ようこそ同志、革命主義の教室へ   作:道瀬 昆那門

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第1話・悪意

 浦路(うらじ)玲人(れいと)という人間は、とにかく敷かれたレールの上を走るのが嫌いな人間だと、僕は自分をそう認識している。別に大層な理由があるわけではなく、僕のひねくれた感性が人の思い通りになってやるのを拒絶しているだけ。逆張りと言い換えてもいい。

 

 高度育成高等学校に入学しようと思ったのも、かの学校がただの普通の公立学校ではないと思ったからだ。

 

 曰く、進学率就職率は100パーセント。

 曰く、学内にはあらゆる施設がそろっている。

 曰く、絶対的な実力至上主義。

 

 素晴らしい。役人が考えたにしては実に大胆で、面白い学校だといえるだろう。

 

 しかし、しかしである。僕は根っからのひねくれものであるので、どうもこういう文言を見るといろいろ疑問がわいてしまうのである。

 

 例えば。最大の特徴であるともいえる実力至上主義。実力って、なんだ?まさかつまらないテストの点で決めるわけではないだろう。だが人の実力など自らですらわからないものだ。秘められた才能だってあるだろうし、そもそも実力を評価できるかすらわからないような才能もある。けれど、実力至上主義というからには、絶対的あるいは相対的に人と比べなければ評価できないだろう。それは果たして、正しい実力なのだろうか。

 

 進学率就職率100パーセントの保証だって、いくらでもツッコミどころがあるだろう。もし仮に成績ワースト1位がハーバード大学を志望したらどうなるのだろう。医学部を望んだら?総理大臣を望んだら?まさか素直に医学部に進学させたり総理大臣に据えたりはしないだろう。そもそもいかに国立の高等学校といえど世界に名だたるハーバード大学への進学を保証などできるはずがない。

 

 そんなことを考えていると、どうにもワクワクしてしまう。きっと僕の予想を上回る驚くような世界が待っているに違いない。実力至上主義とはなんなんだろうか。

 

 輝くような才能を持った人間を集め、それをさらに磨き上げ、まばゆい実力でもって日本を支える。そんな学校ならば決して退屈はしないだろう。

 

 僕は秀才だ。勉学も運動も、そこらの学生に負けはしない。けれど、世の中の一握りの天才には絶対に勝てない。僕はそんな天才たちが見てみたい。僕の才能を上回る天才に僕の才能を使ってほしい。

 

 そんな熱意をもって、僕は高度育成高等学校に入学した。

 

 の、だが。

 

「校舎のあちこちに監視カメラ。胡散臭いポイント制度に、回りくどくて思わせぶりな言い方しかしないい教師。やたら殺気立ってる先輩たち。ここは刑務所か何かかな?」

 

 どうみても快適なブタ箱としか思えない。まあ、普通の進学校のように当たり障りのない施設よりははるかにいい。校舎はきれいだし、寮も充実していて、ショッピングモールのような学業とは関係のない施設も数多くある。それはいい。それはいいんだが、肝心の教育システムがよくわからない。

 

 授業もわかりやすくはあるが普通で、カリキュラムに至ってはいくつかの教科が省かれてしまっている。なんなんだよ、芸術全般って。まとめるなよ、書道とか音楽とか美術とかそれぞれ科目にできるだろうに。

 

 クラスメイトを見ていても、あまり才能あふれる人間ばかりではないようだ。授業が始まってもおしゃべりをやめてなかったり、こっそりスマホを見てたり、せいぜい中堅の学校の雰囲気だ。しかも先生は注意しない。この間も明らかにスマホを見ている生徒に気づいていたのに、何も言わずに持っていたバインダーに何かを書き入れただけだった。塾講師だって注意することを、この学校は注意しない。こんな教育が、将来のエリートを育てる国立学校の教育なのか?

 

 僕はそれなりにこの学校に期待していた。きっと生徒の自主性を伸ばしたり、独創性を育てたり、そんな素晴らしい教育ができる学校なのだと。

 

 蓋を開けてみれば、そこそこの生徒にそこそこの教師、豪勢だけど中身のない施設に、適当なカリキュラム。こんな教育なら、()()()()()()()()()()じゃないかと思ってしまう。

 

 もっとも、まだ学校が始まって2週間。結論を出すのはまだ早いだろう。とはいえ、調査は必要だ。

 

 まずは意識調査といこうか。

 

 

 

 

 

 

「一之瀬。話したいことがあるんだけど、ちょっといいかい?」

 

「あ、浦路くん!どんな話かな?」

 

