斯くして、街を長い時間苦しめていた
……わけであるが、大変なのはやはりここからであった。
戦争は事後処理の方が大変と言う話があるが、まさにその通りである。
まず今回の
①新しい神様の奉祀と街の浄化。
②少女の母親の処遇について。
③少女自身の今後について。
これに加えて、他にも諸々の細々とした問題もあるが、まぁこの際そこはいいだろう。
この中でとにかく真っ先に取り掛からなければならなかったのは、やはりと言うべきか新しい神様の奉祀と街の浄化である。
と言うのも、この街の立地、調べれば調べるほどヤベェのである。
上流からよくないモノが流れ着きまくる川があるのは勿論、土地が全体的に低地かつ緩い傾斜である事、周辺に大きめの墓地がある事など、よくもまぁこうなったなって逆に感心してしまうレベルで風水がクソな事になっている。
こんな事になってればそりゃあ穢れもする。
恐らく昔は人が少なく、川から流れ着くモノはともかく流れは清らかだったから何とか回っていたのだろうが、しかし開発が進み、人が増えに増え、川が穢れたせいで全部がおかしくなってしまったのだろう。
まぁ、そもそもその辺のよく分からないのを神として祀るんじゃなくて、最初から浄化の神様を祀っていればどうにかなった問題ではあるのだが、それにしてもという話だ。
いや本当に何でこんなところに墓地なんて建ててしまったのだろう。
こんな所に墓地なんて建てたところで、負の力が何処にも流れていかないどころかむしろ川から流れ込みまくって悪霊が発生しまくるに決まっているだろうに。
というか実際発生しまくってた。
ってか何なら墓地の中に入っていた比較的まともな霊たちが悪霊たちを抑えてるってカオスな状況にさえなっていた。
こんな事は流石の俺も初めてだ。
協力してくれた方々も本気でびっくりしていた。
……で、だ。
まぁとにかくそんなわけで、街の霊的環境があんまりにも酷く、このままにしておくと何処かから流れてきた邪悪なモノがこの街で力を蓄えかねないって事で、早急に浄化の神様をお招きする事に決定した。
そこで俺や16系列のお偉方の方から神様方とコンタクトを取った結果……なんと、祓戸四神が一柱たるセオリツヒメ様の御分霊と、彼女の祭司一人を頂ける運びになったのである。
正直、あんまりにもあんまりな大物が出てきて俺もびっくりしてしまった。
確かに穢れの原因の大半は川にあるので、セオリツヒメ様の『穢れを川に流す』権能はまさしく最適解であるのだが、それにしてもオーバースペックが過ぎる。
取り乱し過ぎだと思われるかもしれないが、本当にとんでもない神様なのだセオリツヒメ様は。
一部でかの大御神の荒御魂とされており、大御神と同じく伊勢神宮に祀られていると言えばその凄まじさが理解できるだろう。
ご厚意で来て頂けるのでこんな事を言うのは実に憚られるのだが、そんな軽いフットワークで地方の片田舎に来ちゃいけないお方なのである。
いや、日本の神様方はいくら御霊を分けられても全くのノーダメージどころか、信仰が増えるからプラスでさえあるのだが、それにしても色々とこう、あるのである。
お陰で宮大工の皆様も大忙しだった。
あのお方をお迎えするのに半端な社を作るわけにもいかないので当然であるが。
……まぁ最終的には無事に社も完成し、御方も祭司殿も無事に到着なさり、文字通り一瞬で街中の穢れが綺麗さっぱり消えたので、とにかく良しとしよう。
で、次。
少女の母親の処遇についてであるが……十王様方に話を伺った結果、普通に火車で回収からの無間地獄行きで確定という運びになった。
満場一致で無間地獄行きが決定し、これから永劫の時を落ち続ける事が確定した。
来世はまぁ、期待できたらいいねって具合だ。
母親に変質させられた、祖母、父、兄を含む被害者ご一同は、姿形は変われども魂は不変という事で、普通に人間の姿で裁きを受けられる事になったので、そこは良かったと言えるだろう。
ちなみに母親が連れてきた男の方に関しては、衆合地獄行きはほぼ確定だが、まだ生を謳歌するだけの権利は残っているとの事で、俺の方から元の場所に追い返しておいた。
