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目が覚めた瞬間、僕は洞窟の中にいた。
周囲を見渡す前に、痛みに備えて身構える。
しかし、待てども待てども、一向に痛みは訪れない。
突然クラッと眩暈がした瞬間、この体に刻まれた記憶が、洪水のように僕の頭の中へと押し寄せてきた。
赤ん坊の頃、僕を捨てた見知らぬ人の顔。
洞窟で過ごした日々。
そして、狂気をこの身に宿し、狂気と共に生きてきた記憶。
……どういうことだ?
今まであったはずの痛みがない。
試しに自分の腕を思いっきりつねってみた。
……全く痛みを感じない。
どうやらこの体には、痛覚がないらしい。
記憶によると、今まで怪我をしたことは何度もあったはずなのに、痛みを感じたことは一度もなかったようだ。
それでも、痛みはなくても、違和感はどこかしら感じる。
これなら怪我に気づかないってことはなさそうだ。
ん?ちょっと待てよ。
痛覚に気を取られていたけど……狂気って、どういうことだ?
僕は自分の記憶をもう一度、慎重に辿ってみた。
……どうやら記憶によると生まれた時からこの身に狂気を宿していたらしい。
狂気に身を委ねることで、痛覚は消失し、瞳は紅く染まり、本能が研ぎ澄まされる。
痛覚がないから、今の僕は狂化しているみたいだ。
狂化状態になることで、反射神経や動体視力は飛躍的に向上し、脳にかかっていたリミッターが外れることで、身体能力も格段に高まるようだ。
それでいて、理性は失われないらしい。
狂気に身を任せることもできるみたいだけど、破壊衝動が出るみたいだ。
……身を任せないようにしよう。
破壊衝動の指向性を操作できるみたいだけど、絶対に他の人には畏れられるだろうし、僕にはそんなふうに畏れられるような度胸なんてないしね。
さらに、自らの意志で狂化し、自らの意志で狂化を解除できるようだ。
……考えてみてほしい。
理性のあるバーサーカーを。
強大な力を持ち、理性を失い、技量がほとんどなくなった状態ですら、凄まじい戦闘力を誇っていた。
そんなバーサーカーが理性を持ち、狂化による身体能力補正が最大限に発揮されている状態で、なお理性を保っている。
まさしく、最強のバーサーカーと言えるだろう。
そんなバーサーカーになれる素質を僕は持っているのだ。
……とりあえず、体に負担がかかるみたいだし、狂化を解除しておこうかな。
他の記憶も、整理していこう。
……ふむふむ、今回も人との関わりはない、と。
まあこれまでの人生も関わりはなかったしね。
そして、どうやら今回も森らしい。
森との関わり、多いなあ。
エレクトラやシャシタマスの時以外は、だいたい森だったしね。
シャシタマスの時も平原とはいえ、森に住んでたし。
とりあえず、記憶の整理もだいたい終わったし、 そろそろ森を出て、町や村を探してみようかな。
そんなことを考えていると、突然声が聞こえてきた。
なにか、神の気配を感じる。
それも、ゼウスやオーディンに匹敵する主神クラスの神格だ。
『やっと啓示がつながったか。聞こえておるか、我が娘よ。』
ん?今娘って言った?
とりあえず聞き返してみよう。
「今、娘と……おっしゃいましたか?」
僕がそう言うとまた声が聞こえた。
『そうだ。我が娘、バトエルよ。』
バトエル、……なんか天使っぽい名前だな。
それが今世の僕の名前か。
そう考えていると、神の声が続いた。
『我はヤハウェ。 汝は我が創造の光より生まれし者。
本来であれば、我が選びし母が汝を慈しみ育むはずであった。
されど、彼の者はその役目を放棄した。
そして今、ようやく我が啓示が汝に届いたのだ。
バトエルよ、汝は我が選びし救世主である。
多くの人々を救い、世界に癒しと希望を齎す者となるであろう。
我は汝を常に見守っておる。
汝は我との繋がりが強く、啓示を容易に行うことができる。
道に迷いしときは我に問いかけるとよい。』
そう語り終えると、ヤハウェの気配は静かに消えていった。
ヤハウェってことは旧約聖書か新約聖書かな?
