IFルートには行くなよ!いいか、絶対だぞ!フリじゃry 作:乳圧の大罪司教
スバル君視点終わり!
誤字脱字報告、評価、感想ありがとうございます!
不定期更新なので、次回は期待しないでお待ちください!
───すっかり日が落ち、外を暗闇が支配していた頃。
盗品蔵に現れた殺人鬼、エルザとの戦いにも変化が起こりつつあった。
「素敵! 素敵よ! もっと、私を楽しませてくれると嬉しいのだけれど!」
「っ! ちぃ!」
体を
……この攻防だけを見ると互角のように見えるが、二人の姿を見ればどちらに勝敗が傾きつつあるのかは一目瞭然。
額から流れる血で片目が塞がれ、何度も斬られたせいで全身血まみれになっているルーカス。心なしか、足元がふらついているような気もする。
対して、エルザはほぼ無傷だ。何度か蹴りを受けたから打撲くらいはあるかもしれないが、剣撃はことごとく回避している。動きに支障はない様子。
確かに、ルーカスは強かった。
相手が表通りにいる衛兵程度であれば、剛剣の一撃で鎧ごと真っ二つに出来るだろう。貧民街でもっとも腕の立つ剣士、という話に噓偽りはなかった。
……ただ、エルザがそれ以上の化物だった、というだけで。
「せっかくここまで来たってのに……」
既に外は完全に夜になっている。
今までの周回で、ここまで長時間エルザ相手に生き残れたことは一度もない。ロム爺は失神しているが息はあるし、スバルも五体満足。この場にいないフェルトは言わずもがな。
スバルが誰よりも助けたいと思った、銀色の少女も、まだ生きている。
……だが、ここでルーカスが負けたら全て終わりだ。
ルーカスが殺されたら、次は偽サテラ、その次にスバルかロム爺のどちらかが殺される。そしてまた、スバルは死に戻りしてしまうだろう。
そして以降の周回で、ルーカスに会える保証はない。
ならば、今ここで諦めるわけにはいかないのだ。
スバルは考える……と、言っても、今のスバルに出来ることはほとんどない。
一瞬、ロム爺の棍棒を拾って己も加勢するかとも考えたが───これは駄目だろう。本気を出したエルザ相手では、文字通り瞬きする間に腹を斬られて犬死にするのが目に見えてる。
それに、スバルが死んだら死に戻りが発動して全てが白紙に戻ってしまう以上、気軽に命を捨てることは出来ない。
己が動いても碌な結果にはならない。
ならばと、スバルはすぐ手前にいる偽サテラを見上げる。
一度だけ、彼女は誤射してしまっている。そのせいか、魔法を撃つ構えは取っているものの、ここ数十分の間は一切魔法を撃っていない。
……あの誤射は、完全な彼女の責任とは言い難い。発射のタイミングと軌道を読んだエルザが、飛んできた氷柱に合わせてルーカスと立ち位置を入れ替え、わざと当てたことが原因。背後から放たれた魔法にノールックで反応出来た、エルザの立ち回りと先読みが巧みすぎたのだ。
普通に魔法を撃っても、最早エルザには通用しない。
それがわかっているからこそ、そして再びの誤射を恐れているからこそ偽サテラは動けないのだろう。だがそれでも、この戦いの流れを変えられるのは彼女しかいないのだ。
「そのままで聞いてくれ」
「……なに?」
スバルはエルザに気づかれないよう、ロム爺の介抱を続けているフリをしながら、こちらに背を向ける偽サテラに話しかけた。
「フェルトが援軍を連れて来るって可能性には期待したいけど、この分だと、その前にルーカスがやられると思う」
今回は長時間耐えているので、もしかしたらフェルトが援軍を連れて来る可能性はある。だが、フェルトの足なら貧民街の外に出るのはあっと言う間かもしれないが、表通りから衛兵を連れて来るのは時間がかかる筈だ。
期待は出来なくもないが、正直頼りには出来ない。
助けが間に合わない前提で動くべきだろう。
「ルーカスがやられたら、次は俺達だ」
「…………」
「この状況を変えられるのは君しかいない。……俺みたいな、初対面で怪しい奴が何言ってんだって思うかもしれないけど、頼む。今だけは、俺の言う事を信じて、協力して欲しいんだ」
偽サテラは、すぐに答えを返さなかった。
何度も周回しているスバルと違い、偽サテラにとってスバルは完全に初対面の相手だ。しかも、自身の徽章を盗んだ相手と一緒にいた。彼女からしたら、スバルはエルザとはまた違った敵に見えなくもないのだ。
だから、これは賭けだ。
分の悪い賭け───しかし、スバルはこの賭けが上手くいくと思っていた。
なぜなら、スバルは彼女のことを知っているから。
大切な徽章が盗まれたあとで、それを盗んだ相手を追いかけている途中で。無関係の役立たずを助けて、そんな奴を時間をかけて治療してやって。そのお礼も受け取らないで立ち去ろうとして。
