君はニコポ・ナデポを覚えているかい?   作:あばなたらたやた

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 戦いが発生その直前。

 

「きゃっ!?」

 

 アルファの悲鳴が響いた。背後を見ると、いつの間にか所属不明の男女にアルファが捕らえられている。人質だ。

 これでは戦えない。

 クレアとアウロラはすぐは追いついてこれない。爆発を確認して、緊急事態だと判断したルーファスは二人をおいてやってきたのだ。

 その判断は正しかったが、しかし。

 

「よくやった! さて、神の使徒ルーファスさんよ、ここで交渉だ」

「……内容は?」

「神祖様と話させてくれや。色々と聞きたいこともある。どうせ神の使徒なら直通の回線があるんだろ?」

 

 テロリストの要求は許容しないのが常識ではあるが、アルファの命はかなり重い。通話くらいは許されるだろう、とルーファスは判断する。

 

「分かった。スピーカーで通信を繋ぐ。構わないな?」

「おう、やってくれ」

 

 通信端末が、神祖につながる。

 

『うん、こちら神祖。状況は理解しているよ。それで、君達が言いたいことはなんだい?』

「おう、俺達の故郷はな! テメェらのせいでめちゃくちゃだ! 人は殺され、街は破壊された! そういう奴らが山程いるんだぜ! お前達の生活を支える為に犠牲になったんだ! それについてお前はどう考えてるんだ!? ええ!? 言ってみろ!!」

 

 ガトリング男の怒号が響く。しかしそれに反して神祖の返答は淡々としていた。

 

『ルーファス達の上司として、そして支配者階級として言わせてもらえるなら、国の運営してく上で必要な犠牲だから我慢してほしい、というのが素直な意見かな」

「我慢だと!? ふざけやがって! 命をなんだと思ってやがる!」

『本当に申し訳ないと思うし、補填もしている筈だ。勿論、そんなので我慢できないのはわかる。人が亡くなってるわけだからね。取り返しがつかない事だ』

「それがわかっていながら我慢しろ!? 良く言えるもんだな俺たちに! やはり殺すしかねぇ!」

 

 だが、しかし、と神は告げる。

 

『わかる、わかるんだけどけどもね。それでも僕は、必要な犠牲の量を必要最小限にできる腕前があるんだぜ? それを排除したら、今度は下手くそな国家運営が始まって被害者増える現実が待っている。故に僕は君達に殺されるつもりはない』

「まるで正義の味方気取りか! 本当は悪代官の小物な癖しやがって!」

『人を潰して燃料に変える事に怒りを覚えるのは真っ当だし、ご尤もだ。本当に申し訳ない。だけど、もう少し深く考えて欲しい』

「あん?」

 

 神祖とガトリング男の関係は、頭の悪い生徒に教える教師のようだった。

 

『人を効率良く燃料へ変えるのも、それはそれで難しいんだぜ? 人を潰して燃料作ったはいいものの、変換効率の無駄が多くて、大多数の犠牲は無意味です……っていうのは不毛と感じないかい? あとは私腹を肥やすやつに吸われてしまうとか……さ』

「…………」

『その点、僕はやることやっているけど無駄にしたり、私腹を肥やしているわけでもない。むしろ収支だけならマイナスだよ。100万の利益と、1の犠牲というコスパフォーマスを実現している。僕だって犠牲となっている一人なのだから、滅私奉公の鑑だとも』

「はっ、信じられねぇな。なんせ星の命を食らってる神様の言い分だ。それをみんなに黙って、自分達の国だけ発展しようとしてやがる!」

『いやいや』

 

 神祖の言葉に、だんだんと熱が籠もってくる。

 

『これはマジな話だぜ。本当にここ数千年は不老不死特有の自動回復を使い続けて不眠不休で、全人類と、祖国のために頑張ってる。不老不死の利点をフル活用さ。死ねば肉体の体調不良はリセットされて気分爽快。モチベーションの低下も、マンネリ感ともおさらばさ』

「そんな風に命を使うやつの言い分がまともだとは思えねぇな」

 

 ルーファスも、それは少し思った。不老不死だからこそ命を軽く扱う雰囲気を神祖からは感じている。今は自分の命だけだが、それが他者の命を軽んじるようになった場合、神祖は豊穣をみたらす存在から、絶望を撒き散らす邪神となるだろう。

 

 

『みんな辛い現実と戦っている。それは君達も僕達も同じだ。だから自分達の運命に悲しみ、それを引き起こした僕に怒りがあるのは分かるけど、どうにか我慢してほしい。そして被害者を増やしたくないなら僕に協力して、少しでも手伝ってほしい』

「手伝う? 正気か? なめやがって」

『いや、ホント。舐めてるわけじゃないんだよ。こっちも好きで人道に反することを選んでいるわけじゃないからさ、みんな納得できて、笑顔になれる方法があるならそっちのほうが良いんだ。だけど、そんな方法は存在しない』

