ヌースとスクウモノはゆったりと西の海岸線に向かい進んでいた。
アラクネの住処に行くときはスクウモノがヌースを持ち、飛ぶように移動していたのだが、今はそう出来ない理由があった。
「ネバネバするし、油断すると解けてくる……なんだこれは」
肉に巻くのかぁこれを? と眉をひそめてぶつぶつ呟いているスクウモノ。
ヌースはそれを見ながら、笑いをこらえていた。
ヴァレリア王国を出て闇の森に来て、ヌースはこのまま死ぬのだと思っていた。
笑う事など、ヴァレリア王国の亡くなった家族、侍女、国民に許される事ではないとヌースは思っている。
だから必死にこらえているのだ。
木を紛らわせる為に視線を泳がしたヌースは、獣道の向こうにある物を見つけてスクウモノに声をかけた。
「スクウモノ、少し寄り道してもいいだろうか」
「む?」
スクウモノに森をかき分けてもらい、目的の植物までの獣道を作り進む。
「これは、うん、使えそうだ」
「何じゃそれは」
まだ柔らかい若いものを探しながら、ヌースは答える。
「竹だよ、竹籠を作ってみよう。作ったことはないけど作り方なら知ってるからさ」
「竹籠!」
尾をピンと伸ばし、口を大きく開けるスクウモノ。
「お主が来て、73回月が空に浮かんだときに話してたアレだろう! 我にも作らせろ!」
そんな鼻息を荒くするスクウモノに、ヌースはぷっと吹き出す。
そして大きく笑った。
「ははは、そんなに慌てずとも材料も時間もあるのだから、スクウモノよ。落ち着いてやってみようじゃないか」
滅んだ王国の生き残りとして、許されない事なのだろう。
それでも、許されない事だとしても、許してはくれないだろうか。
この奇妙なケダモノに食われるまでのこの短い時間ぐらいなら。楽しんでしまっても。
「このっ! くそっ! ヌース! 割れるぞこいつ!」
「えーっと、若い竹を使って、油抜き……はいいか、ああ、もっと薄くするといいんじゃないかな」
−−−
るんるんと足どり軽くスクウモノは歩く。
首筋をピンと真っすぐのばし、鼻歌でも歌いそうだ。
ふと後ろを歩くヌースに向き直り、ソレを見せつける。
「見よヌース! 我の作った竹籠を!」
「凄い似合ってるよ、うん」
1人と1匹の背には竹籠がある。
スクウモノは自らの体にあわせて、巨大な竹籠を作った。それは不格好ではあるが竹籠と呼べるぐらいではあり、その中には竹籠のなりそこないの失敗作がいれられている。
ヌースの背にはヌースが作った小さな竹籠が背負われおり、あの糸玉が入っている。
自分の作った竹籠に粘つく糸玉をいれたくないとスクウモノが駄々をこねた上、この子達を置いていくなど、と失敗作も持っていくと言い張った結果だった。
竹籠を一通り自慢したあと、また歩き出すスクウモノ。
数歩、歩き止まる。
「見よヌース! 我の作った竹籠を!」
「うん、凄いね……なぁもう少し急いだ方が良いんじゃないか?」
「カカッ! 慌てずとも時間はいくらでもある。ゆっくり行こうではないか」
はぁとため息をつくヌース。
1人と1匹は闇の森を行く。かき分けた獣道には光が差し込んでいた。