なら、認識することが出来れば?
私が誰からも認識されなくなって2年になる。
世の中は私一人がいなくても変わらずに動き続けている。
私の家族も私がいなくとも変わりなく暮らしている。
いや、そもそも私という人間がこの世に存在していなかったことが正しい状態だったとでも言えるかのように
最初は自分の身に何が起こったのか分からなかった。
家に帰って家族に声をかけても誰も返事をしてくれなかったから。
最初はわざと無視されているのかと思って目の前で手を振ってみたり、肩をたたいてみたりした
だけど家族は目の前で手を振っても家族は気づかず、肩をたたいても気のせいかというような表情をしていた。
それは家族だけじゃなかった。
外に出て手当たり次第に声をかけても誰も反応しないし、触っても誰も気づいてくれない。
そんなことを一日繰り返してからやっと私は自分が誰からも存在を認識されていないことに気づいた。
それからしば家族にらくはぼーっと過ごしていた。
誰も私のことを知らず、私がいたということすら覚えていない。
いつまでも一人きりというのには耐えられそうもなかった。
かと言って死にたくもない。
最初は家にある家族も忘れたようなお菓子を食べたり、家族がいない間に冷蔵庫から漁ったものを食べたりして空腹をしのいでいた。
だけど、数日もたたないうちに家族は何かおかしいと思い始めたみたいだった。
このまま家にいても家族に疑われ続けて暮らしていくことはできないだろうと思った私は、家を出た。
家を出てからしばらくの間は家から持ち出したお金で自販機から飲み物や食べ物を買ったりして過ごした。寝る場所は誰からも認識されないことを利用して、いろんな場所に侵入することで何とかした。
そんな生活も長くは続かない。
お金がだんだんと無くなっていき、食事に困ることになる。
そして、自分の存在が誰からも認識されない以上、お金を得る手段は限られてくる。
生きるために自分の置かれた状況を悪用した。
なるべく善良な人たちに迷惑は掛からないようにしたけど、犯罪に手を染めたことに変わりはない。
生きるために仕方がないことだと自分に言い聞かせて、罪の意識から目を背けた。
そうして1年が経ち、この生活にも慣れた頃、私は人ではないものを見ることが出来るようになっていた。
道を歩いていると見える何かには人に似たものもいれば、人とはかけ離れた姿をしたものもいる。
そのどれもが関わってはいけないものだと本能的に理解できる。
それらはどこにでもいるわけじゃないけど、見かけたら目を合わせないようにしておいた。
たまに人の背中に覆いかぶさるようにしているのを見ることもあったが、自分には関係ないことだと考えて無視をした。
実際、何かに憑りつかれていた人の何人かは私が見ている先で事故で死んだり、酷い怪我をしたりしていた。
だから、関わらなければ大丈夫だと思っていた。
…家族にその何かが取りついているのを見つけたのはその時だった。
誰からも認識されなくなってからも私は家族が元気にしているかを見に行くことがあった。
今回もいつものように元気にしているだろうと思っていたが、そうではなかった。
家族全員の肩に蜘蛛のような何かが乗っていて、家族はみんな苦しそうな表情をしていた。
いつもなら自分には関係ないと無視していた。
だけど、自分の家族となると無視することはできなかった。
怖かったけど勇気を振り絞り、家族の肩から蜘蛛を叩き落す。
蜘蛛は叩き落しても死なずに動き回ろうとしていたから足で踏みつけて潰してやる。
家族全員にそれをすると、みんな調子が良くなったみたいだった。
このことで私は自分に人ではない何かを倒す力があるのだとわかった。
それからは人に憑りついている何かを倒して、人助けをするようになった。
さすがに危険そうなものは無理だけど、自分に倒せそうなものは積極的に。
誰からも認識されないから、こんなことでも生きがいにしておかないと正気を保てないような気がして。
道端でこの2年間のことを思い返していると、私の前を鳥のような姿をした何かに憑りつかれた人が通り過ぎた。
この何かは弱そうな見た目をしていて、私でもなんとかできそうだった。
だから、その何かに向かって手を伸ばして―――
「これが見えているのか?」
誰からも認識できないはずの私の腕がつかまれた。
名称:透明人間
発見地:S都W町
危険度:なし
▼概要
S都W町で発見した人物で×××鏡という名前です。
怪異により我々のような人間以外には認識されることがない状態となっていました。
原因となった怪異は既に討伐されているにもかかわらず、×××鏡は呪いを受け続けていました。
▼発見経緯
怪異の発見のために金糸雀を連れて歩いていたところ、×××鏡が金糸雀に向かって手を伸ばしていました。
金糸雀が一般人に見えるとは考えられず、×××鏡から穢れも感知できたため、拘束をしました。
▼事後処理
×××鏡を連れ帰り話を聞いたところ、×××鏡が上に記したような状態となり、2年間を過ごしてきたことがわかりました。
また、×××鏡の状態を何とかしようと手を打ちましたが、怪異による呪いはどうにもできませんでした。
×××鏡についての情報はこの世から消えており、存在しないものとなっています。
×××鏡という人間は存在しないはずであるにもかかわらず、×××鏡という人間がここに存在している状態と言えばよいでしょうか。
×××鏡の呪いは年月を経たためか、×××鏡自身の能力のようなものとなっています。
認識されない状態は怪異にも適応され、×××鏡が怪異に対して攻撃を仕掛ける、もしくは自分から姿を見せたいと思わない限り、怪異は×××鏡を認識することはできません。
私はこの能力を機関の活動に活かせると考え、×××鏡に機関で働くことを提案しました。
×××鏡は「どうせどこにも行くところはない」とこの提案を受け入れました。
今後×××鏡は鼠部隊の隊員として任務にあたることとなります。