あと数十年の生を楽しめればいいね。
で、これが最後になるが……少女自身の今後についてである。
まず大前提として、少女こと『かな』ちゃん、人間を半分やめてしまいました。
結果、普通に俗世に紛れて生活する事が非常に困難になりました。
……いや、本当に申し訳ない事をしたと思う。
というかこの辺に関してはだいぶ俺のガバだ。
何せたった一度、ほんの一瞬とは言え、カグツチ様の炎に身を晒すどころか、棒越しとは言えその炎に触れ、更には使ったのである。
しかも魂にはその炎の燃え滓が残っているのだから、『かな』の霊的な格が普通の人間とは比べ物にならないほどに上がってしまったのだ。
しかもその後、レプリカとは言えほんの一瞬大御神の御手に触れて頂いた勾玉を握らせたのも悪さをした。
間接的とは言え大御神に触れた事で、『かな』ちゃんの霊格はさらにパワーアップ。
現代日本に、大神と最高神の影響をモロに受けた少女が誕生してしまった瞬間である。
そして神秘の濃度の落ちた現代日本で生活するには、その霊格はあまりにも高過ぎる。
植物の種を蒔いた瞬間に芽を出し、成長して花を咲かせ、実をつけさせる事ができる少女とか、絶対に変な事に巻き込まれるに決まってる。
というわけでセオリツヒメ様のご提案によって、『かな』という少女は今回の
まぁ、俺からしてもやはりそれが一番丸く収まると思ったので、そういう風にさせていただくことにした。
そして現在。あの日から約1年が経過した今、俺はこの神社を拠点にしつつ、『かな』ちゃんに稽古をつけたり、この周囲で散見される霊的問題を解消したりしつつ、『
「もう、出られますか」
「……ああ。もう、いい時期だ」
縁側に座って、瀧さんと話す。
瀧さんと言うのはつまり、セオリツヒメ様の祭司で、この新しい神社の神主さんになる、初老の男性だ。
「もうじき、月蝕も起きる」
それは、『
事が起こる前に、その舞台には移動しなくてはならない。
「それに……些か、嬢ちゃんが俺に依存しすぎている気がするからな。そろそろ、あの子も独立すべきだ」
家族を喪って傷心中だろうと言う事で、心の拠り所になる程度は別に良いのだが、しかし依存となると話は変わって来る。
それは流石に、よろしくないというものだろう。
「……はぁ」
「おい、何だその返事は」
「いえ、まぁ、確かに彼女が貴方に依存しすぎていると言うのは紛れもない事実ですが、しかし…………はぁ…………」
「いや、依存しすぎているのなら尚更何とかすべきだろう」
「……責任という言葉はご存知で?」
「十分に取ったつもりだが」
ここ一年、だいぶ彼女を助けてやったつもりだぞ、俺は。
彼女も俺に寄りかかりながらとは言え精神的に立ち直ったみたいだし、あとは俺から手を離して自立するだけだろう。
「……何故貴方は人の心の負の方面に詳しいのに、女心への理解が低いのでしょうね?」
「そうか? そこまででもないだろう」
「……ええ、そうですね。はい。もう、何も言いますまい」
そう言って、瀧さんは立ち上がる。
「貴方が今後、どうなるかについてはともかく、出ていかれると言うのならば彼女とよく話をしておいてください。彼女は今、拝殿の方に────」
「いえ、ここに居ますよ」
突然、背後から声がする。
振り返れば、微笑みを浮かべた『かな』がそこに立っていた。
こうして見ると、この一年ですっかり大人びてしまったと思う。
ここにも霊格が上がった影響があるのだろうか。
「…………そうですか、では、私は席を外しますので、お二人でよく話し合って下さい」
「はい。……じゃあ、隣、座るね?」
「おう」
そう言って、『かな』が俺の真隣に座る。
本当にピッタリと真隣だ。
このあまりの距離感の近さも、俺が危惧しているものの一つである。
「……行っちゃうんだ。別のところに」
「まぁ、そうだな。色々と、やるべき事がある」
「他の女の子を、助けに行くんだ。わたしみたいに」
「…………結果的に、そういうこともするだろうな」
というか、メインの目的がまさにそれだが。
「……………嫌だな」
「……ん?」