旧約聖書も新約聖書もあまり知らないからなあ。
どうしようかな。
あ、そうだ。
ヤハウェの娘で狂気もあるし、狂信者ムーブでもしようかな?
いや、やめておこう。
狂信者の振りなんて精神的に疲れるし、神官って感じにしようかな?
一人称は私にしよう。
名前とキャラも決まったし、村や町を探そうかな?
ーー数日後。
あれから数日経った。
森を出る準備が完了し、近くに村や町がないかヤハウェに啓示で尋ねてみた。
すると、ヤハウェが選んだサウル王が治めるイスラエルという国があることを教えてくれた。
僕はその国に向かうことにした。
ーー数日後。
あれから数日経ち、僕はイスラエルに到着した。
イスラエルに着いてから僕は祭司のところに教えを受けに行くことにした。
ーー数日後。
あれから数日経った。
司祭の教えを受けてみると、モーセの話はあったが、ダビデの話はなかった。
どうやら旧約聖書みたいだ。
また、この時代にはまだ、神父や修道女といった階級は存在していないようだ。
とりあえず、何かあったらヤハウェが啓示で教えてくれるだろうし、それまで適当に布教やら人助けやらしておこうかな。
ーー十年後。
あれから十年が経った。
僕は布教活動や人々への助けを通じて、イスラエルでもそれなりに名の知れた宗教者となった。
宗教者として活動する中で、人がヤハウェを信仰しているかどうかを見極めることができるようになった。
また、奇蹟を用いて、病人の治療や天候の操作が可能となった。
ヤハウェとの啓示による対話も頻繁になり、今ではヤハウェとの会話は日常の一部となっている。
時には世俗的な話題にまで及ぶこともあり、ヤハウェとの距離が少しだけ近づいたような気がしている。
そんなある日、ヤハウェから啓示があった。
『サウルは、もはや我が言葉に耳を傾けぬ。
彼の者の王位は、もはや我が御心に適わぬ。故に、新たな王を立てる時が来た。
その者の名はダビデ。汝には、ベツレヘムへ赴き、ダビデを導いてほしい。』
どうやら、旧約聖書らしい。
ダビデの話は知らないが、そもそも旧約聖書自体知らないので特に問題はないだろう。
とりあえずベツレヘムへ向かおう。
ーー数日後。
ベツレヘムに到着した僕はダビデに会いに行った。
ダビデは僕を一目見ると口を開いた。
「君、なんて美しさだ!僕の妻にならないかい?」
……そうだった。
ダビデってこういう奴だったな。
とりあえず断ろう。
ヤハウェに身をささげるつもりだっていえばダビデも求婚はやめるだろう。
……たぶん。
「わが身は、全て神に捧げるもの。貴方の求婚に答えることはできません。」
一瞬の沈黙。だが、ダビデは肩をすくめて笑った。
「なるほど、神に捧げるか。うーん、神様もなかなか見る目があるね。
僕の目と一致してるとは!」
ダビデは冗談めかしてウィンクを飛ばす。
「いやぁ、また振られちゃったよ。まあ、慣れてるけどね。美しい人にはいつも振られる運命さ。
でもさ、もし君が気まぐれで心変わりすることがあったら、その時は教えてよ。
君を妻として迎え上げるからさ。」
……一応、諦めてくれたのかな?
