王都の熱狂と裏の思惑オリアナ王国の王都は、陽光を浴した白亜の塔と色とりどりの旗で彩られていた。だが、その華やかな歓迎の裏で、ざわめきが広がっていた。
ルーファス・ブレイブが降り立った瞬間、群衆の視線が彼に集中し、喝采と疑惑が入り混じった空気が漂う。《クジラ》の巨体が上空で低く唸り、光のエレベーターから降ろされる復興物資の鉄骨やセメント袋が、まるで神の恩寵のように地上に積み上がっていく。
ルーファスは聖剣を腰に携え、金色の髪を風になびかせながら、堂々とした笑みを浮かべた。民衆の視線を一身に浴び、彼は手を振る。
その姿はまさに「神の使徒」の広告塔にふさわしい――だが、彼の胸の奥では、虚構の栄光に対する苛立ちがくすぶっていた。
(これも演出か、神祖の思惑通りだ)
内心で毒づきながら、彼は群衆に向かって声を張り上げる。
「オリアナの民よ! 我々ミッドガル聖教皇国は、ジェノバの災厄を共に乗り越えるため、ここに立つ! 希望を、未来を、共に築こう!」
その言葉に、群衆は沸いた。子供たちが手を振り、老人が涙を流す。だが、ルーファスの背後でアルファが鋭い視線を周囲に走らせていた。彼女の蒼い瞳は、歓迎の熱狂の中に潜む不穏な影を捉えていた。
貴族たちの冷ややかな視線、群衆の後方で囁き合う者たち――そして、どこかで蠢くジェノバの眷属である『混沌蝿』の気配。
「ルーファス様、時間です。王宮へ向かいます」
アルファが囁き、彼を促す。彼女の声は冷静だが、その手は無意識に霧化の魔力を帯び、いつでも戦闘に備えていた。アルファは、ルーファスへの絶対的な忠誠心に裏打ちされており、彼女の行動は彼の安全と目的を最優先にしている。
だが、彼女の神経質な性格により、ルーファスが危険に晒される可能性を過剰に警戒し、貴族たちの微妙な表情や仕草にも敏感に反応していた。
ルーファスは軽く頷き、アルファの緊張を和らげるように肩に手を置いた。
「心配するな、アルファ。俺は民衆の前で負けない」
彼の輝きが発揮され、表面的な自信とカリスマで場を支配する。だが、内心では自己欺瞞が、彼の言葉に虚ろな響きを加えていた。彼は自分の「演出された英雄像」を嫌悪しつつも、それを捨てる勇気を持たない。
クレアが率いる治安維持部隊2,000名がルーファスの周囲を固め、整然と王宮への道を進む。彼女の統率力と冷静な判断は、貴族たちの不穏な動きを牽制していた。
クレアの役割は、ルーファスの安全確保と王都の秩序維持であり、彼女の行動は神祖の指示に忠実だった。
王宮の玉座の間。
王族との対面王宮の玉座の間は、金と瑪瑙で装飾された壮麗な空間だった。
玉座に座るオリアナ国は、威厳ある白髪の老人だったが、その瞳には疲弊と諦めが滲んでいた。
彼の傍らには、王太子アルガルドが立ち、鋭い視線をルーファスに向ける。アルガルドは、彼の猜疑心と攻撃的な態度を助長していた。
彼は姉ローズへの執着と、貴族の腐敗に対する憎悪に突き動かされており、ミッドガルの介入を「貴族の延命策」としか見ていなかった。
「ミッドガル聖教皇国の使節、ルーファス・ブレイブ猊下、ご到着を歓迎する」
と国王が重々しく口を開く。だが、その声には熱がなく、形式的な響きが強い。貴族たちが玉座の間の両側に並び、ルーファス一行を見据える。彼らの表情は様々だ――ミッドガルの技術力に期待する者、ルーファスのカリスマに嫉妬する者、そしてアルガルドに同調する者。
ルーファスは一礼し、微笑みを崩さない。
「国王陛下、王太子殿下、ジェノバの災厄は我々の共通の敵です。ミッドガルは物資50,000トン、電力・水道の80%復旧、生存者50,000人の救助を約束します。共にこの試練を乗り越えましょう」
彼の言葉は流暢で、民衆の心を掴む術を心得ている。だが、内心では(こんな大言壮語、俺が本当に果たせるのか?)と自嘲が渦巻く。
彼の経験は、こうした大舞台での責任を重荷と感じさせていた。アルガルドが一歩踏み出し、冷ややかに笑う。
「立派な言葉だ、聖騎士ルーファス。だが、ミッドガルの『神祖』は我々の苦しみを理解しているのか? 貴族の腐敗を隠蔽し、民を虐げる者たちと手を組む気ではないのか?」