 一之瀬帆波。いい名前だ。僕の名前とは対極にある、豊かな実りを意味する名前の通り、きわめて優秀な人間だ。特筆すべきはコミュニケーション能力だろう。八方美人というのはまれにいるが、彼女は素の性格で人に寄り添えるやさしさや配慮というのを持っている。加えて、学年主席として入学式であいさつしていたことからもわかる通り、勉学でも優秀といえる。

 

「突然で悪いんだが、一之瀬はこの学校をどう思っている?」

 

「え?うーん……けっこう特殊な学校だよね。一人に10万円に相当するポイントを支給したり、高校なのに敷地内でなんでもそろうし……何か気づいたことでもあったのかな?」

 

「……いや、そういうわけではないんだけどね。さっきの授業で、先生がスマホをいじっている生徒を見てから、バインダーに書きつけるような動作をしていた。教室にも監視カメラがあることだし、素行はいいに越したことはない。僕よりも一之瀬から注意してくれたほうが角が立たないと思ってね」

 

「あ、ほんとだ!教室にも監視カメラがあるんだ……そうだね、私のほうからみんなに言ってみるね。忠告してくれてありがとう」

 

 たのんだ、と返して自分の席へと戻った。

 

 だめだな、これは。危機感が足りなさすぎる。たかが学生に実質10万円を渡してたり、校舎のあちこちに監視カメラをつけたりしているんだぞ。明日学校放送で『いまから皆さんには殺し合いをしてもらいます』と放送があってもおかしくないぐらいだ。

 

 だが考えてみれば、先生たちはあえて生徒がそういう警戒をしないように誘導していたようにも思える。生徒の行動を注意しないのもその一環かもしれない。あえて相手の非を見逃すのは、上げて落とすときの常套手段。僕のような性格の悪さを感じる。

 

 これはもうすこし本腰を入れて調査する必要があるかもしれない。そう思って、放課後の時間を使って学校のあちこちを歩いてみた。

 

 まずは学校の外側。僕らと俗世を妨げる壁だ。さすがに3重でもなければ高さ50メートルでもないが、生徒が外部と接触できないように工夫されている。やっぱりここ、刑務所か?

 

 ショッピングモールも、たかが高校生が生活するにしてはあまりに過剰な品揃えだ。本屋ならまだわかるが、すこし覗いてみた電気屋には50万ポイントもするハイスペックPCまで置いてあった。ゲーミングPCというものだろうか。少なくとも普通の高校生が買うようなものではない。

 

 敷地を歩き回って気づいたが、監視カメラはどれもかなり大型で見つけやすいものばかりだった。明らかに抑止力として機能させようという狙いがあるとわかる。だけど、わかりやすい監視カメラばかりということは、逆に言えばカメラがない場所もわかりやすいということになる。学校側がそれを理解していないはずがないのだけど、死角になるような場所に全くカメラがなかった場所もそこそこある。それもプライバシーなどに配慮しなくてもいい場所でもだ。あえてカメラをつけていない悪意のようなものを感じる。

 

 最後は校舎を見てみようと、僕は2年生と3年生の教室へと向かった。結果から言えば、そこで一番の収穫を得ることができた。

 

「人数が減っている……しかもDクラスほどそれが顕著だ」

 

 3年生の教室をのぞいてみると、1年生よりもずっと並べられた椅子と机の数が少なかった。ますますデスゲーム疑惑が浮上してきた。運営によるデスゲームではなく、生徒の間で退学をかけての決闘が流行った可能性も――あるわけないか。

 

「そこのお前。ここは3年のフロアだ。ここで何をしている」

 

 まさに威風堂々といった声に振り替えると、一組の男女が後ろに立っていた。

 

 しっかりと筋肉のついた体格のいい男子生徒。穏やかにほほ笑む女子生徒。おそらく、どちらも3年生だろう。

 

「校舎内の見学を。お二人は3年生でしょうか?」

 

「そうだ。だが、お前は何のために校舎を見学している?」

 

 僕は内心辟易した。こういう弾丸のように質問を連発してくる手合いは何を言っても自分が納得しない限りは手を緩めない。面倒くさい人に絡まれたものだ。

 

「気分ですよ、気分。教室で自習をしていたらすこし疲れたので、気分転換に散歩でもと思いまして」

 

 さて、どうでるか。

 

「そうか。だが廊下から教室を覗き込みながら歩いていると、何かを物色していると疑われるぞ。それとも、本当に探し物でもしていたか?」

 

 うえぇ、探りを入れてきたな。僕はこういう腹の探り合いが嫌いだ。ただまあ、正直なことを話すのも癪にさわる。

 

 さあ、どう答えたものかな。




浦路玲人→うらじ・れいと→うらじ・れいにん→ウラジ〇○○・レー〇〇
はて、誰だろう(すっとぼけ)?

玲人君の名前の由来は
何もない→ゼロの人→零人→玲人
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