とりあえず自己紹介とかをしないと。
「私はバトエル、神の啓示であなたを導きに来ました。」
「おやおや、神様も粋なことをしてくれるじゃないか。
こんなにも美しい人を僕の前に遣わすなんて…さては、僕を惚れさせるつもりだね?」
ダビデは冗談めかして笑いながら、手に持っていた竪琴を軽く爪弾いた。
「……私は、あなたを王として導くために来ました。神の御心は、あなたに託されています。」
僕の言葉に、ダビデは少しだけ表情を引き締めた。
その瞳の奥に、王としての宿命を受け入れる覚悟が宿るのが見えた。
「王か……。僕には羊飼いの方が性に合ってる気もするけどね。
でも、神様がそう言うなら、僕もその道を歩いてみようかな。」
こうして、僕はダビデと対面し、彼を導くことになった。
ーー数か月後。
あれから数か月が経った。
導け、と言われたものの、何をすればいいのか分からず、僕はベツレヘムの人々を助けたり、布教活動をしたりして過ごした。
ダビデと共に羊飼いをしてみたり、王としての知識を教えたりもした。
ダビデともそれなりに仲を深めることができたが、毎日毎日、求婚や女性の話ばかりでうるさかったので、一度しばき倒した。
その一件以来、ダビデは僕の前ではあまり求婚や女性の話をしなくなった。
たまに口にすることもあるが、その時は睨んで黙らせている。
そんな日々を過ごしていたある日、サウル王の使者が訪れた。
どうやら、王は悪霊に取り憑かれており、ダビデの竪琴でそれを祓ってほしいという。
僕はダビデの方を見た。
ダビデは肩をすくめ、いつもの調子で笑った。
「悪霊退治かぁ。僕の竪琴、そんなに万能だったっけ?
まあ、音楽ってのは魂に触れるものだからね。やってみる価値はあるか。」
ダビデは竪琴を手に取り、軽く弾いてみせた。
「それにしても、王様に呼ばれるなんて、僕も出世したもんだね。
羊飼いから王の癒し手へ……次は王座かな?」
「いいえ、これはまだ足掛かりのようなもの。
これから多くの名声を積み上げ、あなたは王となるのです。」
ダビデは竪琴を抱えたまま、少しだけ空を見上げた。
「王か……。その道の先に何があるのか、僕にはまだ分からないけどさ。
でも、君が導いてくれるなら、きっと迷わず進める気がするよ。」
こうして僕は、ダビデと共に、サウル王が居住しているギブアに向かった。
ーー数日後。
ギブアの王宮に着いた僕達は、静かにサウル王の寝室へと向かった。
空気は重く、まるで見えない霧が立ち込めているかのようだった。
サウル王は、目に光を宿しておらず、まるで魂が抜け落ちたかのような表情をしていた。
その姿を見て、ダビデは小さく息を吐いた。
「なるほど……本当に悪霊が憑いているようだね。魂が囚われている。」
ダビデは竪琴を抱え、静かに王の前に立つと、指先で弦を撫でるように音を紡ぎ始めた。
その旋律は、まるで天から降り注ぐ光のように、王宮の空気を浄化していく。
サウル王の瞳がわずかに揺れ、心地よさげな表情が浮かんだ。
何もしないのも気が引けたので、僕は奇蹟を使うことにした。
王の前に跪き、静かに祈りの言葉を口にする。
「ヤハウェよ、我らの父よ。願わくば悪霊を祓い、あなたの御心の光により、彼を清めたまえ。」
サウル王の身体を淡い光が包み、サウル王の表情はさらに穏やかになった。
すると、ダビデがふと振り返り、僕にウィンクを飛ばした。
「君の祈り、なかなか効いてるみたいだね。まるで僕の竪琴とデュエットしてるみたいだ。」
「ふざけてる場合ではないでしょう。」
「いやいや、緊張をほぐすのも癒しの一環だよ。王様だって、笑顔を忘れちゃいけない。」
そう言って、ダビデは最後の一音を弾いた。
その瞬間、黒い霧は音に溶けるように消え、サウル王の瞳に再び光が宿った。
「……ここは……?」
王が呟くと、ダビデは軽く頭を下げて口を開いた。
「お目覚めですね、王様。ちょっとばかり、悪い夢を見ていたようですよ。」
サウル王はしばらく沈黙した後、僕たちを見つめた。
「お前が……癒してくれたのか?」
ダビデは頷き口を開いた。
「ええ、竪琴と、少しばかり神の力で。そして、彼女の祈りも。」
僕は静かに一礼した。
サウル王はしばらく僕達を見つめていたが、やがて小さく頷いた。
「そうか。お前たちには褒美を与えよう。
余を救ってくれたのだ。大抵のことなら叶えてやろう。」
それを聞いて口を開こうとしたダビデを制止し、僕が代わりに口を開いた。
ダビデに言わせたら、ろくでもない願いを口にしそうだったからだ。
「私たちは神の導きに従っただけのこと。褒美は要りません。」
サウル王は少し驚いたように言った。
「良いのか? 大抵のことなら叶えてやるぞ?」
再び口を開こうとしたダビデを睨んで静止し、僕ははっきりと答えた。
「良いのです。私たちは神の導きに従っただけのこと。
褒美が欲しくてやったのではありません。」
王はしばらく黙って僕たちを見つめていたが、やがて静かに頷いた。
「うむ。そうか。だが余を救った者に褒美を与えないというのは、
王としての沽券に関わる。何か願いはないか?」
僕は少し考えた。
確かに、王の申し出を無下にするのは礼を欠くだろう。
どうしようかな?
