ようこそ同志、革命主義の教室へ   作:道瀬 昆那門

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Bクラスって、平凡だとかお人よしクラスだとか馬鹿にされることが多いような気がしますが、社会で一番貢献しているのって、Bクラスのような人たちだと思います

今回アンチ・ヘイト強めです



第4話・詭弁

「ちょっと、ちょっと待ってください!クラス対抗でポイントの獲得競争をするのはわかります。ですが進路の保証がAクラスだけとはどういう意味だ!」

 

 まさか、という思いがあった。まさかそんな馬鹿なことはあるまいと、そう考えてしまう僕は断じて特異ではないはずだ。クラスメイトたちもまた、驚きをあらわにしている。けれど、胸のどこかで空虚な失望感とともに、この学校ならばありえないことでもないだろうとも思えてしまっていた。

 

「どういうもなにも、最初に言った通り、この学校は実力主義ってことだよ。みんなは学年の中でも優秀なほうだけど、遅刻や授業中の私語やスマホいじりだってしていたよね。この学校に入れたからと言って、毎月10万ポイントがもらえて進路も保証されるなんてうまい話はないよ。実力に見合った評価と報酬しかもらえないのは、社会人なら当然のことだからね」

 

 星之宮の発言は、おそらく学校側のスタンスそのものだろう。我々はもっとも優秀なものにしかその報酬を渡すつもりはない、と。

 

 だが、しかし、だからといって。そんな、そんなことがまかり通っていいものか!

 

「先生、それならばなぜ減点されたときに注意してくれなかったのですか」

 

「授業中におしゃべりをしてはいけないなんて、小学生でもわかることだよね。高校生にもなって、わざわざ注意されないと直せないなんて甘えじゃないかな。それと、細かい減点の基準とかは一切教えられないからね。実際の企業でも、考査の判断基準とかは知らされないのが普通だから」

 

 いつも無口な神崎君が珍しく発言したが、星之宮の返事は取り付く島もない。

 

「なるほどなるほど。確かにこの社会ではその通りですね。社会人ならばしかるべき場所では私語やスマホいじりを慎み、遅刻や欠席をせず、考査の結果を受け入れるべきです。社会人ならね」

 

 突然立ち上がって声を張り上げている僕を、クラスメイト達が訝し気に見ているのを感じる。おそらく、彼らはただこの目の前にいる教師モドキのいう言葉を素直に受け止め、信じ込んで切るのだろう。質問した神崎君でさえ、納得の表情を見せていた。

 

 だが、僕は納得なんてしてやらない。断じて、受け入れることなどできない。今になってようやくわかった。この学校の本質は悪意だ。

 

 おそらく奴らは教育なんてするつもりはない。奴らがやりたいのは育成。その二つは似て非なるものだ。彼らが育成のために選んだ手段は、試練だ。上から目線の試練を与え、お互いに争わせ、罰と餌を与えて勝手に育つのを待つ。それがこの学校だ。神にでもなったつもりか。あまりに傲慢、それ以外の言葉が見つからない!しかも進路保証はAクラスのみだと?詐欺そのものだ。どうせ全員の進路を保証するとは言っていないとでも言い訳するのだろうな!これを悪意と呼ばずして何と呼ぶ!

 

「けれど、僕らは学生です。社会人じゃない。間違いもするし、わからないこともある。それを正し、導くのが教師の仕事でしょう。ねえ、星之宮先生。あなた、なんのためにここにいるんですか?」

 

 問いかけられた星之宮の顔に浮かぶのは、疑問の表情。それもすぐ薄っぺらい微笑みが上書きする。

 

「どういう意味かな?」

 

「どういうもなにも、そのままの意味ですよ。あなた、何のために教壇に立っているんですか?今時、授業なんて無料動画サイトでもそれなりの品質のものを受けられます。なんなら塾に行けばカリスマ講師の映像授業だって受けられる。わざわざ教員免許をとった人間からじゃなくても学ぶことはできます。そして、学校の説明をするのも、教員免許を持っている必要はない。なんならそこら辺にいる普通の人を連れてきても、今先生が説明してくれたことを同じように説明してくれるでしょう。加えて、監視カメラ越しに授業態度をチェックするなんて業務、教師・講師である必要すらない。結論から言えば、あなたが立っている場所に教師でない人がいても支障なんてないはずです。じゃあ、なんで先生方は教員免状なんてものを持っているんでしょうね?」

 

「それは――」

 

「生徒を教え導くためだろうが!」

 

 突然の怒声に全員が肩を跳ねさせている。正直、多少の演技はしている。この後のことを考えれば、どうしても必要なことだからだ。けれど、僕のこの感情は。怒りは本物だ。僕は本心から怒り、憂いている。

 

「僕らは未熟だ。だから高校に来ている。まだ大人にはなれないから、だからこそ教師が教え導く。勉強だけでなく、礼儀や常識を教える。人間関係の問題があるから、あるいは進路や自分自身の未来について悩むから、まだ社会の一員になれないから、だからこそ教師はそれを教えるんだろうが!単なる勉強は塾でもできる。でもそういうことは、塾でも動画サイトでも教えてもらえないから、だから高校があるんだろうに!」

 

 星之宮の顔は能面のようになんの感情も映していない。僕の叫びは、きっと届いていない。でもかまわない。僕が本当に訴えたいのは、もはや手遅れの学校ではなく、こんな場所に入学してしまったBクラスの同志諸君だから。

