「人間というのはね、最高の素材なんだよ」
薄暗い部屋に男の声が響いた。
「ほとんどの怪異が人間から生まれた存在だからかな?相性がいい」
そこには二人の男がいた。
一人は時代に見合わない古風な服に身を包み、もう一人は流行りの服に身を包んでいるが、壁に押し付けられるようにして拘束されている。
「怪異は人間の恐怖などの感情を餌にしたり、人間を直接喰ったりして生きているわけだけど、別に怪異は人間でなくとも、植物や動物を餌にしてもいいんだ」
近くの机の上で何かをしながら古風な服を着た男は話し続ける。
「怪異が人間から生まれたからかな?人間と同じものを食べられるんだ。人間と違って毒物なんかには耐性があるけどね」
「んー!んー!」
拘束された男の方は口をふさがれていて、うめき声を上げることしかできない。
「それなのに怪異が人間を襲う理由はね、人間が一番美味しいからなんだ」
机の上に置かれているのは鉈やのこぎり、槌や釘などのこの状況では何に使われる物なのか明白なもの。
「怪異も人間と同じなんだよ。美味しいものを食べたいってね」
古風な服を着た男は机の上ののこぎりを手に取ると、拘束された男の腹に押し当て、左右に動かし始めた。
「んぐうぅぅぅぅぅっ!!!!!!」
のこぎりが往復するたびに拘束された男は悲鳴を上げ、ぐちゃぐちゃと肉と血が混ざる音と共に薄暗い部屋の中でこだまする。
「そして、人間は調理するほど、苦痛を与えたりして恐怖の感情を抱かせるほど美味しくなる。君たちが素材をより美味しいものにするために料理をするのと同じだよ」
拘束された男の腹から臓物が覗いたところでのこぎりは止まった。
古風な服を着た男はのこぎりを机の上に戻すと、今度は鉈を手にする。
「料理に仕込みが大事なように人間を美味しくするにも仕込みが大事なんだ。一撃で殺したら新鮮だが旨味がない。しっかり苦しめて熟成させないとね」
鉈が拘束された男の右足の指に向かって振り下ろされる。
鉈は的確に男の指の関節に当たるが、切れ味が悪いのか、一度では切断できない。
「君は早く死にたいと思ってるかもしれないけど、死ねないよ。死ねないようにしてあげてるからね」
そうして数十回鉈が振り下ろされ、男の右足の指はやっと全て切断された。
「白陽様、こちらは準備が出来ましたがいかがでしょうか」
「ああ、梵蓮かい。もう少しだけ待ってもらってもいいかな?」
その時、部屋の扉が開き、蓮の花と蔦が組み合わさったような姿をした何かが入ってくる。
梵蓮と呼ばれたその何かは、古風な服を着た男、白陽に向かって何かを差し出す。
「今だいぶ良い感じのところまでいってるんだ。後は同じことを残った四肢にしてやって、全身に釘を打ち込んでやればいいだけさ」
白陽と梵蓮は楽し気に拘束された男の前で話を続ける。
男は自分の運命を悟って恐怖を感じ続けることしかできなかった。
「さて、こんなものでいいかな?」
数分後、壁に拘束された男の状態はひどいものだった。
両手両足の指は根元から切断され、腹からは腸が飛び出している。そして、頭を除いた全身に釘が何本も打ち込まれていた。
ショック死してもおかしくないような痛みの中、男は生きていた。
白陽により施された術が男に意識を失わせず、そして死なせないようにしている。
「人を食べたことのない私でも食欲がわいてくるほどの状態になっておりますね」
「梵蓮から見てそう見えるなら十分だね」
男は怪異にとって最上級の料理となっていた。
与えられ続ける痛みと意識を失うことを許されず、死ぬことも許されないことによる恐怖によって。
「ぁ……」
ぼろぼろになった男の体では悲鳴を上げることすらできない。
男にできるのは喉に空いた穴からかすかに声にならないような息を漏らすことだけだ。
「ああ、安心してくれ。君は梵蓮に食べられるわけじゃない。梵蓮は人間を喰わない主義の怪異なんだ」
まったく安心できる要素のない言葉を述べたてながら、白陽は梵蓮から受け取ったものを男の腹に空いた穴から体内に入れていく。
「君はこの怪異を復活させる材料になるんだ。大丈夫、すぐに終わるよ」
白陽が言い終わると同時に男の体内に入った何か、根源札の周りに黒いものが集まり始める。
「さあ、召し上がれ」
その黒いものは球体のような形になると、男を食い散らかし始める。
数秒で男の肉体はこの世から消え、男の居た場所にはさらに大きくなった黒い球体があった。
「さてと、これで私のやることは終わりだね。梵蓮、これを連れてヒツギのところへ行ってくれるかい?これにはヒツギの教育に付き合ってもらうから」
「お任せください。ヒツギ様にはこれから成長していただかなければなりませんから」
梵蓮はその球体を引き連れ、部屋を出ていく。
「さて、ヒツギ。これが君にとってどんな教育になるのか楽しみにしているよ」
血の匂いの染みついた部屋で白陽はにやりと笑った。