高校生活二周目の彼女達が重すぎる件について   作:こーたろ

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第31話 篠本紗奈がバレバレすぎる

 

 体育祭まで、あと2週間ほどになり。

 最近はクラスでも体育祭関連の話題が増えてきた。

 1年生ということもあって、他クラスの情報を得られるのが部活くらいなので、運動部に入っている子が、どのクラスにどれくらい運動ができる子がいるよ、とか。

 その類の話が教室で飛び交うようになって、体育祭の時期の訪れを感じることができる。

 

 そんな中、気が気ではないのは私、篠本紗奈です。

 

 一周目の時間軸であれば、もうこのころには寺岡君に告白されたことを智一君に知られて、相談していたし。

 なんなら、俺に賭けてみなよ、というあのセリフまで言ってもらったのも、先週だったように思う。

 それが、まず最初のハードルである寺岡君に告白される、という所で早々に一周目とは違うルートに入ってしまった。

 

 ショックは計り知れない。

 それだけ、大切な思い出だったから。

 

 正直、一周目と違う行動はしているし、どれが原因なのかと言われても分からない。

 この二周目は絶対に智一君と付き合うという名目のもと、ここまでやってきたことに後悔はないから。

 だからもう、反省のしようもないのだけれど。

 

 礼華先輩も言っていたように、必ずしも一周目と同じことをする必要はない……というのはわかる。

 実際、礼華先輩も、もう既に一周目とは違うことが起きたって言ってたし。 

 だから、別に体育祭で無理に、あのイベントをやる必要は……ないのかもしれない。

 

 今は、今日最後、6時間目の授業中。

 こっそりと左後ろの方を見やれば、眠たそうに、ノートをとっている智一君が見えた。

 

 だけど……やっぱり、あのイベントを、覚えているのが私だけというのは、ちょっぴり寂しい。

 それに、あの時の智一君は最高にカッコ良かったから。

 どろどろになりながら、みっともないと思われながら、それでも勝ちをもぎ取った、私だけのヒーローだったあの瞬間を、もう一度見たいと思ってしまう私の心に、嘘もつけない。

 

 ――じゃあ、どうすれば良いか。

 

 私は、この数日間で考えた作戦を、今日決行することに決めたのでした。

 

 

 「紗奈じゃあね~!」

 「うん!また明日~!」

 

 今日も今日とて、無事に授業終了。

 ぞろぞろと生徒たちが教室から出ていく。

 

 「しのもっちゃん部活行くかあ~」

 「あ、行くけど今日ちょっと遅れていくね!」

 「あら、了解。じゃあ先行ってるね~」

 「うん!先行ってて!」

 

 今日はボドゲ部も活動日。

 智一君と小暮君がわざわざ声をかけてきてくれたけど、先に部室に向かってもらう。

 特に、今から決行する作戦は、智一君には見られたくないしね……。

 

 2人を見送ってから、私は目的の人物へ、声をかけた。

 

 「寺岡君、ちょっと時間もらえたりするかな……?」

 「?篠本さん?部活始まるまでだったら大丈夫だよ」

 「ごめんね!あんまり時間はとらせないようにするから」

 

 一周目では、私に好意を伝えてくれた、寺岡君。

 サッカー部の次期キャプテンでもある彼は、爽やかな好青年。

 

 周りを見れば、ほとんど教室内に人は残っておらず、絶好のチャンス。

 まずは――。

 

 「あ、あの寺岡君さ、私にこう、言いたいこととかって、あったりしない、よね?」

 「言いたいこと?特にないかな?なんか委員会のこととかあったっけ?」

 「いや!そうじゃないの!ないよね、あはは……」

 

 念のための確認。

 これでこの二周目の寺岡君が、私に告白する気がないことは分かった。

 まあ、これは想定内。

 

 「えっとね……実は寺岡君にお願いしたいことがあって……」

 「お願い?」

 

 私は、一度呼吸を整えてから。

 

 「あのね……宮君と、体育祭で勝負をしてほしいの」

 「……え?」

 

 寺岡君が、文字通り目を丸くして驚いた。

 私の考えた作戦。それは、もう寺岡君に直接お願いして智一君と勝負をしてもらおう作戦だ。

 

 「ごめんね、意味わからないと思うんだけど……前提として、これはただの私のわがままだから、嫌だったら本当に断ってくれて良いからね」

 「よくわかんないけど、なんか面白そうだから詳しく聞かせて?」

 

 にこりと笑う寺岡君。

 この辺りのノリの良さが、男女ともに人気がある理由なんだろうな、なんて思いつつ。

 

 「ありがとう。私からのお願いは『私の抱えている秘密を、寺岡君が宮君に体育祭の徒競走で勝ったら、教える』っていう条件で勝負をしてほしいの」

 「なる……ほど?ちなみにその篠本さんの抱える秘密っていうのは本当にあって、宮は知ってて、勝ったら教えてくれるの?」

 「本当にあるし、宮君は知ってる。寺岡君が勝ったら、ちゃんと教えるよ。全然そんなの興味ないかもしれないけど」

 「え!興味あるよフツーに、気になるじゃん」

 

 ……良かった。

 寺岡君が乗ってきてくれなかったら、いよいよ諦めるしかないと思っていたけれど、これはもしかしたら……いけるかもしれない。

 

 「じゃあ、この話、受けてくれるってことで良いかな……?」

 「良いよ~確か宮とは徒競走同じグループだし。全然OK」

 

 良かった……これで、ひとまず似た状況を作ることには成功した。

 まだ上手くいく保証は全くないけれど、せっかくなら挑戦してみたい!

