怪異調査報告書   作:狐憑

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32 アイツはかなりヤバい気がするぜ 危険度弐番「ヒツギ」 危険度参番「蠅玉」

交戦報告:ヒツギ、蠅玉

正常維持怪異収集機関

烏部隊隊員 黒瀬永嗣(くろせながつぐ)岩城進(いわきすすむ)

 

名称:ヒツギ、蠅玉

交戦地:H県R町

危険度:ヒツギは危険度弐番、蠅玉は参番

 

▼外見

 ヒツギは木で出来た棺桶を手にしている以外は俺と同じ、高校生くらいの姿に見えました。

 身に纏っている穢れで怪異だってことが一目で分かりますけど。

 ただ、雰囲気が普通の怪異とは違うなって俺は思いました。

 

 蠅玉は名前の通り、大量の蠅が塊になってる怪異です。

 何匹いるのかは分からないですけど、大きな黒い玉のようになっていました。

 

▼発見経緯

 H県のR町、ここで禁忌庫から持ち出された怪異が感知されたらしいです。

 それが今回の蠅玉です。

 その討伐のために俺、紅染、岩城先輩の三人が派遣されました。

 最初は町の近くにある森の中で蠅玉を見つけました。

 ただ、この時はこちらが攻撃を仕掛ける前に逃げられました。

 すぐに追いかけましたけど、その後も見つけるたびに逃げられて。

 最後には蠅玉に町の廃病院に逃げられました。

 なんだか罠にはめられているような気分でしたけど、引き上げるわけにもいかないのでそのまま病院に突入しました。

 

▼交戦記録

 病院に入った瞬間、俺だけ病院の奥から伸びてきた黒い紐みたいなものに引っ張られて分断されて。

 いきなりのことで反応できなくって、そのまま引きずられていった先でヒツギに出会いました。

 上にも書いたんですけど、最初は戸惑ったんですよ。

 怪異のはずなのに他の怪異と違った雰囲気で。

 だけど、向こうから攻撃をしてきたので応戦しました。

 ヒツギの武器は木の棺桶でした。

 棺桶は見た目と違って病院の床を砕いたり、受け止めると手が痺れるほどの威力がありました。

 ただ、ヒツギ本体はそこまで脅威じゃなくて、戦い慣れしていないみたいでした。

 だから少し油断してしまって、ヒツギに近づきすぎました。

 そうしたらヒツギの持つ棺桶の蓋が開いて。

 大量の黒い触手みたいなものが中から飛び出してきて、何本かは刀で切り落としたんですけど、さすがに数十本一気に来られると無理でした。

 そのまま触手に引きずられて棺桶に閉じ込められました。

 棺桶の中は真っ暗でドロドロした感じだったんですけど、それよりも入った瞬間に本能的にここから脱出しないとヤバいって気づいて。

 ドロドロした何かで動きずらかったんですけど、何とか棺桶の蓋を壊して外に出ました。

 棺桶から出てきた俺を見てヒツギは驚いていましたが、すぐに攻撃を仕掛けてきました。

 また触手で棺桶に引きずり込もうとしてきたんですけど、今度は距離を取っていたので避けれました。

 それで戦いながら観察して気づいたんですけど、棺桶から飛び出す触手はまっすぐにしか伸びてなかったんですよね。

 それに気づいてからは棺桶の正面に立たないようにしながらヒツギに攻撃していきました。

 やっぱりヒツギ本体はそこまで強くなくて、少しずつ追い詰めていったんですよ。

 そうしたら爆発音がして。

 少ししてから小さくなった蠅玉が俺の居る場所にやって来て、その後を追うように岩城先輩と紅染が来ました。

 

 

