日本の古都、京都。
数多の歴史ある建造物が立ち並び、数多の国宝が収納された、古代日本の中心地。
今日も今日とて外国人観光客や修学旅行の学生が行き来するこの街に、俺たちはいた。
「ねぇねぇお兄さん」
「何だ、嬢ちゃん」
「多分お兄さんが言いたいことわかったから、先に言っていい?」
「おっ、いいぞ。言ってみろ」
「京都はヤバい」
「百点満点だ。花丸をあげちゃおう」
「嬉しいけど嬉しくないかも!!」
でもまぁ実際ヤバいんだから仕方がない。
寺やら神社が全力稼働しつつ全国から観光客を呼びまくって朝も夜もビッカビカにしてるから何とかどうにかできてるってくらいにはヤバい。
まぁ、それも顕在化させる余裕を与えていないだけで水面下で穢れを溜め続けるだけだから、こうして俺がたまに訪れないと酷い事になるんだけどさ。
「いいか嬢ちゃん。花丸ついでに注意しておくが、変なものには絶対触るなよ。マジでそういう類の『呪具』がその辺に生えててもおかしくない土地だからな。冗談抜きで」
「……生えるの? 呪具って?」
「正確には埋まってたのが昇ってくる。京都が地下開発をおいそれと出来ないのは、そういうのもある」
京都の地下鉄が少ないのはどこを掘っても遺跡が出て来るから、というのは有名な話だが。
そんな遺跡を掘り当てると同時にとんでもない悪霊やら妖やら呪物やらを目覚めさせてしまうから、というのもあった。
そういうのもあって、俺の前世のそれと比べてこの世界の京都の開発は死ぬほど難化していた。
ちなみに死ぬほどというのは文字通りの死ぬほどだ。
最終的に当時は半ば隠居していた俺まで出て来る羽目になったことからも、相当だった事は窺い知れるだろう。
今でもこの土地に新築物件を建てるのなら、滅茶苦茶しっかりと地鎮をしなきゃいけない。
京都とはそういう土地なのだ。……否。東京と同じく、人間がそういう土地にしてしまった……といったところだろうか。
まぁ、どちらにせよ変わらん。
ただ少々異なるのは…………
「東京とは違い、こちらは汚染されても世界全体にまでは影響を及ぼさないだろうって事かね」
「え? そうなの? けっこう外国人観光客の人が多そうだけど……何なら東京より多いんじゃない?」
「まぁ、そうなんだがな? ……そこが京都の上手くやった点でな。要するにここは、『日本』なんだよ。誰からどう見てもな」
「え? どういうこと?」
言ってしまえば理屈は簡単だ。
この街は日本の古都で、訪れる外国人はその殆どが『日本の歴史と文化を学びに来た』人物。
要するに、彼らは『自らが客人である事を自覚して』この地に訪れるわけである。
だからモスクはあるし、教会だってあるが。それでもこの土地に神は根付かない。
何故なら、ここに訪れる誰もがここに神の教えを広めようとは思わないから。
宣教師が居なければ、神の教えも影響も広まらないのである。
「はえー……そんな事あるんだ」
「ああ、そうだぞ」
「そういう事も考えて、京都って街を観光名所にしたんだね」
「最初はそうじゃなかったかもしれんがな。結果としてこう上手く収まったわけだ」
「そっか」
「おう」
「で? その観光客さんたちの影響で大量発生する穢れは?」
「正直ヤバい」
「ダメじゃん」
実際のところ、この土地に溜まる穢れの量も東京のそれと遜色ないくらいヤバいからなぁ。
まぁ、京都には川もいくつか流れてるし、平安京の構造とかでそういうのをある程度は浄化できてはいるんだが、それでも生産される穢れの量と質は尋常のそれではない。
「何なら地下に閉じ込められている悪霊やら妖やら呪物から漏れ出す怨念とか呪詛とかも混じってるから、穢れの質で言えば東京よりもヤバいぞ」
「……この土地はこの土地で、どうやって耐えてるの……?」
「観光客を利用してる」
「人の認識の力を利用して〜とか、そういう話?」
「いや、観光客を寺社の信者ってことにして、無理矢理神格と仏の加護を強化してる」
「え゛」
寺社を観光するためには入場料が必要だし、お土産を買うにも代金を払う必要がある。
つまりそれは寺や神社に寄進したり、あるいはお布施をしているという風に捉えられる。