 

 「でもやっぱり、思った通りだったな」

 「ん?」

 

 あんまり引き留めるのも悪いし、約束もしてもらったので、話を終わろうかと思っていたら、寺岡君が人の良い笑顔を浮かべながら言葉を繋ぐ。

 

 

 「篠本さん、宮の事好きなんだね」

 

 「……ええ!?」

 

 な、ななななななんで?!

 

 「いやそんなに驚かれても。篠本さん、宮は名前呼びしてるし、明らかに話してる時の表情が違うし、授業中もちらちら宮のこと見てるし、流石にわかるよ」

 「そそそそそんな」

 

 なんということでしょう。

 私はわかってしまった。

 寺岡君が私のことを好きにならなかった理由が。

 私がそんなにわかりやすく智一君好きオーラ出してたら、そりゃ好きになんかならないよね!!

 

 「別に誤魔化さなくて良いよ。それにね、俺ちょっと嬉しいんだよね」

 「う、嬉しい?」

 

 とんでもない恥ずかしい気持ちになって、両手で顔を覆っていたけれど、寺岡君が不思議なことを言い出したので、少し冷静になった。

 

 「うん。篠本さんが、宮のこと好きになってくれて、嬉しいなって思うんだ。あいつ、良いやつだからさ」

 「……」

 

 寺岡君が、近くにあった、机の表面をとんとん、と手のひらで2回優しく叩いた。

 その机は、普段智一君が座っている机で。

 

 「中学の時の話、聞いてるでしょ?正直、あれって嘘の噂が出回ってるって、俺は思ってるんだ。だけど、あいつが否定しないから、そのままになっちゃってて。あいつ、本当に周りにどう思われてても気にしないっていうかさ。なんかもどかしかったんだよね」

 

 ……そう話す寺岡君の目は、優しかった。

 

 「だから、高校から編入してきた篠本さんが、なんの偏見もなくまっすぐにあいつのことを好きになってくれたことが、俺は嬉しい。良かったら、あいつの気持ちをちょっと変えてほしいなってすら思う」

 「気持ちを……?」

 「うん。俺が何を言っても、あいつには響かないからさ」

 

 それは奇しくも、私たちが『二周目会議』で話していた内容と、少し似ていて。

 智一君の内面を変えることは、今の私たちの目標でもあるから。

 

 「だから、頑張って。応援してる。その勝負も、なるべく俺悪者っぽくやった方が良いよね?」

 「いやいや!そこまではしなくても良いよ!でも、ありがとう」

 

 冗談めかしてそう言う寺岡君は、本当に嬉しそうで。

 

 「じゃあ、俺そろそろ部活行くわ!」

 「うん、ありがとう!あ、くれぐれもこのことは……」

 「わかってる秘密ね。でもクラスの奴だいたい篠本さんが宮の事好きなの気付いてそうだけど……」

 「やめて!それ以上私の心をえぐらないで!」

 「ははは!おっけおっけ、じゃあ」

 

 笑いながら、寺岡君は教室を出ていこうとして、「あ、けどさ」となにかを思い出したように振り返る。

 

 「勝負、多分俺勝っちゃうけど良いの?」

 「大丈夫!全力で走っちゃって!」

 「おっけ~!じゃあせっかくだし、篠本さんの秘密聞いちゃおうかな」

 

 そこまで言い終わると、今度こそ、寺岡君は教室を出て行った。

 

 ……良かった。

 ハプニングはあったけど、なんとか寺岡君に勝負をしてもらうことはできそう。

 

 そ、そんなに私普段わかりやすいかなあ……。

 クラスのみんなに好きってバレてるのはちょっと恥ずかしいんだけど……。

 でもよく考えれば、外堀を埋めるっていう意味では良いのかも?だけど。

 

 ……それにしても。

 

 「気持ちを変える、か」

 

 寺岡君に言われたこと。

 確かに、智一君は自分が周りにどう思われるか、ということに関心がまるでない。

 それはずっと、一周目の卒業まで、変わらなかった。

 

 もしかしたら、その意識を変えることができたなら。

 

 智一君の内面を変えることができた、と言えるのではないだろうか。

 

 「やってみる価値は、あるよね」

 

 ふと目に入った、智一君の使っている、机を優しく撫でてから。

 

 私は彼のいる、ボドゲ部の部室へと向かうのでした。

 

 

  

 

 

 

 





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