丁度いい願い事なんてないしなあ。
とりあえず適当になんか言おうかな。
僕は静かに口を開いた。
「では、一つお願いがございます。礼拝所の巻物を拝見させていただけませんか?」
正直、ヤハウェと啓示を通して会話できる僕にとって、これは必要のないものだ。
とはいえ、他に願いが思いつかない以上、これで良しとしよう。
サウル王は一瞬、眉をひそめたが、すぐに頷いた。
「礼拝所の巻物か……本来であれば、祭司以外には回覧を許しておらぬものだ。
しかし、余を救ってくれた者の願いであれば、聞き届けよう。
司祭に命じて、必要な巻物を回覧できるよう手配させよう。」
「ありがとうございます、王様。」
僕は深く頭を下げた。
そうして、王との話を終え、巻物を見た僕達は王宮を出た。
王宮を出たと同時に、ダビデが不満げに口を開いた。
「どうして、僕に願いを言わせてくれなかったんだい?」
「どうせあなたは碌な願い事をしないでしょう?」
それを聞いてダビデは口を尖らせて言った。
「ひどいなあ。僕だって、たまには真面目な願い事くらいするさ。」
本当に?
ダビデがまともな願いを言うとは思えないけど。
そう思って僕はダビデに聞いた。
「たとえば?」
「うーん……そうだね。沢山の妃をお願いするとか?」
少しの間、考えていたダビデは、ポンと手を叩いて言った。
やっぱりそれか。
言わせなくてよかったよ。
ハーレムなんて好き好んで見たくないしね。
「……やはり、言わせなくて正解でしたね。」
ダビデは僕の言葉に肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。
「まあまあ、冗談だよ。そんなに睨まないでくれよ。君の目、雷より怖いんだから。」
僕はため息をつきながら、彼の軽口に呆れたように眉をひそめた。
「冗談でも、王にそんな願いを口にしたらどうなるか分かってますか?」
ダビデは一瞬考えるふりをして、わざとらしく顎に手を当てた。
「うーん……たぶん、王様に軽薄な男だとか思われるとか?」
その言葉のあと、彼は僕の顔をちらりと見て、いたずらっぽく片目をつぶった。
僕は眉をひそめたまま、冷ややかな声で返す。
「その場で私があなたをしばき倒します。」
僕がそう言うと、ダビデは両手を挙げて降参のポーズを取った。
「わかった。この話はやめにしよう。そうしよう。」
そう言ってダビデは足早に歩いて行った。
……はあ、こいつホントに女好きが治らないなあ。
これはもう、矯正不可能かな?
神様が言っても聞かないし。
とりあえずダビデの後を追おう。
ーー数か月後。
あれから数か月経った。
悪霊に取り憑かれたサウル王に定期的に呼ばれるため、僕達はギブアに常駐することにした。
最近、ペリシテ人との争いが起こっており、ダビデが従軍している兄たちに食料を届けに行くようだ。
僕もダビデについて行き、戦場に行くことになった。
ーー数日後。
戦場についてみると、誰も戦っておらず軍の前で一人の巨人のような戦士が叫んでいた。
近くの兵士に聞いてみるとペリシテ軍最強の戦士ゴリアテだと言うらしい。
戦場は沈黙に包まれていた。 誰も剣を抜かず、ただ一人、ゴリアテが咆哮のような声で挑発を繰り返していた。
「やい!この腰抜けども!前に出てこの俺を倒してみな!
