(更新停止)【魔王学院17章×まどマギ】ネクロン姉妹は見滝原に転生して魔法少女になるようです 作:生徒会副長
電線が燃える焦げの臭いや、瓦礫から漏れる土埃が不快で不吉な見滝原の街を、二人の少女が駆けていた。
鹿目まどかと玄音ともりだった。
『絶対に、ヘタ打ったりしないな?』
『誰かの嘘に踊らされてねーな?』
『ちゃんとアタシやパパのところに帰ってくるんだろうな?』
そんなまどかの母──鹿目絢子の問いかけと引き止めにきちんと返事をして、二人は避難所を飛び出していた。
「まどか。次の角は右で」
「うん! “ミーシャちゃん”、急ごう!」
走りながら、二人はそう声を掛け合う。
魔法少女4人が放った
玄音ともり改めミーシャ・ネクロンは、力こそ戻っていないが、記憶は全て戻っている。
自らが創造し、7億年見守ってきた世界のことも。
ミーシャ・ネクロンとして15年9ヶ月生きた日々も。
大切な恩人であり友人、誰よりも強くて優しい暴虐の魔王──アノス・ヴォルディゴードのことも。
誰よりも大好きな姉・サーシャのことも。
今まで戦ってきた──敵のことも。
「急がないといけない。最低でも……ほむらとサーシャが殺されてしまう前に……行かないと……!」
息を切らせて走りながら、ミーシャはそう言う。
隣を並走しながら、まどかが聞いた。
「マミさん達4人で、勝てないかな? 皆が勝って、祝勝会も終わってから、のんびり契約すれば……」
「無理……」
ミーシャは冷たく、悲しげに、即答した。
「ワルプルギスの夜だけなら……分からないけれど……。もし“奴”が出てくれば……まともな方法じゃ勝てない……!」
まどかは呆気に取られたように目を見開いたが、すぐにコクリと頷いた。
二人が目指す先では、激しい爆発音が響き続けている──。
──※──
ブーメランのように飛んでいったゆうこの歯車と、杏子の紅い槍がワルプルギスの夜の頭蓋に強打し、鋭く火花を散らす。しかし──。
「ギギギ……アッハハハハハ!!」
最強最悪の魔女は、未だ健在であった。
「ゆうこ、てめぇもっと下がれ!」
杏子が鞭のように飛んでくる魔女の攻撃を避けながら檄を飛ばす。
「そんなこと言ってもねぇ……! 杏子ひとりじゃ、前衛保たないでしょっ!」
ゆうこも杏子と同じように攻撃を避けようとするが、避けきれず、歯車を盾の代わりにしてやり過ごす。その額には汗が滴っていた。
杏子の方がキャリアが上なだけあって、体捌きには無駄がなく、魔力を節約した戦い方も心得ている。4人の中では最もキャリアが浅いゆうこ にとっては、荷が勝ちすぎているのだ。
マスケット銃で射撃するマミにも焦りが見える。
「くっ……! 暁美さん、まだ倒せないの……?」
彼女の隣には、アサルトライフルを撃ち込むほむらがいる。彼女のクールな美貌も、眉間に皺が寄って歪んでいた。
「倒せたケースの方が少ないから……何とも……!」
ハンティングゲームをやっている訳では無いのだ。ワルプルギスの夜の体力がどれだけ残っているかなど、ほむらにも分からない。
それにしても、である。
(巴さんがこれだけ攻撃に集中出来ているのに……まだ倒せないの!?)
4人はおろか見滝原で最強の火力を誇る魔法少女・マミの魔力を、全て攻撃に回す──それは勝つ上で重要な戦略のはずだった。
その戦略を忠実に実行してもなお勝てない、となると……。
(まどかが契約しなければ、どうやっても勝てない、とでも……?)
ほむらの心に不安と焦燥が募る。
ほむらだけでなく、マミとゆうこの心にも。
そして、杏子の心にも──。
(頼むよ神様……! あたしも マミも、ゆうこも ほむらも……こんな人生だったんだ……。せめて一度ぐらい、幸せな夢を見させてくれよ……!)
