噂の飛び交う学校へ転生した 作:ブラックホール
Aクラス√第2話です。
今回はSシステムです。
入学2日目の翌朝、起きて朝食を食べる。歯を磨いてトイレを済ませて身支度を整える。
ピンポーンとインターホンが鳴った。
「今行きます」
そう言って支度し、鞄を持って外に出た。
「やっほー、長州君」
「一之瀬!?」
微笑んで片手を上げる彼女に俺は驚いた。何故俺の部屋の前で待っているんだ!?
「昨日は2人きりになれなくて、放課後まで待ってられなかったの。それでちょっと調べちゃって、あ、深い意味は無いんだよっ、ただ長州君の事が気になっただけでっ」
顔を真っ赤にしてわちゃわちゃと手を振って誤魔化そうとする。だが部屋の前で待たれて嫌な気はしない。正直今の一之瀬は可愛いだけだった。
「えっと、それでね。合鍵作って貰ったんだけど、やっぱり駄目かな?」
「全然、駄目じゃない」
「そうだよね、やっぱり駄目…えっ」
「良いって、一緒に学校行こうぜ」
セキュリティの面では気になるが一之瀬に鍵が渡ったところで問題無いだろう。携帯の連絡先を交換し、2人で学校に向かう。
道中、一之瀬に手を振る女子生徒がいた。多分Bクラスの子たちだろう。既に人気者のようだ。
Bクラスまで一之瀬を送って行き、そこで別れた。
昼休み、俺は3年生の階まで脚を運んだ。食堂へ向かおうとする3年生Dクラスの2人組に俺は声をかけた。
「すいません、先輩方」
「あ?なんだ1年かどうした?」
その2人は脚を止めて俺の方を不思議そうに見てきた。
俺は2人に誰もいない屋上まで来て貰うと端末を出した。
「これから先輩方にはそれぞれ1万ポイントずつ差し上げます」
そう言う俺に先輩2人は訝しげな視線を向けた。
「ですのでこの台本通りのセリフを話して頂きたいのです。それを録音させてください」
2人の3年生は台本を見て目を見開いた。そして顔をあげた。
「お前、Aクラスか?」
「そうですが…」
先輩2人は俺に背を向けた。
「おい、どうする?」
「これを言わせるって事はもうシステムに気付いてるんじゃないか。凄いな今年の1年は」
小声で話す先輩。関心したように俺を見る。同時にその視線にはAクラスへの羨望も見えた。
「お前幾ら持ってる?」
端末を見せると2人の先輩は溜息をついた。何せ3万程度しか無かったからだ。
「お前なあ…もっと誰かからポイント借りて来いよ」
「先輩達が断るなら別の先輩に頼むだけです」
2人の先輩は顔を見合わせる。そして再び俺に視線を戻した。
「…ギリギリまで俺達にポイント渡しな。俺達だってバレたらヤバいんだ。1人1万5千ずつで手を打ってやるよ」
「分かりました。ですが成るべく棒読みではなく成りきって話してください」
こうして俺は3万ポイントで2人の先輩を利用して偽造証拠を取ることに成功した。全て録音し、持ち帰った。
その後、監視カメラの位置や上級生の机の数をチェックし、Sシステムの証明に必要な証拠は全て手に入れた。
その日の夕方。部活は何やろうかと考えながら部屋で勉強していると携帯から電話がかかってきた。電話を取ると一之瀬と出ていた。この学園に入って俺の交換した連絡先なんてまだ数える程しかない。
『もしもし、長州君?』
『一之瀬、どうした?昼間の事か?』
『うん、長州君がただ私にポイントを預けるなんて思えないから、何か理由があったんだと思って』
電話越しに一之瀬の声が聞こえてくる。そう、俺は昼休み、自分の端末から10万ポイントの内、7万ポイントを一之瀬に預けていた。
『そうだな、今日出来れば俺の部屋に来てくれ。そこで話そうと思う』
『長州君の部屋?うん、分かった。そうするねっ、』
『ああ』
『それじゃまたっ』
電話が切れた。
少し部屋を整理する。と言っても大した物がないのだが。
5分後、一之瀬が来た。
「どうぞ」
「お、お邪魔しま〜す」
一之瀬は何処か興奮した様子で部屋に上がった。
部屋に入ると中をぐるりと見回す。
「まだ何も無いね…」
「入学2日目だから」
一之瀬をベッドに座らせる。こうして2人きりだと保健室を思い出すな。
「それで、ポイントを預けた理由なんだけど」
録音していた音声を流した。
『あ〜あ、今年の入ってくる奴らも災難だな〜』
『Aクラスって言うか学年で一番優秀なクラス以外は希望の進路に行けないってのによ〜』
『Bクラスあたりはチャンスあるんじゃねえか?2年はAクラスとBクラスが入れ替わってるしよ〜』
『クラスポイントにも差がついてるよな。まああのクラスは5月までにはSシステムに気付いてたらしいぜ』
『だからクラスポイントが多めだったんだろうな〜』
『1年の奴ら来月貰えるポイントが減ってて大騒ぎするんだろうな〜』
『何せ授業中教師が注意しないんだぜ、そりゃ弛むよな〜』
『なあそれぞれのクラスのポイント予想してみようぜ〜』
『う〜ん今年のAクラスは真面目な奴が多いから900クラスポイントで減るのは1万だけ、毎月9万くらい貰えそうだな』
『Bクラスは見た感じ今年普通だったたから、700クラスポイントくらいじゃないか?3万くらいは吹き飛びそうだぜ』
俺はその音声を一之瀬の前で流した。一之瀬は黙って聞いていたが、「もう一回聞いて良い?」ともう一度音声を流した。何回か流すと一之瀬は無言になった。
