噂の飛び交う学校へ転生した 作:ブラックホール
噂を払拭します。
「Bクラスが不正をしてポイントを残したらしいぜ」
「道理でポイントが高い訳だ」
教室の前方でそんな声が聞こえてきた。
戸塚達が噂を真実だと決めつけて広めている。彼らにとってBクラスは自分達の立場を脅かす邪魔者。故にこの噂は蜜の味だった。Bクラスをライバルではなく自分達よりも下に見られるのだから。
「長州、あんたはどう思う」
戸塚達の会話を聞いていた神室が俺に問いを投げてくる。
本来ならBクラスのポイントは650cpだった事も考えるとCクラスが流した噂はある意味半分正解である。自分達の実力でポイントを残した訳では無いという意味だが。
「俺はBクラスの実力だと思うぞ。Sシステムに1人、2人気付いても不思議じゃない」
「…あの一之瀬って奴がそんなに鋭い娘には見えないんだけど」
取り敢えず当たりさわりの無い回答をしておいた。
Aクラスでも坂柳当たりは俺が説明する頃にはSシステムに気付いていた可能性がある。故にあり得ない話では無いだろう。
そう思って返したのだが神室は訝しげにしていた。
4月の数日の間情報収集していた神室はその大変さを知っている。
加えて一之瀬は入学初日から目立っている。常に友達に囲まれており、クラスメイトと日々を過ごしている。陰で暗躍するような人には見えない。
龍園も一之瀬が仕組みに気付いたのが不思議なのだろう。だからこそこうした噂を流して一之瀬の実力が本物かどうかを試しているのかもしれない。
「神室にはBクラスがどう見える?」
一応聞いて見ることにした。彼女がどういった認識を持っているかを知りたくなった。神室は少し考えると口を開いた。
「ちょっとしか見たことないけど、私にはただの仲良しクラスに見える。なんというか悪い事しない人達の集まりというか。色々と無警戒っていうか」
「そうか、であればやはりBクラス自体が不正をするようには見えないな」
「うん、だから私の考えだけどね、一之瀬の事を気に入った先輩が学校のシステムを特別に教えたんじゃないかと思ってる」
半分正解だった。教えたのは俺だが。何気に鋭いな。
昼休み、教室を出て他クラスの教室の前を通る。
Bクラスの教室の前を通ると一之瀬が皆に囲まれていた。
彼らを通り過ぎてCクラスの教室の前に来た。そっと中を見ると長髪の男子生徒に話しかけてるガタイの良い男子がいた。
あれは石崎だった。そして話しかけられてる長髪の男子生徒は今回の噂を流したであろう張本人だ。
龍園翔という男。
Cクラスを信頼ではなく、恐怖で支配する正に独裁者だ。
頭の回転が速く、手段を選ばずに様々な奇策で標的を陥れる為、クラスメイトからは恐れられているが、一方で能力の高さを認められクラスを任されている。
性格は極めて狡猾で非情であり、普段の日常生活では、クラス内で横暴に振る舞い、女子生徒相手にも平気で暴力を振るう。他クラスの生徒を悪辣な方法で陥れる事を堂々とやってのける学年屈指の問題児である。
目的の為なら暴力や器物破損等の校則違反も行うため、クラスメイトを含め大半の生徒からは恐れられ、嫌われている。
兎に角、ヤバい奴だが、反面CクラスをAクラスに上げる事を諦めてない。卑怯な作戦を取る裏でプライベートポイントでAクラスに上がる方法を考えたりと中々クラス思いである。
俺からの龍園への印象はそんな感じだ。
まあ今回は敵なので悪いイメージしか無いが。
「で?話って何かにゃ?」
俺は放課後部屋に一之瀬を呼び出していた。一之瀬はベッドに座ると早速俺に問いかけて来た。
「今回の噂だけど」
「にゃはははっ、そう言うと思った」
一之瀬は笑っている。だが、その顔には疲労が出ていた。恐らく気にしてるのだろう。彼女自身の行動でポイントを保持した訳では無い。俺からの伝達があったからだ。
「学校に言えば良いと思う。それで噂が嘘だと証明出来る」
「…そうだね」
噂の真偽は彼女に関して言えば白だった。俺は黒かもしれないが。
「もし言わなければ噂は広がっていく。Aクラスにも何人かは噂を信じ込んでる奴らがいる。Dクラスはもっといると思う」
「……うん、分かってるよ」
一之瀬は何処か複雑なようだ。俺の情報でAクラスとの差を縮めた事を気にしてるのだろうか。それでも…
「Cクラスのやり方は悪質な行為だ。放って置くわけには行かないだろ」
「そうだね…」
「学校に報告するのは嫌か?」
「あ、ううんそう言うわけじゃないんだ。ただ…少しずるい気がしちゃって…不正って言われるのも当然だと思うの」
一之瀬が言いたい事は分かる。やはり俺から伝達された内容をクラスにそのまま伝えポイントを残したのが気になるようだ。