 

「それを、その仕事をあなた方は放棄した。その報いが、あなた方に追いつくのを待っていますよ」

 

 僕は失望している。日本を担うエリートと会って、彼らの輝きを見るのが僕の最初の目的だった。だがこんなクソみたいな学校でそんな理想が育つわけがない。どうせ信念も理念もない勝っていればそれでいいような人間ばかりがのし上がる地獄みたいな光景がそう遠くないうちに見えてくるだろう。

 

 そんな連中が日本の未来を創るだと?笑止千万極まりない。そういうやつらは自分自身の勝利にこだわって他を切り捨てるか、あるいは政治闘争に明け暮れて本質を見失うか。どの道まともな人間など育つわけがない。

 

 もはや僕にとってこの学校にいる意味などない。さっさと退学するのも手ではある。ただそれはまるで尻尾を巻いて逃げ出すようで嫌だ。どうせやめるならこのクソみたいな学校に最大限の嫌がらせを仕掛けて辞めてやる。

 

 僕は今ここで僕自身に誓おう。必ず、この学校に反逆の一矢を打ち込んで見せると。

 

「……他に質問したい人はいるかな?いないみたいだね。じゃあ最後に、この間の小テストの結果を張り出して終わりにするね」

 

 僕が席に座る前に、そして誰かが手を挙げる前に星之宮はさっさとこの質疑応答を切り上げて次の話題を持ち出した。

 

 星之宮が黒板に張り出したのは前回の小テストの結果だろう。探すまでもなく上から2番目に僕の名前がある。一之瀬と同様、100点だ。名前の順の都合とはいえ、2番目なのはすこし悔しいが、そこに文句を言っても仕方がないことだ。

 

「浦路。あのテストを満点とはすごいな」

 

 隣の神崎君がほめてくれる。まあ表情がどちらかというと警戒しているので、さっきの発言と併せてよくわからないやつとでも思われているのかもしれない。

 

「ありがとう。神崎君も85点ってことは、あの3問以外は満点なんだ」

 

「ああ。それにしても、あの問題をよく解けたな。高校1年生に解かせる難易度ではないと思ったが」

 

 それは確かにそうだ。ということは、今回の小テストには何らかの事情がある。この学校はそういうところに伏線というか、何らかの意味を持たせたがる。無意味に難しくしたわけではないだろうな。ほかの問題をあれだけ簡単にしておいて、まさか満点阻止問題というわけでもないだろうし。

 

「みんな比較的よくできていたね。先生うれしー!」

 

 星之宮がテンションを高くしてそう言うが、クラスメイト達の表情は硬いままだ。いい気味だ。

 

「小テストの赤点は39点だったよ。小テストは成績評価とは別だから、今回はペナルティはないけど、次の中間テストで1教科でも赤点を取ったら退学だから」

 

 もう、なんというか……教育ってなんだっけって感じだ。優秀な生徒は自分でも学んで成績を上げることができる。逆に赤点とった生徒を指導するのが教師の仕事だろうが。

 

 もっとも、僕の目的を考えると、この学校がクソのクズのほうがやりやすい。学校が理不尽を課せば課すほど、それによって不信感が高まれば高まるほど煽りやすくなる。

 

 人は不満があるとそのはけ口を求めるものだ。気に食わないものや敵を探し、自分の中で正当化しようとする。その状態であれば、比較的人心を操作しやすい。加えて言えば、共通の敵と共通の不満は結束力を高めてくれる。僕が思い描く理想の未来のために、学校側が『悪』であってくれたほうが都合がいいのだ。

 

 皮肉なことに、僕流の人心掌握術において最も重要な『敵』に関して、心配する必要はないだろう。きっと学校は一貫した『悪』であり続けるだろうから。

 

「このことに関して質問はあるかな?」

 

「はい、赤点の算出方法はなんですか?」

 

 聞こうと思っていたことを一之瀬が聞いてくれた。

 

「平均点を2で割った点数が赤点になるよ。だから今回のみんなの平均点は78点ってことになるね」

 

 つまり、今後も50点以上を取り続ければ赤点の心配はないということでもある。もちろん、次の次の試験の赤点の算出方法が同じであればだが。あと、実は上限は100点ではありませんでしたとかいうクソテストじゃなければ、だな。なんかありそうで嫌なんだよな、この学校。

 

「今度のテストから赤点を取ったら退学になるけど、みんなが赤点を取ることはないと先生は確信してるからね!ほかに質問はないかな?ないならホームルームを終わりにするよ。もし追加の質問があったら職員室か、保健室に来てくれれば対応するよ」

 

 星之宮はそう言うと教室を出て行った。すぐに教室は騒がしくなるだろう。その前に、やるべきことがある。

 

「みんな!少し僕の話を聞いてほしい!」

 

 今日一日が勝負だ。今日でBクラスの意識を変え、僕の存在を強調し、学校への不信感を植え付ける。そのうえで、学校に立ち向かうという共通の目的を刷り込む。それができれば、このクラスは学年で最も強い武器を手に入れることができるだろう。




零人君は一之瀬と同様、人の感情の機微を読み取る洞察力やコミュニケーション能力に優れています。もっというと、扇動能力に優れています。(イメージした人物からして当然ではありますが)これまではあまり活動していないので、クラスメイトからはどちらかというと無口だと思われています。
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