ま、てめえらみたいな虫けらじゃあ、この俺に傷一つ付けられねえがな!」
イスラエルの兵士たちは恐怖に震え、誰一人として前に出ようとはしなかった。
ゴリアテはさらに叫ぶ。
「俺と一騎打ちをしようぜ!誰かいねえのか?俺と戦う度胸があるやつは!」
その言葉に兵士たちは顔を伏せ、沈黙を保つしかなかった。
「なんだ?いねえのか。まあしょうがねえか、ゴミみたいな神を信仰している連中だ。
ゴミみたいな兵士しかいねえか。」
その瞬間、ダビデが叫んだ。
「神を侮辱するのは許さない!僕が相手になろう!」
サウル王は驚き、ダビデを呼び止める。
「お前には無理だ。あの男は戦士だ。羊飼いの手に負えるような相手ではない。」
しかしダビデは静かに答える。
「王様、僕は獅子も熊も、神様の助けで打ち倒しました。 あのゴリアテだって、同じです。
神様を侮辱するなんて、見過ごせません。だから、僕が行きます。」
王はしばし沈黙し、やがて頷いた。そして自らの鎧をダビデに差し出す。
「王様、僕にその鎧を?ありがたいですけど遠慮しておきます。
重いし、動きづらいですから。」
そう言ってダビデは川辺へと歩み寄り、滑らかな石を五つ、慎重に選び取る。
それらを革の袋に入れ、手には投石器を握った。
「さて……準備完了。じゃあやろうか。」
ゴリアテのほうに向かおうとするダビデに向かって僕は声をかけた。
「気を付けてください、ダビデ。」
ダビデは振り返り、いつもの調子で笑った。
「大丈夫、大丈夫。僕は、神様に愛されてるからね。
あ、でもさ、万が一ってこともあるし……そのときは、ちょっとだけ手助けをよろしく。」
そう言って、ダビデは軽くウィンクを飛ばし、悠然と歩き出した。
ゴリアテの前に立ったダビデは、まるで散歩でもしているかのような足取りで近づいていった。
「やあ、でっかいの。随分と声が大きいね。喉、乾いてない?水でも持ってこようか?」
ゴリアテは目を見開き、笑い声をあげる。
「ハハハハハ!なんだ?てめえみてぇなひょろっちいガキが相手か?
そんな石で俺に勝てると思ってんのか?」
ダビデは飄々とした様子で口を開いた。
「そうだね。君相手なら石で十分かな?」
それを聞き、ゴリアテの顔が怒りに染まる。
「てめえ!俺を愚弄する気か!」
ダビデは肩をすくめ、にこりと笑った。
「愚弄なんてとんでもない。ただ、神様を侮辱するのはちょっとね。
僕、そういうの見過ごせない性分なんだ。」
「神だと?てめえらのゴミみたいな神なんて、俺の剣で真っ二つにしてやるよ!」
「それは無理かな。神様って、剣じゃ切れないし。
あと、僕のことも切れないと思うよ。だって、今日は神様が僕の後ろにいるから。」
そう言って、ダビデは一歩前に出る。
「始める前に聞いておくけど、君には改心する権利がある。今なら見逃すけど、どうだい?」
その言葉に、ゴリアテは一瞬沈黙した。
だけど次の瞬間、叫んだ。
「見逃すだと?てめえ、何様のつもりだ!」
ゴリアテは剣を肩に担ぎ、ダビデを睨みつける。
「虫けらが、俺に情けをかけるってか?笑わせんなよ、小僧。
てめえのその細腕で、俺に勝てるとでも思ってんのか?」
ゴリアテは一歩踏み出し、地面が揺れるほどの重圧を放つ。
「俺はペリシテの最強の戦士、ゴリアテ様だ!
