ようこそ同志、革命主義の教室へ   作:道瀬 昆那門

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第3話・答え合わせ

 さて、とうとう答え合わせの日がやってきた。今日は新たに今月のポイントが振り込まれる日だ。今日1日が、僕の学校生活を大きく左右する運命の日といってもいいだろう。

 

 まず、端末から振り込まれた金額を確認する。ポイント情報の画面も、いまやすっかり慣れてしまったなと思いながら、表示を切り替える。

 

 結果は、およそ7万8千ポイントの増加。やはり10万ポイントは支給されなかった。

 

 この結果をどう考えるか。僕は、なんとなくではあるが、10万ポイントはもらえないにしてもそれに近い金額は確保できるのではとも考えていた。自画自賛というわけではないが、僕の素行にケチはついていないはずだ。授業中に私語をしたりスマホを使ったりしていないし、成績も悪くない。入試の時と違って全力を出したから、この間の小テストも満点だったはず。あの数問だけが異常に難しいテストは作り手からの悪意を感じたけど。

 

 もちろん、僕の考察通り、基本額のポイント+加点ポイントが支給された可能性もある。ただ、それにしては金額が大きすぎる。学校側としては基本額はなるべく低く抑えたいはずだし、僕らは学校側から加点されるような試験を受けていない。あの小テストは成績には反映されないという話だったから、ポイントには影響しないはずだ。あの担任の話を信じるのであれば、だけど。

 

 嫌な予感がする。大体こういう時は、何かを見逃している時だ。

 

 考えろ、浦路零人。お前なら、この学校をどうやって管理する?予算は有限、その中でポイントを使って生徒の実力を測り、格付けし、飴と鞭として用いるにはどうする。ポイントの活用がこの学校の本質であるならば、それと実力主義がどう関係するかがカギになるはずだ。

 

 いや、違う。発想の方向が間違っているのかもしれない。おそらくこの学校は、頭がいいだけのただのバカか、自分を優秀だと思っているバカが作らせた学校だ。まっとうな教育をやろうと思っている人間が作ったならば、初日に10万も与えて放置なんてしないはずだ。僕なら初日のオリエンテーションでポイントの運用について戦略を立てるよう誘導する。

 

 ん?放置?

 

 一瞬、その言葉が頭のどこかに引っかかった。

 

 そうだ、僕たちは放置されている……それが単なる放し飼いではないとするなら、僕たちはモルモット?論理が飛躍しているかもしれないけど、新しい教育論のための環境としてこの学校があり、僕らはそこに放たれたモルモットと考えれば、外界から隔絶されながらもあらゆる施設がそろえられていることに納得がいく。

 

 だけどそれは、どこかが変だ。うまく言語化できないけど、何かが違う。教育論といういわばマクロな視点で考えなければならない実験で、各々の実力というミクロ的な視点を重視するのはおかしい。本来重視するならば、一人一人の個性や特性のデータではなく、平均的な能力を――

 

「そうだ、平均だよ……ッ!」

 

 個人の実力のばらつきをクラス単位で平均化すれば、全体的なデータをとることができる。つまり、ポイントの支給はクラスごとに行われる可能性がある。

 

 なんで今の今まで思いつかなかったんだろう。一番最初にたどり着くべき発想だった。確かにA組は全体的に素行がよく、反対にC組やD組は素行が悪かった。そして僕らB組は没個性な普通の人間が集まったクラスだ。実験のために成績がグラデーションになるよう組み分けしたと考えればつじつまが合う。だけどそれじゃあ、入試なんてあってないようなものじゃ……

 

 うん、あってないようなものなんだろうな。おそらく、単純な成績順ではないだろうから、優秀な成績の受験生でも落とされただろうし、逆に国立のエリート校に入るべきではないような人間まで受かったんだろう。主席合格の一之瀬がなぜかBクラスにいるあたり、成績評価には謎が残るとはいえ、実力主義を謳いながら実力以外の部分を合否判定に持ち込んでいるのは確かだ。

 

 かわいそうに……真面目に勉強した受験生があまりに不憫だ。この学校にはクソのような嫌な臭いがしていたが、真実クソの山だったことが明らかになったというわけか。国を背負って立つエリートを育てる学校がなんの理念も信念もない詐欺学校とは、日本の未来もいよいよって感じだ。

 

 ともあれ、学校側からの答え合わせを聞かない限りは断言はできないものの、クラス内の実力を平均した結果がポイントに関係し、クラス全員に一律のポイント支給が行われるのは確実だと思われる。10万ポイントからの減点方式なら、すこし私語やスマホいじりをしていた人がいたBクラスの支給額として妥当といえる。

 

 うーん、ポイントに関してはそれだけじゃないような気もするけど、これ以上は考えるより答えを聞いたほうがよさそうだ。時刻もちょうど登校時間だ。

 