「3年生のエリアに脚を踏み入れたらこれが聞こえてきた。それでその2人に聞いてみたところ本来は駄目だけど特別に教えて貰ったんだ。その際に情報料をせがまれた。それでポイントが無いふりをする為に一之瀬にポイントを送ったんだ」
「成る程ね〜やっぱり、毎月10万貰える訳じゃないんだ。授業態度でポイントが減らされる。それに優秀なクラス、クラスポイントが一番高いクラスじゃ無いと希望の進路に行けないって事かぁ」
今の音声でそこまでたどり着いたらしい。流石一之瀬だ。頭が回る。
「俺と一之瀬のどちらかは希望の進路に行けない事になる」
「そうだね」
「だから、一之瀬はBクラスの皆にこれを伝えて欲しい」
「…良いの?」
「何か問題あるか?」
「だって、折角情報手に入れたのに、それなのに私に教えちゃったから…」
一之瀬は俺を見つめる。
この情報が真実なら俺は折角の希望の就職先に入るチャンスをみすみす逃してる事になる。クラスポイントが多いクラス、即ちAクラスでないと希望の進路に行けない。Bクラスの一之瀬にそれを教えるということは自分だけで無く、Aクラスの皆の努力を水の泡にする事になる。
だけど…
「俺なら今から頑張ればAクラスになれずとも希望の就職先に就ける。それは一之瀬も同じだ」
「…そうかもね」
「だから、卒業する時、俺と一之瀬のどちらかがAクラスになって入ればそれで良い。そう思わないか?」
「でも…」
「クラスが違うんだから仕方無い。それにこれがこの学校のシステムなんだ。条件を飲むしか無い」
「そうだけど…」
「それにだ、ポイントが多くて困る事は無いと思う。きっと何処かで必要になる時が来るはずだ。そう考えれば皆に説明して困る事は無いだろ?」
「そこまで言うなら…分かった、Bクラスの皆に伝えておくね」
「ああ、俺が言ったことは内緒だぞ。どっちがクラスメイトに上手く伝えられるか勝負だ」
「うん、負けないよ♪」
一之瀬は微笑んだ。正直勝てそうに無いけど。こういうのは彼女の方が上だった。
こうして一之瀬にもSシステムを理解させる事が出来た。クラスを裏切る形になってしまったが仕方無い。
一応裏切り者だと思われない為に俺の口からもAクラスにSシステムを伝える事にする。まあAクラスなんて原作でも60ポイントしか減ってないしあまり変わらないんだけどな。
翌日のホームルーム。
「…と言うわけなんだ」
「ま、マジかよ…」
俺は真嶋先生からホームルームの時間を買い取っていた。
俺はAクラスにSシステムの仕組みと希望の進路に行けるのは最上位を勝ち取った一クラスだけだと言う事を伝えた。
俺の説明に坂柳と葛城以外は驚愕し、俺を疑う者もいたが、例の偽造証言を流すとこれが事実であると認識した。
「そう言うわけだから、このクラスは問題無いけど授業は最後まで真面目に受けて欲しい」
「長州の言う通りだ。この1ヶ月様子見をする事は決して悪い事では無い」
何処か足りない俺の言葉を葛城がフォローしてくれた。
半分近くが頷いた。もう信頼度が違う。
「お2人の言う通りです。先生が授業中にあまり指さないのも気になりましたがそう言うことだったのですね。皆さん、これからも真面目に授業を受け続けましょう」
坂柳のフォローも入った。その言葉にあちらこちらから賛成の声があがる。これから敵対するかもしれないが今は頼もしいな。これならBクラスと言うより一之瀬に負けないかもしれない(葛城と坂柳のフォロー込みで)。真嶋先生も俺達の様子を見て驚いていた。
説明が終わり席に戻る。
神室が「あんた凄いじゃん、お手柄よ」と褒めてくれた。俺は笑って返す。原作知識なんだけどな。
「次に何かあったら手を借りても良いか?1人はしんどいんだ」
「面倒だけど、あんたがどうしても手伝って欲しいと言うなら手を貸してあげるわよ」
神室は承諾した。よしっ、これで次の中間試験の過去問を手に入れやすくなった。加えて刺激を求める体質の彼女の暇つぶしにもなるだろう。
放課後になった。今日こそ部活に行こうと思い帰り支度を進める。
カツンカツンと杖の鳴る音がした。顔を上げると坂柳が立っていた。隣には橋本もいる。
「長州君、少しお時間を頂けますか?」
「すまない、部活に行こうと思ってる。今この場で話してくれ」
「ふふっ、そうですか、それは残念ですね。では一言だけ」
坂柳は俺の隣に立った。
そして耳元で呟いた。
「今朝の先輩方の証言。あれは貴方が捏造したものですね?」
音が止まる。何かが凍る感覚があった。
が、直ぐに戻る。
やはり彼女には筒抜けだった。天才の目は誤魔化せなかった。
「長州君には私と友達になって頂きたいのです。これは私の連絡先です。受け取ってください」
彼女から連絡先を受け取った俺はその場に立ち尽くした。
「どうしたの?」
神室が俺を心配してくれた。俺は首を振った。
「何でも無い。ただ…」
「ただ?」
カツン、カツンと遠ざかっていく背中を見る。やはり今の俺では彼女に勝てないか…
「彼女はやっぱり天才だったよ」
「?」
疑問符を浮かべる彼女に俺は笑って返した。そのまま部活に行く。
前途多難だな。
そう思いながら空手部の道場を目指すのだった。今日は武道の日だ。
というわけでSシステムを説明する主人公。
今回のライバルはある意味一之瀬さんですね。