災害によって世界は壊滅的な打撃を受け、滅びかけていた。しかし唯一、災害に対して有効な対応をした『ミッドガル聖教皇国』は、各国に復興支援を始める。
世界の敵を一人で討伐した英雄ルーファス。
その彼が率いる世界平和復興支援使節団。
傾いた国を復興させるには大量の物資と、労働力が必要となる。故に原則として金銭での支援や道具を渡すのがスタンダードではあるが、しかし世界各国に世界を滅ぼす終末装置が埋まっている現状、素早い解決が必要だった。
それを可能にするのがミッドガル聖教皇国の保有する航空組織だ。
そして、復興支援に使われるのは輸送型航空戦闘空母「クジラ」。
全長200000メートル、幅8000メートル、流線型の機体は、灰色の装甲に覆われ、側面には聖教皇国の紋章が白く塗装されている。
重力制御装置が搭載され、高い運動性を確保している。機体後部には、40基のタービンエンジンが低く唸り、熱波が周囲の空気を揺らしていた。
空間制御によって搭載可能な物資は50000トン、乗員は20000名。搭載物にダメージを与えることなく輸送や戦闘も可能だ。
攻撃用レーザー砲塔と対空ミサイル、対空マシンガンを備え、防御用の電磁シールドと逃走用の光学迷彩も展開可能だ。
輸送型航空戦闘空母「クジラ」が飛び立つ。
向かう先はオリアナ王国だ。
オリアナ王国の空には聖教皇国から英雄達を積んで飛んできた輸送型航空戦闘空母「クジラ」が駐機していた。
最初の国はオリアナ王国だった。
基本的な情報として、ルーファスは端末から資料を確認する。
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名前:オリアナ
国家:王国。
宗教:精霊信仰
思想:芸術が素晴らしく、武力は野蛮
政治:王族と貴族に権力を一極集中。市民は道具。
国民:貴族は精霊信仰による魔法で特権階級を獲得し、芸術こそ貴族の教養とされている。市民は兵士や、冒険者など
領土:微妙。
技術:微妙。
魔法:才能型
神祖コメント:オーソドックスな王国だね。才能型の魔法を持つ王族や貴族の特権階級がメインの国だから、代替可能な技術が出てくれば市民の革命か、貴族同士の内戦で潰れそうだね。でも、安定しているし、どこまで続けられるか楽しみだ。
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ルーファスはオリアナ王国の情報を見て呟く。
「神祖コメントってなんだ、暇人なのか。我が神は」
情報に突っ込みながら窓から見えるオリアナ王国を見る。
オリアナ王国の王都は朝の光を浴びて、巨大な白い貝殻が開いたように見えた。
街は大河を軸に、ゆるやかな弧を描いて広がる。
川は街を二分し、橋が無数に架けられている。橋はどれも優美な曲線を描き、石造りの欄干には精霊の紋様が彫り込まれている。歩くたびに靴底が石を鳴らし、その音が水に落ちて消える。
川の北側――貴族街。
朝靄の中、邸宅は背丈を揃えて並び、どの家も同じ高さ、同じ窓枠、同じ屋根の傾き。壁は淡いクリーム色で統一され、窓には鉄細工のバルコニーが付いている。
朝になると、使用人たちが静かに門を開け、馬車が石畳を滑る。馬の蹄の音さえ、音楽のように響く。通りには精霊灯が等間隔に立ち、淡い青白い光を灯している。
夜になれば、その光は街全体を幻想的な靄で包むのだろう。
川沿いの大通り――商業街。
朝市が開かれる。露店はすべて同じ高さ、同じ色、同じ形。商品は芸術品ばかり――精霊石の首飾り、壁画の複製、音楽を閉じ込めた水晶。
平民はここまでしか入れない。
貴族は馬車で通り抜けるだけだ。
川の外縁――平民街。
ここだけが、街の弧を乱している。家は崩れかけ、道はでこぼこ。川は汚れ、橋は壊れたままだ。だが、朝になると子供たちが走り回っている。
王宮――川の中央の島。
白亜の尖塔が空を突き、頂上には巨大な精霊結晶が輝いている。
朝になると、結晶が光を放ち、街全体に時間を告げる。
貴族たちはバルコニーからそれを見上げ、平民たちは窓から覗く。
結晶の光は、川を伝って街の隅々まで届き、精霊灯を一斉に点灯させる。
王都は、完璧な統制の取れた街並みだったことを想像させる。しかし王都の外や、平民街の外縁では、ジェノバ災害の傷跡がまだ残り、復興は進んでいない
貴族街の邸宅は美しく、平民街の子供たちは、今日も壊れた橋の上で、川を見下ろしている。
太陽の光が、街全体を金色に染める
王都の空を、巨大な影が覆った。
全長二十万メートル。
それは、もはや「空母」という言葉では足りない。空を泳ぐ鋼の鯨――輸送型航空戦闘空母《クジラ》は、雲を裂きながら低空で静止していた。
灰色の装甲は朝陽を吸い込み、側面の聖教皇国の紋章だけが白く浮かび上がる。四十基のタービンが低く唸り、熱波が空気を歪ませる。重力制御装置が作動し、巨体がまるで羽のように静止している。
「ルーファス、準備ができたわ。お願い」
面倒だ。怠い。もう少しゴロゴロしていたい。そんな想いを引き摺りながら、聖剣を持って外に出る。