彼の声は鋭く、会場に緊張が走る。アルガルドの目的――姉ローズの保護と貴族の腐敗一掃――は、彼をルーファスへの敵意に駆り立てていた。
彼はルーファスを「神祖の操り人形」と見なし、ミッドガルの介入が貴族の権力を強化する陰謀だと信じていた。ルーファスは一瞬、言葉に詰まる。
アルガルドの攻撃的な態度は予想外だったが、彼の演技が即座に反応する。
「殿下、誤解だ。我々は民のために来た。貴族の腐敗を裁くのはオリアナの司法であり、我々は復興を支援するのみだ」
彼の言葉は表面的には誠実だが、内心では『神祖の思惑に巻き込まれたくない』との思いが強まる。アルファがルーファスの背後で静かに分析を始める。
彼女の高い経験と回転する頭脳は、アルガルドの言動から彼の心理を読み解くことを可能にしていた。脳内伝達でルーファスへ伝える。
『王太子の敵意は、貴族への不信と姉への執着に起因しているわね。クーデターのリスクは20%から25%に上昇。混沌蝿の関与も疑われるわ』
彼女はルーファスに伝える。彼女の霧化の魔力は、いつでもアルガルドの急襲に備えて待機していた。国王ガルフレッドが手を挙げ、場を静める。
オリアナ王国の王宮、その最奥に位置する円卓の会議室は、重厚な石壁に囲まれ、窓から差し込む陽光が彩色ガラスを通って虹色の光を投げかけていた。
円卓を囲むのは、オリアナの三勢力――王族派閥、貴族派閥、王太子派閥――と、ミッドガル聖教皇国の使節団。空気は張り詰め、一触即発の火薬庫のようだった。
ルーファス・ブレイブは使節団の中心に立ち、金色の髪を揺らし、聖剣を腰に携えた堂々たる姿で微笑む。だが、その蒼い瞳の奥には、苛立ちと退屈が渦巻いていた。
またこの茶番か。神祖の脚本通り、俺はここで輝くだけの道化だ。彼の隣にはアルファが控え、蒼い瞳で周囲を鋭く観察する。彼女の霧化の魔力が微かに空気を震わせ、いつでもルーファスを守る準備ができていた。
クレア率いる治安維持部隊が会議室の四隅に配置され、静かな威圧感を放つ。ミッドガルの技術力である超次元重力炉や浄水装置を背景にした使節団の提案は、ジェノバ災害の復興支援、物資50,000トン、インフラ80%復旧、生存者の救助。
これを軸に、会議は始まった。
王族派閥の融和の国王が最初に口を開いた。穏やかな口調だが、その言葉には計算された重みが宿る。
「ミッドガル聖教皇国の支援に感謝を。ジェノバの傷は深く、我が国だけでは癒せぬ。我々は貴国の技術と物資を歓迎し、共に復興の道を歩みたい」
彼の言葉は滑らかで、融和路線を象徴していた。王族派閥はミッドガルの力を借り、国内の不安定な情勢を抑えたい――その意図は、アルファの分析によって即座に見抜かれていた。
彼女はルーファスの脳内伝達で囁く。
『国王は貴族の不満を抑えるため、ミッドガルの力を政治的安定に利用しようとしています。表向きの歓迎は本心とは限りません』
ルーファスは軽く頷き、内心で舌打ちする。
(どいつもこいつも、自分の保身しか考えてねえなクソが)
彼は立ち上がり、完璧な笑みを浮かべる。
「国王陛下の言葉に感謝します。我々は神祖の教えの下、世界平和と復興を願いここにいます。オリアナの民を救うため、全力を尽くしましょう」
その演技裏打ちされたカリスマは、会議室に一瞬の静寂をもたらした。国王は微笑むが、その目にはルーファスの「演出された英雄像」を値踏みするような冷たさがあった。
貴族派閥の精霊信仰の牙次に口を開いたのは、貴族派閥の代表、マゼンタ公爵だった。
彼の声は低く、抑揚に乏しいが、言葉の端々に精霊信仰の誇りが滲む。
「ミッドガルの支援はありがたいが、我々の精霊信仰魔法は、ジェノバの汚染を浄化する力を持つ。貴国の技術に頼る前に、我々の伝統を優先すべきだ」
貴族派閥は中立を掲げ、ミッドガルの内政干渉を警戒していた。彼らの精霊信仰魔法は、オリアナの文化と歴史の根幹であり、外部の力に頼ることを嫌う。
公爵の視線はルーファスを鋭く貫き、その背後のアルファにも向けられた。アルファの過去――黒龍ウィルスによる肉塊化と神祖の救済――は、貴族たちにとって「不浄な科学」の象徴だった。
