怪異調査報告書   作:狐憑

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空は好きですか?
好きなら早く空を見上げましょう
嫌いでも空を見上げましょう
さあ、早く


7 記録者消失事案 空の瞳 早く見てください必ず見てください

 

 昔から空を見るのが好きだった。空に浮かぶ雲は毎回形が違って面白いし、雲がないときでも空を見ているとあの青さに吸い込まれてしまいそうで楽しかった。

 でも、ここ最近は空をあまり見なくなった。会社の仕事や私生活がいろいろと忙しくなってしまって、空をゆっくり見る時間が無くなってしまったからだ。

 その日もいつものように会社に出勤する途中だったんだ。空は晴れていて、日差しがかなりきつかった。早く冷房の効いた会社に入りたいと思って歩いていたらさ、上から視線を感じるんだよ。最初はそこから離れれば視線も感じなくなるんじゃないかって思ってたんだけど、いつまでもじっと見られている感覚が無くならなくて。それで、周りの人も同じように視線を感じていたのか、みんな立ち止まって上を見上げていたんだよね。だから、俺も見上げてみたんだ。

 見上げたら、空に飛行機雲みたいな感じで白い線が空の端から端までかかってて。なんなんだろうって見つめたんだ。そうしたら、ゆっくりその線が広がっていってさ、人間が瞼を開くときみたいな感じだよ。あ、これヤバいやつだって理解してるのに、そこから目が離せないんだよ。目を閉じることも瞬きもできずに、体が固定されてる感じだったんだ。

 で、その白い線が完全に開いたらやけにはっきりとした人間の目の形になって、じっと見つめてくるんだよ。青い空が背景なせいで外国人の青い瞳に見えたっけな。

 その瞳に見つめられて体感時間一時間くらい経った頃にやっと体が動くようになった。でも、腕時計を見たら、空を見上げてから二分しかたってなくて。周りの人とそのことについて話をしようとしたら、誰もいないんだ。おかしいだろ?あの時はちょうど出勤ラッシュの時間だったから大量に人がいたのに急に消えるなんて。でも、誰もいないんだ。俺がおかしくなったのかと思って、建物に入ったらそこには人がいるんだよ。外にいてあの瞳を見た人だけが消えてるみたいだった。なんで俺だけが消えなかったのかは分からない。

 それで、仕事をしていたらあんたたちがやってきて、俺に話を聞きたいって言うからここまで話をしてきたってわけだ。

 …おい、あんたの瞳そんなに青かったっけ?最初に見た時は黒い瞳で

 

 

 以上が空の瞳を見つめて唯一生存した男性へのインタビュー記録です。あの時、瞳を見つめた数百名が消失した中で彼だけが消失しなかった理由は分かりません。私はメッセンジャーとしての役割を担わされたのだと考えますが。しかし、彼もインタビューが「空を見るんだ早く」終わると同時にその場で消失しました。まるで何かに「空を見てください」吸い込まれていくように消えていきました。

 「空を見ませんか?」何か声が聞こえてきた気がします。

 「そらみようよ」あの空の瞳についてはこれまでにも何度か記録がされているようです。ですが、その正体については明らかになっていません。「ねえ、早く」組織ができる以前、国がまとまる以前にも「空見て」その存在は出現していたようです。「空を見上げましょう」声が大きくなってきました。空の瞳に気づかれていたようです。「そうだよ」あの存在が何を目的としているのかはわかりません。ですが、「それは言っちゃだめだよ」どこかに人を連れていくことを目的としているのでしょう。一度に数百人が消えることを考えると、何かの研究でしょうか。

 「さあ、早く外に出よう」この存在は記録を見ると出現頻度は高くないですが、一度存在を知り、興味を持つと何をしたとしてもこの世界から消えるという点では危険度肆番の怪異と同等と考えられます。

 「外に出ろ。空を見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ見ろ」

 声がはっきりしてきました。私ももう駄目でしょう。この記録は一部に工作をしているのでこれを閲覧しても空の瞳に気づかれることはないと思います。ですが、その工作にこれを閲覧しているあなたが気づいた場合はあきらめてください。空の瞳はあなたを逃しません。

 

「やっと見てくれたね」

 

 

「これを見た人は気づいているはずだよ。私がここにいることを。これを書いた人はうまく工作して閲覧者が私に気づかれないようにしたんだろうけど、そこまで意味はないかな。だって、私はここにこうやって存在できるんだから。でも、この人は今までで一番うまくやったんじゃないかな?私についての記録を見た後は、記憶処理をしてなるべく私に興味を持たないようにしてたんだから。その点はほめてあげるよ」

 

「さてと、これを見ている君はどうかな?せっかくこの人が工作をしたのに、ここまで見てしまったなら少しでも私のことに興味を持ったよね?」

「じゃあ、外に出て空を見ようよ。きっときれいな瞳が君のことを見つめているはずだから」

 

<●>

 

「さあ、早く。空を見つめよう。早く私を見ろ」

 

 




もしもあなたが気づいていなければ、瞳を見ても魅入られないです。安心してください。


ちゃんと全て見ましたか?
見逃したところはないですか?空白もちゃんと見ましたか?隠れたものを見つけましたか?長押ししましょう

空を見ましょう
空を見上げましょう


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