そこへ無情に飛んでくる10本以上の電信柱。杏子は華麗に避けつつ、避けきれない分は槍で切り捨てる。しかし ゆうこは避けきれなかった。
「かはっ……!」
魔法少女という人外の化け物ゆえ吐血で済んだが、まともな人間なら全知1週間では済まない衝撃が、ゆうこ の腹部を襲う。
「何やってんだゆうこ!」
「ごめっ……。すぐ……なお……す……っ!」
脂汗を滲ませながら、ゆうこはそう返事をする。そのソウルジェムは魔力消費によって濁っていく。そろそろグリーフシードの残数も心許ない。
神様は自分達を見捨てた。
運命は非情に回り続ける。
世界は笑ってなんかいない。
──そう思ったとき、杏子の中で何かがぷつりと切れた。
走馬灯のように、一瞬の内に色々な言葉を思い出した──。
『杏子。父さんはな、もう古い教えでは、今苦しんでいる人々を救うことはできないと思うんだ。新しい時代には、新しい教えが必要なんじゃないだろうか……』
神の教えに背いてまで、世の人々を救おうとした父親のこと。
『今度こそ……運命を切り拓いてやる!』
『今度こそ……運命をぶち壊してやるわ!』
運命という神様が書いた脚本を、滅ぼそうとした ゆうこと、新しいページを創ろうとした ほむら。
『神様も人間も魔法少女も、間違えることはあると思う。やり直しが許される世界だと良いと思う』
神の絶対性を否定し、『正義の魔法少女をやり直す』ことの背を押してくれた、ともり。
『佐倉さんが一緒に戦ってくれてとても嬉しいわ。一緒にこの街を守りましょう』
自分の師であり、寂しがり屋で、互いに励まし合いながら戦ってきた、マミ。
「神様、もうあんたには願わねぇ……。祈らねぇ……」
杏子は歯軋りして、ソウルジェムを握りしめる。ソウルジェムは紅く光り輝いている。
希望の光で──。
(あたし達魔法少女には、魔女になるだの、この戦いが終わったら死ぬだの、そこまで重い罰が必要かよ!? こんな残酷な世界なんだ。せめて一度ぐらいマミに、幸せな夢を見させてもいいだろ!? 夢や希望は、神様が人に見せるもんじゃない! 人が人に見せるものさ! 正義の魔法少女って……そういうもんだろ!!)
それは、神と信仰を捨ててこそ、新しく芽吹いた若き信仰。
「見せてやるよ、マミ。これが、一度限り、正義の魔法少女をやり直したあたしが、憧れのセンパイに贈る魔法……」
彼女の姿に一瞬ブレが生じ、半透明の佐倉杏子が何人も重なっているように、紅い槍が何本もあるように見える。
それか夢か幻か。存在し得ない、条理に背いた、矛盾した可能性を具現化する魔法──。
「生涯最後の──!