 部屋を出る前に、あらかじめ準備しておいた質問状にいくつか追加の質問を加えたものをチャットアプリで会長に送りつけておく。なぜかあの先輩とは偶然顔を合わせることが多く、せっかくだから連絡先をもらっておいたのが役に立った。

 

 さあ、答え合わせの会場へ向かおうじゃないか。

 

 

 

********************************************

 

 登校する間も、1年と思われる生徒が真剣な顔で、あるいは悲壮な顔でポイントについて話し合っていた。当然Bクラスのクラスメイト達も、口々にポイントの支給額について話し合っている。

 

 支給額への文句や残りのポイントが足りないみたいな愚痴ではなく考察を話し合っているあたりが、Bクラスといったところか。途中で見かけたDクラスの生徒なんて、頭に脳みそが詰まっていないのかと思うほどひどい楽観主義だったからな。

 

「おはよう、浦路くん。ちょっと聞きたいんだけど、浦路君のポイントって、いくら振り込まれたかな?」

 

 以前監視カメラの件を話してから、一之瀬とは時々クラスや学校の話をするようになった。多分、監視カメラやクラスメイトの素行とポイントが関係しているかどうかが気になるところだろう。

 

「7万8千4百だね。一之瀬さんも同じだったんじゃない?」

 

「うん。10万ポイントじゃないんだね。やっぱり、毎月10万なんてうまい話はないよね…」

 

 それがわかっているならなぜ、とは思う。ポイントの支給について調べるなり学校中に張り巡らせた監視カメラの意味を考えるなりすればいいのに。

 

 もっとも、かくいう僕だって後手に回った行動しかしていないのだから、偉そうに高説を垂れる立場ではないけれど。

 

「はーい、みんなおはよー!HR始めるから、席についてねー」

 

 タイミングよく、星之宮が教室のドアを開けて入ってきた。さすがにこの重要な日まで二日酔いではないようだ。ざわつきながらも、クラスメイトたちは各々の席に着く。

 

「今からHR始めるけど――質問があるなら、答えるよ」

 

 一之瀬が手を上げようとする、それよりも早く。僕の手が上がった。

 

「星之宮先生。2週間前の質問に、改めて答えてもらえますか?」

 

 クラスは訝しげな雰囲気だが、星之宮はなぜか嬉しそうな笑みを浮かべながらうなづいた。

 

「うんうん、そういう約束だったね。浦路君の質問は、『ポイントは毎月支給額が変わるか』、『ポイントの支給額は試験等の結果からわかる実力に基づいて変動するか』だったね。答えは、イエス。大正解だね」

 

 これで第一の考察は正しかったことが分かった。周囲の反応は、驚き、関心、興味といったところか。このまま関心と興味を持ってもらえるかが今後の方針にかかわってくる。そのためには、一之瀬だけが注目されるのは避けなければならない。

 

 間髪を入れず、次の質問に移る。

 

「では、ポイントの支給額の変動はクラス単位ですか?」

 

「そうだね。今からそれについて説明するね」

 

 星之宮は黒板に向かってクラス名と数字を書き付けた。

 

Aクラス 867

Bクラス 784

Cクラス 450

Dクラス 0

 

「今書いた数字が、クラスポイントといって、クラスごとの評価になるよ。みんなが持っているポイントはプライベートポイントといって、クラスポイントを100倍したポイントが毎月初めに振り込まれるの。これが、この学校のSシステムだね」

 

 ポイントに関しては、僕の考察はだいたい合っていた。クラスごとのポイント支給に気づいていればもう少し事前に対策をとることができたけれど、最悪は避けられたと考えて妥協するしかないだろうな。まったく、実力主義の言葉から個人評価を連想してしまったのがよくなかった。思考の固定概念がどんなに恐ろしいかを久しぶりに体感したよ。

 

「ポイントに関して、他に質問はあるかな?」

 

「はい。私たちのクラスポイントが減った理由はなんですか?」

 

「規則で細かい評価の内訳を教えることはできないけど、授業中の私語やスマホいじりはしちゃいけないってみんなわかっているよね?これまで小学校や中学校で教わってきたことだから、先生方もいちいち注意はしないし、この学校はそういうところを含めてみんなの実力を測っているってことだけ伝えておくよ」

 

 一之瀬が暮らすポイントが減った理由について聞いていたけど、もうクラスメイトたちもなんとなく答えを想像していたのだろう。そのあとの星之宮の返答にも、納得の表情を見せていた。

 

「あ、あともう一つ重要なことなんだけど、進学・就職率100%が保証されるのはAクラスだけだから、Aクラスに上がれるようみんな頑張ってね」

 

 けれど、星之宮の次の発言に、クラスに激震が走った。

 

 気持ちはわかる。僕の内心もまた、『え?何言っているのこの人?』だ。

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