昼下がりのトリニティ総合学園。
正義と秩序を重んじるこの学び舎の空気は、表面だけを見れば実に穏やかだ。
──もっとも、その裏にはお淑やかさと笑顔で塗り固められた牽制や見下しが渦巻いているのだが。
華園玲華は、その「裏」をよく知っている。
今日もまた、教室の片隅で聞こえてきたひそひそ声に耳を傾け、机上の本を閉じた。
「ねぇ聞いた? あの子、ナギサ様に褒められたんだって」
「へぇ〜、どうせ媚び売っただけでしょ。」
特定の生徒を貶める声。
胸の奥に、ちりちりとした熱が広がる。
だが玲華は微笑みを崩さない。
口元に手を添え、優雅に首を傾げながら──
(ったく。どいつもこいつもクッソくだらねぇことばっかしやがって。)
席を立とうとしたそのとき、別の生徒が声をかけてきた。
「華園さん、制服に埃が……。あら、もしかして制服もろくに洗えないくらい貧乏なのかしら?」
わざとらしい笑み。玲華の頬の筋肉がぴくりと震える。
「……ご指摘、痛み入りますわ」
完璧な笑顔。
だが瞳の奥は、冷たい炎を宿し始めていた。
廊下に出れば、今度は部活勧誘の嵐だ。
「華園さん、茶道部はどう?」「いえいえ、ぜひ演劇部へ!」
何度断っても食い下がる相手に、喉まで「無理だって言ってんだろ!」が込み上げる。
(……ったく。ここはトリニティ。派閥争いが絶えないクソみたいな学校。そんな所で部活に入らねーと周りがどう思うかなんてのは分かってんだよ)
内心は毒づきながらも、口から出るのは上品な「ごめんあそばせ」。
それでも足取りはやや荒くなっていた。
今日はもう散々だ──。
せめて早くヒフミに会って癒やされたい。
そう思い、足を早めたその時だった。
視界の端に、数人の「お嬢様」たちが見えた。
その輪の中心で、小柄なモブ生徒が怯えたように立ち尽くしている。
押し付けられる埃だらけの雑巾。
吐き捨てられる皮肉。
──ぷつん。
「……おい」
玲華の声が低くなる。
瞬間、お淑やかな仮面が砕け落ちた。
「クソが…死ねよ。…マジで」
制服の上着を脱ぎ捨て、長い髪をひとまとめに結い上げる。
次の瞬間には、取り囲んでいた「お嬢様」たちが、まるで嵐に巻き込まれたように吹き飛んでいた。
メイスは持っていなかったが、拳と脚、それだけで十分だった。
静まり返る廊下。
怯えていたモブ生徒にだけ、玲華はふっと柔らかく笑みを向ける。
「……大丈夫ですわ。ほら、立てますか?」
声色はもう、お淑やかに戻っていた。
その豹変ぶりを見たモブ生徒は…
性癖が壊れた
性癖が壊れた。大事なことなので二回言った。
ん、大事なことなので三回言う。
性癖が壊れた