさい……。あなたから預かった見滝原も、さやかも……守れなかった……。それどころか、私のせいでさやかは……っ」
そんなゆうこ を、マミは優しく抱き締めて言った。
「いいのよ……。ゆうこはよくやってくれたわ。美樹さんの件だって、私がもっと釘を刺すなり、相談に乗るなりしておけば……」
マミと ゆうこ が泣いている間に、ともり は ほむら に訊ねた。
「どうやって説得した?」
「何がかしら?」
「マミは全てを貴女から聞いたと言った。マミは……動揺しなかった?」
ほむらはため息をついてから言う。
「大変だったわ。命の恩人であることをダシに部屋に上がらせてもらって、美樹さやかが魔女化したことを話したら危うく自殺しそうになって……。ゆうこ と ともり、まどか と ワルプルギスの名前を出したら、何とか収まったわ」
全員の目線がマミに向けられる。その目線にマミは答えた。
「ソウルジェムが魔女を産むなら、もう死ぬしかないって、生きてる意味なんてないって……思ったんだけどね」
一筋の涙を拭い、マミは続けて言った。
「ゆうこ やともり から、大切な友情と、これだけ長いお休みを貰った理由。今日まで魔法少女として戦って見滝原を守ってきた理由。そんなことを考えたらね。とりあえず、ワルプルギスの夜を倒すまでは、生きてみようかなって思ったの」
マミは気丈な表情で言った。
「生きる意味はあるものじゃなくて、自分で作るものなのかもしれない。私にとってそれは、正義の魔法少女として生きて死ぬこと、ゆうこ や ともり との友情や見滝原を、ワルプルギスの夜から守ることなの」
それを聞いて、ともり の脳裏に、前世の記憶の断片がよぎった──。
名前は忘れたが、前世における最期の戦い。
願いは叶わないのが当然という秩序と摂理を直視し続けた結果、破滅を願う我が子の遺言だけはせめて叶えようとした、悲しい女神との戦い──。
『願いが叶わないぐらいで、わたしたちは幸せを諦めたりしない』
『それは綺麗ごと。願いが叶わない生に、どんな意味があるというの?』
『生きる意味はあるものじゃない。自分で作るもの。……サ■■■はそれを見つけたから。彼女が生きた日々は、奇跡だった──』
最後にマミは、ゆうこに訊ねた。
「ゆうこ。もう一度、一緒に戦ってくれないかしら。この見滝原と、ともり を守るために。お休みが欲しいというのなら止めないわ。ゆうこ が頑張ってくれた分、今度は私が頑張るだけだもの」
「……やるわ」
ゆうこ は、青いグリーフシードで自身のソウルジェムを浄化し、歯を食いしばりながら続けて言う。
「さやかの分まで……私はやるわ。良いことばかりじゃなかったけれど……。ともり と 生きた、マミに会えた、皆で一緒に守った、この街を……この見滝原襲う悲劇や理不尽なんて……今度こそ、滅ぼし尽くしてやるわ!」
鋭い眼で、ゆうこ はそう言い切った。
(やはり、この子は……ゆうこ は、強い……)
心の内で密かに、ほむら は 思考する。
(ゆうこ や ともり との友情がマミにとって精神的支柱になっているから、マミの発狂や魔女化を防ぐことが出来た。ゆうこ の心や戦闘の強さは もちろんのこと、ともり の存在も大きい。まどか と同等の素質を持っている上に、まどか より賢く思慮深い。彼女が まどか の傍にいれば、軽率な契約は避けられるはず……)
ほむらは今までのループを思い返した。巴マミが魔女化したケース。美樹さやかの魔女化を防ごうと佐倉杏子が東奔西走した結果2人とも死んでしまったケース。まどか の軽率な契約で全てが台無しになったケース……。
(これだけ上手く事を運べたループは初めてかもしれない。今度こそワルプルギスの夜を倒して……創り出せるかもしれないわ。まどかが生きている未来を……)
そこまで思考を終えて、ほむらは一同に告げた。
「2日後に、ワルプルギスの夜討伐の作戦会議をするわ。残り1週間、悔いのないよう過ごしましょう」
3人の魔法少女と、2人の未契約の少女は、深く頷いた。
コメントや感想お待ちしています。
杏子ちゃんは次回登場です。