怪異調査報告書   作:狐憑

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前編に書いているように半月から一カ月ほど投稿休止します。

休止前にUAが一万を超えたこととお気に入り登録が百件を超えてうれしいです。


番外編 生贄少女と鎖の英雄 後編

 「くぐつさま」は自分の右腕を縛る鎖がなかなか壊れないこと、八雲さんが自分を倒そうとしていることに気づいたのか、鎖を壊すことを止めて八雲さんの立つ場所に向かって左手を振り下ろす。

 ばきっ!という音と共に私の前、八雲さんの立っていた場所の床が「くぐつさま」によって壊される。私は巻き込まれないように社の隅に移動した。

 八雲さんはその攻撃を躱し、床についた「くぐつさま」の左手に飛び乗ると「くぐつさま」の頭に向かってその腕を駆けあがる。

 「くぐつさま」はそうはさせまいと左腕を一気に上にはね上げるが、その時には八雲さんは「くぐつさま」の左肩に到達していた。

 次の瞬間、ろうそくの明かりが照らす薄暗い部屋に赤い閃光が走った。

 

「まず一発」

 

 八雲さんの両腕、鎖の模様が赤く光っている。八雲さんが「くぐつさま」の顔を高速で殴りつけた様子が閃光に見えたのだろう。

 「くぐつさま」の顔、口の右側がぼろぼろと崩れる。「くぐつさま」の顔はところどころひび割れているが、そこにはひびはなかったはずだ。その部分を破壊するほど八雲さんの拳は重いということだ。

 

「八雲さん後ろ!」

 

 更に一撃を加えようとする八雲さんの後ろから「くぐつさま」の左手が迫る。巨大な手で押しつぶされてはひとたまりもない。

 私は八雲さんに向かって叫んだ。

 

「自分で自分の顔を殴る気分はどうだ?」

 

 私が叫ぶと同時に八雲さんは「くぐつさま」の肩から飛び降りた。私と初めて会った時に木から飛び降りたように軽やかに。

 目標を見失った「くぐつさま」の拳は勢いを弱めることなく己の顔を殴りつけることになった。

 

「×××!」

 

 「くぐつさま」が叫ぶ。その言葉は私には理解できない内容だが、苦痛の声なのだろうということは分かった。

 もう一度八雲さんを狙って拳を振りかざしたその顔はひびだらけになっていたから。

 

「鎖縛」

 

 しかし、その拳が振り下ろされることはなかった。

 「くぐつさま」の右腕を縛るものと同じ鎖が左腕を縛っていた。いや、両腕だけではない。両足、身体、頭、「くぐつさま」の全身が鎖で身動きがとれぬように縛られている。

 しかし、全身を縛られて身動きが取れなくなっている「くぐつさま」が焦る様子はない。

 むしろ余裕があるように見える。

 

「××××……」

 

 「くぐつさま」はぼろぼろになった口で何かをつぶやく。その意味は分からないが、嫌な予感がした。

 縛られている「くぐつさま」の両手、そのすべての指から白い糸が伸びる。

 伸びた糸は床に着くと重なり合って人の形となった。

 

「…なるほど、これが本に書かれていたお前の能力か」

 

 10体の糸人形。そのすべての人形が「くぐつさま」が糸を動かすと同時に八雲さんをぎろりと見て動き始める。

 自分の体を肥大化させる人形、糸で動物のようなものを作り出す人形、糸で作り出した武器を構える人形、異形の姿に変身する人形。

 それを見て、私はこの人形たちがこれまで生贄として捧げられた人たちだと気づいた。そして、「くぐつさま」が能力を持つ人を生贄として求める理由も分かった。こうして自分の手駒を増やすためだ。

 

「来い」

 

 八雲さんが構えをとると同時に人形たちが動き始めた。

 私は戦いというものを初めて見るからどんなふうに戦えばいいのかなんて分からない。だけど、人形たちの動きが集団での戦い方の正解だということはなんとなく分かった。

 1体の人形が八雲さんに向かっていき、八雲さんがそれに対応すればその脇から他の人形が攻撃を仕掛ける。八雲さんがそれを避けて人形のいない場所に移動すれば、糸でできた矢や動物が襲い掛かる。

 逃げても立ち向かっても八雲さんは不利になってしまう。

 今はまだ八雲さんの動きが俊敏だから怪我はしていない。だけど、このまま戦い続けていれば八雲さんはどんどん追い詰められていくだろう。

 

「はははっ!」

 

 それなのに八雲さんは笑っていた。心の底から戦いを楽しんでいるという風に。

 次の瞬間、八雲さんに一番近かった人形、その後ろにいた人形と「くぐつさま」を繋ぐ糸が切断された。かなり太い糸だったにも関わらず、一瞬で。そして、それ以外の人形も腕や足など身体の一部を切断されている。

 

「俺の能力の鎖は相手を縛ったり壁を作ったりするのには向いているが攻撃向きではないと考えていた」

 

 私は八雲さんの手に握られているものを見て、やっと何が起こったのか分かった。

 

「だが、鎖について、自分の能力について研究していくうちに考え方が変わった」

 

 その手に握られているのは一本の鎖、その部品の一つ一つが刃になっている。

 

「例えばこんな風に鎖を刃として扱う。遠くに敵がいるときには鎖を伸ばして鞭のように、近くにいるときには鎖を縮めて剣のようにすれば近距離、遠距離に関係なく戦える。他には例えばこんな風に」

 