てめえみたいなガキに、命乞いをする筋合いはねぇ!」
ゴリアテの目は怒りに燃え、声は雷鳴のように響く。
「改心?冗談じゃねえ。俺はてめえらの神も、てめえも、まとめて叩き潰す!
その石ころで俺を倒せるってんなら……かかってこいよ、小僧ッ!」
ダビデは軽く首を傾げ、どこか飄々とした笑みを浮かべた。
「……まあ、無理だよね。君みたいなタイプの人が降参するわけがない。うん、知ってた。」
ゴリアテは唸り声を上げながら剣を振り上げる。
「黙れ小僧ォォォッ!!俺を舐めるなよッ!!」
ダビデは一歩も引かず、むしろその剣の煌めきを見て、少し感心したように言った。
「うわ、でっかい剣。……でもさ、僕の石の方が、たぶん速いよ?」
ゴリアテが咆哮とともに突進してくる。
ダビデとゴリアテの距離は10mは離れているだろうか。
ダビデは動じずにゆっくりと一つの石を取り出し、投石器にセットする。
「忠告も警告もしたんだけどねぇ。改める機会だよ?
その瞬間、石が放たれた。
空気を裂くような音とともに、石は一直線にゴリアテの方へと飛んだ。
石は一投目、二投目と外れたが、ゴリアテがダビデのすぐ目の前まで迫った瞬間、五投目の石がゴリアテの額に命中した。
ゴリアテは白目を剥き、そのまま地面に倒れ込んだ。
そして、ダビデは倒れたゴリアテに近づき、彼の剣を取って、その首を切り落とした。
その瞬間、周囲から歓声が上がった。
僕はダビデの元に向かった。
ダビデは僕を見つけると、にこりと笑って言った。
心なしか少し笑みが引きつっているように見える。
「いやぁ、まいったまいった。 想像以上に迫力があって、ちょっとばかり肝が冷えたよ。
目の前まで来たときなんて、ほんと、死ぬかと思ったね。
でかいのと戦うのは……うん、もう二度とゴメンだ。経済的にも精神的にもね。
っと、そうだ。これからはお祝いかな?
今回は僕一人でやったんだし、僕が褒美を受け取ってもいいよね?」
ダビデは冗談めかした口調で言ったが、その瞳には確かな期待が宿っていた。
まあ、今回は頑張ってたし、度が過ぎてなければいいか。
そう思って僕は口を開いた。
「はあ、仕方ありません。いいでしょう。
ですが、あまり限度を超えたことは言わないでくださいね?」
「心配無用さ。僕がそんな無茶を言ったことが、これまでにあったかい?」
そう、ダビデは胸を張って言った。
「あなたは前回、何を願おうとしていましたか?」
僕がそう突っ込むと、ダビデは肩をすくめて答えた。
「それは冗談だと言ったじゃないか。今回は妃を一人、それだけさ。」
そう言ってダビデはサウル王のもとに向かった。
ーー数か月後。
ゴリアテを討伐した日以来、ダビデの武勇は広く認められ、彼は各地の戦場へと派遣されるようになった。
勝利を重ねるうちに、ダビデの名声は高まり、サウル王の娘、ミカルを娶ることになった。
僕も彼に同行し、戦場へ赴いた。
戦いを重ねるうちに、あることに気づいた。
敵の攻撃がまるで効かないのだ。
槍で突かれても、剣で斬られても、傷一つ負うことがなかった。
不思議に思い、ヤハウェに尋ねてみたところ、どうやらヤハウェの加護によって、大抵の攻撃が無効化されているという。
さらに戦場での戦いの中で、ヤハウェから一振りの短剣を授かった。
その短剣は、対象に空から光の柱を降らせる力を持っており、対象の罪が重ければ重いほど、その威力は増し、
罪がない者には何の効果もないそうだ。
それを使い、敵兵を殺したり、犯罪者を裁いていたら、民衆に畏れられるようになった。
少しだけ他宗教の人に厳しい言葉遣いにしていたせいか、異端審問官と呼ばれるようになった。
おかしいな?
尋問とか拷問とか、なんもしてないのに。
あれかな、他宗教の人を一目で見抜いているからかな?
