噂の飛び交う学校へ転生した 作:ブラックホール
保険室に通って暫く経った日です。
一之瀬と話すようになってから1ヶ月が経った。
彼女は次第と俺に対して心を開くようになった。
俺が昼休みに保健室に来ると待ち構えていたり、「ねえ、今日は一緒に帰らない?」と言ってきたりと俺との時間を楽しんでいるようにも見えた。
美少女である一之瀬と2人きりの時間を過ごせる俺にとっては良いこと尽くしだった。俺にとって非常に充実した日々が続いた。
そんなある日だった。
いつも通り昼休み保健室に通おうとした時だった。
「長州君」
女子の声に振り返るとクラスにいる1人の女子生徒が俺の後ろにいた。茶髪ロングの少しお嬢様系の女子生徒だった。彼女は友達が多い気がする。彼女は頬を赤らめながら俺にこう言った。
「えっと、これから何処か行くの?」
「ああ、ちょっとな」
「そうなんだ…私も行っていい?」
そう聞いてくる女子生徒。困った。流石に保健室には連れていけない。今の一之瀬に会わせる訳にはいかない。
「悪い、今は無理だ」
「そ、そっか…」
明らかに落ち込んだ様子の女子生徒。
「何か俺に用か?」
「ううん、何でもないの」
「そうか、何かあったら言ってくれ」
何も無いなら問題無い。そのまま背を向けて歩く。
そのまま保健室に向かう。何だったんだろうか。
また別の日。
「あ、あの、長州君…」
体育の授業が終わった後、1人の女子生徒が俺のところに来た。頬を赤らめている。
「放課後、時間ある?」
「えっ」
「で、出来れば体育館の裏に来てほしいな」
顔を真っ赤にして上目遣いで俺を見てくる女子生徒。
これって…
「分かった、少しだけなら」
「うん、お願いっ」
そう言って去って行く女子生徒だった。
昼休みになった。
いつも通り一之瀬とトランプをして過ごしていた。
「これだっ」
一之瀬がカードを引いた。そして満面の笑みを見せた。
「やったー上がりっ、私の勝ち♪」
「マジか…」
俺の手元に残るジョーカー。今回は負けだった。
「ねえ、今日も一緒に帰ってくれる…かな?」
そう言って俺の方を見上げる一之瀬。
帰れるには帰れるが…
「すまん、少しだけ遅くなるけど良いか?」
「えっ」
「少しクラスメイトに呼ばれててな、待たせるけど良いか?」
俺がそう言うと一之瀬はジーとこちらを見る。
「女の子?」
「あ、ああ…」
「むぅ」
俺がそう言うと一之瀬は不満そうだった。頬を膨らませて面白く無さそうに俺を見る。
「少しだけだから」
「本当に?」
「ああ」
「なら良いよ♪」
一之瀬の許可も得ることが出来た。
放課後、体育館裏に来ていた。
少し待つと俺の元に例の女子が来た。
「どうした…」
「えっと、突然だけど、私は長州君の事が好きです。付き合ってくださいっ」
そう言って手を差し出す女子生徒。
本当に告白された。こんな事は初めてだった。この顔はモテるんだなと実感した。
だが、その気持ちには答える事が出来ない。
「ありがとう。気持ちは嬉しい、感謝する。
だが、すまない。俺はその気持ちには応えられない」
「っ…り、理由を教えて…」
俺は答えに悩む。
恋愛に興味が無い訳では無い。寧ろ前世でモテなかっただけあって恋愛への関心は大きかった。
なら、好きな人がいるってのは?
