IFルートには行くなよ!いいか、絶対だぞ!フリじゃry 作:乳圧の大罪司教
スバル君視点がまだ続きます。
たぶん次で終わり。そして二章へ移ります。
「ま、待ってくれ!」
───スバルは咄嗟に、ルーカスの足にしがみついた。
ロム爺とフェルトの知人で、高い戦闘力を持った男。性格はまだよくわからないが、チンピラに絡まれているスバルを助けてくれる程度には善良である……と、今は信じたい。うまく交渉出来れば、エルザとの戦いに協力してくれるかもしれない。
これが最後のチャンスだと思った。
ここまでの周回で、ルーカスとは一度も会ったことがない。最初の四周目を初め、何度かフェルトに助けを呼ばせたこともあったが、スバルが生きている内にフェルトが戻って来たことは一度もない。
つまり、盗品蔵で戦いが起きている際に、ルーカスは貧民街にいないということ。そして、次の周回以降にルーカスと出会える保証はどこにもない。
その事実を認識し、スバルは期待と不安、焦りで頭が真っ白になる。
「頼む、俺の話を聞いてくれ……!」
「…………」
「あ、あんた、フェルトとロム爺の知り合いだろ? 今日、フェルトが盗品蔵である取引をするんだ。……けど、取引相手がヤバい奴なんだよ! 危険なんだ!」
「…………」
「放っといたら、みんな死ぬ……殺される! フェルトも、ロム爺も、サテラも、俺も……みんな殺されちまうんだ! みんな、みんな……」
「…………」
「お、俺は、皆を助けたいんだ! 守りたいんだ! もう、もう死にたくない……殺されたくない! 痛いのは嫌なんだ! な、なあ。だから頼む、力を貸してくれ。助けてくれ……お願いします……」
───だから、こんな稚拙な『交渉』をしてしまったのだろう。
回らない頭で、とにかく口だけを必死に動かして捻り出た内容がこれだ。襲撃者の情報も、どこからその情報を得たのかも、なぜ殺されるのかも……何の証拠も、メリットも提示せず、ただただ己の都合ばかりを語って、相手の情に訴えかけるだけ。
これではもはや、ただの子供の『お願い』だ。
どこかの大商人が聞けば、鼻で笑ってしまうだろう。
とてもではないが、こんな内容で言う事を聞いてくれる者など、この世界には存在しない。稚拙すぎて、罠だとは思わないかもしれないが……。
奇特な精神の持ち主か、あるいは彼の『剣聖』のような者くらいしか、手を貸すようなことはすまい───そういう内容だった。
どう考えても、交渉失敗は確実。
相手は去り、スバルは再び孤独で無謀な戦いを続けることになる……その筈だった。
「なるほど。それで───」
スバルの『お願い』を聞いた男。
彼はスバルの話を一通り聞き、納得したように一つ頷く。
そしてスバルを見下ろしながら、ただ静かに問うたのだ。
「───俺は、誰を斬ればいいんだ?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
眼前で行われるのは、いつもの光景だ。
「戦い慣れしてるなぁ、女の子なのに」
「あら。女の子扱いされるなんて、随分と久しぶりなのだけれど」
「ボクから見れば、大抵の相手は赤ん坊みたいなものだからね。それにしても、不憫なくらい強いもんだね、君は」
「精霊に褒められるなんて、畏れ多いことだわ」
防御を偽サテラに任せ、恐ろしい程の物量でエルザを攻めるパックと、雨あられのように降りかかる氷柱を避け、捌き、弾き、砕きながら、蔵の中を縦横無尽に動き回るエルザ。
いつも通りだ。何度も何度も見た光景。
一見するとパックが押しているように見えるが、スバルは知っている。実際は、時間に追い詰められているのはパックの方であり、エルザはそれまで時間を稼げば勝利が確定する。
つまり、エルザの方が精神的優位に立っているのだ。
「無目的にばらまいてたわけじゃ、にゃいんだよ?」
「……してやられたってことかしら?」
そして間もなく、確定した未来が訪れた。
「年季の違いだと思って、素直に賞賛してくれていいとも。オヤスミ」
凍結した床に足を縫い付けられ、動けないエルザ。
膨大なマナを集中させ、必殺の一撃を放つパック。
この場面を見た最初は、パックの勝利を疑わなかったものだが───
「……ああ、いなくなってしまうの。それはひどく、残念なことだわ」
───やはり、エルザは仕留めきれない。
定時を迎えたパックは消滅し、残された偽サテラは怯むことなく単独で戦う。だが、残念ながら偽サテラではエルザの攻撃を捌くので精いっぱいだ。このまま放置すれば、遠からず彼女は殺されるだろう。
いつもならロム爺が動き出す場面で、今回は新たに登場した人物が声を上げた。
「ここまでだな」
「む、行くのか?」
「ああ」
そう、今回の周回で初めて連れて来た人物、ルーカスだ。
彼は剣の柄に手をかけ、いつでも抜刀できる態勢をとった。出るタイミングを見計らっているようだ。
「あの黒い娘の身のこなしは尋常でないが……。お主一人で勝ち目はあるのか?」
ロム爺の問いに、スバルは期待で心臓が跳ねる。
ここでルーカスが「勝てる」とはっきり言ってくれたなら───しかし、そんなスバルの期待に反して、ルーカスの返答は芳しくなかった。
「……わからん」
「む、わからんと来たか。お主にしては珍しい」
「ルーカスが勝てないって、どんな化物なんだよ。アタシの依頼人は……」
大なり小なりショックを受ける三人をスルーし、ルーカスはフェルトへ言葉を放つ。
「フェルト。俺が仕掛けたら、お前は
