当然のことだが。
人は、人から生まれる。
そして人以外から人が生まれることはない。
蛙が蛙の子を産むように。
また、鷹が鳶を産む事がないように。
だから人が人を産むのは、摂理であると言える。
それは、人が人であるための条件たり得るのだろう。
人から産まれるからこそ、人は人なのだ。
であるのなら彼は、きっと人間ではないナニカに違いない。
■
確かにそこには、何も無かったはずだった。
少なくとも、霊的には。
かろうじて『有った』と言えるのは、多少の空気程度のものだ。
それ以外には何も存在しなかった。
その場に居た誰もがそう認識していたのだから、それは決して間違いではない。
そう、決して。
だが、そこに彼は顕れた。
瞬きにも満たない須臾の間に、ソレはそこへと降り立った。
或いは、そこに生まれ落ちた。
何も無かったはずのそこに、存在した事になった。
ただ、それはきっと何も無いままだった。
浮いているのか、それとも落ちているのか、はたまた透けているのか。
何であれ、きっとそれはそうだった。
だから、なのだろう。
目の前に現れた彼、或いはソレが何であるのか。
それを説明できる人間は、その場には誰一人として居なかった。
ただ、わかることといえば、彼がとにかく『美しい』ということ、それだけだった。
その場に居た誰もが、あらゆる思考を差し置いてそう思わざるを得なかった。
それほどまでに、ソレは完璧だった。
あまりにも完璧すぎるほどに、完璧だった。
全身を覆う、しなやかな筋肉。
一切の不純物が存在しない、透き通るような肌。
黄金比を体現したような四肢の均衡。
完璧な位置に配置された、完璧な形に整った顔のパーツ。
まるで自ら輝きを放つかのような、純白の髪。
どこか儚さを感じられる佇まい。
そこにはきっと、無駄なモノが何もないのだろう。
誰かがそう思った。そしてそれは正解だった。
「……なるほど。だいぶ、変な事になったらしい」
彼が口を開き、声を発する。
ズシン、と脳の奥に響くようで、しかし耳からするりと抜け出してしまうような、不思議な声。
そこに風はなく、ならば竜巻など起きるべくもない。
「ふむ」
ぐるり、と。
彼が周囲を睥睨する。
そして彼の視線がたった一瞬だけ、自らを貫いた。
たったそれだけで、腹の奥を見透かされ、魂すら見通されているような感覚に襲われた。
否、きっと感覚だけでなく、彼は魂を見ているのだろう。
であるのなら。
彼はきっと、どちらでもなくて、どちらでもあるのだろう。
それは、明らかな矛盾だ。
だからこそ、神聖で、悍ましい。
「うん、状況がよくわからない。一体なんだ? 勇者召喚の儀式ってわけでも無さそうだよな……たぶん、現代日本だろう? ここは。ってかそうなるとマジで何やってんだ?」
この場にいる全員に、或いは自分に向けて、彼が問いかける。
しかし、誰もがその口を開こうとしない。
きっとここで口を開く事は、とても畏れ多い事で、恐るべき事だから。
故に、誰しもが彼の御方を見た。
それが相応しく、適当だから。
そして、彼の御方はそれに応え、問いた。
ただ一言、「
「……え? ああ、俺か? そうだな、俺は────」
“転生者”
僅かな逡巡の後、彼はそう答え、御方は頷いた。
恐らく、それは海豚のようなものだ。
だからそれが定まる事は、決してないだろう。
きっと、何かが終わった後。
もしくは、何かが始まった時。
そうでなくとも、そうするべきだと思った時。
世界は、我々は、ただ粛々と問う。
そして、答えるのだ。
“あなたは、誰ですか?”
生存報告のついでに意味深パートを投下。
こっからまた音信不通です。
是非とも考察して感想欄に書いてみてネ。
俺が楽しむから。