頼れる騎士は頼れない   作:北村 進

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第二話 嫌な予感

 

 

それから何事もなく街につき、詰所の騎士に盗賊たちを任せたダインは、乗合馬車の御者の男性に呼び止められていた。

 

 

「ありがとうございました、騎士様。おかげで無事に王都まで着くことができました。報酬は——」

 

「いえ結構。報酬は受け取らないようにしているんです。人々を救うことが僕の役目ですから」

 

 

笑って御者の申し出を断るダイン。

通常、騎士は民間人から報酬を受け取らない。

国から給与が出ているからだ。

 

しかし非番の時は別だ。

副業という扱いになり、正当な金額の報酬なら受け取ることを許可されている。

今回のダインは非番だったので、当然報酬を受け取る権利がある。

だから御者もそのような申し出をしてきたのだろう。

 

だが、報酬をもらってしまうと『金さえ払えば依頼を受けてもらえる』というイメージを持たれてしまう恐れがある。

そうなるとダインが若いこともあって、たまに貴族や商人から()()()()()()を頼まれることがあるのだ。

騎士としては当然それを見過ごすことは出来ないので、依頼を快諾したフリをしながら内部情報を探り、関係者を炙り出し、騎士団に共有して大捕り物を行わなければならない。

 

 

ぶっちゃけてしまうと、面倒なのだ。

国が把握していない悪事を勝手に自分で暴露して一人の騎士に負担を集中させるのはやめてほしい。

騙したな!じゃねぇよ。王国騎士が悪事に加担するわけ無いだろアホか。

 

そういった事がこの一年の間に2〜3回あったので、今では『人情で動く』というイメージを持ってもらうようにしているのだ。

目先の欲に釣られると不利益を被るのは、世の常なのかもしれない。

 

 

「それでは私の気が収まりません!」

 

「……そうですか。じゃあ僕がまたイアル地方方面に里帰りする時、あなたの組合の馬車に少し安く乗せてくれませんか?」

 

「そ、そんなの、タダでもいいに決まってます!」

 

「交渉成立です。では」

 

 

このくらいならお互いにwin-winな話なので許容範囲だろう。

帰省費が浮いたのは大きい。

 

それ以上何かを言われないように、御者に小さく手を振って歩き出す。

背後から制止するような声が聞こえたが気にしない。

ここで振り返ると格好がつかないだろうし。

 

 

「———ああもう、ありがとうございました!イアル地方やターイズ地方へ行く際は、必ずホーン乗合馬車組合をご利用ください!無料で乗れるように上に掛け合っておきますから!」

 

 

やけくそ気味な御者の呼びかけに答えるように右手を軽く上げる。

要求していない別の地方まで無料で乗せてくれるとは、随分太っ腹なことだ。

だが、ターイズ地方か。

 

 

「……考えすぎかな」

 

 

先ほど魔法狂いが出たという噂を聞いたばかりのターイズ地方。

同じ方面だから同じ乗合馬車組合が担当しているというだけだろうが、まるで神がターイズ地方に行けと言っているかのようなタイミングだ。

 

嫌な予感がする。

いやいや、まさかそんなはずがない。

任務中に一般の乗合馬車に乗ることはないし、気のせいだろう。

 

もうなんとなく確信めいたものを感じながらも、気のせいだと自分で否定しながら城へ向かう。

まずは宰相に帰参したことを報告して、溜まっているだろう書類を処理。

 

そのあとは軽く巡回でも――

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

「ダイン、至急ターイズ地方のカルダニアへ行け。詳細資料はお前の机に置いてある」

 

「……了解しました。」

 

 

宰相の執務室の扉を開けた瞬間、任務を告げられた。

やはりそうなったか、と心の中で肩を落としながら、扉を開けたまま廊下で敬礼する。

不愛想な宰相はそれに一つ頷きを返すと、視線を落として再び羽ペンを動かし始めた。

 

 

「……」

 

 

静かに扉を閉め、自分の執務室へ向かう。

扉を開けると、そこには大きな書類の山ができていた。

 

 

「うわぁ……」

 

 

二週間空けた結果に絶望しながら山を漁り、マル秘の印鑑が押された書類を手に取る。

 

 

「やっぱり魔法狂いか……行方不明者多数……接触した伯爵付きの騎士も五人やられた?え、うそぉ」

 

 

かなり大事になっていた。

 

伯爵の騎士の実力は王都の上級騎士と遜色無いと聞く。

その騎士たちが五人もやられたとなると、魔法狂いの実力は騎士団長並みかもしれない。

 

 

「騎士達の死体は傷一つなく健康そのもの……毒反応も無し。魔法狂いが魔法の開発に成功した可能性を視野に……いやそれは無いでしょ」

 

 

現場は随分と混乱しているようだ。

だが傷一つなく、毒殺でもないとなるとそう考えてしまうのも仕方ないのかもしれない。

五人の兵士全員が急に病気か何かで心肺停止に陥ったとも考えられないので、何か新手の攻撃を仕掛けられたのだろう。

 

