頼れる騎士は頼れない   作:北村 進

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第十三話 異変

 

 

「今……」

 

 

何かが揺れた。そんな感覚を覚え立ち止まるダイン。

そこへ、あの会議室にいた騎士たちの中で、鎧を着ていた者たちが数人走りよってきた。

 

 

「ミズイ伯直下騎士アルン部隊所属、第七班現着しました。トール卿、状況は?」

 

「標的には逃げられました。情報共有をしたいので、一度――」

 

 

その言葉を言い終わる前に、ドンッと世界が揺れた。

 

 

「なっ!?」

 

「……いかがしましたか?」

 

 

平然とした顔で問いかけてくる騎士たちに信じられないような目を向ける。

今の揺れは先ほどの比じゃなかった。それに耳を塞ぎたくなるほどの爆音まで聞こえてきたのだ。

 

それでも彼らは何の異常も感じなかったかのように首をかしげている。

いや、彼らだけじゃない。

往来を歩く人々も今の揺れに気づいていないのか、道のど真ん中にたむろしているダイン達にチラチラ視線を向けてはいるものの、他に動揺している様子はなかった。

 

 

「今の揺れ、感じましたか?」

 

「揺れ、ですか?何も感じませんでしたが……どうだ?」

 

 

班長の問いかけに他の騎士たちは顔を見合わせ、首を振る。

背筋を冷たいものが伝って落ちていくような感覚を覚えるダイン。

先ほどの戦闘で何としてもダングルを捕らえておくべきだったと、今になって無意識に気付いたのだ。

 

 

「……わかりました。ではあの時計塔に向かいます。そこの三人は周辺の避難誘導を、残りはついてきてください」

 

「了解しました」

 

 

そう言うが早いか街路の石畳を蹴り、加速する。

一度後ろを見て騎士たちがついてきていることを確認したダインは、さらに速度を上げた。

街中の風景は平和そのものだが、胸騒ぎが時を経るごとに強くなっていく。

 

原因は分からない。

ただ、先ほどの音と振動はダングルと衝突した地点の方向から響いてきたのは確かだ。

 

 

民家の外壁の柱部分を足場にして速度を落とさず角を曲がり、目の前に現れる障害物は跳躍して回避。

土地勘が無いなりにある程度散策したので、この街は袋小路や行き止まりが少なく、裏路地も必ずどこかしらに繋がるよう綺麗な区画整理がされていると分かっている。

なので最短経路の割り出しは簡単だ。あとはどれだけ速くたどり着けるか。

 

走る、跳ぶ、蹴る。

とっくに第七班の騎士たちを突き放してしまっていたものの、ダインはもう振り返らず、ただ足を動かし続ける。

 

そこで、ふと風が吹いた。

 

 

「……?」

 

 

湿気が多く含まれた、この辺りではあまり吹かないような異質な風が頬を撫でる。それに風が吹いてきた方向は上——頭上からだ。

色々と違和感があるが、まあこういった狭い路地では上から風が吹いてくることもなくはないし、湿気の多い風は雨が降る直前に吹くこともある。

 

なのでそこまで気にする必要も無かったが、それでも違和感に釣られて上を向いたダインは、目を大きく張った。

 

 

「空が、裂けて――」

 

 

雲が少し残る快晴だった青空に、大きな亀裂が生まれている。

その亀裂から覗いているのは異様に蛍光色な緑の霧だけ。その奥に何かの影がうごめくのが一瞬見えたが、この距離なので見間違えの可能性もあり断言できない。

 

そんなどう考えても害がありそうな異常を発する空に意識を持っていかれかけたダインは足を止めかけ、慌てて我に返ってまた走り始める。

とにかく今はあの時計塔だ。あの付近にダングルがまだ残っていて、空の異常を引き起こしているのは間違いないはず。

 

最後の角を曲がり、時計塔が視界に入る。

その外観は先ほどと何ら変わりないように見えた。

時計塔の扉とその前の柵扉も閉まっていて、建物の中にも人の気配は感じられない。

だがダインはもう、気配読みの結果に囚われることはなかった。

 