それもある意味合ってはいるが、それを言うのは違う気がした。
悩んだ末に俺は答えた。
「実は今、友達と受験の事で頭が一杯なんだ」
「と、友達?」
「ああ…」
「…聞いても良い?」
「ああ」
泣きながら女子は一呼吸置くと再び口を開いた。
「長州君はその友達にいつも昼休みに会ってるの?」
「...」
この娘にはバレていた。鋭いな。
どうしたものか…
少し考えて俺は口を開いた。
「...ああ、会ってる」
「そ、そうなんだ…」
「えっと…」
「大丈夫…きょ、今日はありがとねっ」
そう言って走って行った。俺は取り残された。
ザッと音がしたのでそちらを見る。
「あっ…」
「一之瀬さん…」
「……」
一之瀬が待っていた。
もしかしたら全て聞いていたのかもしれない。
お互いに無言になる。一之瀬の様子からしてどうやら見られていたようだ。気まずい空気が流れる。俺は取り敢えずそちらに向かった。
一之瀬の前に立った。
「帰ろう」
「う、うん…」
チラチラと俺の顔を伺う一之瀬。俺は何も答えずにそのまま歩いた。
帰り道、俺達は無言だった。一之瀬は何かを言おうとして、言えずにいた。
一之瀬の家の近くまで来た。
「また明日な」
「う、うん…」
「それじゃ…」
俺は帰ろうとする。そのまま歩き出した。
「ま、待って…」
後ろから声がかかる。振り返ると一之瀬が下を向いていた。
そのまま俺の方に歩き、1メートル手前で止まった。
「どうした?」
「あ、ううん、長州君に聞きたい事があって…その…」
下を向いていた彼女が顔をあげる。
「長州君は…私といて迷惑じゃない?」
「そんな訳無いだろ」
俺は即答する。一之瀬の声は震えていた。
「本当に?」
「ああ、何でそんな事聞くんだ」
「だって…」
声を震わせたまま一之瀬は続ける。
「こんな私といるから長州君は他の子と話せない。だから私、もし長州君が他の子と一緒に居たいなら…」
声が小さくなる。その先は聞こえ無かった。
俺は取り敢えず彼女に近づく。
その肩を叩いた。
「一之瀬、顔を上げてくれ」
俺を見上げる綺麗な目を見て俺は続ける。
「俺が一之瀬と一緒にいるのは、一之瀬が心配だから居るんじゃない」
「えっ…」
まさかの本音に驚く彼女。確かに気になってはいたが、俺が一之瀬に向ける感情は心配が一番じゃなかった。
それを伝える為にも俺は言葉にする。
「一之瀬と少しでも一緒に居たいからこうしてるんだ」
「な、長州君…」
「これが俺の本音だ。俺は一之瀬との時間が楽しいんだ」
これが本心だった。
保険室に通っていたのも一之瀬がいるからであって、他の人だったら興味を示さなかっただろう。
俺はそんなに善い人間じゃない。
俺の本音を聞いた一之瀬は息をのんでいた。目が潤んでいる。
「な、長州君…」
「一之瀬は俺との時間が嫌いか?」
「う、ううん、そんな事ないっ!」
ブンブンと頭を振る一之瀬。そして下を見て小さな声でこう言った。
「わ、私も…長州君と一緒にいるの…好きだよ…」
途切れ途切れにそう言う一之瀬。
心なしかその頬が赤い気がした。
「そっか、なら明日も来る」
「うん…」
「じゃあな」
片手を上げて帰ろうとする。
「ま、待って…」
再び俺を呼び止める一之瀬。
振り返る。
彼女は頬を真っ赤に染めていた。今度はどうしたのだろうか。
「えっと…絶対に来てね?」
「ああ、行く」
「じゃ、じゃあね」
そう言って駆け出した。ドアを開けて自分の家に入って行った。
何だったんだろう。
それからも俺は保険室に通い続けた。
彼女に勉強を教えたり、トランプをやったり、オセロをしたりと楽しい日々は続いた。
そんなある日だった。いつも通り俺は保健室に通っていた。
「長州君、ちょっと良いかな」
いつも通り保健室に入ろうとした俺に話し掛けて来たのはこの前の昼休みに俺を呼び止めた少女だった。
クラスではかなりモテる方で男子からの人気は高い。
「俺に何か用か?」