艦橋の上、風を切る位置に立つ。
ルーファス。
世界の敵を一人で討伐した英雄。白い外套を翻し、金色の髪を風になびかせながら、彼は眼の街を見下ろしていた。
「……綺麗な街だ」
その声は、風に紛れて消えた。だが、隣に立つ補佐官のアルファは確かに聞いた。
「そうね、芸術の国と呼ばれるだけはあるわ」
「だけど」
ルーファスは首を振った。
「災害の影響は大きいんだろう」
彼の瞳は、壊れた橋の上で遊ぶ子供たちを、一つ一つ捉えていた。
「私達の力添えによって、子供達が安全に遊べる国に戻さなくてはならないな」
「頑張りましょう」
「ああ」
ルーファスは心の中で呟く
(面倒だ。怠い。だが仕事だ。仕事はキッチリやらないと)
《クジラ》の影が、街全体をゆっくりと覆っていく。精霊灯が一斉に点灯し、川面が金色に染まる。だが、その光さえ、巨艦の影に呑み込まれていく。
「では、アナウンスしようか。アルファ、頼む」
「了解。大規模広範囲脳内伝達術式を作動。これによってオリアナ国民の脳内に直接、貴方の映像と音声が伝えられるわ」
ルーファスは堂々とした姿で、言う。
「私はミッドガル聖教皇国、神祖直属部隊『神の使徒』のルーファス・ブレイブ。この放送を聞いて困惑しているだろうが、しっかりと聞いてほしい。先のジェノバ災害によって世界は大きな被害を受けた」
ルーファスから切り替わり、ジェノバ災害の被災地の映像が差し込まれる。
「このままでは緩やかに世界は滅びへ向かうだろう。それを危惧した我が国の神祖は『世界平和復興支援使節団』を設立。各地へ向かわせ、各国の復興支援を行うことを決めた」
ルーファスを中心とした災害復興騎士団が並んでいる。その後ろには輸送型航空戦闘空母「クジラ」の姿と、それに物資が積み込まれる映像に切り替わる。また自律駆動型多目的目標遂行動物を搭載したポッド並んでいる。
「復興支援を受けるも、断るも自由だ。内政干渉であること自覚しているし反発されるのは想定済みだ。宗教的な拒絶も予想できる。しかし、もし断れば君達は死ぬ」
ルーファスは叫ぶ。
「何故か? それはジェノバ災害を引き起こしたジェノバが生きているからだ!!」
ジェノバ災害。
死者蘇生。死者蘇生された存在は不滅の肉体を有する。それを宇宙から落下させ、質量爆弾として活用。更に死者蘇生の術式が適用された存在の人格を汚染し、生物を皆殺しにする殺戮異能兵器にする。
その状態で、目に見えるもの全てを破壊する。
それがジェノバ災害である。
ルーファスの雷霆のよる一掃と、神祖の術式解除によって、30分でジェノバ災害は収束したが、その被害は甚大だ。
死者の不滅の肉体を使った質量爆弾とは隕石である。それが世界各地に降り注ぎ、自律した思考を残したまま効率良く生物を殺す為に異能を使っていたのだ。
異能の中には広範囲殲滅型も当然ながら含まれる。空間転移などと組み合わせて使用されたら、各国の首都は一瞬で陥落していた。
それが行われなかったたのは偶然に過ぎない。
「ジェノバ災害は起こる。何度も、何度も、何度も! 方法こそ違えど、我々は常に死ぬ覚悟をして生きなければならない。そんな世界で満足か? 私は嫌だ! それ故に!!」
大きく声を張り上げる。
「世界は復興する必要がある。そして共に団結し、ジェノバを粉砕するのだ!! 力を貸してほしい。私達だけでは勝てない。みんなが力を合わせる必要があるんだ!! だからまずは私達が復興支援という形で力を貸す。だからジェノバを倒す為に協力してくれ!! お願いします!!」
大規模広範囲脳内伝達術式が終了する。
アルファは術式を終える。そして演説をしていたルーファスに水とタオルを渡す。
「お疲れ様。見事な演説だったわ」
「それは良かった。これで復興支援に協力してくれれば何よりだよ」
「オリアナ王国も王都こそ、この余裕がある様子だけど外側はひどいものでしょう。ライフラインが破壊されればどれだけ物資があっても届けられない」
「ライフラインが崩壊した影響を真っ先に受けそうな王都がこの様子なら、この国は割と大丈夫なんじゃないのか?」
「もって一年かしらね。けど、それまで。貯蔵が尽きれば飢餓、疫病、反乱ね」
「まぁ、そうか。貯蔵は、次の供給があるまで繫ぐ為にするものだし」
艦橋の扉が開き、使節団の技師たちが整列している。彼らはミッドガル聖教皇国で育成された災害復興騎士達だ。
全員、白いヘルメットと鎧を纏っている。その中でも、一際大きな装飾を付けた災害復興騎士が前へ出る。
補佐官のアルファが指示を出す。
「復興騎士長。ルーファス様が最初に地上へ降りる。その後に降りるわ。準備をしておいて」
「承知しました」
《クジラ》のタービンが唸りを上げ、巨体がゆっくりと動き出す。
王都の上空で、鋼の鯨が旋回し、その腹から光が投射される。光で作られた輸送エレベーターからルーファスはオリアナ王国へ降り立つ。そして復興騎士団と鉄骨とセメント袋などの復興物資が降ろされ始めた。
王国は動揺しつうも、歓迎のムードに包まれていた。