 八雲さんが鎖を振り上げると同時に鎖の形が変化する。部品が刃ではなくなった代わりに鎖の先端に幾重にも鎖が絡みつき、塊になっている。

 それを八雲さんは振り下ろした。振り下ろされた鎖の塊は失った足を糸で補修が終えたばかりの人形を叩き潰した。

 鎖がその人形から離れると、人形は完全に破壊されていた。ばらばらになった部分が少し動いていたが、再生する様子はない。

 

「鎖同士を絡み合わせて塊にすることで威力を上げる。一本一本の鎖では破壊できない物もこれで破壊できるようになる」

 

 八雲さんの手の鎖の形がまた変化する。今度は八雲さんの腕に絡みつき、拳を覆うように。

 

「さあ、俺を楽しませてくれよ!」

 

 八雲さんは人形の群れに向かって飛び込んでいく。

 

「××××――――!」

 

 「くぐつさま」は焦ったように人形を動かして八雲さんを囲む。しかし、その人形の間に宙から出現した鎖が壁を作り、人形の囲いは分断される。

 

「吹き飛べ」

 

 そうして孤立した人形の体に赤い閃光が突き刺さる。鎖で強化された一撃を受けた人形は「くぐつさま」と繋がる糸から千切れて吹き飛び、社の壁に激突した。

 「くぐつさま」も負けじと人形を失った指から新たな糸を伸ばし、新しい人形を作り出す。

 人数では「くぐつさま」の方が勝っている。しかし、形勢は最初とは違って八雲さんの方が有利になっていた。

 

「さあ!もっと本気でかかってこい!」

 

 戦いを楽しむ八雲さんとそれに気圧される「くぐつさま」、その違いが戦いに大きく影響していた。

 もちろん、八雲さんが戦いに慣れているであろうことも影響している。人形たちがどう動くのかがまるで分っているかのように鎖を使って動きを妨害し、孤立した人形を仕留めていく。

 人形が遠くに居ようが近くに居ようが関係ない。その時その時に適した攻撃を八雲さんは行っているのだから。

 

「あと一体」

 

 そして「くぐつさま」の操る人形は数を減らしていき、最後に動物を操る人形が残された。

 その人形も左腕を失っていて補修が追い付いていない。

 その人形に向かって八雲さんは鎖を叩き込んだ。人形は頭を砕かれ、崩れ落ちる。

 これで人形全てが倒されたはずだった。

 

「猪…」

 

 それは人形の最後のあがきだった。

 頭を砕かれ、塵になっていく人形の指が八雲さんを指し示す。

 それと同時に人形の前に出現したイノシシの人形が八雲さんに突撃し、八雲さんは吹き飛ばされ、床に背中から落ちる。

 

「かはっ……!」

 八雲さんもまさか最後のあがきをしてくると思っていなかったのか、イノシシに反応できず、床に落ちた衝撃で呼吸が乱れる。

 

「×××××!」

 

 八雲さんが意識外の攻撃を受けて能力が解除されたのだろうか、「くぐつさま」を縛っていた鎖が消えてしまい、自由に動けるようになった。

 その好機を「くぐつさま」は逃さない。

 ぼろぼろの顔を歪めて八雲さんに向かって両腕を振り下ろす。

 振り下ろされた両腕は轟音と共に社の床を破壊した。

 

「×××?」

 

 「くぐつさま」が腕を上げる。そこにあるはずの八雲さんの死体を確認しようとしたのだろう。だけど、そこに八雲さんはいない。そこにあるのは壊れた人形が一つだけ。

 

「間に合ってよかった…!」

 

 「くぐつさま」が腕を振り下ろす瞬間、私は持っていた人形を操作し、八雲さんを動かした。

 軽い人形で人間を動かすことが出来る距離は短い。だけど、八雲さんに攻撃が当たらない程度の距離なら全力を出せば動かすことが出来る。

 

「ありがとう」

 

 私の前に体勢を立て直した八雲さんが立つ。

 

「君が能力を使ってくれたおかげで助かった」

 

 八雲さんが右手を「くぐつさま」に向けると、再び鎖がその両腕、両足を拘束した。

 

「それに仲間も来たみたいだ」

 

 気が付くと私の周りに八雲さんと似たような恰好をした人たちが立っていた。それぞれの手に刀や弓などの武器が握られている。

 

「これで終わりだ」

 

 手足を拘束された「くぐつさま」に八雲さんとその仲間の人たちに対抗する手段はない。

 一瞬にして「くぐつさま」は塵となり、お札が一枚、「くぐつさま」の立っていた場所に残った。

 

 

 

 

 10月15日、長い夜が明けた。

 夜の明けた村は大混乱だった。儀式に関わった人たちは八雲さんの仲間の人たちによってどこかへ連れていかれ、残りの人たちには八雲さんたちとは違う服を着た人たちが対応していた。

 私の両親も儀式に関わる人間だったため、どこかへ連れていかれた。だけど、両親がどこへ連れていかれるのかに興味は湧かなかった。彼らは私に娘としてではなく、生贄として接してきた。それが原因だろう。

 そうして私は一人ぼっちになるものだと思っていた。

 

「君はどうしたい?」

 

 そんな私に八雲さんは選択肢を示してくれた。

 八雲さんたちの所属する機関は「くぐつさま」のような人に害をなす存在から平穏を守っているらしい。私の能力はそこに所属してそれらの存在と戦うのに向いていると。

 もちろん、このまますべてを忘れて平和に暮らす道も示してくれた。

 だけど、私は八雲さんたちと共に戦う道を選んだ。

 一つは私のことを救ってくれた人への恩返しのため、もう一つは私が八雲さんの戦う姿に憧れたからだ。

 私の選んだ道が茨の道だということは分かっている。だけど、私は物語の英雄のように人を助ける存在になりたかった。

 私を助けてくれた八雲さんのように。

 

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