高校生活二周目の彼女達が重すぎる件について   作:こーたろ

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2話 篠本紗奈が重すぎる

 

 

 

 2話 篠本紗奈は重すぎる

  

 『俺に賭けてみなよ、ギャンブラーなんでしょ?』

 

 悪戯っぽく、そう言って笑った智一君の表情が、ひどく脳裏に焼き付いている。

 

 高校生活は、この人との出会いがなければ順調だった。

 ……いや逆に、この人との出会いが無かったらつまらなかったと言っても良い。

 

 人生で一番の失態だった。鞄に愛読しているギャンブル関係の本を入れたまま、入学式に来てしまったのが良くなかった。

 旧校舎の階段で、男子生徒とぶつかってしまい、急いでいた私は本を落としたことに気が付かずにその場を去ってしまったのだ。

 

 『これ……篠本さんの本ですよね?』

 

 そう言いながら教室で本を渡された時は真っ青になった。

 すぐにその本を受け取って、人がいない廊下の奥の方まで手を引いていく。

 

 『良い?これは、私と宮君だけの秘密。私は確かにこういうかk……ゲームが好きなんだけど、そんなこと知られるわけにいかないの』

 『今賭け事っt』

 『何か言った?』

 『が、がってんしょうちのすけ……』

 

 

 その日から、彼との不思議な関係は始まったのだ。

 

 流れで一緒に入ることになったボドゲ部では、彼とたくさん遊んだ。

 

 『この人強すぎて勝てる気しないっぴ!』

 『ふふふ、明日もお昼ご飯よろしくね?』

 『つ、次はこうはいかないんだからね!』

 

 勝負事があまり強くないけれど、それを自覚していない感じがなんだかおかしくて。

 生徒会に入るため、活動が多くないからという理由で選んだボドゲ部だったけど、そこで過ごす時間は悪くなかった。

 

 だから、宮君に秘密は知られてしまったけれど、こんな高校生活も悪くないな、なんて思っていた、9月のこと。

 私にとって非常に困る出来事が起こる。

 

 同じクラスの男子から、告白されたのだ。

 その男子とはクラスでも人気で、リーダー的存在でもある寺岡君。顔も良いし、性格も良いしで、女子からも人気だった。

 「お似合いだよ」「めちゃくちゃ良いじゃん」とか、周りからは言われたけれど。

 好きではなかったし、今は十分楽しい高校生活が送れていると思ったから、付き合いたいとはあんまり思えなくて。

 

 でも、多分私が断ったら、クラスがギクシャクする、とも思った。

 寺岡君は男子のまとめ役で、私は女子のまとめ役のような形に収まっていたからこそ。

 クラス内に気まずい空気が流れるような未来が見えて、嫌だった。

 

 

 『付き合いたくないなら付き合わなければ良いのでは……?』

 『そんな単純じゃないの!もう宮君は他人事だと思って~』

 

 ボドゲ部の活動を終えた帰り道、宮君と共に歩いている時に、相談してみた。

 宮君はもう件の男子が私のことを好きなのはしっていたから、大して驚きはしなかったみたいだけど。

 

 『あ、じゃあこういうのどう?体育祭でちょうど徒競走同じグループだから、俺が寺岡に勝負をふっかけて、俺に勝てたら篠本さんと付き合えるみたいな』

 『え?』

 

 正直そんな提案してくるなんて、思ってなくて。

 

 『っていうか、宮君って運動神経普通くらいだったよね?寺岡君かなり足速かったような……』

 『まあ多分50m走のタイムでいうと1秒くらい違うんじゃない?』

 『それめちゃくちゃ違うよね?!』

 『まぁまぁ、でもそういう外的要因があった方が断りやすいんでしょ?』

 『それは、そうかもだけど……』

 

 渡りに船な提案ではある。

 けれど、そんなにうまくいくのかな?

 

 『それ寺岡君が勝負を受けるメリットがないような……』

 『大丈夫。あいつは良い奴だから俺の事をそこまで無碍にしないし、周りの連中がはやしたてるだろうから、十中八九上手く行くよ』

 

 何故か楽しそうに、宮君はそう答えてくれた。

 ……けれどそれで宮君が負けてしまったら本末転倒だ。今度こそ付き合う覚悟を決めないといけないかもしれない。

 

 にぃ、と人の悪い笑みを宮君が浮かべる。

 今でも、あの光景は脳裏に焼き付いて離れない。足取り軽やかに、くるりとその場でターンして、夕焼けを背負った彼は言ったのだ。

 『俺に賭けてみなよ』と。

 

 『オッズかなり優秀だよ?なにせ俺に賭ける酔狂な人間なんて篠本さんくらいだろうしね。単勝でも結構勝てそう』

 『……面白いじゃない』

 

 勝算のない賭けはしないのが私の主義。

 だけど何故だか、この人に賭けてみたいと思ってしまった。我ながらバカみたいだけど。

 でもそれくらい、この5か月ほどで過ごした宮君との時間が気に入っていたから。

 宮君に止めてもらえるのを、嬉しいと思ってしまった。

 

 

 夕暮れの河川敷、少し前を歩く宮君に聞いてみた。

 

 『でもなんでそんな提案してくれるの?』

 『ええ~……なんで、か』

 

 はっきり言って、そんな勝負をしても宮君にメリットなんかない。 

 ただでさえ周りからあまりよく思われていない宮君が、そんな勝負を寺岡君に吹っ掛けたら、バッシングを受けるのは目に見えている。

 勝っても、負けても。宮君にとって良いことがあるとは、とても思えない。

 

