怪異調査報告書   作:狐憑

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番外編 生贄少女と鎖の英雄 中編

 この村のこと、私のこと、儀式のこと。私はすべてを話した。

 目の前の男性が物語の英雄だと思ったから。私を助けてほしかったから。

 だけど、彼は自分は英雄でないと否定した。

 そして、自分は慈鳥八雲(じちょうやくも)という名前で、この村には儀式の生贄として攫われた人を探しに来た、攫われた人について何か私が知らないかと言った。

 攫われた人がどこにいるのかはわからない。

 だけど、私が聞けば村の人たちは答えてくれるはずだ。そのことを彼に伝える。

 

「よろしく頼む」

 

 八雲さんは私に攫われた人の居場所を探してくるように頼んだ。

 私はその頼みを引き受けた。

 八雲さんは物語の英雄ではなかったけど、私を助けること、「くぐつさま」を倒してこれ以上犠牲が生まれないようにすると約束してくれた。

 その代わりに私は八雲さんのことを誰にも言わないこと、この村のことをもっと教えると約束した。

 そして、彼と別れて秘密基地に向かう。この村について昔の人が詳しく書いた本をおばあちゃんが持っていたはずだから、それを探すために。

 秘密基地の仕掛けを解き、隠れている本を出す。おばあちゃんの書いた物語や村の外のことについての本の中にこの村の歴史を書いた古い本がある。

 この本は古い文字で書かれていて、おばあちゃんも全部は読めていないと言っていた。私も読んでみようとしたけど、難しすぎて読めなかった。

 本を回収してからは怪しまれないように秘密基地で過ごした。そして、日が西に沈み始めたころに村に帰った。

 暗くなり始めた村で、儀式のことを知っているが村の人たちからは距離を取られている人に「私以外の生贄」について聞いた。

 その人は攫われた人は村のはずれにある小屋にいると教えてくれた。

 その小屋を見に行くと普段は誰も近づかないような小屋なのに、その周りを村の人が何をするでもなく歩いている。きっと、彼らが見張りなのだろう。

 それを確認して私は家に帰った。

 家に帰ると、両親が豪華な食事を用意して私を待っていた。10月に入ってからはいつもこうだ。両親なりに私を気遣っているのか、生贄に粗末な食事をさせてはいけないと言われているのか、どちらなのかは分からない。

 分かったところでどうすることもないのだけど。

 食事と入浴を済ませた後、私はすぐに寝ることにした。儀式が近づいてからは次の日が来るのが嫌だったけど、今日八雲さんと出会ってからは早く次の日が来てほしいという気持ちになっていた。

 

 10月9日、今日もいつものように秘密基地に行く。

 いつもとは違うのはその途中で八雲さんが待っていることだ。

 

「こんにちは、八雲さん」

 

 木の上にいる八雲さんに声をかけ、私が来たことを伝える。

 私に気づいた八雲さんは木から飛び降り、私の前に立った。

 私は鞄の中に入れておいた本を取り出し、彼に渡す。

 

「古い文字で書かれているから、なんて書いてあるのかわからないんです。八雲さんは読めますか?」

 

 本を開いた八雲さんは首を横に振った。

 八雲さんもこの本になんて書いてあるのかは分からないらしい。だけど、八雲さんの知り合いに古い言葉を読むのが得意な人がいるから大丈夫だと言っていた。

 

「ここに八雲さんの探している人がいると思います。普段は誰も使わない場所なのに数人が守るみたいに立っていたので」

 

 次に地面に村の地図を書いて、攫われた人のいる小屋を八雲さんに教える。

 昨日確認したから間違っていないはずだ。

 

「それと、明日見せたいものがあるんです。明日も待っててくれますか?」

 

 八雲さんに頼まれていたことを伝え終わり、秘密基地に行く前、私は八雲さんに明日も会ってほしいと頼んだ。

 

「わかった」

 

 八雲さんは私のお願いに笑顔で答えてくれた。

 それからは昨日と同じだった。秘密基地で過ごし、家に帰り、寝る。

 明日の約束を楽しみにしながら私は眠りについた。

 

 10月10日、朝起きると村全体が騒がしかった。

 両親も村の人も何が起こったのか教えてくれなかったが、ところどころ聞こえてきた会話から攫ってきた生贄がいなくなったのだとわかった。それに、観光客たちも姿を消していると言っていた。