 ここからは俺が書くぜ。

 永嗣が病院の奥に連れていかれてすぐに蠅玉が俺たちに向かってきやがった。

 両腕を大きくして蠅玉を叩き潰してやったんだが、そこは危険度参番の怪異。それだけで倒せるような奴じゃなかった。

 手のひらに痛みを感じたんですぐに蠅玉から手を離した。

 そうしたら両手が蠅に食われてぼろぼろになってたうえに蛆虫を産みつけられてた。

 蛆虫自体は両手の喰われた部分を切り離してやって踏みつければ殺せたんだが、こいつは霊力を喰いやがるやつで、もう少し切り離すのが遅れてたらヤバかったかもしれない。

 これで蠅玉に素手で触るのはヤバいってわかったから紅染にも共有してやって、素手を使わない攻め方をした。

 紅染の奴は紅糸を振り回して、俺はそこらに落ちている石を取り込んだ後に霊力を籠めて銃弾みたいに撃ちだして。

 これで始末できるなら楽だったんだが、こいつらは大量の蠅で構成された怪異のせいで、一匹殺したところで意味がねえ。

 しかも一つの玉だけじゃなくて複数に別れられるみたいで、半々に別れて俺と紅染を同時に相手にしてきやがった。

 的が小さいうえに高速で飛び回るせいで俺も紅染も狙いがつけづらくって、どんどん負傷していった。

 この時ほど俺の能力に感謝したことはなかったな。負傷した部分も別のところで修復してやればいいんだから。

 紅染の方もあいつが怪異だからだろうな。蛆虫を産みつけられても問題ないみたいだったぜ。

 ただ、俺も紅染も回復できる回数には限度がある。

 長期戦は無理だってわかったんで俺の左手を大きくして蠅玉を包み込んでやった。

 その手に霊力を籠めて切り落とした後に蹴り飛ばしてやって、壁に当たったところで霊力を暴走させて爆発させた。

 これで蠅玉の半分は殺せたんだが、残った半分、紅染が相手にしていた方が病院の奥へ逃げやがった。

 紅染が紅糸を蠅玉の一匹に巻き付けていたから見失うことはなかったぜ。

 すぐに追いかけていって、そこで永嗣と合流したってわけだ。

 そこからは3対2での戦いだ。

 紅染が永嗣の方に加勢してヒツギってやつと戦い始めたんで、俺が蠅玉を相手にしないといけなくなったな。

 さすがに再生やら巨大化で肉を使いすぎてきつかったが、蠅玉の方も半数が死んでるからなんとかなった。

 蛆虫も皮膚を固くしてやれば産み付けを防御できたしな。

 むしろ、ヒツギってやつを相手にしていた永嗣と紅染の方がきつそうに見えたな。

 

 また俺が書きますね。

 蠅玉と合流してからのヒツギは俺と戦っていた時よりも強くなってました。

 俺たちと戦いながら蠅玉の戦い方を学習しているみたいで。

 棺桶から出てくる触手の使い方も最初はまっすぐしか伸ばせなかったのが、俺と紅染に分けて伸ばせるようになったり、触手を一本身代わりにして自分を守ったり。

 触手自体の性質も変化していて、引きずり込まれないように注意していたら一本だけ鋭くした触手で突き刺してきたり、何本かの触手を絡めて薙ぎ払ってきたりできるようになってて。

 俺だけだったら対処できなかったかもしれないです。

 でも、紅染が一緒に戦ってくれたおかげで二人で連携を取りながらヒツギを攻撃していきました。

 そうしているうちに岩城先輩が蠅玉を討伐して加勢してくれたので、後はヒツギを倒せばいいだけになって。

 ヒツギも戦い方を学習して強くなってましたけど、さすがに三人同時に相手はできなかったみたいで、隙をついて両腕を斬り落とせました。

 これで棺桶を使えなくなったと思って、ヒツギの首を斬り落とそうとしたんですよ。

 突然ヒツギが叫び始めて、それと同時に棺桶の中から巨大な触手が飛び出てきて、俺も紅染も岩城先輩も吹き飛ばされて壁に叩きつけられました。

 その間にヒツギは棺桶の中に逃げていきました。

 すぐに棺桶に駆け寄って刀を突き刺したんですけど、中には触手もヒツギもいなくて、ただの棺桶になっていました。

 

▼事後処理

 ヒツギってやつには逃げられたが、禁忌庫から持ち出されていた怪異の回収には成功した。

 蠅玉は復旧した禁忌庫に送られたって聞いたな。

 それと、一応狸部隊がヒツギの行方を追いかけているらしいが、たぶん見つからないだろうぜ。

 気になるのは永嗣が言っていた普通の怪異と違う雰囲気ってやつだな。

 俺たちとの戦いで見せた学習能力も含めてあいつは気になることが多い。

 ヒツギとはまだまだこれから何かありそうな気がしている。

 特に永嗣と特に何かありそうな気がしてな。

 これが俺の杞憂であればいいんだがな。

 

 

 

 

 

 

 玩具が床に散らばる部屋に置かれた棺桶、その棺桶の蓋がゆっくりと開けられる。

 

「おかえり、ヒツギ」

 

 蓋を開けた人物、白陽は棺桶の中のヒツギに微笑みかける。

 

「初めての実戦はどうだったかな?」

 

 両腕がなく、起き上がることのできないヒツギを左腕で抱き起しながら白陽は感想を聞く。

 

「楽しかったよ!いろんなこと勉強できたし!…けど、せっかくパパが用意してくれた先生が倒されちゃった。ごめんなさい」

 

 ヒツギは白陽の腕の中で悲しそうな表情を浮かべる。

 

「気にしなくていい。ヒツギが成長して帰ってこれただけで私は嬉しいんだ」

 

 そんなヒツギを慰めるように白陽は右手でヒツギの頭を撫でる。

 その顔は大事なものを大切そうに眺める顔だった。

 

「まずは怪我の治療をしないといけないね。時間はかかるだろうけど、元通りになるから安心しなさい」

「うん、ゆっくり休むね。それで、怪我が治ったらボクもっとがんばるから!」

 

 白陽はそのままヒツギを抱えて部屋を出ていく。

 ヒツギはその腕の中で楽し気にこれからのことを考えていた。

 

 

 

 

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