IFルートには行くなよ!いいか、絶対だぞ!フリじゃry   作:乳圧の大罪司教

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原作主人公が颯爽登場する回。



ゼロカラアヤマツ───?①

 

 

 ───どうして俺がエルザと戦うことになったのか。

 ことの始まりは、盗品蔵での戦いから数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 昼を過ぎた頃だったか。

 金や武器など最低限の荷物をまとめた俺は、当初の予定通りに貧民街を抜け出そうとしていた。万が一にもエルザと鉢合わせないように気を付けながら、迷路のような路地裏を練り歩く。

 

 その途中のことだ。もう少しで表通りに出る───そのタイミングで、俺はある光景を目にすることとなった。

 

 路地裏で相対しているのは四人の男達。

 俺からは背中しか見えないが、背格好がバラバラの三人組はガストン、ラチンス、カンバリーの三人だろう。原作でスバルがトン・チン・カンと名付けたチンピラ達だ。

 

 一応顔見知りだが、仲は良くない。一度ボコってから避けられてるし。

 

 で、その三人に対して一人で向き合っている男がいる。

 中肉中背で黒髪オールバック。この世界ではあり得ない、ジャージにスニーカーという服装に、片手にはビニール袋を装備している男。

 

 一目見てピンと来たね。

 あっ、あいつスバルじゃん! って。

 

 まさかの原作開始が今日だったことに驚きつつも、俺は一旦物陰に隠れ、様子をうかがうことにした。

 

 原作に関わるつもりは毛頭ないが、今俺がいるこの世界が何周目の世界なのか、それぐらいは把握しておいて損はないだろうと思ったからだ。

 スバルはどの周回でもラチンス達と遭遇するわけだが、その時の状況によって何周目かを判別することが可能だ。

 

 まず一周目。

 スバルは異世界無双が出来ると勘違いし、三人に戦いを挑んであえなく敗北。ボコボコにされている所をエミリアに助けられる。

 

 次に二周目。

 ノリと勢いで速攻を仕掛けたことで、油断していた三人の不意を突いて何とか突破。スバルは盗品蔵へ向かうことになる。

 

 そして三周目。

 ラチンスに刺されてあっさり死亡。その代わり、スバルは自分に『死に戻り』という力が与えられていることをはっきりと自覚する。

 

 そうして迎えた最後、四周目。

 スバルは衛兵に助けを呼ぶ。衛兵は来なかったが、その代わりに、非番だった一般通過剣聖ことラインハルトが助けに来てくれる。後々の盗品蔵の戦いでもラインハルトは助太刀しに来てくれて、スバルはどうにかエルザを撃退することに成功。これが正史ルートとなる。

 

 

 さてさて、この世界はどうかな……と考えながら眺めていると、状況が動いた。棒立ちのスバルに対し、何事かを話しかけながら三人がゆっくりと近づいていく。既にガストンは鉈を、ラチンスはナイフを取り出しているようだ。

 

 スバルは動いておらず、ラチンス達が武器を取り出している状況。……と、いうことは、この周回は四周目だ。その内、スバルが衛兵に助けを呼び、ラインハルトが来る筈。

 

 ───そう、そうなるはずだったのだ。俺の知識では。

 

 

 ……なぜか、スバルが衛兵を呼ぼうとしない。

 それどころか、壁に手をついたと思ったら突然の嘔吐。

 地面に吐しゃ物を吐き散らしている。なんか今にも死にそうなくらい、顔色も悪い。ラチンス達はそれを自分らにビビってのことだと勘違いしたのか、げらげら笑いながら眺めている。

 

 

 え、なにこれは……(困惑)

 

 

 これ四周目じゃないの? なんで急にゲロ吐いてんのあいつ。

 ちょ、待て待て待て待て。……え、どうすんの? 原作知識は曖昧になってる所はあるけど、さすがに最序盤の出来事は大体覚えてるよ? でもこんな場面ない……なくない? いや、マジで意味不明なんだけど。なんなのだこれはどうすればいいのだ! 何なんだこのクソイベ。いやゲロイベ。こんなの正史ルートには…………ん? ルート?

 

 ───その時、俺に電流走る……!!

 

 

 

『Re:ゼロから始める異世界生活』には、『IFルート』が存在する。

 あの時スバルがこうしていたら。状況が違っていたら。前提条件が異なっていたら……そんな、もしものルートがIFルートであり、原作者によって複数執筆されたそれらは、ファンからも結構人気な番外編のエピソードだ。

 

 それらの中で、トップクラスに人気なルートがある。

 

『ゼロカラアヤマツイセカイセイカツ』───というタイトルのそれは、原作の序盤も序盤。一章から分岐した場合のIFルートだ。

 一章四周目において、スバルが路地裏で衛兵に助けを求めない。もしくは衛兵を呼ぶのに失敗し、ラインハルトと出会えなかった場合このルートに突入する。

 

 内容を簡単に説明すると、ラインハルトに会えなかったスバルは、独力でエルザを倒そうとして八十回を超えるループを繰り返す。

 度重なるループの中でスバルの精神は狂い、エミリアのみに執着し、その他一切をエミリアの為に犠牲にすることを厭わない狂人と化す───そして後に『傲慢の大罪司教』と名乗ることになるのだ。