 八雲さんたちが助けたのだろう。私の情報が役に立ったことが分かって嬉しかった。

 13時、昨日と同じ時間に私は八雲さんとの待ち合わせ場所に行く。

 今日は八雲さんは木の下で私を待っていてくれた。

 

「ありがとう」

 

 八雲さんは私に気づくと頭を下げてきた。昨日の私の情報が役に立って無事に助けることが出来たと。

 

「よかったです」

 

 私は笑顔で答えた。私の情報で人が助かったのがうれしかった。

 そうして少しの会話をした後、私は今日の目的を思い出して鞄から人形を取り出した。

 

「これが私にできることです」

 

 その人形を触れないまま動かして見せる。宙に浮かせる、物を運ばせる、二体同時に操る、私は今の自分にできることを八雲さんに見てもらった。

 八雲さんは私の力を見ても驚かず、ほめてくれた。

 今まで周りの人たちはこの力を見ると「神の生贄にふさわしい」と言い、どこか恐れているような様子だった。

 だから、私の力を純粋にほめてもらえてうれしかった。

 そうして私の力を見てもらった後、私は八雲さんにもう合うことが出来ないと伝え、村に帰った。

 儀式の5日前、私はこれから社で儀式のときまで過ごすことになる。

 身を清めるという意味があるのだと村長は言っていた。

 

 村に帰り、家で準備をした後に社に連れていかれる。

 持っていくことを許されたのは人形が二体だけ。私の力を示すために必要なもの以外は全て取り上げられた。

 社はかなり大きく、二つの建物が連結している。奥の方の建物は家よりも大きい。

 私が儀式まで過ごすことになるのは手前の建物だ。

 この建物は奥の物よりも小さいが、それでも15畳くらいの大きさはある。

 ただ、物がほとんど置かれてなく、広いだけの場所で私は退屈するしかなかった。

 人形を動かして遊ぶことが私にできる唯一の暇つぶしだった。

 

 10月11日、八雲さんが助けに来ると約束してくれたことを考えながら一日中社で過ごす。

 

 10月12日、今日も何もすることがない。

 

 10月13日、社から出ることが許されないから外の様子はわからないけど、村の人たちの怒った声が聞こえてきた。何かあったのだろうか?

 

 10月14日、今日も何もすることがないまま一日を過ごした。明日には儀式が始まる。

 八雲さんはまだ来ない。だけど、きっと彼なら助けてくれるだろうという希望は抱いたままだった。

 18時半ごろに村の人たちの喜ぶ声が聞こえてきた。その声がどんどん私のいる方へ近づいてくる。

 社に入ってきたのは村の人たち。数人がかりでなにかを運んでいる。

 よく見ると、それは見覚えのある人、八雲さんだった。

 私を助けようとして捕まってしまったのか。八雲さんへの申し訳なさと逃れられない死が迫る感覚が私を襲った。

 

 10月15日、儀式の始まる時間が近づき、私は奥の社へ連れていかれる。

 服は白いものに着替えさせられ、逃げられないようにと村の人たちに囲まれて。

 奥の社につくと村長は扉に鍵をかけ、何かをぶつぶつと言い始める。

 その間に私は横を見る。そこには手足を縛られ、転がされている八雲さんがいる。

 そうしているとぞくりとした感覚に襲われる。

 村長の前に現れた大きな人形、初めて見るがこれが「くぐつさま」なのだろうと一目で分かった。

 ところどころにひびの入った人形の姿をしているが、社を埋め尽くすほど大きい。

 それに、無表情のはずなのに怖いと感じる顔をしている。

 村長が「くぐつさま」に向かって何かを言うと「くぐつさま」が私をじっと見つめてくる。

 生贄の質を確認するかの様に私を確認すると「くぐつさま」はにやりと笑った。

 私のことを気に入ったのだろう。すぐにその手が伸びてくる。

 

「っ……!」

 

 私が覚悟を決めたその時、「くぐつさま」の手を宙から伸びた鎖が縛った。かなり強固なのか、「くぐつさま」がどれだけ動いても拘束が解ける気配がない。

 いつのまにか「くぐつさま」を縛る鎖と同じもので村長や村の人たちも縛られている。

 

「約束通りに助けに来た」

 

 聞こえてくる声は私が求めていた声。私の前に立つのは物語の英雄を思わせる姿。

 

「八雲さん!」

 

 拘束を解いた八雲さんが「くぐつさま」から私を守るように立っていた。

 

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