「だろうな、お前だから駄目なんだよ」

『少なくとも、物質創造能力こそ手に入り、時間と空間を支配も限定的とはいえ可能となるまでに成長した僕達でさえ、世界平和と人類の幸せは程遠い』

「それができるなら、できるだろ」

『一つの難題を越えれば、次の壁が現れる。それこそ、今の僕達は概念を自由に書き換えることや、物理法則の変更は安全にできないし、犠牲者も膨大だ』

「だから?」

『そういう現実があるから、光と闇とか、善悪とか、正義や偽善とか、哲学的な話を支配者階級がするのは後回しなんだ。とにかくエネルギー、資源、あらゆる技術の発展、文明社会の成長が最優先』

 

 その言葉に、テロリストは勢いづく。

 

「馬脚を現したな! 結局は国の発展が優先じゃねぇーか!」

『世界はそれらがないと成り立たない。悲しいかな、それを理解してない人が多すぎる。資源がないと飢饉が起きて死ぬし、発展性もないからジリ貧で絶滅。エネルギーがないと設備が動かず、ライフラインが動かず死ぬ。設備が使えないというのは自分達の力では挽回できない状況であることなので絶滅だ』

 

 神祖は、当たり前の内容だと、言う。

 

『これくらい学校で習うし、予測できるだろう?』

「学校なんていけるわけがねえ。お前達が世界を破壊するからな! みんな今を生きるので精一杯さ! だからこうして、新しい世代のためにお前達と戦っている!」

『捨て身なら簡単にできる破壊じゃなく、時間と根気が必要な生産性を上げる方向性で生きてほしいな。いや、そうか、そういう福利厚生がない地域だから、生産性を上げる方向性にいかなくても仕方ないのか』

「俺達の行動を簡単だと? 頭が悪くて根気がないだと? バカにしやがって!」

 

 神祖は本当に悩んでいるような口調で言う。

 

『やっぱり全力で世界征服して、義務教育や大学、専門学校を各地へ設立するべきかな? 今回はジェノバの支配下にあるとはいえ、それと関係ない存在も頭が悪いヤツらが多い。僕達の想定と違うのはこれまでの歴史で数え切れないほどあったけど、こういう方向性のは初めてだ。気をつけないと……』

「一人で何を言ってやがる!!」

『ごめん、ごめん。何かあるとすぐに内省や分析しちゃうのが悪い癖でね。こういうのを常にやってないと、凡人たる僕達に対して世界は厳しく、人類全滅コースさ』

「お前の行動が人類を絶滅させるんだ!! 星喰らい!」

『こちらの主張としては、僕以外にこの国の運営を任せるともっと酷いことになるから、とにかく我慢してくれ、という以外にないかな。代替案も無さそうだし』

「それが本音か!自分の私腹を肥やすことしか考えてねぇ!」

 

 それに神祖は大きくため息を吐く。

 

『こっちも悲しい事件が起きないように頑張った結果であり、むしろ君たちが僕たちの行動を邪魔することで、君達と同じ経験をする人が増えてる。

 君達が無辜の市民を殺している。

 僕達と君達では、時間の価値も意味も違うんだ。

 お願いだから、過去の思い出の中を抱いてじっとしておいてくれ。それか手伝ってくれ、みんなが笑える世界を作ることを』

「何を、言ってやがる。何を言ってるんだお前は! 自分の手でぶち壊しておいて!!」

『もし本当にこれ以上、被害者を増やさない為に戦っているのなら、共に戦おう。仲間になろう。

 辛い現実や、理不尽、不条理、そして悲しい過去を乗り越えて、僕たちは未来のために手を取りあい、今を生きるんだ』

「死に腐れ、クソ野郎!! 俺はテメェらの誤魔化は通用しねぇ!!」

 

 神祖はため息を吐く。

 

『そうなるよね、知ってた。基本的に君達みたいな相手は、何を言ってもそういう反応が返ってくる。敵は問答無用の殲滅が効率良いんだろう。でも相互理解の基本はコミュニケーションだ。それを初手から切り捨てることを僕は、最善だとは思わない。だからルーファス』

「よろしいですか、倒して」

『うん、お願い。アルファは、確保しておきたい。アレは平和の鍵の一つで、奪われれば滅ぶ一因になる。それは面倒だ。滅ぶ要因は少なければ少ないほど善い』

「了解です」

『では、ミッドガル聖教皇国、最高教皇猊下たる神祖が命じる。これは世界を守る戦いである!! 星を喰らう邪神の走狗を打ち砕け!!』

「ルーファス・ザンブレイヴ、出撃」

 

 神威纏いし聖なる騎士が、雷鳴を轟かせ前進する。

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