アルファは動じず、冷静に反論する。
「公爵閣下、精霊信仰魔法は確かに強力です。しかし、ジェノバのクレーター5箇所、汚染エリア3地域の規模を考えれば、ミッドガルの技術との連携が不可欠です。超次元重力炉炉による電力供給と浄水装置は、生存者の生活基盤を迅速に回復します」
彼女は、論理的かつ穏やかに場を進めるが、貴族たちの冷ややかな視線は収まらない。ルーファスは内心で苛立つ。
(この女、真面目だな。まあ、それがアルファか)
彼は軽く手を挙げ、場を収める。
「公爵閣下の言う通り、精霊信仰魔法はオリアナの誇りです。ミッドガルはそれを尊重し、連携を提案します。貴国の魔法と我々の技術を融合させ、復興を加速させましょう」
その言葉は表面的には完璧だったが、ルーファスの経験の少なさは、彼がこの提案に本気で取り組む気がないことを示していた。
彼の目的は、会議を無難に終え、快適な地位を維持することだけだ。
王太子派閥からの反発だ。そして、静かに、だが確かな威圧感を放ちながら、アルガルド王太子が口を開いた。
王太子の声は若々しいが、その瞳には病んだ光が宿る。彼は姉ローズへの偏執的な愛と、貴族の腐敗を一掃するクーデターの野望を抱えていた。
「ミッドガルの支援はありがたいが、我が国の主権は揺るがない。復興はオリアナの手で進めるべきだ。貴国の技術は、時に我々の文化を侵す刃となる」
彼の言葉は鋭く、会議室に緊張が走る。アルガルドの派閥は、ミッドガルの内政干渉を強く警戒し、独自の力を誇示したい様子だった。
アルファは、彼の言葉の裏に隠された危険を即座に察知した。
『ルーファス様、アルガルド王太子の言動に注意が必要です。彼の瞳には……混沌蝿の気配が感じられるわ』
脳内伝達により伝えられる『ジェノバの眷属である混沌蝿』
彼女の囁きに、ルーファスは一瞬だけ本気の視線をアルガルドに向ける。
(面倒なことしないでくれ、本当にだるい)
だが、彼の信念――努力せずとも栄光を手に入れること――は、彼を即座に軽薄な笑みに戻す。
「王太子殿下、ミッドガルはオリアナの主権を尊重します。復興は共に進め、貴国の輝きを守りましょう」
アルガルドはルーファスをじっと見つめ、薄く笑う。
「その言葉、信じましょう。だが、使徒の輝きが本物かどうかは、これから見せてもらうとしましょう」
どうかは、これから見せてもらうとしましょう」
その言葉に、ルーファスの胸に小さな棘が刺さる。彼の虚構の英雄像を、アルガルドが見透かしているような感覚だった。
交錯する思惑と迫る危機会議は一応の合意に至り、ミッドガルの技術とオリアナの精霊信仰魔法を組み合わせた復興計画が承認された。
物資50,000トンの配布、インフラ80%復旧、生存者の救助――表向きは完璧な協力体制が築かれた。だが、会議室を出る際、ルーファスはアルファの視線を感じる。
彼女の蒼い瞳は、貴族たちの囁きとアルガルドの不穏な笑みを捉えていた。
「ルーファス様、この会議は表面的な合意に過ぎません。貴族派閥は我々を牽制し、王太子は独自の目的を隠しています。混沌蝿の気配も強まっています」
ルーファスは肩をすくめ、軽く笑う。
「いつものことだ。俺は神の求めるように輝くだけだ。面倒なことは裏の工作部隊がやる」
アルファの表情が一瞬曇る。彼女の忠誠心はルーファスに絶対的だが、彼の自己欺瞞が彼女の心に小さな痛みを刻む。
「ルーファス……あなたはもっと、大きなものを手にできるのに」
その言葉に、ルーファスは一瞬だけ目を逸らす。だが、すぐにいつもの軽薄な笑みを浮かべる。
「アルファはほんと真面目だね。とりあえず、パーティー楽しもう」
しかし、その夜、王都の外縁で再び爆発が響いた。炎が夜空を切り裂き、混沌蝿の気配が濃密に漂う。アルファが即座に霧化し、ルーファスの前に立つ。
「ルーファス様、敵です!」
ルーファスは聖剣を握り、初めて本物の戦意を宿す。
「さて、アイドルの出番か」
聖剣が光を放ち、全能神の空気を震わせる。会議室での仮面の笑顔は消え、ルーファス・ブレイブは一瞬だけ、英雄の片鱗を見せた。