魔法少女・佐倉杏子が十人に分かれた。そのうち3人の槍がワルプルギスに突き刺さる。
「アギャァァアアアア──!?」
ワルプルギスの夜の悲鳴が響く中、杏子の分身達は呼びかけた。
「あーもー! 死ぬほど恥ずかしいんだよ、この魔法の名前!」
「前衛はあたし達に任せろ!」
「その隙にさっさと──」
「トドメを刺しちまえ!!」
十人の杏子達がワルプルギスの夜に攻撃を繰り出し、ヘイトを稼ぐ。魔女が反撃で繰り出した火炎で2人消えるが、また新しく2人召喚される。
そんな杏子の魔法を、ほむらは目を大きく丸く開いて見ていた。
「ロ……ロッソ・ファンタズマ……!?」
遥か前のループで、マミから聞いたことがあった。杏子がまだ、マミと組んでいた頃に使っていた魔法であり、今はもう失われた魔法だと。そのマミ本人は、歓びに震え、泣きそうになりながら杏子の魔法を見つめている。
そして ゆうこは、呆然と見つめている。
過去の記憶を思い出しながら──。
『見ているか、アノス。これは、二千年前の俺が贈る魔法──』
優しい歌を世界に響かせる為に、その雷は神々を引き裂いた。
アノスの父、
『我が生涯、最後の──。
ミリティア世界の皆が、愛と優しさを一つにして、アノスと共に勝ち取った、優しい世界の記憶──。
「アノ、ス──?」
玄音ゆうこは……サーシャ・ネクロンは……やっと思い出したのだ。
破滅の空を越え、破滅の太陽の中を悠然と歩き、自分の神眼をまっすぐ見つめてくれた、魔王の名を。
破壊神アベルニユーのだった頃に夢見て、サーシャ・ネクロンだった頃に駆け抜けて、玄音ゆうこに転生しても消え去りはしなかった、恋の炎を。
「あぁ……あぁぁぁぁ……!」
ポロポロと、涙が零れた。
思い出せて良かったと思える、青春だったから。
「アノス……。アノス……! 私の……私のぉ……大好きな……魔王様……!!」
生まれ変わってなお、彼の言葉が、魔眼が、運命をぶち壊す勇気をくれたから──。
袖でサッと涙を拭い、ゆうこは……サーシャは不敵な笑みを見せた。
「甘く見ないで、ワルプルギスの夜! 私は……私は……! 魔王アノスの配下、サーシャ・ネクロンよっっ!!」
勢いよく彼女は空へ飛び立つ。そして眼下にいる2人の魔法少女に呼びかけた。
「マミ! ほむら! 杏子の魔法を無駄にはしない! 一気に決めるわよ!」
ほむらの手元に通学鞄ほどの大きさの歯車が、マミの足元に直径3mを超える巨大な歯車が召喚された。
その使い道と──融合魔法の名前は、テレパシーで伝えている。
「ネクロンの秘術……見せてあげるわ!!」
これで最後という覚悟を決めた眼で、ほむらは機関銃と歯車を“融合”させる。
歯車の軸部分に機関銃を挿し入れると、機関銃の銃身から紅い薔薇が咲き乱れる。ゆうこと共に魔法の名を叫びながら、ほむらは引き金を引く──!
「「
ェェエエエエ!!」」
鉛玉の代わりに火炎弾が連射される。ワルプルギスの夜に着弾したそれは、次々に紅い炎の花で魔女の巨体を鮮やかに彩る。
「アギャァァアアアア────!?」
花が咲き乱れる中、ワルプルギスの夜は無様に踊る。
魔女の悲鳴が響く中、マミは特大の砲台を召喚していた。その砲身には『笑顔』の肖像が幾つも描かれている。
キノコグラタンを食べるアノスやサーシャやミーシャの笑顔。
紅茶とケーキを楽しむマミや ゆうこや ともりの笑顔。
砲台に魔力を充填しながら、マミは誇らしい笑顔を浮かべていた。
──佐倉さんがロッソ・ファンタズマを……。
──ゆうこが前世の記憶を……。
──思い出したのね……!
──自分のことではないのに……。
──こんなにも嬉しい……!
──こんなにも誇らしい……!
──こんなに胸が高鳴る中で戦うのは初めて……!
──もう何も怖くない!!