 

「魔法なんて非常識なものを常識で捉えようとしたのが、そもそも間違いだったんだ」

 

 

柵扉を飛び越え、時計塔の木の扉のドアノブに手をかけようとして――強く弾かれる。

 

 

「やっぱり――!」

 

「トール卿!」

 

「ここです!ダングルはこの中に!」

 

 

柵扉をぶち破りながら背後に吹き飛ばされたダインは、ヒリヒリと痛む手のひらを軽くはたいて感覚を取り戻しながら、追いついてきた騎士たちに時計塔を指し示す。

そして抜剣し、時計塔の木の扉に向けて剣を思い切り振りぬいた。

 

カァァァアアアン、と金属同士がぶつかったかのような音を立てる扉。

ある程度硬い木でも余裕で斬り裂ける飛斬が完全に防がれた。

手を弾かれたことといい、何か魔法的な防御が敷かれているらしい。

 

 

「駐留所からこの前のアレ、持ってこい!」

 

「アレ――はい!」

 

 

飛斬の事は流石に知らないはずだが、ダインが扉を攻撃してこじ開けようとしたのだと察したらしい班長は部下の一人に指示を出して剣を抜く。

 

 

「触ると弾かれます!直接斬りかかるのは——」

 

「分かっています!」

 

 

そうダインに叫び返し、近くの家の壁を滅多切りにする。

そして手ごろな大きさになった木材を時計塔の壁に向かって投げつけ始めた。

 

 

「これで穴が無いか探りますので、トール卿は引き続き攻撃を!」

 

他の班員たちも木材を手に取ると、周囲の民家に飛び乗ってそれぞれの高さ・方向から木材を投げつけ始める。

あちらこちらで爆音を響かせながら砕け散り、おがくずを周囲にまき散らす木材たち。

その中で、ダインは視線を時計塔の扉に戻して再び剣を振り下ろした。

そして同じ軌道で振り上げ、再度振り下ろす。その繰り返しを何度も、速度を上げて行うが、扉に傷が入るどころか音にも変化が無い。

 

 

「……ダメだ」

 

 

ダメ押しで扉に近づいてもう一度剣を振り下ろし、試しにもう一度扉のドアノブに手をかける。

その結果は当初のものと変わらず、今度は堪えることができたものの大きく後ろへ弾かれる。

 

 

「それなら――」

 

 

地面を何度か斬りつけ、切断されて脆くなった分厚い石畳を蹴り砕く。

下の方なら魔法の防御も貼られていないかもしれない。そう考え、今日のうちに騎士団から拝借した携帯スコップで土を掘り返し始めた。

しかし――

 

「っ――!」

 

時計塔の基礎らしき石の壁にスコップの先が当たった瞬間、スコップが弾き飛ばされ斜め後ろの地面に突き刺さった。

 

こうなると壊せそうな箇所はいよいよ限られてくる。

他の騎士たちが魔法の防御に脆い箇所がないか調べてくれているが、ダングル相手ではそんなミスは期待できない。

それならどうするか。その答えは既に決まっていた。

 

 

「……この剣、高かったんだけどな」

 

 

そんなことを嘯きながら穴から跳び出ると、地面を蹴り跳びあがる。

そのまま横の民家を足場にさらに跳び、木を投げている騎士たちをはるか下に置き去りにし、時計塔の頂上へ。

 

 

「っ、やっぱりか」

 

 

屋根の中心に片足を乗せて蹴ると、普段よりもさらに高く飛び上がった。

やはり上にも魔法の防御があったらしい。狙い通りだ。

 

魔法に弾かれた力を利用しさらに上空に急上昇したダインは、風にあおられる体を余裕をもって制動しながら上下を反転させ、太陽を反射して銀に輝く片手剣を左手は逆手に、右手は剣尻に添えて横に構える。

 

 

そして大きく息を吸い込むと、空を蹴り落下した。

 

 

 

 




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