雪の降る町の中、僕は妹を連れて走っていた。
音もなく降る雪は僕たちの体温をどんどん奪っていき、地面に積もった雪に零れ落ちていく血は白い世界に僕たちの痕跡を残していく。
そんな静かな町に響いているのは僕たちの走る音だけのはずだった。
「こ――にいる―――こ―は――」
声、それに足音が聞こえてきた。
何を言っているのかはよく聞こえないが、僕たちを追いかけてきたに違いない。
妹の手を引っ張って走る速度を上げるが、それが逆に僕たちの居場所を知らせてしまうことになった。
後ろから誰かが走ってくる音が聞こえる。
その音はどんどん僕たちに近づいてくる。
振り返ると黒い人影が僕たちに迫ってきていた。
お父さんとお母さんはあの人影に殺された。
このまま捕まったら僕たちも殺されてしまう。
「見つけたぞこっちに――」
だからその顔に雪玉をぶつける。
何の抵抗もせずに終わりなんて嫌だったから。
そうしたら人影は倒れて苦しみ始めた。
なぜかは分からない。だけど、これで逃げる時間が出来た。
妹の手を引っ張り、路地裏を駆けていく。
途中で黒い人影が数人僕たちを追いかけてきたが、前の人影と同じように雪玉をぶつけたら追いかけてこなくなった。
そのまま走り続け、町から外に出る道にたどり着いた。
追いかけてくる人影はない。あとはこのまま逃げ続けるだけだ。
そう思って一歩前へ踏み出した瞬間、左腕の肘から先が消えた。
「見つけました」
人影の声が聞こえると同時に、頭目掛けて何かが飛んでくる。
それが何かは分からないが、絶対によけなければいけないものだとすぐに理解した。
頭を下げてそれを避け、残った右手で雪玉を投げる。
雪玉は人影に当たらなかったが、人影は雪玉を避けて後ろに下がった。
そのまま相手が何かしてこないように雪玉を投げ続ける。
人影は雪玉が当たらないように避け続けている。このまま雪玉を投げ続けて人影を遠ざけていけば逃げられるはず―――
「え?」
気づいたら僕は自分の体を見ていた。
その体にはついているはずの首から上がない。
僕の首が斬り落とされたのだと気が付いた時にはもう手遅れだった。
名称:「なりすますもの」
発生地:G県T町
危険度:弐番
▼概要
人間たちの中に潜み、本省を隠しながら密かに暮らす怪異全般を表す言葉が「なりすますもの」です。
今回確認された個体はまだ幼い個体であり、名称が決まっていないため仮の名としてこれを用います。
今回確認された個体はある家族の子どもを殺害、その姿と記憶を奪うことでもとの子どものように振舞っていました。
模倣が完璧だったためか家族に気づいた様子はありませんでした。
▼発見経緯
この怪異の発見はまったくの偶然でした。
G県T町に現れた怪異の討伐後、後処理をしていた狸部隊によりこの怪異は発見されました。
怪異を目撃してしまった住民たちに記憶処理を行っていたところ、一人だけ記憶処理が出来ませんでした。
そのためその人物を調査したところ、相手が「なりすますもの」であったと判明しました。
▼戦闘記録
当初は今回の怪異の潜んでいる家庭に被害が出ないよう、何かしらの理由をつけて怪異以外を避難させたうえで怪異の討伐を行う予定でした。
しかし、怪異の暮らす家から怪異以外を避難させようと鼠部隊が訪ねた時には怪異により父親と母親は殺害されており、怪異は鼠部隊の攻撃を受けながらも子どもを連れて逃亡しました。
怪異は夜の町に消えていきましたが、鼠部隊と烏部隊で町全体に結界を設けたうえで追跡を行い、鼠部隊員により怪異は発見されました。
鼠部隊員が怪異を確保しようとしたところ、怪異は反撃をしてきました。
これにより鼠部隊員は負傷し、追跡が出来なくなりました。
しかし、怪異の位置は判明したため、私が怪異の逃げる先で待ち構え、怪異に攻撃を行いました。
怪異が反撃をしてきたため回避したところ、怪異は夢中になって私に攻撃を仕掛けてきました。
その隙を逃さず黒瀬永嗣が後ろから静かに近づき、怪異の首を刎ね、怪異の討伐は完了しました。
▼事後処理
怪異によって連れ出された子どもは怪異が回復するために命を吸われており、救出時には死亡していました。
また、この怪異の根源札の調査をしたところ、怪異は殺害した対象になりきっており、家族を自分で殺害しておきながら、自分たちは襲われた側で家族は我々に殺害された者と認識していたようです。
今回の怪異は誕生したばかりであったため、被害は一家族のみで済みました。
もちろん、犠牲者が出ているため喜ばしいことではありません。
しかし、この怪異が発見されずに力を蓄えていった場合、人になりすましながら更に犠牲者を出していたと考えられます。
最低限の犠牲で済んだのは幸いでした。
恐らくこの国にはまだまだ人間になりすましている怪異がいるものと考えられます。
このことについて早急に対応すべきでしょう。
あなたの近くに急に中身が変わったような人はいますか?
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はい
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いいえ
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自分が当てはまる気がする