大砲に虹色の光が収束し終わると、マミとサーシャは声高らかに、最後の攻撃を宣言した。
その名は──。
「「
七色の砲弾がワルプルギスの夜の歯車を貫く。貫いた先で虹色の花火が弾ける。しかし、それでは終わらない。
ワルプルギスの夜の体内から紫色の花火が破裂する。
「アギィ!?」
続いて赤色の花火、緑色の花火も炸裂。
「アギャ!? アギャギャギャ……!」
橙色と青色の花火も鮮やかに咲く。
「アガァァアアアア────!?」
黄色と藍色の花火が広がると同時に──。
魔女の歯車の軸が、ボキィッ……と、どこか潔い音を奏でながら……折れた。
ほむらが地雷原を爆破した時に勝るとも劣らない震動が大地を揺らす。
ワルプルギスの夜、陥落の瞬間だった──。
「やった……の……?」
気が抜けたように、ほむらは膝を着いた。
「終わった……の……?」
呆然とするマミの目には、雲間から僅かに陽光が射すのが見えた。
それと、力を使い果たして落ちてくる ゆうこの姿も──。
「ゆうこ!?」
マミは慌てて落ちてきたゆうこを両手で抱えてキャッチした。彼女の紅い筈のソウルジェムは、黒く濁っている。
ゆうこは油汗を掻きながら、うわ言を呟く。
「やっと……。思い出した……のに……。ワルプルギスの夜……倒した……のに……。くっ……」
「暁美さん! グリーフシードは!?」
それは暗に、マミが既にグリーフシードを持っていないことを意味していた。しかし ほむらは力なく首を振る。
「ゆうこ……。ごめんなさい……。私が……私が貴女を……巻き込んでしまった……」
涙を滲ませながら、ほむらが懺悔した──そのとき。
「そんなバッドエンド、あたしが許さない」
そう言って、ゆうこのソウルジェムに手を重ねる者がいた。
佐倉杏子だった。その手には、先端の意匠にも表面の模様にも歯車が使われたグリーフシードがある。
急速に穢れが取り除かれ、ゆうこ のソウルジェムは元の紅い輝きを取り戻した。
「さ、佐倉さん。そのグリーフシードは……?」
まさか──と思い、マミが聞いた。
「あん? 魔女を倒したらグリーフシードを落とすのは当たり前だろ? マジで規格外だな、ワルプルギスの夜って。グリーフシードが100個ぐらい落ちてたぞ。でっかいグリーフシードを拝みたかった気もするが……。まぁこの方が持ち運びしやすいし、取り分で揉めなくて済むから良かったじゃん? とりあえず10個ぐらい拾ってから合流した訳だが……お前らも使っとけよ」
そう言って、杏子はマミとほむらにもグリーフシードを投げ渡す。習慣として染み付いた行動として、半ば反射的に、二人ともソウルジェムを浄化させた。
「あ、ありがとうね、杏子……」
マミにお姫様だっこされたまま、ゆうこは 杏子に礼を言う。
「ったく、かっこつけて死にかけてんじゃねぇっつーの」
杏子が照れ隠しのようにそう叱るのに対し、ゆうこ は「ふふっ」と微笑んだ。
「マミ。もう大丈夫だから、下ろしてくれるかしら?」
「え、えぇ……?」
戸惑いつつ、マミはゆうこを下ろす。
ゆうこが空を見上げると、雲間から射す陽光はますます光量を増し、どこか神秘的に、廃墟となった見滝原を照らしているように見えた。
廃墟といっても、避難所や学校など、無事なところも多いが。
くるりと振り返り、ゆうこは笑顔でマミの手を握った。
「マミ! それにほむらと杏子も! 私達……勝ったわ! 私……勝てたわ! アノスが居なくったって……運命をぶち壊せたの! 悲劇を滅ぼしてやったわ!!」
杏子は「あぁ!」と力強く返事をする。しかしマミとほむらは──今になってやっと、実感が湧いたのだった。
最強最悪と呼ばれた魔女、ワルプルギスの夜に──勝ったという実感が。
嬉し涙を拭い、マミも喜んだ。
「そうよね……。そうなんだよね……! うふふ。うふふっ! 私達魔法少女の、大勝利ね!」
