ある日の放課後。
華園玲華と阿慈谷ヒフミは、学園近くのカフェで向かい合っていた。
白いレースのカーテンから差し込む陽光と、ほのかな焙煎の香り。
玲華はスプーンを揺らしながら、隣のヒフミを横目で見た。
「ふぅ……やっと今日も終わったぜ」
「お疲れさまです。玲華ちゃん、また部活の勧誘ですか?」
「ああ……何度断ったら諦めるんだろうな?あいつら。……まぁ、お前とこうしてお茶できるだけで、疲れも吹っ飛ぶわ。」
そう言いながら、玲華は椅子をずるりと近づけ、ヒフミの肩に軽くもたれる。
お嬢様然とした立ち居振る舞いを忘れ、幼馴染みにだけ許された距離感で甘える。
ヒフミは驚きもしない。幼い頃からの付き合いだ。
不良に絡まれれば真っ先に助けに来てくれるし、ヒフミの趣味──ブラックマーケットでモモフレンズグッズ探し──にも付き合ってくれる。
(中身はさておき、ガワだけは)完璧なお嬢様が、こんな風に素を見せるのはヒフミにだけだ。
ヒフミの胸中に、独占欲めいた感情が芽生えないはずがない。
玲華もそれを知ってか知らずか紅茶を口に運び、優雅にため息をつく。
「……お前の隣が一番落ち着つくわ」
「ふふ、もっと甘えてもいいんですよ」
「……そか、ならもう少しだけ」
そんなやり取りを交わしながら、二人は軽食をつまむ。
クロワッサンのバターがほどよく溶け、ジャムの甘酸っぱさが口いっぱいに広がる──至福の時間。
……そのはずだった。
ガシャァンッ!!
突如響く破砕音に、二人の視線が入り口へ向く。
そこには、食欲と破壊衝動を兼ね備えた面々──美食研究部が目の前で暴れていた。
「うわぁ……」ヒフミの声が引きつる。
近くのテーブルをなぎ倒し、クロワッサンも紅茶も空中へ飛んだ。
玲華は咄嗟にヒフミを抱き寄せ、背中で破片から庇う。
幸いヒフミに怪我はないようだ。
だが──
軽食が吹き飛んだこと。
自分の至福の時間が一瞬で終わったこと。
そして、ヒフミが怪我をしかけたこと。
……ぷつん。
「……おい」
低く、鋭い声が店内を刺す。
玲華は椅子を蹴って立ち上がり、制服の上着を脱ぎ捨てた。
金色の髪をひとまとめに結い上げ、その瞳は氷のように冷たい。
「おい、テメェら……美食屋やらなんやらしらねーけどよ。…あんま調子のんなやっ!」
次の瞬間、玲華の姿が掻き消えた。
一歩踏み込むごとに床板が鳴り、美食研究部員が一人、また一人と吹き飛んでいく。
テーブルを盾にしようとした部員も、カウンターの影に隠れた部員も、容赦なく引きずり出され、叩き伏せられた。
武器は一切なし。それでも反撃の隙すら与えない。
数十秒後──
店内は静寂を取り戻し、立っているのは玲華と、玲華に怪我はないか確認してるヒフミだけだった。
「……はぁ、せっかくのクロワッサンが」
「玲華ちゃんっ怪我はないですか?!」
その言葉に、玲華は少しだけ口元を緩めた。
ヒフミの髪を優しく撫でて今日一の笑顔でこう言った。
「ふっ。…怪我なんてしねぇーよ。」
店を出た二人の背後で、美食研究部たちが逃げる音が微かに響いていたが──玲華は一切振り返らなかった。