怪異調査報告書   作:狐憑

29 / 60
28 一般人がこのようなことを起こすとは… 危険度壱番→弐番→参番「蟲毒(蛇)」

 蟲毒というものの存在を知ったのはいつだっただろうか。

 恐らく、子どものころだったはずだ。

 子どものころに怖い話を探していた時に本かネットで見つけたのか。どちらだったかは思い出せない。

 蟲毒は蛇や百足などの虫を大量に集めて一つの容器の中に入れてお互いに殺し合わせ、残った一匹を使って相手を呪い殺すというもの。

 そこまでして人を呪い殺したいのかという呆れた気持ちと、それだけ大量の虫を殺し合わせて残った一匹はどんな姿になっているのかを確認したい気持ちが沸き上がったのを覚えている。

 

 そんな気持ちは一過性のものですぐに忘れるものだと思っていた。

 だけど、蟲毒は私の記憶の片隅になかなか落ちない汚れのようにこびりついていた。

 別に人を呪いたいという気持ちにはならなかった。

 ただ、蟲毒を自分でも試してみたい。その気持ちが私の中で年々大きくなっていった。

 そして、その気持ちはある日爆発した。

 

 草むらのなかで虫を探し、手当たり次第にかごの中に放り込んでいく。

 こんなことをするのは何年振り、いや、何十年ぶりだろうか。

 私は子どものころに戻ったようにはしゃいで虫を捕まえた。

 カマキリやバッタ、蛙、蜘蛛、自分で捕まえることが出来る虫はほとんど捕まえたのではないだろうか。

 毒蛇などの危険なものは販売業者から購入して家に置いている。

 かごの中にいっぱいの虫たちを眺めながら私はこれからのことを思い笑った。

 

 家に帰り、靴を放り出して用意していた壺の前に向かう。

 なるべく大きめの壺を用意した。

 大量の虫を殺し合わせるために。

 その壺の中にかごから虫を移し、毒蛇や毒を持つ蜘蛛を加えていく。

 かごの中で既に殺し合いは始まっていたようだが関係ない。

 あとは一週間ほど壺を放置して結果を待つだけだ。

 

 一週間が経ち、ついに壺を開ける日がやって来た。

 壺はまだ開けてもいないのに異様な雰囲気を放っていて、中で何が起こったのか一目見るだけで分かる。

 その様子に私の中で期待が高まる。

 もう待ちきれない。

 壺の蓋に手をかけ、勢いよく持ち上げ、そして―――――

 

 

 

調査報告:蟲毒(蛇)

正常維持怪異収集機関

烏部隊隊員 霧島春奈(きりしまはるな)

 

名称:蟲毒(蛇)

交戦地:F県B町

危険度:壱番→弐番→参番 脱皮をすることで強くなっていくようでした。

 

▼概要

 蟲毒、古来から伝わる呪術です。

 その内容は、虫を大量に集めて殺し合わせ、残った一匹を用いて相手に呪いをかけるというものです。

 今回の怪異は一般人が行った蟲毒により誕生し、暴走した個体です。

 生き残ったのは蛇だったのでしょう。

 今回の個体は蛇の姿をしていました。ただし、殺し合いの中で他の個体を取り込み、その力を使うことが出来る様でした。

 また、怪異や人間を喰ったことで成長しており、かなりの大きさとなっていました。

 

▼発見経緯

 7月、F県で一つ一つは弱いものの大量の怪異の消滅を確認。

 その周辺地域にて住民の失踪も起こっていたことから怪異によるものだと断定。

 私と黒瀬永嗣が派遣されました。

 私たちがB町にたどり着いた時には一切の人の気配がありませんでした。ゴーストタウンと言えばよいのでしょうか。そして、人だけでなく怪異の気配も一つしか感じられない。

 そんな中で怪異を探すことは容易でした。

 蛇は町に建つ塔に絡んで私たちを待ち構えていました。

 

▼交戦記録

 蛇はその巨体に似合わず俊敏でした。

 私たちをその身体でぐるりと囲み、逃げ場を無くしてから一気に丸呑みにしようとしてきました。

 そこから抜け出そうと蛇の体を切りつけましたが、その体はかなり固く、その皮を数枚切り裂くことが出来るのみでした。

 私は飲み込まれるのをなんとか回避できましたが、黒瀬永嗣は回避できずに蛇に呑み込まれました。

 完全に呑み込まれてしまったのかと思っていましたが、彼は蛇の喉に刀を突きたてて踏ん張っていました。

 彼が不死身であることは事前に聞いていたため、このまま彼を放っておいても大丈夫だろうとは思いましたが、戦力が減ってしまうと討伐が面倒です。

 わざと蛇の牙で腕の皮を傷つけさせ、『皮斬肉断』を使用。

 蛇の口を切り裂いて黒瀬永嗣を救出しました。

 しかし、蛇の牙には毒があったようで、だんだんと私は動けなくなっていきました。

 また、蛇は脱皮のように皮を脱ぎ捨てることで更に強くなっていくうえに傷も回復していました。

 おそらくこの怪異は誕生した当初は危険度壱番程度だったものと考えられます。

 それが人と怪異を喰らうことで成長し、今では危険度参番になっています。

 このままではこちら側が消耗していくだけになるところでした。

 しかし、黒瀬永嗣の中にある怪異が私の技を学んだのでしょうか、不完全ではありますが再現しました。

 自分を殺させることで相手を殺す。『命斬命断』とでも言えばいいものでしょうか。

 その攻撃により蛇は再生することなく消滅しました。

 

▼事後処理

 蛇は根源札とどろどろに溶けた人間であったであろう物を残しました。

 生きている人がいないか探してみましたが、一人残らず消化されて死んでいました。

 今回の怪異を作り出したであろう人物の死体もあり、最も消化が進んだ状態でした。

 偶然とはいえ、このような怪異を一般人が作り出してしまうとは…。

 今回は早くに対応できたから良かったものの、もう少し遅れていればどうなっていたか。

 このようなことが起こらないように事前にどうにかする方法を考えなければならないかと。

 

 今回私が受けた毒は怪異を討伐した際に消えましたが、受けた傷と後遺症については回復に少し時間がかかりそうです。

 今回も治療のための費用と回復までの家族が生活するための費用の申請をしているため、受理をお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。