「うん、嫌だ。すごい嫌だ。お兄さんが助けた女の子も、わたしみたいにお兄さんを好きになるって思うと、すごい嫌な気持ちになる。わたしみたいに、お兄さんにお世話してもらうんだって思うと、もっと嫌な気分になる」
「……あー……」
……ちょっとマズいか? これ。
「ひどいなぁ。ひどい。すごくひどい。お兄さんがわたしをこんなのにしたのと同じように、他の子もこうなっちゃうんだ。わたしにとっての特別はお兄さんしかいないのに、お兄さんは他の子も助けて、その子にとっての特別になっちゃうんだ」
「わかってるんだけどなぁ、お兄さんはそういう人だって。そういうお兄さんを、わたしは好きになったんだけどなぁ、あはは、どうしてだろうね。お兄さんが人助けをするってなると、とっても嫌な気分になっちゃう」
「一緒にいたらダメかな。お兄さんがずっとここにいるのじゃダメなのかな。わたしもお兄さんについて行っちゃダメなのかな」
「わたしはお兄さんのためなら、どんな事でもできるよ。だって、わたしにはお兄さんしかいないから。セオリツヒメ様もすごく良くしてくれるけど、やっぱりわたしの心は全部お兄さんなの。今のわたしの幸せは、全部お兄さんがくれたものだし、これからもきっとそう」
「嫌だ。嫌だよ、お兄さん。行っちゃ嫌だ。お兄さんが居なくなったら、とっても寒いの」
「もういっそのこと、このままわたしが死んで、霊魂としてお兄さんと一つになれば良いのかな……? そうすれば、きっと寒くない……」
と、そこまで言って、少女は押し黙った。
……うーん。ちょっとどころじゃないな。だいぶマズいな。
もしかしてだいぶ取り返しのつかない事になってるんじゃないかこれ。
「……なんてね」
「あ?」
「大丈夫だよ、うん。わたしは大丈夫。ごめんね、お兄さんを困らせちゃって。もう、一生かけても返しきれないくらいに色々なものを貰ったのに。ダメだね、こんなわがままを言って」
パッと、『かな』が笑う。
その笑顔がハリボテである事は、よく見ずとも明白だった。
「わたしはセオリツヒメ様の巫女として頑張るから。お兄さんが居なくても、きっと大丈夫だから。だから、お兄さんは気にしないで。……ね?」
……いや無理だろ。
普通に無理だ。
この状態の『かな』をただ置いて出て行くのとか無理だ。
ってか視線を感じる。四方八方から視線を感じる。
この感じさてはセオリツヒメ様だな?
ああまずい。『このまま何もせずに出て行くとか赦さねぇぞ』って仰っている気配が凄い。
このまま出て行ったら、絶対に祟られる。
でも『
うーん……仕方ない、この案で行くか。
「ちょっと待ってな」
そう言って俺が懐から取り出すのは、刃渡り数センチほどの極めて小さい短刀。
俺はそれを用いて、自らの髪の長い部分を一房、切り落とした。
そうして切り落とした髪を小さな袋に詰めて、『かな』に渡す。
「……えっと、これって……」
「見ての通りだ。俺は女じゃないのでそこまで霊力が篭ってるわけじゃあないが、それでも繋がりはある。嬢ちゃんならもう分かるだろう。だから……まぁ、それで勘弁してくれ」
「…………うん」
にこり、と。『かな』が微笑んだ。
先程のとは違う、ちゃんと心からの笑みだ。
その瞬間、周囲の視線も消える。
どうやらお気に召したらしい。
「……あー……じゃあ、なんだ。俺も、そろそろ出る。俺も頑張るから、お前も頑張れ。……またな」
「うん。また」
俺も縁側を立ち、そのまま神社を後にした。
そうしてまた、俺は夜に潜るのだ。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
これにて第一章は終わりという事ですが、書き溜めがこれで終わりだし筆者がこれから死ぬほど忙しくなるしで、投稿は死ぬほど不安定になりますが……っていうか、来年くらいまでほぼ無理だと思いますが、ちょっとずつは書いてはいこうと思います。
勿論完結はさせたいので頑張ります。
なので是非ともお気に入り等して更新を待っていただきたい所存。
感想、評価等が筆者のリアルのモチベーションに繋がるので、是非お願いします。