ホラゲーにハッピーエンドを作った男の末路   作:POTROT

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そら⑤

 ……なんか倒れそうになって別の方法で何とかするしかないかと思っていたら、なんか立ち直った上で表情がすごい事になっている。

 覚悟が決まってる感がすごい。というか殺意すら感じる。

 この一瞬で一体何が……まさか、狂気が溜まったか?

 

 『(ケガ)() 弐』における主要なシステムである『狂気』は、一作目の『寒さ』と同じく探索中に自動で溜まってゆき、ゲージが溜まり切るとゲームオーバーになる仕様だ。

 これは三作目でも同じような仕様で、『(ケガ)()』シリーズにおける代名詞的なシステムであるとも言えるだろう。

 

 とは言え、流石に三作品とも全く同じシステムであるというわけではなく、それぞれ仕様がかなり違う。

 例えば初代の『寒さ』は純粋な屋外探索における時間制限としての役割が強く、消費系のアイテムもゲージの溜まる速度を緩める、ゲージを多少回復するなどの効果が主だった。

 それに対して弐の『狂気』はと言えば、……説明が難しいのだが、HP(ヒットポイント)の役割を主とした上で、ゲージの溜まり具合によって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()するのだ。

 

 それこそ今俺の目の前に居る牛の怪物なんかは、狂気ゲージがある程度溜まった状態でないとそもそも視界に現れない。

 だから、今回は俺が見えるようにしたが、原作だと『なんか橋を渡ろうとしたら死んだ』みたいな状況が初見プレイ時にはあったりする。

 まぁ橋を渡ろうとすると狂気ゲージがモリモリ増えるので、何か居るという事はわかるのだが、狂気上昇を抑制するアイテムを使ったりしていると見える前に当たり判定に引っかかってしまう、というだけの話なのだが。

 

 ストーリーを普通に攻略する上ではなるべく0に保っておけば良かったが、コンプ要素に手を出そうとすると細かいゲージ管理が要求されるという事で、中々高難易度になるという、面白い仕様だった。

 

 ……というのが俺の感想だが、一方でシリーズ屈指のクソシステムとか言われたりもしている。

 一部、ゲージの仕様の都合でとんでもなく難しくなるコンプ要素があるので、そこら辺で辛酸を舐めさせられた者たちの嘆きだろう。

 

 ……まぁ、それはさておき。

 これらのゲージは、もちろんゲームにおいては『(ケガ)()』のアイデンティティを担う部分でもあるのでどうすることもできないシステムであったが、しかし現実となるとそうではなくなる。

 だから俺は『かな』を助けにいく時は、ちゃんとそこを対策して、『寒さ』の影響をほぼゼロにできるようにしていた。

 

 そして当然、今回も対策はきちんとして来た。

 『そら』が今持っている、柊と月桂樹の木の枝がそれだ。

 それを使えばこの領域内における『狂気』の影響を限りなく低く出来ると見積もって、反則ギリギリのところを屁理屈を押し通して持ち込んだが……目論見が外れたか? それとも、『あの牛が見えているのなら、これくらいの狂気に侵されているはずだ』という力が働いたのか?

 

 ……ふむ、ならば、そうだな。

 

「よし嬢ちゃん。今から戦うためのお呪いをかけよう」

 

「……おまじない?」

 

 触らぬ神に祟り無し。

 相手が神格である限り、その絶対条件は揺るがない。

 故に、先手を取ることが出来るのは、間違いなくこちら側。

 とは言え、今の俺の介入の仕方だと出来ることがあまりにも限られているので、一発で勝負を決められるような術は使えないが……

 事前準備ならやりたいだけ出来る。

 

「というわけで嬢ちゃん。今から俺がやる事を真似して復唱するように」

 

「ふくしょー?」

 

「あー……俺のやる事と言う事を真似するように」

 

 醜悪な牛を目の前にして、握っていた『そら』の手を離して胸の前へ。

 

我にその指を(オン コロコロ センダリ)触れさせ候へ( マトウギ ソワカ)

 

 印を結びながら唱えるのは、仏教における呪文……のようなものこと、真言(マントラ)である。

 この領域はありとあらゆる存在の出入りを防ぐが、世界の法として解釈できる仏教的な要素ならギリギリ通せるはず。だから真言は辛うじて効く……と、思いたい。

 

 そしてこれは薬師如来様の真言。

 あらゆる不調を退け『健康』な状態に持っていく、回復の効果を示す。

 もしも効いてくれるのならば、狂気にもある程度の対策ができるだろう。

 真言だから効果にはもちろん限度があるものの、無いよりはマシのはずだ。

 

 ちなみに俺の真言は訳を変えていて、より俺に適した効果を得られるようにしているので、正直なところちゃんとした真言ではない。

 しかし、ある程度徳を積んでおけばその辺の融通くらいは利かせて下さるので、使える時は使わせていただいている。

 ……まぁ、今の状態の俺だとどれだけ徳を積んでも験は現れないんだが。

 