 立ち止まった宮君の表情を見ると、本当に自分でもよくわからないといった風な思案顔。

 そしてようやく出てきた理由は、当時はわからなかったけれど、今思えば彼らしい理由だったのかもしれない。

 

 『まあ、そのなんだ!困ってたらなんとかしてあげたいなって思うのは、普通じゃない?』

 

 照れ隠しに見せた、子供のような笑み。

 そんな愛らしい表情に、心が毛布で包まれたみたいに、じんわりとあたたかくなったのを覚えている。

 

 ――この時からすでに、なんとなく彼の人柄に惹かれ始めていた。

 

 

 

 体育祭当日。

 

 『篠本さんと付き合いたかったら、お、俺を超えてからにするんだなぐへへへ』

 

 周りからは「やっぱあいつキモイ」とか、「何様なわけ?」とか散々言われていたけれど。

 宮君はまるで気にしていなかった。

 本当に回りからの好感度を気にしていないことがわかる。不思議な人。

 

 

 宮君と、寺岡君がいる徒競走が始まった。

 ピストルの甲高い音とともに、レースがスタート。

 真剣に見守っていた私は、思わず目を見開く。

 ――何故か、寺岡君のスタートが遅れたのだ。

 

 わけがわからなかった。

 どう考えても遅いのは宮君の方で、普通に考えたら負けて当然の勝負なのに。

 寺岡君が出遅れたことで五分の勝負になった。

 

 それでも、出遅れをものともせず、寺岡君が後方から追い上げてくる。 

 残り数メートル、ギリギリの勝負。

 

 『……いけ……!』

 

 思わず、口から零れた想い。

 いつの間にか私の頭の中には、寺岡君と付き合う付き合わないなんて消えていて。

 宮君に勝ってほしいという思いだけが残っていた。

 

 ゴール直前で、宮君が――前のめりに倒れこむ。

 ギリギリのところで、本当に僅かに、宮君の頭が、寺岡君よりも先にゴールラインに触れた。

 

 

 結果は3着。

 寺岡君が4着で、なんだか締まらない決着。

 

 宮君はゴール直後にゴロゴロと転がって、泥まみれ。

 よく見れば転んだ衝撃で膝からは軽く出血しているように見える。

 

 『なにそれ……全然カッコよくないじゃん』

 

 1着でもなんでもないくせに、こっちに向けてピースをしている宮君。

 思わず笑いが声になった。

 『単勝何倍ですかあ?!』とか言ってる。知らないよ。っていうか複勝じゃないと当たってないよ。

 

 周りからは大ブーイングだ。

 とても、ヒーローになれるやり方じゃない。

 

 ――それでも。

 

 胸の鼓動が教えてくれる。

 私の心に沸き上がった感情の名前を、教えてくれる。

 

 宮君と私の距離は離れすぎていて、全然聞こえないと思うから。

 誰にも気づかれないように、呟く。

 

 ねえ、私だけのヒーローさん。

 

 『――そんなことされたらさ、好きになっちゃうよ』

 

 

 情けなく保健室に連れていかれる宮君を見送りながら――私は彼を好きになった。

 

 

 

 

 

 ……これが、一周目の記憶。

 宮君……ううん、智一君を好きになったあの体育祭での出来事は、今でもはっきりと思い出せる。

 家のベッドに、仰向けに寝転がった。

 自分の記憶を確かめてみたけれど、やっぱりはっきり覚えている。

 本当に不思議。

 

 天井に向けて手を伸ばせば、確かに自分の身体は動いている。

 3年間使ったお気に入りのパジャマが、新品のように綺麗だ。

 ……というか、新品なんだよね、今は。

 

 突然高校1年生に戻されて、二回目の入学式を終えた夜。

 もしかしたら明日朝起きたら、これがただの夢で、高校を卒業しているかもしれないけれど。

 

 もし、このまま二周目の高校生活が送れるのならば。

 

 目標は、一つ。

 枕を、ぎゅっと抱きしめた。

 

 智一君を、手に入れること。

 フラれて分かった。

 私はやっぱり、宮智一君じゃないと、ダメなんだって。

 

 心が耐え切れなかった。絶望して泣いていた夜は本当に辛かった。

 彼と結ばれない未来が怖かった。

 

 昨日のことのように思い出せるって思ったけど、事実私の体内ではあれは昨日なわけで。

 本当に、信じられない。

 けれど今、下を向いてはいられない。

 

 一周目の時、あの体育祭で私は智一君を好きになった。

 

 ……二周目でも、同じように助けてくれるのだろうか。

 

 あのふにゃっとした笑みを浮かべて、手を差し伸べてくれるのだろうか。

 思い出すだけで、身体がじんわりと熱を帯びる。

 

 やれることは、たくさんあるはず。

 出会いは少し失敗してしまったけれど、多分上手く修正できた。

 ここからもう一度、智一君との思い出を積み重ねていけば良い。

 

 3年間。

 3年間で、私のことを好きになってもらう。

 それが、私の今回の目標。リベンジ。

 

 

 「今度こそ……絶対好きになってもらうからね」

 

 

 障害はあることが分かった。

 こんな不思議なことが起こったばかりで、不安だってもちろんある。

 

 けれど、これは神様が私にくれたチャンス。

 

 目をつむって、彼の姿を思い浮かべる。

 

 ああ、好き。大好き。

 だから。

 

 

 

 

 ――次は絶対に、離さないよ?

 

 

 

 

 

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