怪異調査報告書   作:狐憑

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37 耳が痛いです… 危険度弐番「追いかけてくる声のウワサ」

 スピーカーから聞こえる声って遠くで聞く分には何か言ってるなって感じでいいんだけどさ、近づいてくるとだんだんうるさいなって感じで、すぐ後ろとかに来ると耳が痛くなるんだよ。

「空―――燥……いま――」

 お、わかってくれるか。

 やっぱりそう感じるのは俺だけじゃなかったんだな。

「金属…ど――しま…」

 そうそう、今ちょうど聞こえている感じだな。

 遠くで聞こえているうちは何言ってるのかよくわからないけど、どうせ俺には関係ないことだし、これくらいでいいんだよ。

 ん?ああ、廃品回収のトラックね。

 お前耳がいいんだな。

「あな―のそ…に」

 そういえばここら辺で噂になってる話してもいいか?

 『追いかけてくる声』ってやつなんだけどさ。

「追――る」

 その名前のままなんだけど、声が遠くから近づいてきて、走っても走っても追いかけてくるってやつでさ。

 俺の友達の友達もこれに遭遇したらしくて、声がどんどん近づいてきて、すぐ後ろまで来てからもう駄目だって思ったら音が急に消えるらしい。

「こちらは×―でス」

 それで音が近づいているときに振り返っても何もなくて、その何もないところから音が聞こえてくるらしい。

で、友達の友達は何ともなかったんだけど、最近の行方不明事件にこれが関わってるとかって噂でさ。

「よい子―み×さん――に帰りま×ょう」

 そうそう、ちょうどこんな感じでスピーカーを通した声が…。

 走れ。

「みつけた。助けて!助けて!」

 これ噂になってるやつだ! 

 速く走って逃げるぞ!

「駄目です駄目です。×××の移動販売です」

 やばいどんどん近づいてきてる!

「あと少し。いやだぁぁあぁあ!」

 やばい、すぐ後ろに――

「追いついた。誰か…」

 

 

 

調査報告:追いかけてくる声のウワサ

正常維持怪異収集機関

烏部隊隊員 鋭先夢乃(えいさきゆめの)

 

名称:追いかけてくる声のウワサ

発見地:A県S町

危険度:弐番

 

▼概要

 S町の人通りの少ない道、山の中を通る道に発生した怪異です。

 道を歩いていると遠くからスピーカーを通したような声が聞こえてきて、だんだんと近づいてくるというものです。

 声に追いつかれると何も起こらない場合と行方不明になる場合が確認されています。

 怪異の能力なのか、その姿を見ることは不可能に近いです。

 私でも眼鏡を通してその姿をやっと見ることができるくらいでしたから。

 眼鏡を通して見えるその姿は人の口がいくつも組み合わさったものでした。

 

▼発見経緯

 後ろから声が追いかけてくるという噂はS町に以前からあったようです。

 ですが、噂はあくまで声が追いかけてくるという内容のものであり、行方不明になるということはありませんでした。

 今回私が派遣されたのは数人が行方不明となったためです。

 

 私が現場に着く前に鼠部隊の方が調査を行っていましたが、怪異を見つけることはできていないようでした。

 ですが、怪異と遭遇した人物を発見してインタビューを行っていました。

 

▼会話記録

―あの日のことですね。はい、僕と友達であの道を歩いていました。

―スピーカーからの声みたいなのが聞こえて、最初は宣伝かと思ったんです。

―でも、だんだん近づいてきたその声は絶対にスピーカーの物とは違うし、後ろを振り返っても何もいないしで。

―僕も友達も必死に走ったんですけど声はどんどん大きくなっていって、そのまま気を失いました。

―気づいたら病院のベッドの上にいて、僕は道で倒れてるのが発見されたって。友達は見つかっていないって聞いて。

―噂になっていた声に連れていかれたんだってわかりました。

―なんで連れていかれたのはアイツで僕じゃなかったんだろうって気持ちになるんです…

 

▼交戦記録

 怪異の出現した道へ行き、眼鏡を使って怪異を追いました。

 眼鏡を通して見えた姿はいくつもの口が合わさり地面を這いずり回っているというものでした。

 道に染みついた怪異の記録を追い、時間をかけて怪異を探しましたがなかなか見つかりませんでした。

 そしてある程度探したところで怪異の痕跡が突然消えていることに気づきました。

 その時後ろから声が聞こえてきました。

 「不用品買い取りまあす」

 地の底から響く声と言う描写は本の中で見たことがありますが、実際に体験することになるとは思ってもいませんでした。

 一部の生き物が止め足を行って追跡をかく乱するように、この怪異も同じことをしていました。

 そして声が聞こえてきたということは、私が怪異のターゲットとなったということです。

 この怪異を肉眼でとらえることは不可能なため、眼鏡で捉える怪異の姿を可能な限り現在に近い、5秒前のものと設定して怪異との戦闘を開始しました。

 まず方界残夢を展開して怪異へ光線を放ちました。

 しかし、光線を受けた部分が消滅するのではなく、小さい二つの口に分裂することを繰り返したため、攻撃が有効ではないと判断して攻撃方法を変えました。

 次に四面裁断で結界を作り、怪異を閉じ込めようとしました。

 しかし怪異は結界へためらうことなく突撃し、結界に触れるたびにその数を増やしたため、怪異の成長を手助けするのみだと判断し、更に別の攻撃をしなければなりませんでした。

 そうしている間にも怪異は速度を上げて私に近づいてきていたため、宙へ浮いて怪異から逃れました。

 しかし私の見る怪異の姿は5秒前のものであり、予想よりも速く怪異が近づいてきていたため、服の一部をかじり取られていました。

 もう少し宙へ避難するのが遅れていたら体をかじり取られていたでしょう。

 そして上から怪異を攻撃しようとしましたが、鼓膜を震わせる声は私についてきていました。

 眼鏡を通して見ると、いくつもの口が私を浮きながら追いかけてきていました。

 攻撃をすれば怪異は分裂し、有効な攻撃方法も判明していないため、私にできることは何もありませんでした。

 そのまま怪異から逃亡し続けていると、眼鏡に映る怪異の口の数が少しずつ減少していることに気づきました。

 そして10分ほど逃げ続けたところで怪異の姿は完全に消滅し、根源札が出現しました。

 根源札は地面に落ちる前に回収し、倉庫へと送りました。

 

▼事後処理

 この怪異の根源札を調べたところ、この怪異は地面に残る声の記憶を再現していたことがわかりました。

 スピーカーから聞こえるような声と言うのは、怪異の出現した道を通った車などが出していたものだったのでしょう。

 この怪異は地面かに残る声の記憶を力の源としていたため、空中に逃げた私を追いかけた怪異は力を失っていき、自滅したというわけです。

 また、この怪異が人を襲っていた理由は自分の言葉のレパートリーを増やし、強くなるためでした。

 

 今回の怪異は攻撃が通用せず、討伐できたのも偶然という危険度のわりにかなりの強敵でした。

 この怪異が確認されたということは類似の怪異が別の場所に発生する可能性があります。

 対処法として怪異を地面から引き離すことがあるということを周知しておく必要があります。

 

 

 

「はぁ…うるさい声の聞きすぎで耳は痛いし、眼鏡の使いすぎで目は痛いし、本当に散々ですね…」

 

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