高校生活二周目の彼女達が重すぎる件について   作:こーたろ

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第10話 篠本紗奈が勝負師すぎる

 

 ポーカーフェイスという言葉がある。

 ポーカーにおいて、自身の表情から感情や思考を読み取られないように無表情を貫く、といったもの。

 実際、こういった勝負事において、些細な表情の変化や仕草から、読み取れるものは多い。

 

 「1200!」

 

 「ふふふ、智一君、分かりやすいね。受けるよその勝負」

 

 「ぐおおおおえええええ」

 

 智一君のベットサイズ(賭け額)は自分の手を強く見せたいためのブラフ。

 現状負けているけれど、こっちを強く見せて相手を下ろしたい。

 けれどそれで出し過ぎて勝負を受けられてしまったら怖いから、そんなに大きすぎる額は出せない。

 そんな葛藤が見えるサイズ。

 

 それにこちらを見る瞳が、僅かに揺れている。この勝負を受けてほしくないという気持ちが、出てしまっている。

 昔から変わらない、こういう勝負事に向いてない、表情に出やすいタイプ。まあ……それが可愛いんだけど!

 

 「1ペアで勝ってる奇跡ない、ないですよね、はい」

 「流石にエースは握ってるよ、ブラフキャッチでコールしてるからそんなに強くないけどね」

 

 言いながら、私は持っていた2枚のカードを表にした。そこには智一君よりも強い役が揃っている。

 

 「はっはっは!これで3連敗だなとっつぁん!篠本ちゃんにパックジュース今日から三日間驕りな!」

 「うごごごごごこんなはずでは……ってか小暮も負けてんだろ!」

 「俺は今から勝つんすわ!」

 

 場所はボドゲ部の部室。

 結局、私と智一君、そして小暮君の3名は無事にボドゲ部に入部することとなった。

 

 今日遊んでいるのはポーカー。 

 私の得意なゲームである。前回もやったからもう良いかな?と思ったけれど、宮君と小暮君がリベンジマッチをやりたいと言ったので今日もやることに。

 

 私と智一君の勝負は決着して、次に対するのは小暮君と……部長を務めている、礼華先輩。

 

 「っしゃあ行くぜ」

 「その勝負、慎んでお受けいたしますわ」

 

 今回は私と智一君がオリて小暮君と礼華先輩のヘッズアップ……つまり1対1の勝負なので、私がトランプをめくる。

 

 「負けろ……!負けろ小暮!」

 「残念だったなぁその願いは通りません」

 

 智一君が呪詛を送っている。道連れが欲しいのかもしれない。

 小暮君が持っていた2枚のカードを開くのと同時に、礼華先輩も手を開く。

 

 「ふふふ、ストレート、ですわね」

 「はあああああ?!」

 「ぷぎゃ~wwwwざまあみろ小暮!礼華先輩さいきょー!!」

 

 礼華先輩の手札は、見事に小暮君の手よりも強い役、ストレートが完成していた。

 

 「ちょっと待てよリバー(最後の5枚目)で引かれてんじゃねえか!」

 「ええ。そうですわよ?」

 「なんでこのベットにストレートのガットでついてこれてんすか?!?!」

 「ぷくくくく敗者乙。俺と一緒にパックジュース買いにいきましょうねーwww」

 

 この光景も、昔から変わらない。

 私の大好きなこういう系のゲームをすると必ずと言って良いほど、私と礼華先輩が勝っていた気がする。

 

 「ほら行くぞ小暮。買い出しだ」

 「おいとっつぁん絶対カード確認した方が良いって!なんかマークついてんだよ絶対!」

 「前回そう言ってあのトランプお前が持ち込んだ奴だろうが」

 

 大きな体の小暮君を引っ張るようにして、2人は部室を出ていく。

 カフェテリアで打っているパックジュースを買いに行ったのだろう。

 

 残されたのは、私と、礼華先輩。

 切れ長の蒼の瞳と、目が合った。

 

 

 「さて……そろそろ、私と貴方は話した方が良いかなと思っていましたわ」

 「そう……ですね」

 

 ボドゲ部の活動2回目の今日。

 初回は2人で話す機会は無かったので、これが初めて。

 礼華先輩とは、話さなければいけないことがある。

 

 「礼華先輩は私と同じように……2周目の高校生活を送っている……ということで間違いありませんか?」

 「……ええ。その認識で間違いありません」

 

 やっぱり……。これはほとんど確信していただけに、驚きはない。

 こんなわけのわからない現象に遭っている者同士、情報共有は必須だと私は考えていた。

 

 「私は、卒業式で智一君にフラれて……ショックで。その日の夜寝て……朝起きたら、入学式の日付になっていました」

 「なるほど。そういうこと……。わたくしは1年前。わたくし自身の卒業式の日にタイムリープ……正確にはあなたと同じように智一様にフられた日の夜、眠りについたら、2度目の入学式の日を迎えましたわ」

