ケダモノオペラの長いキャラシメモ   作:夢ノ語部

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都市国家ヌース 禁書庫

 都市国家ヌース。

 その中心に築かれた白き石の大図書館の最奥――。

 人の立ち入ることを禁じられた、重錠のかけられた書架。

 そこにひっそりと収められた一冊の書がある。

 

 黒革に包まれたその本には題は存在しない。

 その本は、震える文字で始まっていた。

 

−−−

 

 まえがき

 

 人の住む家が十を数えた。

 雨をしのぐための小屋であったが、人は住み始めると根を張る。

 畑を耕し、火を絶やさぬ工夫を覚え、互いに助け合う姿が見られるようになった。

 

 住民数が五十を超えた。

 戦を逃れた者、飢えを避けた者、ただ居場所を失った者。

 彼らは居つき、集落は膨らんだ。井戸を掘り、水を分け合い、作物を蓄えた。

 秩序の必要を覚え、盗みや争いに罰を設けた。小さな決まり事が、人々の心を落ち着かせた。

 

 百を超えた頃には、祭が開かれた。

 神を祀るというより、人が人であることを確かめ合うための集いであったろう。

 焚き火の明かりの下で踊り、歌い、語る。

 血を分けぬ者同士が同じ食卓を囲むとき、集落は一つの「家族」となり村となった。

 

 三百を超えると、村は境界を求めた。

 柵を巡らせ、門を設ける。夜警を置き、交代で見張る。

 外から来る者を選び、住まわせるか退けるかを議した。

 人の数はただ増えればよいのではない。増やすためには、枠と秩序が要る。

 

 千を超えたとき、町は「国」と名乗った。

 石を積み上げ、壁を築いた。

 裁きを定め、判を押した。

 そして人々は一人を推し、「代表」と呼んだ。

 

その名は――ヌース。

 

 私は記す。

 町から国へと至るまで、人は互いに寄り添い、支え合い、秩序を求めて動いた。

 人が集まれば、町となる。

 町が続けば、国となる。

 人とはそういう生き物だ。

 

追補

 

 ここに書いた記録は、人の営みとして残す表の顔である。

 だが我が身に宿るものは人の性ではない。

 

 食を得るに、獲物を追う必要などない。

 壁の内に獲物が自ら集い、家を建て、子を産み、増え続ける。

 飢えを知らず、労を惜しまず、ただ待てばよい。

 

 私は悟った。

 スクウモノは賢きケダモノ。歌を広め、人を誘い寄せて喰らった。

 だが今振り返れば、あれは怠惰であった。

 

 国家を築けばよいのだ。

 ほんの少し秩序を与え、希望を与え、枠を示せば、人は自ら進んで檻の中へ入っていく。

 そして増え、育ち、熟し、やがて食卓を満たす。

 

 スクウモノを尊敬する心に偽りはない。

 だがあえてここに記す。

 

 ──あのケダモノはナマケモノであった。

 

−−−

 

 次のページには、この本のタイトルが書かれていた。

 

 国家畜産管理規定。

 

 以降、都市国家ヌースの人口を増やすための政策やルール、人口遷移が事細かに記されている。

 




これにて終幕
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