オッサンの艦これ 作:不活性提督
鎮守府の立ち上げに追われる3月のある日、明石は堤に会った。
購買部で妖精さんたちの大好物の甘味を調達する地元の流通業者との初めての打ち合わせの時だった。
三浦市にある三浦ドロップスという地元密着型、製菓メーカー兼卸売り。
大淀と二人と、勝手についてきた数人の妖精さんを伴って公用車のプロボックスに乗って15分ほどの短いドライブで倉庫兼事務所にたどり着く。
事前に予約は取っていたものの、見た目のひどさにため息が出る。
「これが10億単位で年商のある業者なの?」
明石が感想を漏らした。
二人の前にあるのはもしかすると高度成長期に作られたかもしれない、築30年はとっくに超えているだろう使い込まれた小さな倉庫。
2階に事務所があるのが外から見てもわかる造りをしている。
大淀は苦笑して、ドアの横のインターホンを鳴らし、二言三言のやり取りをすると、シャッターが上がる。
小太りの男性が姿を現れ、二人を小さな事務所に案内した。
さっそく、明石たちについてきた妖精さんが小太りの男にちょっかいをかけ始める。
普通の人に妖精さんたちは見えない。
そのはずだが、小太りの男は「ちょっと失礼」と断って大きな皿の上に個別包装された飴をもりつけ、テーブルに置く。
妖精さんが男を不思議そうな目で見上げると、男は微笑して「食べていいよ」といった。
「えっと、その・・・見えてるんですか?」
大淀が訊く。
「え? あぁ、妖精さんたちですか。見えてますよ」
何でもないように答える小太りの男、堤。
大淀と明石は顔を見合わせた。
大淀が「ぜひ一度来てください」と口説き落とし、鎮守府に堤を連れ込み適性検査を受けさせると、他を圧倒する数値をたたき出した。
「提督をやってみませんか?」
直球勝負で大淀が訊く。
「え? でも募集してるのって32歳までですよね。私、とっくに40超えてますよ?」
渋る堤に大淀が食い下がるがあまり効果がない。
「なにしてるんですか?」
騒ぎを聞きつけた五月雨が顔をのぞかせる。
大淀が説明始めると五月雨が嬉しそうに目を輝かせた。
「新しい提督さん!?」
「え? ちょ・・・」
慌てる堤と、にやりと笑う大淀。
「そうよ、新しい提督の堤さん」
「よろしくお願いします! あたし、五月雨って言います!」
ニヤニヤ笑う大淀に冷たい視線を向ける堤。
「会社は辞めませんよ? やめろっていうなら、取引は無しです」
不機嫌に堤が言うと、妖精さんたちが騒ぎ出す。
堤に「辞めないで」と懇願する妖精さん、大淀の髪を引っ張ったり眼鏡を取ったりしながら抗議する妖精さん、いったいどこに隠れていたのか驚くほどの大人数の妖精さんたちが現れる。
「わ、わかりました」
大淀はあっさりと負けを認める。
その日、新しい提督が誕生した。