「俺が気になるんだ。少なくともCクラスやDクラスみたいな4月にサボっていたクラスが流していい噂じゃない。それでももし一之瀬が学校に報告したく無いなら1つ案がある」
俺はそう言って懐からあるものを取り出した。
「これは…中間試験の過去問だよね」
「ああ」
一之瀬は過去問を見ていた。もう一つ取り出す。
「そしてこれが小テストだ」
「えっ」
小テストを取り出して一之瀬に見せる。一之瀬は直ぐに気付いたようだ。
「これって全部同じ問題?」
「ああ、中間試験の説明を先生がした時に妙な事を言われなかったか?例えば中間試験を高得点で乗り切れると確信しているみたいな」
「そう言えば星之宮先生が次の中間試験は高得点を狙ってねって言ってた。もしかしてこの事だったの?」
「そうだ、今回の試験はDクラスの成績が悪い人達でも突破出来るようになってる」
「そうだったんだ〜、でも長州君凄いや、私全然こういうの思いつかなかったよ」
一之瀬が困ったように笑った。
「それで本題何だが…」
「うん、その前にポイント払うね、幾らだったの?」
「…一万ポイント」
「分かった♪」
一之瀬がポイントを渡してきた。その額3万だった。貰った時の額と同じだった。
「ちゃんと受け取ってね♪」
「分かった」
ポイントを返す事も出来るがそうすると話を聞いて貰えなさそうなので受け取る事にした。
「それで、作戦何だが…」
俺は一之瀬に作戦を提示した。
翌日。Aクラスの近くにCクラスの生徒が来ていた。
「なあBクラスの一之瀬って奴知ってるか?」
「ああ、知ってるけどどうした?」
「実は噂で聞いたんだけどさ、4月に不正してクラスポイントを残したらしいぜ」
「それ、本当なのか?」
「けど、Bクラスがあんなにポイントが高いのはおかしいと思うだろ?」
「それもそうだな…」
Cクラスの生徒は数人でAクラスの生徒に絡んでいた。
俺は携帯を操作してその会話の一部始終を録音しておいた。
そして彼女に流した。
「石崎、この調子で噂を広めろ」
「分かりました。掲示板にも投稿します」
午前中の授業が終わり、俺は噂の広がり具合を石崎達に聞いた。どうやらAクラスやDクラスの連中にも噂が広がってるらしい。
俺が今回流した噂。一之瀬が不正をしてクラスポイントを流したという噂。
疑う奴らが多いが全く信憑性の無い噂でもねえ。何せあの女は目立っている。いつもクラスの奴らに囲まれている。俺みたいに色々嗅ぎ回っているんだったら話は別だが一之瀬にはそう言った形跡が見られない。つまり誰かが一之瀬に教えた可能性が高い。恐らく見た目に惹かれた先輩がポイントと引き換えに教えたんだろう。一之瀬がそれを正直に言えるわけもねえ。こっちが訴えて色々学校に調査して貰えばポイントの取り引きも調査されるはずだ。その証拠は出てくるだろう。故にこの噂は確実に通る。
俺は席を立った。付いてこようとする石崎、アルベルトを追い払って食堂に向かおうとする。教室の前のドアが開いた。
「ちょっと良いかな?」
そちらを見る。
教室の前の扉から顔を出したのは今回噂の対象となった女、一之瀬とその取り巻きだった。
「私が不正をしたって噂をCクラスが広めてるって聞いたんだけど心辺りがあるかな?」
「生憎心辺りが無いな、要件はそれだけか?」
「白を切っても無駄だよ。それじゃあこれは何かな?」
そう言うと一之瀬は携帯を取り出した。
携帯を操作すると音声が流れてくる。
『なあBクラスの一之瀬って奴知ってるか?』
『ああ、知ってるけどどうした?』
『実は噂で聞いたんだけどさ、4月に不正してクラスポイントを残したらしいぜ』
『それ、本当なのか?』
『けど、Bクラスがあんなにポイントが高いのはおかしいと思うだろ?』
『それもそうだな…』
『Bクラスが不正をしてポイントを残したらしいよ』
『それ、何処から聞いたの?』
『いや、Cクラスに流れてきた噂なんだけど、どう思う?』
『どうって…あまりそんな事する人達には見えないかな』
『先輩を脅したのかもよ。胸をわざと触らせたりさ』
『うわっ、ヤバい奴じゃん』
その後いくつかのデータを一之瀬は流した。
それを聞いて何人かが青い顔をした。
「嘘だろ、何で録音されてるんだよ」
馬鹿の1人がそう呟いた。録音されてるのに気づかねえとは使えねえ奴だ。
「さあね、でもこれでCクラスが噂を流しているのに加担しているのは証明できたよね。本当の事言わないなら学校に報告するけど良いかな?」
「なら俺達も訴え返すぜ、お前がやってる事は盗聴だからな」
「別に良いよ、私としてはCクラスのやり方が許せないしね」
「はっ、大した事でもねえのにそれを学校に報告してクラスに迷惑かけるなんておめでたい奴だな」
