怪異調査報告書   作:狐憑

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番外編 空の落とし子

 ずっと思っていた。

 代わり映えのしない私の単純な世界。

 そこから見る彼らの世界は複雑で、そんな彼らに私は興味を持った。

 ほんの少し瞬きをするだけで変化する世界に彼らは生きているにも関わらずに彼らは楽しそうで。

 彼らを知りたいと思った。

 彼らの考えていること、彼らの生き方を。

 私は上から見るだけでは満足できなかった。

 

 彼らを時間をかけてたくさん集めて間近で見た。

 収集は簡単だ。

 ただ私が彼らを見て、彼らも私を見るだけでいい。

 彼らは1つとして同じものはなく、それぞれが違っている。

 それは外見だけでなく、中身もだ。

 彼らはその中に様々なものを秘めている。

 それによって彼らの在り方も違ってくる。

 上から見るだけでは楽しそうに見えた彼らの在り方も、実際に見てみるとそうではない。

 楽しそうに見えた彼らも何かを我慢しながら、笑い、悲しみ、怒り、楽しみ、様々な感情というものを抱きながら生きている。

 そして、同時に分かった。

 彼らは一人だけで生きているのではない。

 彼らは互いに支え合えながら生きているのだと。

 私が収集した彼らにも他の大切な誰かがいて、彼らが消えたことを悲しんでいるのだと。

 それでも、私は収集を止めなかった。

 彼らをもっと知りたかった。

 変化し続ける彼らの世界に何度も何度も視線を注ぎ続け、彼らを観察し続けた。

 私の中に新しい私を作り、私同士で彼らの再現をしてみた。

 彼らを観察して作った私同士は完璧に彼らの動きを再現したが、そこから何かが生まれることはなく。

 私はいつまで経っても満たされなかった。

 満たされることのない空白がいつまでも残り続けた。

 そして何度も変わっていく彼らを集め続けたある日、私は気づいた。

 私が彼らの世界に行けばいいのだと。

 彼らの世界に行き、彼らと同じようになり、より近くで彼らを見続けることで彼らのことを理解できるはずだと。

 

 それからの私の行動は早かった。

 これまで見てきた中で私の視線に少しでも対抗できた彼ら居たところへ、私は視線を注ぐ。

 ちょうどいい、私の視線の先に私の空白を埋めてくれそうな彼らの一人がいる。

 そのまま私はゆっくりと瞳を閉じた。

 

 

 

「はい、確認しました。…でも、これどうすればいいんですかね?」

 

 ある町の道、明るいうちでも人通りの少ないその道を通る者などいないはずの夜にその道に立つ男がいた。

 

「まさか人が倒れているなんて思いませんよ」

 

 男、黒瀬永嗣の前には人が倒れている。

 だが、そこに倒れているのは普通の人間ではなかった。

 

「ん…ううん」

 

 永嗣の声に気づいたのか、眠たげに瞼をこするその人物。

 一見すると無防備に見えるその人物だが、近づくとまるで重力が何倍にも増えたかのように感じるほどの威圧感を放っている。

 永嗣はこの雰囲気に似たものを知っている。

 

「いや、人じゃなくて神様ですかね?」

 

 

 

 ある秋の日の夕暮れ時、空から普通ではありえないほどの穢れと霊力の入り混じった何かが落ちてくるのを機関は感知した。

 その何かはある町の上空300メートルほどのところで突然姿を消し、反応も感知できなくなった。

 機関はその何かが何であるかを確かめるために烏部隊を派遣し、捜索を行った。

 とはいっても反応を感知できない以上、しらみつぶしに町中を探し回るしかない。

 烏部隊は手分けをして町の隅から隅までほとんど情報のない何かを探し回った。

 そんな状況でその何かが見つかるはずもなく、時間だけが過ぎていき、町は闇に覆われていく。

 黒瀬永嗣が機関の探している何からしきものを見つけたのはそんな時だった。

 

 

 

「……ん、ここは…?」

 

 路地に倒れこんでいた何かは目を覚ました。

 ゆっくりと瞼を開いたその何かの目に映るのは自分を覗き込む人の姿。

 それを目にした瞬間、何かは喜びを感じた。

 しかし――

 

「あれ?私は何を…?」

 

 何かはなぜ自分が喜びを感じているのかが理解できない。

 

「私、私は…」

 

 それだけではない、何かは自分の記憶がほとんどないことに気づく。

 記憶を本に例えるなら文章のほとんどが塗りつぶされているような状態。

 それが何かの現状だった。

 

「大丈夫です?」

 

 頭を抱えてうんうんと唸る何かに永嗣は声をかける。

 相手が自分に友好的ではない可能性があるとしても、目を覚まして困惑し続ける者を永嗣は少しでも安心させたかった。

 

「君は…?」

 

 何かは永嗣の声に反応し、彼をじっと見つめる。

 

「俺はなんていうかその…この辺で探し物をしてて…」

 

 永嗣はその質問の答えをごまかしつつ、何かから情報を探ろうとした。

 だが、彼にそれはできなかった。

 何かの青い瞳、透き通ったその目の前ではすべてが見つめられ、嘘を吐いたとしてもすぐにばれるだろうということが直感的にわかった。

 

「俺は黒瀬永嗣です。ここに来たのは空から落ちてきた何か、たぶんあなただと思うんですけど。俺の所属する団体の命令でそれを探しに来ました」

 

 永嗣は目の前の何かにすべてを話すしかなかった。

 

「空、空か…ああ、少しだけ思い出せた。私は空から来たんだった」

 

 永嗣の言葉で、何かは塗りつぶされた記憶の最初の数ページの内容を思い出す。

 

「私は君達を観察するために空から来たんだ」

 

 ―だから、君達のことをしっかり見せてくれない?

 そう言って何かはゆっくりと手を永嗣へ向かって差し出した。

 




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