 

 なるほど……となると、礼華先輩は1年早くこの時間軸に来ていたことになる。

 そこから、礼華先輩から様々な話を聞いた。

 入学式の出会いを奪われたのも、私がそんな運命的な出会いをしているとは知らなかったらしく、素直に謝られてしまった。

 いやまあ、確かに恥ずかしくて言ってなかったかもだけど……。

 

 話の中で一番衝撃だったのは、礼華先輩の付き人もタイムリープしているという事。

 私が立てた仮説は、「宮君にフラれた事がトリガーになる」というものだったから、意外だった。

 

 「ちなみに、本告さんが智一君を好きだった可能性は……ありますか?」

 「琴子が?……無い、と思いますわね。元々あの子は、宮様のことを私に寄りつく悪い虫だと思っていた節があるので」

 「そうですか……」

 

 ますますわからなくなってきた。

 一体どんな人がタイムリープするのか。

 条件は?

 それが分からないと、最悪、私達はまた卒業式に、3年前にタイムリープしてしまう可能性が出てくる。

 一生高校生!は正直ごめんだ。

 

 「私からは……あの、泉想夜さんは、タイムリープしていない、と思います」

 「……そう。なんとなく、そんな気はしていたわ」

 

 礼華先輩も、泉さんの存在はもちろん知っている。

 彼女が、智一君を好きだったことも。

 

 「あ、あの、礼華先輩は知らないかもなんですが、多分、智一君が前回……一周目で選んだのは、泉さんな気がするんです」

 「……そう、やはりそうなったんですわね」

 

 私がタイムリープのトリガーを「智一君のことが好きだった」ではなく「智一君にフラれた」だと推理しているのは、泉さんがタイムリープしていないからだ。

 静かに、目を閉じる礼華先輩。

 今目の前にいる礼華先輩は卒業した後すぐにこっちの二周目に来ているはずなので、もちろんその後のことなど知る由もないだろう。

 礼華先輩の座っている、旧校舎の粗悪な椅子が、ぎい、と静かに音を立てた。

 

 「宮様も一番タイプと最初からおっしゃってましたし、薄々そうかとは思っていましたが」

 「はい……でも、そうだとして、この二周目で、泉さんがタイムリープしてないということは」

 

 私は、一度息を吐いた。

 礼華先輩と、視線が絡む。

 

 「仮に智一君と結ばれたとして、彼女から、智一君を奪う事になりませんか?」

 

 私が、悩んでいる事。

 それを礼華先輩に打ち明けた。

 礼華先輩はそれを受けても、さして表情は変わらず。

 

 「私に、深いことはわかりません。確かに貴方の言う通り、もしかしたらそうなるのかもしれません。けれど」

 

 礼華先輩の瞳が、真っすぐにこちらを射抜く。

 

 

 「どんな理由だろうと、わたくしが智一様を諦める理由足り得ません」

 

 「……っ」

 

 その言葉に、私は1年間分の覚悟を感じた。

 

 「わたくしは決めたのです。この二周目、どんなことがあっても宮様を私のモノにする、と。それは誰が相手であっても、です」

 

 強くこちらを見据える瞳は、言葉にはせずとも「貴方もです」と語っていた。

 

 その辺りで、教室の外から声が聞こえてくる。

 智一君と、小暮君の声だ。 

 

 「……タイムリープしてしまった者同士、これからも情報は共有していきましょう。わたくしとしても、永遠の迷路に閉じ込められるのはごめんですし」

 「ですね。私も何か分かることがあったら共有します」

 

 勢いよく、教室のドアが開く。

 

 「パックジュース買ってきましたあ!」

 「味4つ買ってきたんで選んでくだせえ」

 「わたくし甘いものが好きですわ!」

 

 2人が帰ってきて、教室は賑やかになる。

 まるでさっきまでとはいた場所が変わったかのように。

 

 「っしゃー次は何やりますか~!もう負けないっすよ~」

 「ふふふ、何度でも立ち向かう殿方はとっても素敵ですわ!」

 

 すぐに表情を柔らかいものに切り替えている礼華先輩。

 その姿を見ながら、私も気を引き締める。

 考え方を、改めなければいけないかもしれない。

 

 「お、篠本っちゃん気合入ってんね」

 「え?そう見えますか?……でも、そうですね」

 

 新しいボードゲームを教室の後ろの方から抱えて持ってきた小暮君にそう言われ、はっとする。

 

 智一君と話している、礼華先輩の方を見た。

 

 さっき2人で話している時間。

 礼華先輩と、目を合わせていたあの瞬間。

 私の瞳は、弱く揺らいでいたのだろうか。

 

 ……思わず自らを恥じる。

 そんなんじゃ、勝てる勝負だって勝てない。

 

 

 「……やるなら全力でやるほうが、私は好きなので」

 

 

 ――私だって、絶対に譲る気なんか、ないのだから。

 

 

 

 

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