オッサンの艦これ 作:不活性提督
堤 督人はどこにでも居そうな、猫背気味の、今年で43になる男だった。
小太りな165あるかどうかの背丈で、黒縁メガネに野暮ったい髪形をした、草臥れた茶系のスーツと履き古され色褪せた革靴に、地味な手提げかばん。
堤が海上自衛隊横須賀基地のゲートに現れると、警備していた陸曹が最敬礼をする。
「ご、ご苦労様です」
堤は頭を下げて顔パスでゲートをくぐる。
ゲートの係員が『三浦ドロップスの堤様が入場しました』と丁寧な口調で電話をかけている声が聞こえてくる。
5分としないうちに、日本人の顔立ちなのにストロベリーブロンドの髪をした、海上自衛隊の士官服を着た20代前半にも見える年齢不詳の美女、明石三等海佐が現れる。
「お疲れ様です、堤さん」
「出迎えしなくてもいいのに」
「そうはいきません。これはあたしの特権ですから」
にやりと笑う明石三佐。
大手の民間企業だったら、三等海佐は課長や部長補佐ぐらいに相当する中間管理職では下の方になる立場だ。
二人は連れ立って基地の中を移動する。
すれ違う階級の低い自衛官や、米軍兵士が敬礼をするなか、堤は頭を下げていく。
「返礼、敬礼で済ませたらどうです?」
明石三佐に言われて苦笑いを返す堤。
「どうもそういうのは苦手でしてって、私は自衛隊員じゃないですよね?」
「そんなの気にしなくていいじゃないですかぁ」
「気にしますよ、身分詐称とかいわれちゃったら嫌ですよ」
言い合いながら二人が入ったのは、明治時代を思わせる意匠の木造モルタル三階建ての堤防と埠頭が見下ろせる場所にある建物だった。
3階の中央に堤の「執務室」がある。
執務室では黒髪の、眼鏡をかけた女性と、青味がかった長髪の少女がいた。
少女は白を基本にアクセントに水色を使ったセーラー服風のブラウスとひざ丈スカートに肘まである薄手の手袋をした、12、3歳の少女にしか見えない、五月雨二等海尉。
五月雨二尉は名目上は堤の「助手」となっているが、堤は特に彼女に何かをさせるということはない。
眼鏡の女性は大淀三等海佐。
明石三佐と階級は同じだが命令系統が違うらしく、堤はどちらが上というのはないと聞いていた。
堤は手にしていたカバンから個別包装されている飴が詰め込まれた袋と、缶入りドロップスとよばれる、佐久間製菓発祥の缶入りの飴を取り出す。
「新製品ですか?」
五月雨が物珍しそうな顔をして言う。
「砂糖や果汁が手に入りにくくなりましたから、配合を変えたんですよ」
堤は言いながら、皿の上に飴を盛る。
「みんなの感想を聞かせてほしいです」
堤がそういうと、どこからともなく妖精さんたちが現れる。
そして好き勝手に飴を手に取って口に含んでいく。
中には顔をしかめる子も居るが、多くは「まぁまぁかな」のような反応をする。
「評判は良くないかぁ」
堤は肩を落とす。
「やっぱり掃海と護衛任務は大事だよね」
「そうですね」
五月雨二尉が同意した。
「明石さん、これ、どれぐらい入れてもらえます?」
明石三佐はしばし考えて、「とりあえず様子見で5つですね」と答えた。
「ですよねー。メーカーにはもうちょっと甘みを感じるような配合を考えてもらいます」
堤は言って、カバンの中に詰めてきた飴やラムネなどの甘味をすべて机の上に置く。
「みんなで分けてください」
妖精さんたちが歓喜の声を上げた。
横須賀海上自衛隊基地内に作られた、異形海洋生命体による特殊災害対策協議会の実働部隊、通称「鎮守府」。
横須賀のほかに、呉、佐世保、舞鶴にも実働部隊があり、それぞれの「横須賀鎮守府」「呉鎮守府」のように呼ばれている。
堤が務める三浦ドロップスは横須賀鎮守府が開設された当初から甘味菓子の納入をしている。
しかも、随意契約で。
ぼったくることなく、しかし利益を出す範囲で、三浦ドロップスは実績を伸ばしていた。
堤は知らされてなかった。
彼が三浦ドロップスを退職しない限り、入札なしの随意契約は続くということを。