「おん、ころころ、せんだり、まとーぎ、そわか」

 

 そして俺の真似をする『そら』はと言えば、手印は全く出来ていないが、まぁ真言で一番大事な唱える部分が出来ているので、大丈夫だろう。

 唱えさえすれば、取り敢えず効果は出てくれる。

 仏様は合ってる合ってないは置いておいて、とにかく『救われようとして頑張ってる』人間を見捨てないのだ。

 特に今はこんな状況だ。慈悲深きあの方々が見過ごされるはずもない……はずだが、この領域内にまでその御手を伸ばして下さるかどうか……賭けである。

 

「……わぁ」

 

 と、俺が固唾を飲んで見守っていると、『そら』が驚きの声を上げる。

 早速、験があったのだろう。

 さて、これで多分狂気に関してはある程度対策はできた。

 

 というわけで真言が効くことがわかったので、次。

 効くか分からないから頼らない方向で行くつもりだったが、効いてくれるならより安全性が増してくれる。

 

我を護り神速の加護を与え候へ(オン イダテイ ソワカ)我の戦に勝利の気運を与え候へ(オン ベイシラ マンダヤ ソワカ)護法の契りを以て我を穢れより守護し候へ(オン ウーン ソワカ)護法の契りを以て邪を破し候へ(オン ゼンバラシャ レンダラヤ ソワカ)我に戦技の加護を授け候へ(オン インドラヤ ソワカ)

 

 矢継ぎ早に俺が唱えるのは、それぞれ韋駄天様、毘沙門天様、金剛力士様、四天王、帝釈天様の、戦いと言えばこの人たちというお歴々。

 毘沙門天様は四天王にも含まれるので二重になるが、そこはまぁご愛嬌。

 

「えっ、えー? おん、いだてい、そわか。おん、べいしら、まんだら、そわか。おん、うーん、そわか……」

 

 何とか俺の後を追って真言を唱えてゆくと、『そら』の体に仏の加護が何重にもかかってゆくのがわかる。

 

 ……よし、もうこの際だし、盛れるだけ盛ってしまおう。

 『そら』が言い終わるのを待ってから、次の真言を紡いでゆく。

 

 不動明王様、普賢菩薩様、地蔵菩薩様、観音菩薩様、千手観音様、聖観音様、十一面観音様……

 その他にも多くの仏様の真言を唱え、バフを盛りに盛る。

 ゲームでは当然出来ない事であるが、現実ならやりたい放題である。

 

 ……とは言っても、ここまでやってまだ気休めくらいにしかならないのが神格なのであるが。

 

「ふぅ……おわり?」

 

「おう、まぁ事前準備はこんなモンでいいだろう。スマンな、あんなのの目の前で急にこんなことしちゃって」

 

「うぅん、だいじょうぶ。なんか……すごいことになってるのは、わかるから」

 

 実際、今の『そら』には確かな験が積み重なっている。

 これならば、即死くらいは防げるだろう。

 

「よし、それじゃあ、本番だ。最後のお呪いを唱えるが、唱え終わったらすぐ戦闘が始まるので、構えておくように」

 

「わかった」

 

 『そら』が頷いたのを見てから、俺は最後の真言を唱える。

 

日輪が熾光よ我が罪障を(オン アボキャ ベイロシャノウ)滅し其の慈悲と無量の光を以て( マカボダラ マニハンドマ)我の征く先を照らし候へ( ジンバラ ハラバリタヤ ウン)

 

「おん、あぼきゃ、べいろしゃのう、まかぼだら、まにはんどま、じんばら、はらばりたや、うん」

 

 大日如来様の真言。

 真言密教における宇宙そのものとされる、最高位の仏、その真言。

 それは当然の如く仏教において最強の真言であり、その効果は自らに降りかかる全ての災厄を払う。

 神格を相手取っても、効果こそ薄いものの十分に効いてしまうのが、この真言だ。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!?』

 

 真言を唱え終わった瞬間、雄牛の怪物が苦痛を露わにする。

 口内に蓄えられた穢れが飛び散り、周囲に悍ましい殺気が満ちる。

 これで正式に戦闘開始だ。

 出来る限り早急に、狂った悪夢からお目覚め頂こう。

 

 

 ■

 

 

 ギロリと百の目が『そら』達を貫く。

 地面を激しく揺らし、辺りに穢れをぶちまけながら、怒り狂う雄牛は走り出す。

 その先に居るのは、当然『そら』達だ。

 

 凄まじい圧力。とてつもない迫力。

 怪物の形をした災害が押し寄せてくる。

 しかし、ここで引き下がるなんて真似はできない。

 『そら』は手に持った木の枝を握り締め、真正面から打ち返そうとする。

 

「嬢ちゃん、俺の近くから離れるなよ」

 

 そう考えた『そら』が行動に移す直前。

 男は直立不動のまま、『そら』にそう語りかけた。

 『そら』はそれに異を唱えることなく、言われるがまま男の傍に立つ。

 何か手段があるのだろう。『そら』はそう確信していた。

 そしてそれは正解だった。

 

