テオ子と書かれたシャツにラフなパーカー。特徴的な服装の少女は居たのは、その服装には似つかわしくない場所。零号ホロウが間近にあるホロウ調査協会の拠点にいた。
「ニネヴェの活動が活発化してる……!?」
「ああ、リン。君は以前ニネヴェとの遭遇経験があったな」
キラリと眼鏡のレンズが光る。指を立て順序を説明する女性はまるで生徒を教える教師のようにも見える。
「枯渇病と呼ばれるニネヴェ特有の特殊侵食現象……これが以前より範囲を広げつつある。これを放置すれば、零号ホロウそのものに影響がある……つまり」
「つまり、零号ホロウの侵食範囲が伸びて、新エリー都にも被害が出るかもしれない。だよね、レイさん」
顎に手を当て、悩ましげに眉を顰めるリンと、その通りだとため息を吐くレイと呼ばれた研究員。
「だが、ここで活動を抑えられるなら話は変わる。手っ取り早く言うなら『殲滅戦』と言ったところだ。リンにも協力してもらいたい」
「任せて、新エリー都にまで及ぶかもしれないなんて聞かされて断れるわけないもん」
「ああ、それにあたってだが、ホワイトスター学会からも支援があった。リンが使うボンプ用のデータだ。使えるぞ」
「学会から……?大丈夫?前にもそんな話でレイさんを……」
少々闇とも言える部分に深入りしたレイを、以前ホワイトスター学会は揉み消そうと動いた事があった。それ故にリンはあまり学会を信用できずに居た。しかし、レイは首を横に振る。
「ホワイトスター学会とは言っても、これの出所は間違いなく別だろう」
「別?やけに自信ありげだね……」
断言するレイの表情は確信めいている。これは本当に信用できるものなのかもしれない、とリンは考え始めた。
「リン、君は『セールスマン』を知っているか?」
その名前はよく知っている。かなり前からインターノットで囁かれている話だ。
「文字通りの意味じゃ……ないよね。よく聞くよ、インターノットの都市伝説でしょ?」
曰く、神出鬼没で願いを叶えてくれる存在だとか。曰く、その姿は煙のようだとか。名前だけが囁かれ続け、その実態は何も分かっていない都市伝説。その名前がここで出てくるのは、一体どう言うわけなのか?
「都市伝説ではなく、実在する人物だよ。このデータはその『セールスマン』が製作したものだからな」
「えぇ!?実在したの!?」
何故それをホワイトスター学会が持っているのか。もしやセールスマンとはその学会に……?
「あまり公にはしないで欲しいがな、セールスマンの名は劇薬だ。それだけで世間は大騒ぎになるだろう。知っての通り、ボンプはマルセルグループが開発したものだ」
そして、その始まりはホロウ災害救助を目的としたロボットで開発者は過去に居た『虚狩り』の1人である。今でこそ普及し何処にでもいるボンプだが、その構造は今でも判明していない、というより解明しきれていないブラックボックスが存在する。
「だが、このボンプの構造に一石を投入した人物がいる。それが『セールスマン』だ」
「ボンプの……?」
突然出てきた大きな話に目を回しそうになるリンは、そのセールスマンがどんな人なのかを想像してみる。名前だけが有名になってるのだから、案外世俗を嫌う世捨て人のような者なのかもしれない?
「マルセルグループに発信不明のデータが送られたんだ。ファイル名がセールスマンであった事からその人だろうと言われている。リンもよく目にした事があるだろう?ボンプの機能には特定の組み合わせをした時のみ効果を発揮するものがある。ファイルにあったコードをボンプに組み込んだ所、使えるようになった機能だ」
エージェント同士の相性などでボンプもまた追加機能を使用できるものだ。リンもそれにはよく助けられてきたし、おそらくこの先もお世話になるだろう。
「そこから名前を取ってこれを『セールスコード』と呼んでいる。そして、同じように今回も発信不明で学会に送られてきたのさ」
普段から利用していたものが、実は都市伝説と関わりがあった事に驚きを隠せないリンは、確かにそれならばレイのこの確信ぶりも理解できると思った。少なくとも、ボンプの事に関してはこの新エリー都で一番かもしれない者だ。
「ニネヴェに特化した侵食対策のコードのようだ。これがあればニネヴェとの戦闘時にもリンが活動する範囲を広げられる」
「なるほどね……わかった、後は任せて!」
こうして、リンはニネヴェ殲滅戦へと向かうのであった。