一度書いた「黒い砂漠」の改訂版です。
悪な生徒って少ないと思い書き始めました。主人公はかなりクズです。
先輩は死んだ。前から苦手意識を持っていたのだか、それでも安堵を覚えたことに少し罪悪感が湧いた。同級生が逮捕された。彼女のしでかしたことを考えれば、二度と日の目を拝むことはないだろう。あぁ、どうして社会はこんなにも私たちに厳しいのだろうか。どうして社会は、あんな醜悪な存在に微笑むののだろうか。私たちが子供だからか?彼らが大人だからか?
ーーなら私も大人になればいいのか?
(本当にどうすればよかったのか…)
クロノススクールの新聞を読み、もはやひとりだけとなってしまった生徒会室で、私はため息をつく。
このアビドス高等学校に入学してからはや1年が経つ。微妙に頭が足りない楽観的だが、誰よりも真剣にアビドスの復興に尽力し、そして校内———といっても在校生は3名だけであったが———で最も存在感とカリスマに溢れていた先輩。ギヴォトスでも類を見ない強さを見せつけ、先輩とは違い現実的な視点を持っているが、いまいち自分持つ力の本質的な使い方を理解していないあいつ。今一度彼女らとの日々を思い返してみる。
砂漠で死にかけていたところを保護してもらい、当時の私がどこの学園にも所属していないことを知るや否や、先輩はアビドス高校への編入を薦めた。あいつは私を編入させることに反対であったようだが、最終的に先輩の推しに負けて編入を認めてくれた。
編入して、私がとんだ泥舟に乗り込んでしまったことに気づいた。天文学的な借金の存在や土地は借金の形でほとんど売り飛ばしていること、今も定期的アビドスを襲っている砂嵐の影響で、地元産業は死滅していること。借金を返済するためには税金を取り立てなくてはいけないが、ネフティスをはじめ地元企業らのアビドスからの撤退で招いた産業構造の崩壊により、アビドス高校は充分な歳入はない。唯一の救いは、地元産業崩壊と共に治安も崩壊したため、アビドス自治区内に賞金首などの犯罪者が出没するようになったことである。つまり学園としては行政・経済・治安全てが最悪最底辺である。
そんな最低な学校での日々も本当に碌でもないものであった。一緒に署名活動や賞金首稼ぎ、はたまた他銀行からの融資を得ようと、彼女らといっしょに毎日毎日無駄な悪あがきを続けていた。利子の返済だけでも手一杯で、いくら返してもまるで減る様子のないアビドスの借金。企業がアビドスから撤退したことがそもそもの詰みで、もはや学園に真っ当な手段で返済する方法はない。まるで水中洞窟で迷子になり、少しずつ減る酸素を気にしながら出口を探すような気持ちであった。
———いや、それは言い過ぎだ。今のはただ、どうしようもない状況から、ただ身近にいる人に八つ当たりしたかっただ。彼女たちとの日々が焦燥に駆られるものだったのは確かだが、そんな感情を感じることなどむしろ少なかったではないか。。明日も食えるかという不安を抱えながら硬い地面の上で横たわり、自分以外が者が何も信じられない、まさに安寧とは対極なあの頃と比べれば、アビドス高校での生活は天国であった。たとえ借金が解決しなくても、利子を返すだけで初めて送れた人並みの生活を続けられるのなら、私には十分意味ある活動であったと思う。しかし、あいつや先輩はそうではなかっただろう。
残念ながら私の安寧の日々は、すでに過去のものになっている。きっかけは先輩の失踪だ。いやもっと前のことだつたかもしれない。あいつが先輩の見せてきたポスターを破り捨てたことがあった。あいつが前々から不満を溜め込んでいたことは気づいていたのだが、私は放置していた。先輩は生徒会長としての普段の行いに少々無責任なところがあるとは前々から思っていたのである。だからこそ、あいつのそんな凶行に走ったことも理解できるし、だからこそ先輩が砂漠で脱水症状で死亡したと聞いたとき、私は———なんて間の悪いことを!———世界に呪詛を吐いたのである。
ポスター破りが間接的に先輩を死に誘っとしても、砂漠を横断するのにコンパスを忘れて遭難、そしてそのまま死亡というのは、自業自得で擁護しようがない、なんて呆気ない最期なのだと思った、だかあいつはそうは考えなかったようだ。全部自分のせいだと、自分がポスターを破らなかったらユメ先輩は死なずに済んだと。的外れなで、はっきり言ってめんどくさい、そんな思考の迷路に陥った。そして私は彼女を上手に慰めたり、考え方に一石投じたりする、気の利いた言葉を投げかけれなかった。こんなときに先輩がいればと思った。先輩は善人すぎた。人を容易に信じて騙され、よく面倒ごとに巻き込まれ、時に頼りないところもあるったが、抜群な包容力と社交性でもって、アビドスの精神的な支えであった。あんな人に慈しみを持ったことがなさそうなあいつでさえ、見事に丸め込んで見せたのである。間違いなく生徒会長としての器があったのだ。私も愚かだ。今更死んで先輩のありがたみに気がつくなんて。
もはやなりふり構ってられない。私も所詮は口だけの人間だ。この微睡の中で堕落しきってしまっていた人間だ。だからこそ進まなくてはならない。私は決して歩みを止めてはいけない。これは決して、死んだ先輩の思いだとか、停学中のあいつに居場所を残してやるためだとかではない。彼女たちを見捨てた社会、彼女たちちもたらした残酷な運命、彼女たちに晒した大人の悪意、そしてそもそも自分の思い通りにいかない世界に対する怒り、この逆上した気持ちを整理するために進むのである。もはや手段は選ばない、たとえ無関係な生徒が巻き込まれようと、私は気にしない。これから起こすことは、最後のアビドス高等学校の生徒として贈る、大人の悪意と砂嵐に翻弄されて死んだ先輩と、今では史上最悪のテロ事件の主犯として矯正局にぶち込まれ、おそらくアビドス高等学校に帰って来ることがないあいつに対する手向けである。
多発するヘルメット団による襲撃への対処やカイザーに借りてしまった9億の借金返済の目処はついている。あとはそれを具体的に煮詰め、実行するだけである。大丈夫、昔散々やってきたことではないか。もう「普通」の生活は無理だろうが、今更惜しむことはない。覚悟はすでにしている。
彼女は新聞を置いて立ち上がり、資料保管室へと向かう。彼女が置いた新聞の見出しには「D.U.に同時多発テロ」「サンクトゥムタワーにハイジャック機突入」「現 連邦生徒長行方不明」と書かれていた。