それを聞くとほむらは、腰が抜けたように、その場にへたり込んだ。その目からはとめどなく、大粒の涙が零れていた。
「うぅ……。ううぅぅぅぅ……! やっと……。やっと終わったの……?」
「えぇそうよ、ほむら。この破滅の魔女サーシャ・ネクロンが、あなたと見滝原を襲った悲劇と理不尽を、バッチリ滅ぼし尽くしてやったわ。感謝してよね!」
フフンと胸を張るゆうこ改めサーシャを、杏子とマミは呆然と見つめる。
「ん? サーシャ……? 何言ってんだお前」
「あぁ。杏子もありがとね。貴女の
「え? うん、おう……? よく分からねぇけど……?」
「改めて自己紹介させて頂戴。私の前世は──」
優雅にカーテシーをしながら、サーシャは名乗った。
「暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴードの配下、破滅の魔女サーシャ・ネクロン。以後お見知り置きを。魔法少女仲間しかいないときぐらいは、『サーシャ』って呼んで欲しいわ。やっぱりそっちの方が、私らしい気がするのよね」
するとマミは、苦笑し戸惑いつつも、それを受け入れたようだった。
「と、とりあえず……。サーシャって呼べばいいのね? サーシャ……サーシャ……。うん、良い名前じゃない!」
続いて、サーシャとマミの目線が杏子に向く。杏子は「はぁ〜〜」と大きな溜息をついてから答えた。
「そのうち、自分の中二病を後悔する日が来るさ。その日が過ぎた後もサーシャって呼んでやるから覚悟しとけ。サーシャ・ネクロン……」
「は、はぁ!? 中二病じゃないんだけど!? それを言い出すなら、貴女の
毅然と反抗するサーシャに対し、杏子はこめかみをぴくぴくさせる。
「生涯最後っつっただろうが……。二度と使わねぇ……」
マミが小さな涙を滲ませながら言う。
「でも私は……。佐倉さんの魔法が見られて、良かったわ。あの頃に戻ったみたいで……」
「今日限りだぞ。頼まれたって、もうやらねぇ……」
杏子がそう突き放すも、マミは変わらず笑みを浮かべていた。
もう十分だという境地に──マミは既に至っていたのだった。
そこまで話が済んだところで、ほむらはサーシャに抱きついた。
「サーシャ!」
「ほ、ほむら……!?」
「サーシャ。貴女のお陰で勝てた……。ずっと、ずっと辛かった……! 」
グスングスンと、ほむらの熱い涙が、サーシャの服を濡らし続ける……。
「何度も裏切られて、傷ついて、殺して……。貴女と ともりが、最後の希望だった……! 私の旅路に舞い降りた……最後の奇跡だった……! ありがとう……サーシャ……ありがとう……!」
そんな彼女を、サーシャは優しく抱きしめ、黒髪をあやすように撫でる。
普段のクールでミステリアスな雰囲気はどこへやら。
「暁美さんって、可愛い声で泣くのね」
マミはついそう零してしまうが、ほむらは否定しなかった。
「私は……弱虫だったから……。最初の世界では……まどかや巴さんに……守ってもらってばかりで……」
「おいで。先輩の胸、貸してあげるわ」
ほむらはサーシャから名残り惜しげに離れ、マミに抱きついた。マミは母性溢れる笑みで彼女を受け入れ、ほむらは先輩の胸で大いに泣いたのだった。
「うぅ……ぐずっ……うぅ……」
「よしよし。よく頑張ったわね」
ひとしきり泣いて、嗚咽が少し落ち着くと、ほむらは杏子の方を向いて言った。
「杏子。貴女も……ありがとう……。ロッソ・ファンタズマ……」
「一応聞くけど、今までのループでのあたしって、ロッソ・ファンタズマ使ってたか?」
「いいえ」
自分から聞いたクセに、ぶっきらぼうに杏子は「ふーん」と返す。そして……。
「まぁ……。生涯最後、一度きりって条件付きでなら……。悪くない気分だな」
照れ臭そうに、そう言うのだった。
そんな四人の魔法少女の元へ、駆け寄る影が2つある。
「ほむらちゃーん! みんなー!」
