頼れる騎士は頼れない   作:北村 進

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第五話 小さな泥棒

 

あれから六時間ほど経っただろうか。二人は無事に目的の街へ到着していた。

すでに外も暗くなり城壁の門は閉門してしまっていたので、門の横にある詰所に身分証と指令書を提示して入れてもらう。

 

 

「馬を預けたらご飯食べましょうか……今日はお礼に、お姉さんがおごっちゃうわよ~?」

 

「あ、じゃあ貴族街のレストランにでも――」

 

「無理無理無理っ!?」

 

 

馬を連れ、街灯に照らされながら薄暗い道を歩く。

のんびりと冗談を言いあっているように見えるが、二人は今から宿をとって食事をして明日に備えてさっさと寝なければならない。

遠征任務中の勤務は基本的に朝の八時からだが、その前にエーレに指導をするつもりなので明日はかなり早起きしなければいけないのだ。

 

 

「冗談です。酒場がついている宿を探しましょう」

 

「そ、そうよね。あそこはどう?」

 

 

エーレが指さした先に視線を向ける。

 

『空駆ける芋煮亭』と書かれた看板は夜中でも磨かれているように見え、外観もそう古くはなさそう。

一階が酒場、二階が宿になっているようで、開きっぱなしの入口からは陽気な音楽と酒を楽しむ人々の喧騒が聞こえてくる。

 

加えて大きめの厩舎がついているので、ダイン達の求める条件に見事に合致した店だといえるだろう。

 

 

「いいですね。あそこにしま――」

 

 

そこまで言いかけたところで、ふと気配を感じて馬の背を見る。

馬の鞍には誰も乗っていない。当然だ。

しかし気配は消えず、むしろ何かがいるという確信が深まっていく。

 

 

「ダイン?」

 

「……何かいます」

 

 

馬を止めて、馬に括り付けた荷物にゆっくりと近づく。

その瞬間、カバンの中から何かが飛び出してきた。

 

 

「「猫?」」

 

 

何かを咥えた黒毛の猫が素早い動きで走り去っていく。

角度的に何を咥えているか見えなかったが、非常時用の携帯食でも見つけたのだろうか。まあそれくらいなら別に盗まれても問題ないが。

 

 

「ねえ、今の瓶ってアレじゃなかった?」

 

「……瓶?」

 

「ほら、いつも舐めてる飴の瓶。猫の口にすっぽり入っちゃってたから分かりにくかったけど」

 

「っ――」

 

 

エーレの言葉に目を見開き、慌ててカバンに駆け寄り中身を手で探る。

飴の瓶は二本入れていたはずだが、手に当たるガラスの感触は一本だけ。

急いで周囲の気配を探るが、猫の気配は見失ってしまった。だがまだそこまで遠くには行っていないはずだ。

 

 

「どの方向へ行ったか分かりますか?」

 

「あの路地に――ちょっと!?」

 

「荷物と馬とチェックインお願いします!僕の分の鍵は受付に預けて、今日は先に休んでいてください!」

 

「りょ、了解!」

 

 

捲し立てるように指示を出し、エーレの返事を聞く暇もなくダインは路地へ突入していった。

 

 

「……飴に負けた」

 

 

奢る約束してたのに、と悲しそうに呟きながら、困ったような顔で路地を見つめるエーレ。

そんな彼女の気も知らず、酒場からは陽気な音が聞こえ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこ行ったあの野郎」

 

とにかく猫が好みそうな路地を静かに駆け回るダイン。

同時に気配も探るが、流石に街中では人の気配が多すぎてあの猫だけを見分けることはできない。

それに土地勘もない。難易度が高すぎる。

 

それでもダインは諦めない。諦めると色々マズいから。

最悪の場合、ダインが死ぬ。

 

 

「なんでこんな事になってんだ」

 

 

思わず嘆きながら跳躍し、時計塔のてっぺんまで駆け登った。

街を見下ろす。

もう暗闇に目は慣れたので、街灯が少ない住宅地も遠くまで見通せる。

 

それでもやはり見つからなかった。

猫は何匹か見えたが、どれも黒毛ではない。

 

 

「やっぱり飼い猫か……?毛並み綺麗だったし」

 

 

嫌な予感がさらに強まる。

もしそれで家に帰られていたら、いよいよ見つけるのは絶望的だ。

 

仕方ない、次は猫がいた場所に向かおう。

猫が良く通る道かもしれないし、もしかしたら猫の集会所のようになっているかもしれない。

 

そんな淡い希望を胸に時計塔から飛び降りたダインは、走り出——

 

 

「はぁい、ストップ」

 

 

――そうとして肩を掴んで止められた。

 

 

「ちょっといいかな。君、時計塔から飛び降りてきたよね?」

 

「……」

 

 

振り向くと、そこには三人の比較的若い騎士たちが立っていた。

チェストプレートの紋章からして伯爵直下の騎士のようだ。見回りをしていたようで、後ろの二人はそれぞれランタンと警棒を持っている。

 

 

「あのさぁ、これ公共の建物なの。壊したら街の人たち困るから、騎士でも勝手に登っちゃいけないって分からない?どこの部隊の子か知らないけど、ちょっと常識が無さすぎるんじゃないかな?」

 

「すみませんでした……」

 

 

申し開きのしようがないので縮こまる。

 

この感じ、久しぶりだ。

地方ではダインの顔や王国騎士専用の鎧を知らない騎士も多い。

そのため初対面時は、自己紹介をしない限りはたいてい普通に後輩の若手騎士として見られるのだ。

 

 

「で、どこの部隊なの?見たことない鎧だけど」

 

「……王国騎士です」

 

「はぁ?」

 

 

警棒をもった騎士が自然な動きで後ろに回り込んでくる。

まずい、正直に言ったら警戒度が上がった。

だがまだ身分証がある。これを出せば——

 

 

「王国騎士の証……ダイン・トール…………すみません、ご同行願えますか?」

 

「えっ」

 

「念のため詰所で照合を行うので」

 

 

ちなみに、ダインが王国騎士になったのは一年前なので地方では顔も名前も知られていないことが多い。

つまり、疑いを晴らす手段としては逆効果だった。

 

 

 

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