厳しいのは言葉遣いだけなのになんかすごい恐れられてるんだけど。
ていうか、この時代に異端審問官ってあったけ?
……いや、深く考えるのはやめよう。
とりあえず、今更、言動を変えるのも違和感があるし、受け入れるか。
そんなこんなで、日々を過ごしていたある日。
ダビデの親友のヨナタンがサウル王が僕達を狙っていると知らせて来た。
僕とダビデはすぐさま、ギブアから逃げ出した。
――十数年後。
あれから僕達は、サウル王の追跡を逃れるため、各地を転々とした。
その間に、ダビデを王と崇める人々が増え、彼らとともに行動するようになった。
何度かサウル王を殺す機会はあったが、ダビデは
「サウル王には改心する権利がある。」
と言い、手を下すことはなかった。
そんなある日、サウル王がペリシテとの戦いに敗れ、自害したという報せが届いた。
サウル王と共に戦っていたヨナタンも戦死したという。
ダビデはひどく落ち込んだ顔をしていた。
「大丈夫ですか?ダビデ。」
そう聞くとダビデはゆっくりと口を開いた
「……大丈夫かって? まあ、悲しいよ。そりゃあね。
彼は、ただの友達なんかじゃなかった。魂で繋がってた、兄弟みたいな存在だったんだ。
でもさ、神様が言うんだよ。王になれってさ。だったら、
いつまでも泣いてるわけにはいかないよね。……うん、やるよ。僕は、やる。」
そう言ったダビデの眼には覚悟が宿っていた。
ーー七年後。
ユダの王となったダビデと共に、僕はサウル王の息子イシュ・ボシェテと戦った。
戦争を続ける中で、イシュ・ボシェテが暗殺され、ダビデはイスラエルの王となり、その後、エルサレムを征服した。
そして、ペリシテ人を打ち破り、
窓から、踊っているダビデを見て、軽蔑しているミカルのことは、見なかったことにした。
……うん。
まあ、確かに致命的に下手ではあるけど、軽蔑する程ではないよね。
……ダビデにはこのことは言わないでおこう。
ーー数年後。
あれから数年が経った。
僕は今、なぜか石打ちの刑にあっている。
どうしてこうなったのか、その経緯を説明しよう。
あれはそう、いつものように布教活動や人助けをしていた時のことだ。
突然、兵士たちに囲まれて、拘束された。
その後、神の名を騙ったとか、異端の教えを広めたとか、そんなありもしない罪をかぶせられて、今こうして石打ちの刑に処されている。
たぶん、短剣の力を恐れた、上層部の人間に嵌められたんだろう。
ダビデも助けようとしてくれたけど、僕が巧妙に陥れられていたことと、民衆に畏れられていることを考慮して、助けを断った。
ヤハウェは死後、天国に連れて行ってくれると言ってくれたけど、僕は断った。
天国を行く前に次の生が始まって、混乱させてしまうからだ。
さて、どうしようか。
ヤハウェの加護で石が効かないし、無実の証明もめんどいしなあ。
奇蹟をみせても、見方によれば化け物になるし。
させてもらえないだろうしなあ。
現に今、めっちゃ石が当たってるけど、ヤハウェの加護のおかげで傷一つ付かない。
痺れを切らしたのか、今度は剣で斬りかかってきた。
……うん、全然効かない。
次は何だ?
なんだか、だんだんと、どこまで行けば傷つくのか、気になってきた。
ん?……あれは、僕の短剣。
もしかしたら、神器だから、加護を貫通してくるかもしれない。
うおっ、普通に刺さってきた。
刺された胸からどくどくと血が流れている。
狂化してなかったら、激痛が走ってるんだろうなあ。
今世は狂化に頼りきりだったから、痛覚耐性も落ちてるだろうし。
なんか意識が遠くなってきたし、それっぽい遺言でも言っておこうかな。
「神よ。今、御身の元に参ります。」
こんな感じでいいかな。
よし、逝こう。
いや、次の生に転生しよう。
眩い光と共に、僕は意識を失った。
次は剣かな。
原作主人公の性別
-
男
-
女