役立たずの自己満足に付き合って、ひどい最期を迎えてしまうような。……そんな、どうしようもないお人好しだと。ナツキ・スバルは知っているから。
だから──────。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ふと外に顔を向ければ、流れていく景色があった。
もっとも、今は深夜なので景色なんてほとんど見えないのだが。
「本当に、終わったんだよな……?」
どこか気の抜けた声でつぶやく。
───ナツキ・スバルは生き残った。
誰一人として死なず、エルザを撃退するという快挙を達成して。
その立役者は今、荷台で静かに眠っている。
盗品蔵での戦いは、あの場にいた誰しもにとって予想外の結末を迎えたと言える。
スバルがエミリアに授けた起死回生の策───度重なる周回で学習した、数少ない戦闘中のエルザの隙を突く策は、半分成功、半分失敗という形に終わった。
エルザは、追い詰め、死に瀕した相手をすぐには殺さず、生きたまま腹を裂き、溢れる腸を愛でる……合理よりも、己の個人的な嗜好を優先する節があった。
ゆえに、瀕死のルーカスの腹を裂き、止めを刺そうとするタイミング。その時、エルザはほんの僅かだが気が緩むだろう。何度も何度もエルザに殺されたスバルだからこそ、その隙に気づく事が出来た。
そして策は成功した。半分だけ。
速度と精密性に特化した細い氷の矢は、エルザの両足を貫いた。細いので耐久性が足りず、エルザを拘束出来るのはほんの一瞬程度だったが、それだけあれば、ルーカスなら確実に仕留めてくれる……筈だったのが、既にルーカスは限界だった。
剣を握る力も残っていなかった彼は、最期の力を振り絞って体を張ってエルザを拘束。「今だ! やれ!」と叫んだ。───すなわち、
非常に、危うい所だったと言えよう。
エミリアは氷柱を作りつつも、発射を躊躇い、その隙にエルザはルーカスの拘束を解いてしまった。
そうならなかったのは、フェルトの援軍が間に合ったからだ。
援軍として連れてこられた彼の名は、ラインハルト・ヴァン・アストレア。燃えるような赤髪に、蒼い瞳。高身長に均整の取れたスタイルと、整った顔立ちのイケメンである。
自らを『剣聖の家系』と名乗ったその青年は、血まみれで倒れるルーカスを一瞥すると
その後は、ルーカスの治療や、フェルトの扱いについてひと悶着あったものの、最終的にはフェルトをラインハルトが連れて行き、スバルとルーカスをエミリアが連れて行くことになった。
彼がフェルトを連れて行った理由はわからないが、エミリア曰く、ラインハルトなら悪いようにはしない、とのこと。
スバルとルーカスについては、命を助けてくれたお礼ということで、エミリアが住んでいる屋敷までこの竜車(馬車ではない)に乗って向かっている途中だ。
「───本当に、終わったんだよな」
幾度もの死。幾度もの絶望。
それらを乗り越え、ようやくたどり着いた、生ある現実。その現実を受け止めるように、今度は疑問形ではなく、確認するかのように同じ言葉を繰り返した。
その言葉に返す者は、誰もいない。
御者の桃色髪のメイド少女には、聞こえていないだろう。ルーカスは多量の出血で意識を失っているし、エミリアは治癒魔法を限界まで使ったらしく、今は眠りに落ちている。
無垢な少女の寝顔を一瞥し、彼女が生きていることに安心したスバルは、ゆっくりと瞼を閉じた。少しして、荷台の中に寝息が一つ増えた。
この世界に召喚されてから、たった半日。
しかし、何度も死に戻りをしたスバルの体感では、既に数日が過ぎている。その間、スバルは一度としてまともに眠ったことはない。体はともかく、精神が限界に近かった。
───こうして、ナツキ・スバルの異世界生活初日の結末は、一応のハッピーエンドで幕を閉じたのだった。
・スバル君
やっとエルザ戦を乗り越えた原作主人公。
これからはきっと平穏な異世界生活が待っているに違いない。
・エミリアたん
お人好しのメンタル幼女系ヒロイン。
危うくカスをエルザ諸共串刺しにするところだった。おしい。
・エルザさん
本気のラインハルトにワンパンでぶっ飛ばされた。
瀕死の重傷だが、一応生きてる。
・ラインハルト
公式最強キャラ。
本来なら貧民街の近くには来ない筈だったが、今回は条件を満たしていたので来ていた模様。
我等がカスとは初対面の筈だが、何か思う所があるらしい。
・ルーカス
一章ボスにボコされたカス。
スバル君より先にエミリアたんに膝枕をされるという、許されざる大罪を犯した。