まどか と ともりの二人であった。雲間から覗く青空から──二人は察していた。
魔法少女の──勝利を。
「ワルプルギスの夜──倒せちゃったの!?」
「うそ……。すごい……」
二人の少女の顔を見て、二人の魔法少女は抱き着いた。
「まどかぁ!」
「ミーシャっ!」
ほむら は まどかに。
「ねぇ……。ミーシャ……。反射的に名前呼んじゃったけど……思い出したのよね? 前世のこと……」
優しく微笑んで、妹は答えた。
「思い出した。全部。サーシャのことも……。ミリティア世界のことも……。アノスのことも……」
前世の記憶に裏打ちされた愛情が溢れ、サーシャはより強くミーシャを抱きしめた。
「ミーシャ。私はあなたのことが……ずっとずっと、大好きだった!」
「うん……。私も……!」
ミリティア世界で迎えた15歳の誕生日の朝のように、姉妹は仲睦まじく笑い合い、涙を流し合った。
「デュエルニーガとの戦いのとき……。貴女を遺して死んじゃって……ごめんね……!」
「それでいい。サーシャが遺してくれた時間で、私も大切なものを、いっぱい遺せたから……。玄音ゆうこに転生してからも、私を守ってくれたから……」
一方ほむらも、素直な気持ちを透明な涙と共にまどかに見せている。
「まどか! 私……やっと貴女との約束を果たせた……! 私、すっごく幸せよ……」
「うん……。良かったね、ほむらちゃん……」
「何度も何度も、同じ時間を繰り返して……。何度も何度も、やり直して……。やっと、やっと貴女を救えた……! 貴女が普通の女の子として生きられる未来を……創り出せたの……!」
「……そのことなんだけどね、ほむらちゃん」
まどかがミーシャに目配せすると、ミーシャはコクリと頷いた。それを確かめて、まどかは話し始める。
「まだ……戦いは終わってないよ。優しい世界だって……始まってない」
「……えっ?」
ほむらは目を丸くする。彼女の背中には、ぞわぞわと虫が這うような……嫌な予感が、寒気がしていた。
──まさか?
「あたしは……。皆を助けたい。サーシャちゃんにミーシャちゃん。マミさんに杏子ちゃん。ほむらちゃんはもちろん……さやかちゃんも。魔女のなってしまった魔法少女も……」
ほむらがかつて見たのと、同じ眼だった。1周目の世界、ワルプルギスの夜に決死の特攻を仕掛けたまどかと、同じ眼だ。
「ほむら」
ミーシャがそう呼ぶ。まどかとミーシャ、ほむらとサーシャは、それぞれ同じ眼をしていた。
ミーシャが話す。
「あなたが まどかとの約束を果たしたように……。私も、交わした約束を果たさないといけない。アノスに、サーシャに、魔法少女の皆に、魔王学院の皆に、手渡したい奇跡がある。だから……」
まどかとミーシャは、声を揃えて決意を口にする──。
「「私は──魔法少女になる」」
──その頃、ワルプルギスの夜が墜落した場所にて。
がちり、がちりと……不気味な金属音を鳴らして、何かが動いていた。
一つ一つは、小さな歯車だった。だがそれが組み合わさっていき、徐々に大きな歯車になっていく。
その歯車が、無機質で途切れ途切れな声を発した。
「世界ハ……。世界ハ……笑ッテ……いると、思ウカ? ミリティア……。アベルニユー……」
運命は残酷で、世界は笑ってなどいない──。
──今は、まだ。
《あとがき》
●プロット段階では、アニメ本編同様ほむらを絶望させようかと思いましたが、わざわざほむらやサーシャや読者を苦しませなくてもいいだろうと判断してワルプルギスの夜はもう倒しました。まぁまだアイツとQBが残ってますが……。
●紅曖蓋然顕現(ロッソ・ファンタズマ)とか
魔炎歯車機関銃(ガトリング・グレスデ)とか
神炎破滅空爆撃(ボンバルダメント・ザ・サーシャベルー)とか
出せて満足しました。
これこそ二次創作クロスオーバーの醍醐味ですね。
お気軽にコメントや評価よろしくお願いします。