「な!? アタシ一人だけ、ケツまくって逃げろってか!?」
「逃げろとは言っていない」
「じゃ、どういう意味だよ!」
いまいち言葉の意味がわからず、混乱するフェルト。
その様子を見かねたのか、思わずと言った風にロム爺が口を開いた。
「フェルト、お主は助けを呼んでくるのじゃ。この際、衛兵だろうが騎士だろうが……近衛騎士だろうが構わん。背に腹は代えられん。死ぬよりはマシじゃ」
「ロム、こいつを頼む」
「ああ、わかったわかった。どの道、儂の鈍足では逃げ切れん。小鹿のように足が震えとる、この小僧も同じじゃろう」
「あっ、その、俺は……」
「~~~! くそっ!」
悔しそうに地団太を踏むフェルト。
そんなフェルトを諫めるように、あるいは安心させるように、ロム爺はにやりと笑って告げた。
「ま、そう悲観することはあるまい。ルーカスはわからんと言ったが、負けるとは言わんかった。そうじゃな?」
「ああ、そうだ」
「つまり、そういうことじゃ」
そう、つまりこう言ったのだ。
『やってみなければわからない』と。
「あのハーフエルフの娘もおる。二人がかりならば、そう易々とは負けんじゃろ」
「…………」
「フェルト」
「───! だー! わーったよ! 行けばいいんだろ! 行けば!」
フェルトの言葉を最後に、各々が準備を始める。
ルーカスはエルザに攻撃するタイミングを伺い、フェルトはいつでも走り出せるように備え、ロム爺は取り出した棍棒を、自分と背後にいるスバルを庇うように構えた。
スバルは……何も出来ない。
今回は武器を持っていないし、前周で初めて人を殺した経験が、新たなトラウマとしてスバルの体の動きを阻害してしまっている。
ロム爺の後ろで、必死に震えを抑えようとしているスバル。
そこに───。
「スバル。お前には感謝している」
「……へ?」
ルーカスから突然言われた言葉に、一瞬、震えが止まる。
「お前が俺を呼んだおかげで、こいつらを守ることが出来る」
「お前はよくやった───後は、俺に任せろ」
……その言葉を最後に、ルーカスは飛び出した。
スバルにはルーカスが消えたようにしか見えなかった。足元の床が爆散したかのように穴が空いている。信じがたいことに、ただの踏み込みで床を破壊してしまったのだろう。
それと同時に走り出す、金色の小さな影。フェルトはあっという間にトップスピードに乗り、半開きになった蔵の扉から飛び出して行った。
ルーカスの初撃でエルザは壁まで吹き飛んでおり、フェルトの妨害をすることは出来なかったらしい。
そして、偽サテラを守るように陣取っていたルーカスに向き合い、妖艶な笑みを浮かべた。
「───次はあなたがお相手してくださるのかしら」
「…………」
「恐怖も迷いもない、良い眼をしているわね。……楽しくなりそう」
───そして始まった二人の戦いは、正しく超人同士の戦い。
「あ、あいつ、今まで本気じゃなかったのかよ……!」
「ぬぅ……只者ではないと思っておったが、ここまでとはの」
二人共に、呻くように言葉が出る。
エルザの戦いは何度も見て来たが、今回の戦いは今までの比ではなかった。
移動速度が速すぎて、スバルにはエルザの影しか捉えられない。それも、距離が離れているから何とか見えるというだけで、至近距離であんな速さで動かれたら、瞬間移動のようにしか思えないだろう。
力ではルーカスが上回っているようで、時折入る一撃はエルザを体ごと吹き飛ばしている。だが、器用にも壁や天井にふわりと
「っ、この!」
エルザを撃ち落とそうと、偽サテラが小さな氷柱を矢継ぎ早に飛ばす。が、先ほどよりも一段と速度を上げ、予測不可能な動きをするエルザには掠りもしない。
とはいえ、さすがに偽サテラとルーカスの二人がかりはキツイのか、エルザの方も攻め切れていない様子だ。
ルーカスがエルザの攻撃を受け止め、弾き飛ばし、距離が空いた所で偽サテラが氷柱で攻撃する。
それはある意味、先ほどの偽サテラとパックがやっていた役割分担に近いものがあり、今度はルーカスが防御、偽サテラが攻撃を担当するようになっていた。
初対面にしては優れた連携で、本来なら喜ぶべき所だが……スバルはその光景を見て、複雑な気持ちを抱いた。
お姫様のように美しい少女と、それを庇って前に立つ眉目秀麗な剣士。相対するは恐るべき暗殺者。その光景はまるで、絵画の一枚か、あるいは物語のワンシーンのようにも見える。
「……っ、何考えてんだ俺はっ」
スバルは己の胸の内に湧いた感情に気付き、拳を強く握りしめた。
ルーカスは自分の要請に応え、助けに来てくれた相手だ。先ほどのスバルの努力を認めてくれたような発言も、この異世界に来てから災難続きだったスバルにとっては、こんな場面じゃ無ければ泣きたくなるくらい嬉しい言葉だった。
……だからこそ、こんな醜い感情を向けていい相手じゃない。
「くそ……!」
頭を振って雑念を消し去る。
ロム爺は訝しげな視線を送って来たが、何も言わなかった。もしかしたら、人生経験豊かであろうこの老人は、スバルの抱いた感情を察したのかもしれない。
───嫉妬と呼ばれる、その感情に。
・カス
外面だけは寡黙でクールなイケメン。
スバル君の好感度を稼いでおきたいので、なんかそれっぽいことを言っている。内心では完全に見下しているが。
・スバル君
原作よりも湿り気が強い。
アヤマツルートに入りかけたせいか、この時点の原作スバル君よりもエミリアに対する執着心が強い。
カスには物凄く感謝してるが、それはそれとして嫉妬しちゃう。