愛と憎しみは紙一重だと言ったのは誰だっただろうか。
この言葉を知った時にはそんなことあるはずがないと思っていた。
だけど、今はこの言葉が本当だったとよくわかる。
あんなに好きだったのに、今では憎くて憎くて仕方ない。
何で憎いのかは覚えていないけど、とにかく憎くて憎くて―――
名称:
交戦地:K県K市
危険度:参番
▼概要
普通の人間には見ることのできない能面ですわ。
この能面は誰かを愛する人間に憑りつき、その愛を憎しみへと変換しますの。
そして、憎しみに呑み込まれた人間はその体を作り替えられ、鬼へと変貌していきますわ。
本当に最悪の怪異ですわ。
▼発見経緯
この怪異に出会ったのは偶然でしたわ。
この日は任務もなくて、永嗣さまとデートをしていましたの。
いろんなところへ行って、たくさん遊んで、暗くなってきたのでさあ帰ろうとした時のことでしたわ。
私たちの前に血まみれの男性が現れましたの。
最初は突然のことに驚いていましたけど、すぐに近づいてくる何かの気配に気づいて、戦闘態勢を取りましたわ。
暗がりから飛び出してきたのは、角を生やしてぼさぼさの髪を長く伸ばした『鬼』でしたわ。
▼交戦記録
鬼はその勢いのまま男性の方へ飛び掛かりましたの。
ですが、永嗣さまが男性の前に立ちふさがってその攻撃を防ぎ、鬼の体勢を崩しましたわ。
そしてその鬼に向かい、私は紅糸で作った刀を振り下ろしましたわ。
ですが、手ごたえはありませんでしたの。
見てみると、刀には皮のようなものが巻き付いていて、鬼は近くの家の屋根の上に移動していましたわ。
鬼は脱皮をしていましたの。
蛇が脱皮をするというのは聞いたことがありますが、鬼が脱皮するというのは初めて見ましたわ。
ですが、鬼が脱皮しているのは事実。
屋根から飛び降りた鬼は鱗のようなものに覆われ、手足も長く、まるで蛇のようにも見える姿になっていましたわ。
鬼は怒ったようにその長い手足を振り回して私と永嗣さまを攻撃してきましたわ。
永嗣さまは男性を守るために動きが制限されていましたので、私が鬼の攻撃の隙をついて攻撃を仕掛けましたわ。
鬼の長い手足は厄介でしたが、考えもなしに振り回しているものに当たるほど私は馬鹿ではありませんわ。
紅糸で動きを制限しながら鬼の心臓めがけて一突き。
今度は肉に刃が刺さる感触がありましたの。
ですけど、鬼は体をくねらせたかと思うと、刀を突き立てたられたまま滑らかな動きで地面を這うように逃げ出しましたわ。
鬼と言えど、心臓を刺されてあそこまで素早く動くことはできないはずですのに。
でも鬼は逃げましたし、どうしようもありませんから永嗣さまが助けた男性に話を聞くことにしましたの。
自分と彼女は付き合っていて、一緒に暮らしていた。
だけど、ある日から彼女が変わり始めた。
やさしい彼女だったのに、急に自分に強く当たってくるようになって、今日は出血するほど強い力で何度も殴られたので逃げてきた。
男性の話の内容はまとめるとこのようになりますわ。
にわかには信じがたい話ですが、実際に戦っている以上、信じるしかありませんでしたわ。
結局、この日は男性を機関の保有する施設で保護することになりましたわ。
あの鬼はきっと男性を襲いに来るだろうという考えのもと、しっかり情報収集と防衛をするためですの。
男性は施設の割り当てられた部屋に入ると、すぐに眠ってしまいましたわ。
男性が眠っている間に私と永嗣さまは本部に連絡を取って、今回の鬼について調べましたわ。
人が鬼に変貌し、蛇のようにも変化すること、急に人が変わったように攻撃になるという情報から『怨念の面』という怪異が男性の彼女に憑りついているのだということがわかりましたの。
この怪異による肉体の変化は3回、最初は角が生え、次に角がのびて肉体も蛇のように変化する、最後に耳が無くなり、完全な鬼と蛇の性質を持った存在に変化する。
鬼となった状態から人間に戻るには2回目の変化の時点で顔に張りついた怪異を倒すしかないとのことでしたわ。
この時点で怪異は2回目の変化を済ませている以上、私たちに残された時間はありません。
眠っていた男性を起こして、最初に彼と出会った場所に向かいましたわ。
そうすると予想通り、鬼はすぐにその姿を現しましたわ。
鬼は私たちに目もくれずに男性に襲い掛かりますが、永嗣さまがその攻撃を全て防いでくださいます。
私がすべきことは鬼の顔に張りついた怪異の討伐。
最初の戦いとは戦い方を変え、鬼の周囲に紅糸を張り巡らせて、その動きを少しずつ制限していきましたの。
そして十分な量の糸を張り巡らせた後はその糸を一点、鬼の身体に集中させるだけですわ。
たとえ一本一本は細くとも、何本もの糸に絡めとられれば鬼といえど動くことはできませんわ。
鬼は動くことが出来ないと判断したとたんに脱皮をして抜け出そうとしましたが、そうはさせませんわ。
すぐに鬼の顔の面を真っ二つにしましたわ。
▼事後処理
鬼になっていた女性は私たちとの戦闘で体のあちこちに怪我をしていたものの、鬼となっていた影響で致命傷となるような傷は回復していましたわ。
それに、完全に怪異となり果てる前に人間に戻すこともできましたの。
男性も女性が無事で喜んでいらっしゃいましたわ。
この怪異、怨念の面の根源札は私の望みもあって参番倉庫ではなく、弐番禁忌庫に送られましたわ。
人の愛をもてあそぶ怪異、本当に反吐が出そうになる怪異ですもの、存分に禁忌庫で苦しむといいですわ。