「喝!!」

 

 バチィン、と。

 弾けたような音と共に衝撃波が生まれ、牛の怪物を跳ね飛ばす。

 顔を大きくのけ反らせた牛は、その自重を制御できずに横倒しになった。

 ずずん、と。巨体が地面を揺らし、土埃と共に穢らわしい粘液が撒き散らされる。

 

「今だ!」

 

 男の指示を受け、『そら』は飛び出す。

 すると『そら』目掛け、一際大きい粘液が飛来する。

 

「穢れはその枝で弾け!」

 

 言われるがままに枝を一振りする。

 すると黒い粘液は透明な水となり、弾けた。

 それを認めると、そのまま『そら』は牛の怪物まで走り、その枝で叩く。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!?』

 

 その効果は絶大だったようで、たった一回当たっただけだと言うのに、牛は大きく暴れ始めた。

 効いているのであれば、殴れるうちに殴ったほうがいい。

 そう捉えた『そら』は二発目を叩き込もうとする。

 

「まずッ!」

「ひゃっ!?」

 

 しかし、それよりも前に男が『そら』を脇に抱えてその場から離脱する。

 瞬間、牛の体から黒い波動が放たれ、周囲の地面が抉られた。

 サッと、『そら』の表情が青く染まる。

 

「……ありゃヤバいヤツだな……攻撃チャンスは一回につき一回って事か……クソ、この身体マジで不便すぎる……」

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!』

 

 いつの間にか立ち上がっていた牛は、既にこちらに照準を定めている。

 

「……いいか? 俺のアレは嬢ちゃんが近くにいないと使えねぇ。俺がヤツをぶっ飛ばす、嬢ちゃんが一発入れる、逃げるを繰り返すぞ」

 

「わかった。ひったんだえー」

 

「ヒットアンドアウェイだが、言葉の意味自体は理解しているようなので……良し!」

 

 そう言いながら、男は再び牛の怪物を跳ね飛ばす。

 この悪夢のような闘牛は、どうやら長丁場になりそうだ。

 

 

 ■

 

 

 ……わかってはいた事だが、やはり神格相手はこの身体だと厳しすぎる。

 ガチの月桂樹に加えて真言ガン積み、それと『そら』の領域の中核としての立場に、この身体の権能……ってわけではないが、特権とでも言える能力までもが合わさって、コレか。

 一回能力使うだけで数秒間硬直とか、ふざけてるにも程がある。

 恐ろしいものだ、本当に。

 

「喝!!」

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!』

 

 だが、もう終わりだ。

 既にパターンに入ってからこの作業を何十回も繰り返しているが、ここまで浄化されたのならば、あとは神様が勝手に復活してくれる。

 だから──────これで最後だ。

 

「やぁっ!」

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■────────ッ………………』

 

 『そら』の持った枝が、牛の怪物に叩き付けられる。

 瞬間、パキンと。明らかに今までのそれとは違う感覚が俺たちを襲う。

 

「離脱するぞッ!」

 

 俺は『そら』を半ば引ったくるように持ち上げ、走る。

 地面に倒れ伏した牛の怪物は、穢れを噴き出しながら、その姿を消してゆく。

 神格を汚染し、狂気に貶めるに足る穢れだ。

 当然、その量は尋常のそれではない。

 まるで濁流のような穢れが溢れ、流れ出す。

 

「うえっ……」

 

「……凄まじいな、こりゃあ……」

 

 一際丈夫そうな木の枝の上から、地面を流れる穢れを眺める。

 ……本当に、この村の人間はとんでもないことをしでかしてくれたものだ。

 この世で一番恐ろしいものは、人間である。

 そのような言葉はよく聞くが、まさにその通り、というわけだ。

 

「……!」

 

 受信する。

 穢れた夜に囚われた挙句牛の怪物を被され、狂気に堕ちた道祖神。

 その片割れからの、神託である。

 どうやら正気を取り戻して早速、自らのすべき事を聞きたいらしい。

 

「……ええ、是非、今まで通りに。ただ一度、■を通して頂きたい」

 

 俺が祈祷すれば、ほぼ間を置かずに受諾の念を受信する。

 よし、これで最初の難関は突破した。

 これであとは偽りの月を暴き、霊地を確保するだけだ。

 もう一方の道祖神の方は、まぁ、俺を喚べればどうにでもなる。

 

「だれか、いたの?」

 

「ん? あぁ、まぁね。早速になるが、嬢ちゃんに解放してもらった神様とお話ししてたのさ。本当によく頑張ってくれた。ありがとう」

 

「ん」

 

 と、『そら』の頭を撫でてやれば、『そら』は満足げにそれを受け入れる。

 ……原作では、ラスボスを倒した後、家族に撫でてもらっていたと思ったら、『そら』はすっかり狂気に堕ちていて、何も解決してませんでしたってエンドだったからな。

 俺のいるこの世界でくらいは、幸せにしてやりたいものだ。

 

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