怪異調査報告書   作:狐憑

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38 機関の噂から生まれた怪異 危険度判定せず「留斬」

「ここここんんんにちちちははははは」

「誰か…誰か助けてっ…!」

 

 日が沈み、闇に覆われ始めた裏路地。

 誰も通らないその道を一人の子どもが走っていた。

 その背中をを黒い人型が何かをつぶやきながら追いかけている。

 

 事の始まりは子どもが何の気なしに裏路地に入り込んだことだった。

 子どもがそこに入ったのは、普段通ることのない道を通ってみたいという好奇心から。

 まさかそれが人生最大の恐怖を味わうことにつながるとは思いもせずに。

 子どもが普段見ることのない景色を楽しみながら歩いていた時のことだった、子どもの前、20メートルほど離れた場所にある電柱の影から黒い人型が現れた。

 人型に顔はなく、その体は子どもの落書きのように黒い線がいくつも集まって構成されている。

 

「ここ、こんにに、ちちちは」

 

 口は無いはずなのにどこから声を出しているのか、人型は子どもに向かって声をかけた。

 

「こ、こんにちは」

 

 そして、子どもはそれに返事をしてしまった。

 子どもはその行動をすぐに後悔することとなる。

 

「こ、こんにちちちちはははははは」

 

 人型がコマ送りのようにカクカクと、普通の人間には到底できるはずのない動きをしながら子どもに近づいてきたからだ。

 それを見た瞬間、子どもは振り返って全力で走り始めた。

 追いつかれたら何をされるか分からない。

 その恐怖が子どもの足を動かしていた。

 しかし、子どもがどれだけ走っても裏路地の出口は見えてこない。

 まるで同じところをぐるぐると周っているかのように、夕焼けの道が続くだけだ。

 そして、子どもの走る速さなどたかが知れており、全力で走り続けていれば体力もすぐに尽きる。

 だが、人型は子どもの走る速さに合わせて追跡を続けていた。

 まるで、子どもを追いかけることを楽しんでいるかのように。

 

「ここここんんんにちちちははははは」

 

 そうして逃げ続けた子どもだが、体力が底をつき、足を一歩も前へ出すことが出来なくなった。

 それを見た人型は子どもへ向かって細長く鋭い腕を突き出した。

 遊びが終わればもう子どもに用はないというように。

 

(誰か助けて…!)

 

 突き出される怪異の腕を見た子どもは目をぎゅっと閉じて願う。

 誰も助けてくれないとわかっていても、そうすることしか子どもにはできなかった。

 

「……?」

 

 だが、子どもが予想していた痛みははいつまで経っても子どもを襲うことはなかった。

 何事かと思って目を開けた子どもが見たのは、腕から黒い液体を噴出させてのたうち回る人型。

 そして自分をかばうように立つ、刀を手にした女性の姿だった。

 

「遅くなってごめんね。だけど、安心して。あたし、留斬が助けに来たからもう大丈夫」

 

 その女性、留斬は子どもに向かって微笑む。

 

「絶対に助けるから」

 

 そしていつの間にか起き上がり、自身に向かって腕を振り下ろそうとうする人型に向かって刀を振り上げた。

 一閃、人型の腕がぼとりと地面に落ちる。

 返す刀で次は人型の頭が真っ二つに分かれた。

 

「うん、終わりだね」

 

 人型の体がぼろぼろと崩れていくことを確認した留斬は刀を背負うと子どもに向かって手を伸ばした。

 

「元の場所まで送っていってあげる。少し目を閉じててもらってもいい?」

 

 その留斬の言葉に子どもは頷き、差し出された手を握り締めて目を閉じる。

 

「もう目を開けていいよ」

 

 目を閉じて10秒ほど過ぎたところで子どもは目を開けた。

 そこは子どもが入った路地の入口。

 しかし、声をかけてきたはずの留斬の姿はすでにない。

 だが、子どもは自分の傷だらけの身体を見て、先ほどの出来事が夢などではなかったと気づいた。

 

 

 

調査報告:留斬

正常維持怪異収集機関

狐部隊隊長 九重白(このえしろ)

 

名称:留斬(とめぎり)

接触地:S県O市

危険度:判定せず

 

▼概要

 怪異を狩る怪異、彼女を表すのに最適な言葉はこれ以外にないね。

 機関のものに似た服に背負った刀、機関に所属する人間のように見えるけど彼女は怪異だ。

 ただ、彼女は人を襲う怪異を狩る怪異。

 機関と協力関係にある怪異だよ。

 

▼発生経緯

 機関は怪異とそれによって起こされた事件を解決したら、怪異に関わった人たちに記憶処理をするんだけど、記憶って言うのは人間の脳に染みついているものだから完全に消すことはできなくてね。

 何か怖いことがあったけど誰かに助けられたって考える人も出てくるわけだ。

 そこから怪異に襲われているときに助けを願うと誰かが助けに来てくれるって噂ができる。

 その噂を基にして生まれたのが彼女、留斬だよ。

 

▼発見経緯

 彼女から機関に接触があった。

 機関の噂を基に生まれた怪異と言うのは昔からいてね、どの時代でも機関と協力関係にあったんだ。

 彼らはその時代に合わせて姿形が変わっていてね。

 留斬は今の時代の機関の噂を基にして生まれた怪異なんだ。

 

▼留斬の能力について

 彼女の能力は斬撃の保存とでも言えばいいのかな。

 本来刀は鞘から抜いて使うものだけど、彼女は鞘から抜かずに刀を振るう。

 この時、本来鞘から抜いていれば斬れていたという事象を蓄えて好きな時に使うことが出来るというのが彼女の能力。

 彼女が言うには、蓄えた斬撃を解放した時には好きな位置に斬ったという結果を発生させることが出来るらしいよ。

 あと、別に鞘のまま振るっても弱い怪異であれば切断できるらしい。

 

▼事後処理

 先代の機関の噂を基にした怪異が現れなくなっていたから、世代が変わったんだろうなとは考えていたから、彼女が機関に来てもそこまで驚きはしなかったよ。

 まあ、これから長い付き合いになるわけだし、留斬とは仲良くしていきたいね。

 

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