サラリーマンは死にたくない   作:上条@そぉい!

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続いてしまった2話


備忘録その1

 仕事を終え、路上に駐車していた車に乗り込みパソコンを開く。当然の如く特別な回線に繋がれたそれのディスプレイには、数多の数字の羅列が次々へと流れていく。

 

「なるほどね」

 

 新聞の記事を見て少々気になり、『ヴィジョン・コーポレーション』の機密情報サーバーにアクセス。もちろん非合法だが今更気にする事もない。

 

「デットエンドホロウ内で爆薬使用して再整備ねぇ……随分と派手な事をする」

 

 ホロウ空間は基本的に不安定なものである。共生ホロウと呼ばれる比較的安定したホロウも存在しているが、あれは小康状態なだけであって危険性は依然としてある。暴発の危険はあれど安全装置がついた拳銃ならまだマシ、という程度の差しかないのだ。

 そんな所で派手に爆破などすればホロウ空間にどんな影響があるのか予想が付かない。しかし最初から危険で隔離されたホロウであれば多少のリスクに目を瞑るというのも無い訳ではないだろう。

 

「実際のところは近いとこにある共生ホロウから突っ込んでそのまま爆破か?まだ住民も近くにいるだろうに……」

 

 そういう場合、住民に説明し、退去してもらう必要がある訳だ。諸々のコストが掛かりどの企業もいい価格を提示していた中、ヴィジョンは破格の値段を提示。見事にその工事権利を勝ち取ったが、きな臭いものを感じる。カタカタとキーボードを叩き更に奥の情報を探れば、目に飛び込んでくるのは一つの文言。

 

──住民の理解が得られない場合、ホロウ内に隔離する。

 

「はぁ……」

 

 なるほど、確かに合理的だ。目頭をつまみ、息を吐く。これだからこの世界は、と。人の欲ひとつで軽々しく命が飛んでいくのだからたまったものではない。反吐が出るが、理解と許容は別だ。しかしまぁ、私が出来る事は無い。ホロウ内の事に関して私が手を出せるものがない……精々この情報を治安局にでもリークしてやるくらいだろうか?してもいいが、揉み潰される可能性が高いだろう。金に物を言わせるのは企業の特権だ。人の欲に蓋はできないのだから。

 

──コンコン

 

 ホロウ、ホロウか。この世界で生き残る事を目標とする私にとってそれは避けられないもの。死にたくないのに死のリスクを背負わなければならないとは矛盾している。しかし、人は本質的に楽をするために苦労を背負う矛盾を孕んだ生き物だ。堕落するために勤勉になる。全くもって変な生き方だと鼻で笑う。

 

──あの、すいません。

 

 と、思考に耽っていた私は、車の外、ドアガラスをノックする音と声に気がついた。

 

「あぁ、何か用で?」

 

 ドアガラスを下に下ろして顔を覗かせれば、外にいたのは治安局の者だ。胸にデカデカと書かれた『PUBSEC』の文字は、こちらを見る彼女が治安官である事を示している。

 

「ここは駐車禁止です、速やかに離れてください」

 

 そう言われて道路沿いの標識を見れば、確かに駐禁の標識がある。この程度なら注意程度で済むのが大半だが、今回は運が悪かった。どうやら目の前の彼女は真面目らしい。こちらに色のついた紙を渡してくる。

 

「罰則ですので、この後治安局にこの紙をもって支払いをお願いします」

 

「ありゃ、ついてないね」

 

 駐禁料金など微々たるものだが、その手間からしてマイナスである。運がないと諦めるほかないだろう。ここでごねようものなら、恐らく目の前の彼女は許してくれない。そんな真面目な雰囲気をビシビシと感じる。

 

「そういう訳である。ご足労願おう」

 

 と、その横にいるツインテールの背丈の低い少女は古めかしい口調で続く。悲しいが国家権力に逆らえない男であった。後で行く事を確約し、解放してもらった男はパソコンを閉じて、何処かへと車を走らせた。




「しかし朱鳶よ。我のパトロールに付き合う必要はなかったのだぞ?」

「いえ、丁度暇ができた所だったので先輩に付き合おうかと」
 
 朱鳶と呼ばれた彼女は、自分より背の丈が低いツインテールの少女を先輩と呼び、見つめる。側から見れば変な光景かもしれないが、互いをよく知る2人にはそのやり取りに含まれた意味を多分に理解している。要するに──
 
『パトロールと称して無理しないですよね??』という彼女の圧であった。以前それで道中充電切れになった事のあるツインテールの少女は目を逸らすばかりである。
 
「む、そう言えば先程の男」
 
 耐えかねて少女は朱鳶に話を逸らす目的で話を変えた。もちろん誤魔化を許すつもりのない後で追求する事を朱鳶は心に決め、話を聞く事にする。
 
「どんな顔だったか、覚えておるか?我の記憶媒体に記録されてる筈なのだが、何故か朧げでな……」
 
「そう言えば……どんな顔でしたっけ」
 
 先ほどまで話していた筈なのに、顔どころか容姿も記憶の中で霞んでいく感覚がある。お互い特務捜査班に所属したエリートだ。記憶力にもそれなりに自信があったのだが──
 
「珍妙不可思議、というやつであるな」
 
 何処か胡散臭さが漂う男であった事は、覚えていた。

「……話していた時、あの男、確かに正面に立っていたはずなのに」

 朱鳶は眉をひそめた。

「……顔が、まるで……白紙みたいに思い出せません」

「む、声もだ。高かったのか低かったのか……」

 互いの記憶力に自負のある二人だからこそ、その曖昧さが奇妙だった。会話の内容だけが鮮明に残り、姿形は靄の中に溶けたように霞んでいく。その奇妙さに不気味なものを感じながら。
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