「うん、実はね…長州君に教えてあげないといけない事があって…」
その女子は少し下を向くと言いづらそうに俺に言った。
「えっと、長州君って毎日保健室行ってるよね」
「...!?」
女子の発言に俺は驚く。いつ後を付けられていたのか。
いや、俺が無警戒過ぎたんだ。幾らでもその機会はあった。
「それでね、えっと、保健室で一之瀬さんと2人で話してるよね。アレ、辞めた方が良いよ」
「…理由を聞いても良いか?」
この女子が何故そう言うのか気になった。もしかしたらトランプをしてるのが先生にバレたのかもしれない。
だが、その予想は外れた。
「えっと、一之瀬さんって悪い事したんだって…その…万引きしたらしいよ」
「……」
「だから、長州君にはあまり関わって欲しくないの。それでなんだけど…もう保険室行くの止めない?」
ここで万引きの話をしてきた。
成る程、そう言う事か…
恐らくこの女子は俺と一之瀬を引き離したいのかもしれない。多分、この身体の顔か何かに惹かれたんだろう。
きっと、この身体の主が好きだったのかもしれない。
その為に、こんな不器用な方法で俺と一之瀬を離そうとしている。
だったら、少し気にかけてあげないといけない。
「そうか。だが、万引きの事は俺も知ってる」
「だ、だったら」
「それでも俺は一之瀬に会う」
「え…」
女子生徒は信じられないといった目で俺を見上げた。
「俺自身が会いたいんだ。一之瀬の意思を無視してもな」
「……」
驚いてる女子に俺は尚続ける。
「本当のことなんだ。一之瀬がやった事は俺も知っている」
「……」
「最初、保険室に行った時は少し興味があっただけだった。ただの話し相手だった」
「……」
「それで、毎日保険室に行って彼女と話したり勉強を教えたりしていた。それが信じられないくらい俺には楽しかった」
「……」
「それで、いつの間にか俺にとって一之瀬は居ないといけない存在になってんだ。多分この気持ちは変わらないと思う」
驚く女子の肩に手を置いた。
「俺の事を見てくれてるのは嬉しく思う。いつも俺を見ているのは知っている」
「……」
「けど、俺は多分気持ちに応えられない。君の事は決して嫌いじゃない。けど、今の俺は君をそういう目で見られないんだ。決して一之瀬がいるからとかそういう理由じゃない」
「…っ」
歯噛みする女子。肩から手を離す。
「すまない。だけど、ありがとう」
「…っ…まだ、告白もしてないのにっ」
泣いてる少女。そして俺にくるっと背を向けた。
「好きにすれば良いっ、もう知らないっ」
そう言って去って行く少女。
俺はそれを見送るしか無かった。
ガタッと保健室のドアが開いた。
振り返ると一之瀬がこちらを見ていた。
「...見てたのか」
「うん」
「そっか…」
俺は下を向いた。
一之瀬も言葉に詰まってる。何を話したら良いか分からない様子だった。
沈黙を破ったのは彼女の方だった。
「長州君は…こんな私でも良いの?」
「良いに決まって…」
「私、万引きしたんだよ。長州君を気に入ってくれてる女の子もいるのに。…なのに長州君はこんな私と一緒で良いの?」
泣きそうな声で訴えかける一之瀬。
彼女の心は潰れそうなのかもしれない。罪悪感で埋もれていた。それでも俺の答えは変わらなかった。
「良いに決まってる。俺は一之瀬と一緒にいたい」
「っ…」
「一之瀬はどう思って」
「っ、長州君っ…」
俺が言い終わる前に涙を流す一之瀬が走ってくる。
そして俺の手を取った。
暫くの間、俺の手を握り、泣いていた。俺はその手を握り返し、もう片方の手を一之瀬の背中に置いた。
「ね、ねえ…」
「ん?」
泣き止んで俺の方を見上げるようにして声を出す一之瀬。
「長州君は何処の高校行くの?」
「まだ、ちゃんと決まってないんだ」
俺がそう言うと一之瀬はこう言った。
「...良かったら、私と一緒の高校行かない?」
そろそろ高度育成学校に行けそうです。