プロローグ
『あぁ…綺麗な青空だな。』
僕が君の肩を支えたとき、君は血を吐きながらそう言ったんだ。
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朦朧とする意識の中、僕は色とりどりのネオンが光る、なんだか落ち着かない部屋で目が覚めた。どうやら、僕は床で寝ていたようだ。それなのに、体は全く痛くない。
覚束ない意識の中、偉そうに足を組んで椅子に座っている誰かが僕のことを見下ろしていた。
何かを言っているみたいだけれど、よく聞き取ることができない。
何とか意識を取り戻してきたころ、その人も僕の意識がはっきりしてきたことに気が付いたみたいだった。
何が何だかわからない僕に、その人は椅子をちょっと回転させ、僕の顔を覗き込んできた。
『…覚えてる?性別。お前の。』
『えっ…?』
急に何…誰?
きょとんとしている僕を横目に、その人は溜息を吐いて微笑んだ。
『ま、いいだろ…お前は男。いい?間違っても髪型ロングにしようと思うなよ。』
『え…っと、その…』
『じゃあ次。お前、名前は?』
名前。知らないはずがない。
…名前?
そう考えた瞬間、背筋に寒気が走った。何もわからないんだ。
自分はなぜ今ここに居るのか、何故倒れていたのか。そして…僕は何者なのか?
意識は戻って来たものの、記憶という記憶がまっさらだ。全部、ぜんぶ。自分は誰?何でこの人はずっと近くにいた?何でそんなことを聞いてくるんだ…?
そんな疑問を頭の中へと直接一蹴するかのように、その人は笑って答えた。
『ははっ。分からないか…ならそれでいい。俺が適当に名前を決めるから。』
『お前の名前は…』
よくわからないけど、この人に決めさせてはいけない気がする。
そう思って、僕はとっさに考えた。何か適当な名前…
『…あ、アムネジア…です。』
『…アムネジアぁ?な訳ねーだろ。ダサい名前だな。』
その人は僕の方を見下すような視線を向け、はっと鼻で笑った。酷い人だなぁ。何この人。
『んーと、それじゃ…』
『セルマ。』
その人は、僕のことをびしっと指さし、ドヤ顔をした。
一瞬何のことかわからなかったけど、直ぐに僕の名前を勝手に決められたってことに気が付いた。
『お前の名前はセルマだ。いいかいセルマ?わかったら返事をするんだよ…なんてな。』
色々と意味が解らないことが多い。この状況にも、その人にも、自分のことにも。
そんな疑問をすでに見抜いていたかのように、さっきまでとは違って流暢にその人は話し始めた。
『はは…困惑しているのは分かってる。いいか、よーく聞くんだ。お前のその耳が節穴になるまでな。』
軽く目を斜め上に向けた後、その人は、僕の方へ視線を向けた。
『お前はこれからとある場所で目を覚ます…あぁ、俺とここは夢だって思ってもらっていい。その方が都合いいだろ?』
夢…確かにそれっぽい場所だけど、僕にはそうは思えない。
そう思うには、あまりにも体の感覚は現実の様だった。
『急かもしれないが、お前は割とクソみたいな世界で目を覚ますんだ。人の命は軽いし、一番いい身分でも普通に死ぬ。』
『でもお前はそんな世界で失った記憶を取り戻したいと思うし…今も思ってるだろ?しかしだな、多分そうなったら仲間の助けを借りなきゃならない時が来るだろうな。』
『まぁ多分仲間と出会うでしょ。うん。出会った仲間を大切にして一緒に過ごしてれば、お前は強くなる。その仲間の技を学習していけるだろうな。』
『んで、十分強くなったらまたここに来い。ここに来れるまで十分強くなったなら、お前は記憶をある程度は取り戻してるはずだ。学習して強くなるにはいろんな仲間と出会う必要があるだろ?その過程で得るんだ。記憶の断片をさ。』
『その時は…もしお前が十分強くなっていたなら、俺が全部を話してやる。』
『お前が集める記憶の断片だけじゃ、完全な記憶は取り戻せないからな。』
『分かったか?セルマ。』
色々と急に情報が流れ込んできた。普段なら絶対信じがたい状況だと思う。でも、何故か…この人の言うことなら、本当なんだろうなっていう気分がしてくる。
(だってそうしないと延々と話が進まないだろ!)
僕はある程度気持ちの整理を付けてから、ゆっくり頷いた。
その人は少し微笑んだ気がした。
『…今からお前をとある場所に送る。』
『今俺が話したこと、それと、この場所をしっかりと覚えておくんだ。いいな?』
頷く前に、自分の体に異変が起きていた。自分の体の横を霧が通り抜けるかのように、壁が通り抜けていった。
視界が若干ぼやけて、しゅーっと、霧が噴き出るような音が耳の中にこだまする。気持ち悪い。
そんなことを思っている間に、僕の体は…僕が今までいたであろう建物、その上空に出ていた。
僕は自分の体が無事か確かめようと、反射的に自分の体を見た。
でも、そこに僕の体は無かった。僕の体は霧になり、霧として霧散していた。そこで僕はやっと気が付いた。
霧のように通り抜けたのは建物じゃなくて、僕の体だった。
でも僕は、焦る気持ちは湧いてこなかった。と、言うより、むしろ…なんだか、落ち着いた気分だった。それはまるで、抗えざる自然の摂理に身を委ねるように…
僕は意識を手放した。