お賽銭なんてしようものならもう言い逃れはできない。
その時点でその観光客は、寺社に祀られる神仏の敬虔な信徒という事になり、捧げられた金はその金額がそのまま神仏の力となる。
その力を利用して、この土地に眠る諸々のやべー連中を封じ込める力としているわけである。
非常に冴えたやり方である……が。
「……宗教的に国際問題じゃないのそれ」
『そら』が青い顔でそう懸念するのも無理はない。
実際のところ、キリスト教を筆頭にイスラム教やユダヤ教の一神教は、唯一神以外の神を崇めてはならないという戒律がある。
本人の了承なく他の神を信仰したという事にされては、向こうさんがあまりにも困ってしまうわけだ。
「まぁ、その辺は色々とグレーゾーンに足を突っ込んではいるんだがな。『こっちはあくまでも金を払った時点でそうであると
こうでもしないと日本の観光産業はほぼ全滅になるし、日本にも唯一神の教えを広めたい連中にとっても、こうすれば『郷に入っては郷に従え』の罠の危険を限りなくゼロ近くまで減らせるわけだから、まぁ互いにwin-winではあると思う。
だからこうして今も問題なく国交は続いているし、観光業も盛んになっているわけだ。
「へぇ〜……やっぱり上手くやってるんだねぇ」
「まぁ、そうだなぁ」
「でも根本的解決にはなってないよね?」
「そこに気付いちゃうか」
実際のところ、根本的解決には至ってないのが確かな現状である。
観光客を無理矢理信者としてカウントしているのも、そうでもしないと現状維持さえ難しいから、というのが本音だ。
「だからこうして、東京と同じく俺が訪れる必要があるってわけだ。一応言っておくが、今回は観光云々については何も考えなくてもいいぞ。京都の観光名所には片っ端から行かなきゃならんから」
「片っ端って、本当に片っ端から? 全部?」
「おう。これから3日間は寺社三昧だぞ。泊まりだって基本寺だ。何なら終わったら奈良にも行かなきゃならんから、一週間くらいは寺でお泊まりになる。やったな嬢ちゃん。法隆寺に泊まれる機会なんて、まず無いぞ」
法隆寺はいいぞ法隆寺。
日本仏教の原初とも言える場所だからな法隆寺。
一回落雷で焼けて建て直したけど、何なら定期的にバラして建て直してるけど。
それでも殆ど弱体化していない、日本で多分一番力が強い寺だぞ法隆寺。
まぁ純粋な力で言えば最近は観光客の数とか知名度で清水寺の方が強いんだけど。
「金閣寺でも寝れるの?」
「正確には鹿苑寺金閣、な。まぁ最近は向こうも諦めが入ってきてて、もう金閣寺で良いって言ってるけど。……で、質問に答えるがあそこは流石にちょっと無理だ。アレはちょっと欲望側に傾きすぎててな」
金自体は別に何も悪くない。
仏像にだって金箔は用いられるし、寺社の建物自体に金箔を使う事も多い。
それにあの建物だって舎利殿としての在り方がメインだから、むしろ覚者の聖なるパワーがあらゆる穢れを寄せ付けずに浄化している……ものの。
人目に触れる機会が増えすぎて、欲望に晒される時間も増えすぎて、ちょっと対処しきれてない感はある。
一回焼けて建て直したから弱体化もしてるし。
「まぁ、その点で言えば嬢ちゃんなら心地よく寝れそうだが」
「流石に穢れってわかってそこで寝るのは嫌だ。人間的に」
「そりゃあそうか」
人間的に、人間的にな。
いい事だよ、本当に。
人間的に。素晴らしい価値観だ。大事にして欲しい。
俺にはもう、残ってるかさえ怪しいよ。
「まぁ何にせよ、さっさと移動しちまおう。今日からはとんでもなく忙しくなるからな」
「うん、わかった。最初はどこに行くの?」
「東本願寺。その後西本願寺にも行くし、東寺にも三十三間堂にも行くぞ。この世界に足を踏み入れた人物にとっては見る以上の楽しみ方が出来るものばっかりだから、楽しみにしてろ」
と、そうして俺たちは歩き出す。
……っと、そういえば京都に着いたら連絡くれってザネさんに言われてるんだった。
まぁ……後ででいいか。どうせ時間かかるし。
さて、俺も久々の京都だが……楽しめるかね?
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