この戦争はまだ終わらない。
この戦争が始まったのはいつのことだったか。
開戦から何年経ったのかもわからない。
我々はずっと戦い続けている。
飢え、病、怪我。
様々な苦しみが終わることなく我々を蝕み、死へと近づけようとしてくる。
だが、我々は生き続けている。
生き続け、銃弾の雨の中で蛆のように湧く敵と戦い続けている。
我が隊には優秀な人材が集まっており、未だ戦死者は出ていない。
しかし、それだけの精鋭であってもこれほど長い戦争では疲弊する。
我々が休むことが出来る時はいつ来るのだろうか。
名称:不知死の兵隊
発見地:R県T町
危険度:弐番
▼概要
不知死の兵隊、戦争で全滅したある隊が死んだことを知らないまま戦い続けている存在である。
この怪異は30~40名ほどの兵士で構成されており、隊長とみられる人物が率いている。
この怪異の元となったであると考えられる部隊は、海外のとある島にて奮戦した後、空から投下された爆弾にて全員が死亡している。
おそらくこの部隊は自分たちがその時に死んだことに気づかず、戦いを続けているのであろう。
死んだことを気づかずにこの世を彷徨い続ける存在を浮遊霊と言うが、彼らの場合はその姿を様々な人に目撃され噂となることで浮遊霊の状態から怪異となったのであろう。
▼発見経緯
T町では2、3年前までこの怪異は確認されていなかった。
しかし、ある日から昔の軍人たちが戦っているという光景を目撃する者が出てき始めたのである。
そのため鼠部隊が調査を行い、噂通り怪異が戦場を再現して戦い続けていることを確認。
民間人に被害は出ていないものの、このまま放置するわけにはいかないとのことで我々犬部隊が派遣されたのである。
これは我輩の考えであるが、この怪異は外から海を渡ってこの国へ帰ってきたのだろう。
もちろん彼らに自覚はなく、戦争で死んだ兵士たちが今も戦い続けているという噂に引き寄せられるようにしてである。
▼交戦記録
23時頃であったな、怪異の確認された開けた空き地で待機していると大勢の足音と爆発の音、銃を撃つ音が聞こえ始めた。
それと同時に我々のいる場所に重なるようにして異国の景色が現れ始めたのである。
そして不知死の兵隊が現れたため、犬部隊全員で兵士たちに攻撃を行った。
兵士たちは我々から攻撃を受けても反撃することなく、敵軍を再現したと考えられる人影に向かってのみ攻撃を続けていたのである。
そのような状態であるため不知死の兵隊を倒すことは容易かった。
彼らの放つ銃弾は我々にも当たるため注意をしなければならなかったが、射線に入らぬようにしておけば問題はなかったのである。
そして兵士をすべて倒し、隊長とみられる怪異も倒したが、怪異の作り出した世界が消滅する様子がなかった。
そのため鏡を用いて未来を見たところ、空から突然爆弾が現れ空間内の全てを吹き飛ばす光景が見えたのである。
このままでは我々も爆風に巻き込まれるため、隊員の一人に命じて能力で即席の防壁を作らせた。
その陰に隠れると同時に爆弾が現れ、我々を除く空間内のすべての物を吹き飛ばした。
その後、外を覗くと怪異の作り出していた空間はすでに消えており、我々は最初に待機していた空き地に立っていたのである。
怪異の姿は見当たらなかったが、根源札が見つからないということは怪異の討伐には至っていない。
そのため次の日にも怪異は出現すると考え、今回の作戦で把握した怪異の情報の整理と次の作戦の作成を行った。
一度目の戦闘で判明したことは、「怪異は敵軍を再現した人影に向かって攻撃をしており、我々に対しては無関心であること」「兵隊を全て倒しても怪異は消滅せず、最後に落ちてくる爆弾によってすべてが吹き飛ぶ」ということである。
そのため、二度目の戦闘では怪異の目標であると考えられる敵軍を模した人影の討伐を行うこととした。
翌日も同じ23時に不知死の兵隊は現れた。
敵軍を模した人影も兵士たちも一度目と同じ配置であったため対処は簡単であった。
敵軍を模した人影はこちらに攻撃することもなく、ただ立ち尽くすだけの的であり、後ろから怪異の放つ銃弾にのみ気をつけていればよかった。
しかし、数だけは多く、処理にはかなりの時間がかかったのである。
最後の一人を仕留めるのと爆弾が地面に触れるのはほとんど同じ瞬間であった。
普通であれば爆弾が出現した時点で回避を優先するであろう。
しかし、我輩は鏡で未来を見ていたことで敵軍を模した人影を倒せば怪異の作り出す空間が消えることは分かっていたため、回避をすることなく人影を仕留めることが出来たのである。
異国の景色が消えるとともに兵士たちは何かを悟ったように消えていき、最後に消えた隊長とみられる人物の居た場所に根源札が残ったのである。
▼事後処理
怪異となった兵士たちは自身が死んだことを知らずに戦い続けていたが、我輩たちが関わり敵軍を倒したことで既に戦争は終わっていたことに気づいたのではないかと我輩は考えている。
根源札は倉庫に送って管理をすることとなった。
何十年と戦い続けてきた彼らには静かにゆっくりと休んでもらいたいものである。