 

 その後、なんやかんやあって大罪司教を全員討伐し、ルグニカ王国の主要都市を火の海に変え、ラインハルトの剣聖としての名声を地に堕とし、自分はエミリアに討伐されて満足死する……という、どうしてこうなった! って感じのルートだ。

 

 

 

 ……そして今。スバルは何故か衛兵を呼ばなかった。あるいは呼べなかったのか。このまま放置したらやはりアヤマツルートに入ってしまうのか。もう入っているのか? 俺というイレギュラーがいるせいで、バタフライエフェクト的に変化してしまったのか。今から俺がラインハルトを呼ぶべきか? 本当にそれでラインハルトが来てくれるのか? でも大声出すの苦手だ。根っこが陰キャの俺に外で大声出すのは難易度が高すぎる。そもそも今生は寡黙でクールなキャラで通ってるし。俺はどうすればいい? どうすればいいんだ?

 

 

 ………………わ、わかんないっピ(無能)

 

 

 しかし、時間は待ってくれない。

 気が付けば、ナイフを持ったラチンスがスバルを───って、アカーーーーーン!!

 

 俺は物陰から飛び出し、ラチンスの腕を掴んでいた。

 驚愕するラチンス達を余所に、俺はこちらを見上げるスバルの顔を見て目を見開く。

 

 ハイライトの消えた真っ暗な目。

 吐いたせいか、涙と鼻水と涎を垂らしている。

 顔色はやはり悪い。余命幾ばくも無い病人のような顔だ。

 

 

 こ、こいつ、『肥溜めで溺れかけているネズミ』みたいに絶望しているぞ。主人公がしていい顔

 じゃない。……あ、いや。わりと頻繁にこういう顔してたかもしれないな。そういうのが評判の主人公だったし。

 

 

 俺が呆然としていると、「いい加減HA☆NA☆SE!」とラチンスがうるさいので、言う通りに腕を離してやる。君もう帰っていいよ。

 

 なんかぶつくさ文句を垂れていたが、俺がちょっと睨んでやるとビビッて逃げて行った。

 

 所詮はチンピラ。無様なもんだ───そう俺が内心で嘲笑しながら、逃げ去るラチンス達の背中を眺めていた時、「ま、待ってくれ!」と、俺を呼び止める声と共に突然後ろからズボンを掴まれた。

 咄嗟に振り向けば、そこにいるのは当然ナツキ・スバル。奴は吐しゃ物で汚れた手で俺のズボンに縋りながら(汚い)、相変わらず青い顔で、聞いてもないのに捲したてるように話し始めた。

 

 話の内容を要約すると……。

 

 今日フェルトが盗品蔵で取引するけど、取引相手が超やばいイカレ殺人鬼で、このままだとロム爺もフェルトもサテラも死んでしまう。

 お前、フェルトとロム爺の知り合いだろ? 知り合いが死んだら悲しいだろ? だから助けてください! お願いします! なんでもryって感じの話だ。ん? 今なんでもするってry

 

 俺のことはロム爺とフェルトから聞いたらしいが……必死に頭を下げるスバルの後頭部を眺めながら、俺は考えた。

 

 次からは衛兵を呼ぶように助言して、ここは放置がベストか。

 そうすれば、スバルは次の周回で衛兵を呼んで、ラインハルトが来てくれるかもしれない。これなら、正史ルートに軌道修正出来る筈だ。たぶん。

 

 ……最初はそう考えたのだが、ある一つの()()()が思い浮かんでしまったために、俺はその選択肢を放棄。

 

 スバルの協力要請を受け入れ、一緒に盗品蔵へ向かうことになったのだ。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 その後は、原作の流れとほぼ同じだ。

 一緒にフェルトの家に行き、俺がいることで多少会話に変化はあったものの、結局は三人一緒にロム爺の盗品蔵へ行くことになった。そして、スバルとフェルトの交渉が決裂して、エミリアが来て、エルザが来て、エミリア&パックが戦って、パックが定時退社して……って感じ。

 

 本来なら次はロム爺の出番だが、代わりに俺が出た。

 

 フェルトに衛兵か騎士を呼んでくるように頼み、エルザを見てガクブル状態のスバルの面倒をロム爺に任せてから、いざ鎌倉!

 初撃の全力の不意打ちはあっさり防がれ、ニチャっとした笑みを浮かべるエルザに再び斬りかかって───現在に至る。

 

 




・主人公
転生先の現地人を内心で小ばかにしまくる系のカス。無能。
原作主人公がヤバそうなので仕方なく介入することに。


・スバル君(n週目)
我等が原作主人公、ナツキ・スバル。
『死に戻り』という時間遡行能力を持つ。
なろう系主人公にしては珍しく戦闘力ほぼ皆無。
曇り顔と死に様が素晴らしいとファンから評判の男。

四週目で衛兵を呼ぶのに失敗した模様。

エルザに勝てなくて絶望しかけている。
辛うじて正気を保っているが、主人公が放置して見捨てた場合、もう何回か周回を重ねた後に、発狂から覚醒を経てアヤマツスバルになる。

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