君はニコポ・ナデポを覚えているかい?   作:あばなたらたやた

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4話

 迷宮都市への任務に備え、準備期間が設けられた。神祖の意図は明白だった。

 特殊チームの結束を高めるため、レクリエーションを通じて仲間意識を育むこと。だが、クレアはその提案を頑なに拒絶した。

 

「貴方達と一緒に任務をやる意味が分からないわ。二人の戦力があれば私は要らないじゃない」

 

 その言葉に、ルーファスの胸に苛立ちが湧き上がった。

 

(こ、この女。神祖の話を聞いてなかったのか? お前の役目は黒龍の血を共鳴させて研究組織リユニオンを発見する探知機だろう)

 

 だが、彼は理想の騎士の仮面を崩さなかった。感情を抑え、穏やかな笑みを浮かべながら、クレアを説得する。

る。

 

「クレアさん。俺たちにはそれぞれ役割があり、得意不得意がある。戦力として十分だとしても、それ以外の役割がクレアさんには期待されているんだ。だから協力してもらえないかな?」

「私は魔剣騎士よ。力こそ全て。なのにその力が必要ないなんて……神祖様も何を考えているのか」

 

クレアの声には、苛立ちと不信が滲んでいた。

 

「クレアさん、神祖批判は目に余る」

 

 ルーファスの声は静かだったが、鋭い刃のような警告が込められていた。

 

「あら、怒った? 悪いわね。貴方は神祖のお気に入りだものね」

 

 クレアの露骨な挑発に、ルーファスは一瞬、拳を握りしめた。だが、すぐにそれを解き、深いため息をついた。

  その時、アウロラが軽やかに前に進み出て、ルーファスの肩を軽く叩いた。クレアは彼女をじろりと睨みつけた。

 

「なに?」

「もしかしてクレアちゃん、怖がっている?」

 

 アウロラの声は、どこか楽しげだった。

 

「なっ! そんな事ないわ!」

 

 クレアは即座に反発し、顔を赤らめた。

 

「でも、圧倒的な格上の私達が同行する任務に否定的よね。それって、上位層での戦いについていけなくて死んじゃうから怖がって、任務に否定的なんじゃないのかしら?」

 

 アウロラは魅惑的な笑みを浮かべ、クレアを挑発した。

 

「違う? クレアちゃん」

「怖いなんて思ってない! でもミドガルから出るのが嫌なだけよ。手間のかかる弟がいるから世話をしてあげないといけないの!」

 

 クレアの声は、必死に言い訳を重ねるように響いた。

 

「ふーん。焦燥。ああ、そういう感じか……確かに黒龍はメンタルに影響を及ぼすし、クレアちゃんもそういうタイプかな」

 

 アウロラは独り言のように呟き、クレアを観察するように目を細めた。

 

「クレアちゃん、魔力不調でしょ。体に痣や、割れるような疾患があるとか」

 

 その言葉に、クレアの顔が一瞬で青ざめた。動揺が彼女の全身を支配し、言葉を失った。

 

「やっぱりね。神祖様はこれを見越して私とクレアちゃんを引き合わせたのか。見た目は子供だけど、やっぱり神と言われるだけあるわ。ルーファスくん、今からクレアちゃんを治療するから服を脱がせる手伝いをして」 「は?」

「え?」

 

  ルーファスとクレアが同時に呆然とした声を上げた。だが、アウロラは容赦なかった。

 

「早く!」

「了解!」

 

 ルーファスは反射的に動いた。クレアを押し倒し、彼女の服に手をかけた。

 

「ちょ、ちょっ、ちょっ! 強姦魔!! 鬼畜畜生!! 許されないわよこんなの!!」

 

 クレアの叫び声が部屋に響いたが、アウロラはそれを無視し、クレアの胸に手を当て、魔力を流し込んだ。 その瞬間、クレアの体が異様な変化を見せた。

 

 まるで風船が膨らむように皮膚が膨張し、骨と筋肉がぶつかり合う異音が響いた。臓器が移動するような、不気味な音が続いた。

 

 ルーファスは思わず顔を顰めたが、理想の騎士の仮面を保ち、表情を崩さなかった。やがて、クレアの体は元の形に戻り、驚くほど血色が良くなり、息を吹き返したように美しく輝いていた。アウロラは満足げに頷いた。

 

「よし、治療完了」

 

  ルーファスは驚嘆の声を上げ、彼女を賞賛した。

 

「流石ですね。魔力を用いた技術ではあるのでしょうが……これほどのものは見たことがない」

「ふふ、これでも魔力に関しては得意なの」

「心強い」

 

  二人のやり取りを、クレアは呆然と見つめていた。やがて、彼女は声を絞り出した。

 

「私に何をしたの!?」

 

  アウロラは穏やかに、しかしはっきりと答えた。

 

「貴方は黒龍の血によって魔力不調を抱えていた。そんな状態で危険な任務へ赴けば弟を残して死んでしまう可能性が高い。だから私たちに冷たい態度を取って任務から外すように進言するように誘導しようとした。違う?」

 

  クレアは唇を噛み、悔しそうに認めた。

 

「悔しいけど合ってるわ。魔力不調は魔力暴走が近づいている証。そうすれば処分される。そうすれば弟が残されてしまう。だから直接言い出せなかった。ありがとう、助かったわ」

「いえいえ。でも、これでわだかまりはないわね?」 「あと一つ、あるわ」

 

 クレアはそう言うと、ルーファスを指さした。

 

「そこの神の使徒様に、乙女の服を剥いだ罰を受けてもらうわ! 私と勝負よ!」

 

  ルーファスは苦笑しながら答えた。

 

「普通に俺が圧勝すると思うが、大丈夫かい?」

「その傲慢ムカつく! ぶん殴ってやる」

「ま、まぁ、その程度なら幾らでも構わないが。では模擬戦をやろうか」

 

  そこにアウロラが手を挙げ、楽しげに割って入った。

 

「なら私もやるわ! クレア側で参戦する!」

「いいわ、認めましょう」

 

  こうして、親睦会と称した模擬戦が決まった。三人の間に漂っていた緊張は、奇妙な形で緩み、戦いという形での結束が生まれようとしていた。ルーファスは内心で苦笑した。

 

(これも神祖教皇の思惑通りなのかもしれない)

 

  模擬戦の準備が始まり、クレアの目に宿る闘志と、アウロラの軽やかな笑顔が、ルーファスの仮面の下で揺れる心を、ほんの少しだけ温めた。

 

 




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