頼れる騎士は頼れない   作:北村 進

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第十六話 最新技術×王国騎士

 

 

それから1分後。

外で思い切り空気を肺に取り込み、ついでにあるものを調達したダインは塔の前まで帰還した。

 

 

「状況は?」

 

「敵に動きなし。壁は解析中。気絶していた騎士たちは一度撤退しました」

 

「了解」

 

 

最低限の会話で状況を把握する。

騎士たちが死んでいなかったのは僥倖だ。

それにエーレの機嫌も少し回復したらしい。

 

ただ声音からして、やはり裏震拳を撃ち続けたことでかなり消耗してしまっているようだ。

 

 

「力技でこじ開ける。……カバー頼む」

 

「っ――はい!」

 

 

前に出る。

脇に抱えているのは、ともにこの塔へ現着した第七班の一人が指示を受け、わざわざ一度兵庁舎に戻って運んで来ていた大きな鋼の筒。

 

それは、何らかの事情で鉄製の扉や壁を破壊しなければならない時に使う、火薬式の携行貫突杭(パイルバンカー)

使い方は、取っ手を握って固定しながら片側につけられた引き金を引くだけ。

それだけで驚くほどの威力の鉄杭が射出され、閉ざされた分厚い鉄扉すらも貫き破壊するのである。

 

だが、この輝く壁に対してはこれだけでは不十分だとダインの勘は告げていた。

だから、ダインの力も載せる。

 

 

「ふっ――」

 

 

引き金がついている方の取っ手だけを右手で握り、水平に背後に回すように構える。

そして大きく左に一回転。

その遠心力と渾身の力を込めて壁に筒を叩きつけ、同時に引き金を引いた。

 

 

ズガァン!!

 

轟音が鳴り響き、粉塵が舞い上がる。同時に右耳から生温い何かが流れ落ちる。

おそらく鼓膜が破れ、その勢いで耳の中が傷ついたのだろう。

キーンという耳鳴りをこらえながら光の壁があった方向を睨みつける。

 

 

手ごたえはあった。しかし粉塵で遮られて、結果が見えない。

最新式だという貫突杭(パイルバンカー)と、曲がりなりにも王国騎士であるダインの力を合わせたのだ。

少なくともヒビくらいは入っていてほしい。

そう願いながら剣を抜き、粉塵を払おうとする。

 

 

 

しかしそれは、飛来した透明な刃に遮られた。

 

 

「……なぜ、邪魔をする」

 

 

粉塵のおかげで軌道が丸わかりだ。

背後のエーレを狙った飛斬も含めて叩き落としていると、だんだんと煙が晴れていく。

 

 

「貴様らは、私の目的も、悲願も何も知らないのだろう?」

 

 

光の壁は消滅していた。

というか塔も大部分が崩壊していた。

残っているのは、一階部分の壁と床、そして床を埋め尽くすように描かれた大きな紋様のみ。

 

それ以外は、すべて今の衝撃で向こう側の民家の壁まで吹き飛ばされてしまったようだ。

避難が済んでいてよかった。でなければ今頃、大惨事だっただろう。

 

 

「信念を持たぬ無知蒙昧な貴様らに、道を阻まれる(いわ)れはない」

 

 

そしてダングルが姿を現す。

 

埃で煤けた姿になっているが、その堂々とした立ち姿と口上は、相対する者を怯ませる圧を放っている。

流石、南の賢者と呼ばれた男だ。

並の騎士なら、思わず一歩下がってしまっていただろう。

 

だが、ダインにそんな小手先の()()は通用しない。

 

 

「謂れはない、か……ではダングル・コーエン。お前を窃盗、誘拐、詐欺、殺人、不法侵入、公務執行妨害致死及び内乱予備の疑いで逮捕する」

 

「……」

 

 

いつの間にか低気圧空間が解除されていたので、遠慮なく息継ぎをしながら資料に書かれていた罪状を思い出せる限り並べ立てる。

 

ここは国王ですら法に縛られる法治国家だ。

その地でこれほどの罪を重ねたのなら、騎士(ダイン)が追う理由としては十分すぎる。

 

 

「知らなかった、などと呆けるなら獄中でどうぞご自由に。……大人しく捕まってくれないかい、南の賢者様?」

 

「……やはり、信念を勢いで押し通すのは理にかなわぬか」

 

「流石に無理があったね。何言ってんだコイツってなってた」

 

 

スッと、圧力が消えた。同時に剣と杖が構えられる。

 

 

「王国騎士殿。見逃してはくれないか?貴殿を殺したくない」

 

「心配ご無用。貴方程度に殺されるほど落ちぶれてはいないから、安心して捕まってよ」

 

 

見え透いた挑発に挑発で返しながら、周囲の気配を探る。

先ほどから随分と時間稼ぎをしたがっているような気配がするのだ。

しかし周辺に何かトラップがあるわけでも、塔の下に謎の地下室があるというわけでもなさそうだ。

 

それならばと、明らかに怪しい紋様を視界の端で観察する。

8の字の形をした大きな紋様だ。

蛇が絡み合っているような、奇妙な図柄。

 

そしてその紋様の中心には、小さな白い石が置かれている。

 

 

(……光っている?)

 

 

日中の明るさで判別しづらいが、石も紋様もわずかに光っているように見えた。

怪しい。怪しすぎる。

 

 

「どこを見ている?」

 

「その紋様、潰したらどうなるのかなと」

 

「上空の魔法が暴発する」

 

「ご丁寧にどうも」

 

 

憂いはなくなったので、紋様に向けて飛斬を放つ。

しかし、それは何か透明なものに阻まれて弾け、消えた。

 

 

「暴発すると告げたはずだが?」

 

「どうせ解除できないんだから、暴発させた方がマシでしょ」

 

 

潰したら魔法が強制発動するというならまだ考えたが、結果が暴発以下なら潰さない理由がない。

こちらから見たら正常な発動も暴発も得体が知れないという点で大した違いがないのだ。

ならまだ素直に魔法が消滅するかもしれない暴発に賭けた方がいい。

 

そんなダインの考えを理解したのだろう。

 

 

「待て。分かった」

 

 

老人は困ったように眉根を寄せると、溜息を吐きながら空いている方の手を小さく挙げた。

 

 

「この魔法陣は中央の白い石を除去すれば機能を停止する。だから魔法陣自体を潰すのはやめてくれ。下手するとこの街が死に包まれてしまう」

 

「……本当みたいだね。分かったよ」

 

 

噓の気配は感じられない。暴発させるのは本当に危ないようだ。

 

 

「じゃあその魔法陣?を壊さないように――」

 

 

踏み込み、最速で間合いを詰めて上段から斬りこむ。

その剣は当然のように空気の壁で防がれたが、狙いはそれじゃない。

 

 

「――離れた場所で戦おうか」

 

 

勢いそのままに宙返りしながらダングルの頭上を飛び越え、襟首に手を伸ばす。

壁に阻まれるかと思っていたが、意外とすんなり掴めた。

ならばとそのまま投げ飛ばす。

 

彼女なら意図を読んで動いてくれるだろう。

だからダインは終わるまで、足止めをするだけでいい。

 

 

 

 

 

 

「……ふむ、いいだろう」

 

 

――そして、ダインは知る由もないが、奇しくもダングルも同じようなことを考えていた。

 

 

 

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