「噂を流している龍園君には負けるよ」
「俺は無関係だ。名誉毀損で訴えても良いんだぜ」
「もしCクラスの誰かが停学になってもそう言えるのかな」
停学という言葉に何人かが顔を青くする。分かりやすい奴らだ。本当に馬鹿共は仕事もできねえとはな。
一之瀬は一歩も引かねえ。
「その録音を消せ」
「脅しても無駄だよ龍園君、そう言うわけにはいかないかな。私も許せないから」
「訴えるなら俺達も訴えるぜ」
「別に良いよ、Cクラスの方が重いしね」
妥協を許さない。
Aクラスばかりに目を向けてる甘ちゃんだと思ってたがそうじゃねえみたいだ。馬鹿共が停学になるのは構わねえ。停学のペナルティを知る事が出来る。
だがそれをやると俺の支配力が下がるかもしれねえ。何とか別の落とし所を見つけてえものだ。
「もし噂を止めるんだったら私から取引があるよ」
「俺達は無関係だが特別に話を聞いてやる」
そう言うと一之瀬は懐から何かを取り出した。
「これは中間試験の過去問。これを買い取ってくれるなら噂の事を不問にしても良いよ」
「はっ、過去問が何だってんだ。そんな役に立つか分からねえ物を配られたところで何の得もねえ」
「龍園君はそう言う考えなんだ。じゃあ他の人達に言うね。1年生で最初の中間試験はね毎年同じ問題が出るんだ。小テストもそうだよ」
「ま、マジかよ」
「し、信じられるか…?」
内のクラスの馬鹿共は疑っている。こいつ気付いてやがったのか。
「信じ無いならそれでも良いよ。けど、AクラスやDクラスにも売るつもりだから」
「待て」
一之瀬を止める。
「今回に限ってお前の提案に乗ってやっても良い」
「ほうほう?で幾ら出してくれるのかな?」
金額の交渉になった。
「2万ポイントだ」
「話にならないね、やっぱり学校に報告するよ」
「俺は妥当だと思うぜ、他の先輩から買い取ってやっても良いんだぞ?」
「でもそれなら私は噂を流した証拠を提出するけどいいのかな?」
「ちっ、幾らなら良いんだ?」
「そうだね、1人辺り1万ポイントかな」
「高過ぎる、40万だと?」
「そうでも無いよ、それだけで君達は停学を防げるんだからね」
停学という言葉に何人かが顔を青くする。
「りゅ、龍園さん、俺払いますよ」
「お、俺も」
石崎と小宮が弱気になってる。反対に真面目にやってた奴らは無反応だ。少し支配力が下がるが仕方ねえか。
「…他クラスに漏らすな、それで買い取ってやる」
「それは出来ないね。嫌なら別に良いんだよ」
「ちっ、だったらそのデータを全て消せ。お前の手下のもだ」
「手下だなんて酷いな、私の友達だよ」
「ふん、どうだって良い。お前ら全員俺にポイントを集めろ、過去問を買い取る事にする」
「龍園さんっ」
「何で、私が…」
クラスの奴らは一部不満そうにしながらもポイントを俺に渡してきた。
それを一之瀬に送る。
「はいっ、取り引き完了だね。今の音声も録音しておいたから」
「さっさと消せ」
一之瀬は携帯を俺に見せて来る。
俺はそれを見て確認した。
「それじゃあ、この過去問をあげるね」
過去問を受け取る。少々計画が狂ったが大した問題はねえ。次の一手を打つだけだ。
今回の取り引きで一之瀬がAクラスかDクラスの誰かを手駒にしてるのが分かった。録音したのは恐らくBクラスじゃねえ。
くくくっ…面白いじゃねえか。
いずれ潰してやる。
「終わったよ」
「お疲れ様、頑張ったな」
「えへへ♪」
中間試験が終わった日の夜。俺の自室で一之瀬が俺に寄りかかってきた。
頭を撫でると気持ち良さそうに微笑む。
「今回はAクラスの勝ちだな」
「にゃはははっ、負けちゃったね〜、でも次は勝つかもよ♪」
今回の中間試験では全クラスに過去問が配られた。
結果は1位Aクラス、2位Bクラス、3位Cクラス、4位Dクラスの順番だった。赤点はいなかったらしい。
「Dクラスからお礼を言われたんだって?どうだった?」
「平田君と櫛田さんが喜んでくれたよ。これで退学する人は居なくなったし、それに…噂も無くなったから私にとっては一石二鳥だね」
今回一之瀬はAクラスとDクラスにはタダで過去問を配った。Aクラスでは事前に打ち合わせしていた俺が断ったが、Dクラスでは受け入れられた。
結果、過去問の存在に気付いた一之瀬の実力が認められ、Dクラス、Aクラスの生徒は一之瀬を認めるようになった。
「全部長州君のお陰だね」
「そうかもな」
「認めて良いんだよ。本当に助かったから、だからね…」
此方に頭を向ける。俺の耳元に口を近づける。
「長州君が大変になったら私を頼って欲しいな」
そう呟いた。
俺は頷いた。そして彼女を抱き寄せた。
と言う訳で噂が消えました。
三流のやり方に見えるのは作者の発想力不足です。