 

「これは……多めに持って行かないといけないかなぁ」

 

 

ため息をつきながら机の引き出しから木箱を取り出し、ダイアル錠を解いて開く。

そこには、白い飴のようなモノが詰められた瓶が十本入っていた。

 

 

「……」

 

 

無言で二瓶取り出し、懐に収めて箱を閉める。

その時、部屋の扉がノックされた。

 

 

「どうぞ」

 

 

「おはようございます!久しぶり、ダイン!」

 

 

元気よく部屋に突入してきた女性は、ダインの従騎士のエーレ・クルーガン

今は部下だが、学園時代の先輩だった人だ。

容姿端麗で仕事はできるが、ポンコツ気質で全体的に楽観的。

実力は騎士の中で上の下といったところか。

 

 

「久しぶりです。王都は変わりないですか?」

 

「だいじょぶだいじょぶ!連続放火集団とか国王の暗殺未遂とか色々あったけど、ガウェイン様が全部なんとかしてくれたわ!」

 

「……日常ですね」

 

「冗談。ガウェイン様がダインはどこだ~って叫んでいたわよ?」

 

 

王国騎士が一人街を出たという情報だけではそこまで治安が悪化するとは思えないので、帰省で二週間帰れないことがどこからか漏れていたようだ。

まあなんとかなったならいいか。

 

 

「これが終わったらお土産を持って挨拶しに行きますよ。ということで、はい」

 

「え?」

 

 

エーレに出張任務の書類を渡し、クローゼットを開ける。

そこにはよく磨かれた鎧が部位別に分けられ、丁寧に保管されていた。

 

 

「えぇ、早速出張任務なの?しかも魔法狂い案件……一本くらい手合わせして欲しかったのに……」

 

「向こうで時間があれば相手しますから。とりあえず用意してきてください」

 

「はーい……」

 

 

部屋に入ってきた時と比べて明らかにテンションの低い様子で部屋から出ていくエーレに苦笑する。

 

あの先輩は学生の頃から鍛錬中毒者なのだ。

この騎士団でも末期に分類されるほどに鍛錬への熱量が極まっている。

だから後輩だったダインの下についても、複雑だろう内心をそっちのけにあれほどイキイキと仕事ができるのだろう。

 

 

「さて……馬の準備だけしておこうか」

 

 

懐に入れていた瓶をカバンに入れ、手早く遠征用の鎧を着こんでいく。

そうして準備が終わったダインは荷物を持ってテラスに出ると、一思いに手すりを飛び越えた。

 

 

「うん、良い天気だ」

 

 

城の屋根の頑丈な部分を選んで数度蹴り、城の外縁部にある馬小屋の前に着地する。

 

今回の移動手段は国が所有する馬、国有馬だ。

この国有馬は公務で遠出をする際にのみ利用を許されており、王国騎士のダインでも私用では借りることができない。

 

理由は単純。

性能が群を抜きすぎているのだ。

その足の速さとスタミナ、そして頑強さは世界随一で、気温の変化にも強く、どこからでも自分で王都に帰れる知能を持っている。

万に一つもありえないが、もしオスの国有馬が一体でもオークションにかけられれば、小国の国家予算ほどの金が投じられるだろう。

 

 

そのため、そこらの馬に乗るくらいなら走った方が速い王国騎士が近場の任務にも乗り回そうとするくらいには、人気で競争率の高い馬になっている。

 

 

「おやっさん、お疲れ様です。馬はまだ残ってますか?」

 

「おお、ダインさんか。準備が済んどるのは四頭おるから好きな子を持っていきな」

 

「ありがとうございます」

 

 

『馬番のおやっさん』の愛称で知られる王家直属の近衛騎士に挨拶をし、小屋へ。

正直この馬たちの性能に違いはほとんど無い。

なので手前の二頭の体調に問題が無いことだけを確認してから手綱を握り、おやっさんに会釈をしながら小屋を出る。

ちょうどそこでエーレが小屋前に到着し、敬礼した。

 

 

「お待たせしました!」

 

「じゃあ行こうか」

 

「はい!」

 

 

人目があるので王国騎士とその従騎士として会話を交わし、それぞれ荷物を馬に結わえ付け、手綱を握って裏門を出る。

その後は城下町でも比較的人気(ひとけ)の少ない裏通りを抜け、街の北門へ向かうだけだ。

周囲にはいつもと変わり映えの無い、穏やかな街並みが広がっている。

 

 

しかしその中で、ダインは僅かに眉をひそめた。

 

 

「見られているね」

 

「え?」

 

「11時の方角。山の中腹。山間部に入ったら襲ってくるかもしれない」

 

「……押し通りますか?」

 

「もちろん」

 

 

カッポカッポと呑気な音を立てながらなだらかな坂を下っていく二人。

その会話の内容とは裏腹に、彼らの間にはまったく緊張感は漂っていなかった。

 

 

 

 

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